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第一章 アクセルオンライン
1話 勝屋(かちや)イノチ
しおりを挟む勝屋イノチは、スマホを横に持ち、難しい表情で覗き込んでいる。
画面には、『ガチャ』のアイコンが表示され、その直前で指を構えているのだが、その指は震えており、イノチの額を一筋の汗が流れ落ちる。
「…ググググッ」
そんなイノチに、会社の同僚が話しかけてくる。
「勝屋!またソシャゲのガチャで悩んでんの?そんなんなら、いい加減やんなきゃいいのに!」
「っうるさい!マジで悩んでんだから話しかけんな!!」
イノチに睨みつけられ、その同僚は「相変わらず怖ぇなぁ…」と呟きながら行ってしまう。
そんな事にはおかまいなく、イノチは画面を注視している。
(くそ…もう20回目だぞ!なんでURが出ない…!排出率はキャンペーンで上がっているのに…仕方ない…こうなれば課金……いや!ダメダメダメダメっ、絶対ダメ!それは俺のポリシーに反する!!)
イノチは目をギュッとつむり、頭を何度も横に振る。そして、再び画面を睨みつける。
(…この日のために…毎日苦労して結晶石を集めてきたというのに!なんでこんな結果に…!くそっ…あと一回…あと一回だけだ!それで出なければ…諦めるから!!)
そう考えながら、極限まで震えた指で画面を静かにタッチした。
すると画面ではガチャのムービーが流れ始める。スマホをテーブルに置いて、両手を合わせて祈りながら、イノチはその画面を注視する。
すると、画面の左下で何かデータをダウンロードしはじめた。それを見たイノチは高く飛び上がった。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!URキタァァァァァァァァァァ!!!!!」
周りの社員たちが何事かと視線を向けたが、イノチの姿を見ると、あいつか…またやってるよ、と呆れたように視線を戻していく。
そんな視線はお構いなしに、イノチは画面を食いつくように見ている。すると、黄色と黒を基調としたナポレオンジャケットと、紺のロングスカートを身に纏うキャラクターが表示された。
(ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!フレッ…フレデリカだ!!ついに、新キャラゲットやないかぁぁぁぁぁぁぁ!!)
そう思いながらスマホに頬を擦り付けるイノチを、気味悪がるように近くの新入社員らしき女子社員たちが離れていく。
他の社員たちも「よかったな…」と言うように、イノチの様子を見届けて席を離れていく。
そう…彼は勝屋イノチ26歳。
ソシャゲのガチャに、全てを賭けている社会人3年生であり、会社ではソシャゲ中毒者として有名なのだ。
性格は温厚で真面目だが、ソシャゲのことになると人が変わってしまうほど大のガチャ好きで、ガチャ結果により仕事の出来が左右されるほどである。
小躍りしているイノチを見て、イノチの上司もホッとしたように自分の部署へと戻っていった。
◆
仕事を終え、イノチは自宅の最寄駅に到着した。
季節は4月の半ばだが、すでに辺りは暗くなり始めている。
桜もすでに散り始め。
駅前の公園は桜の木がライトアップされているが、残っているのは5割と言ったところだ。駅前に視線を戻すと、飲みに行く会社員のグループや、塾に向かう学生たちなど、多くの人が行き交っている。
「今日は大安!朝の星座占いも信じてよかった!!」
そう言いながらグッと背伸びをすると、イノチは自宅の方へと歩き出す。
駅から自宅までは徒歩5分の距離だ。
途中、アパートの横にあるコンビニで、夕食の弁当と酎ハイを買う。
「ありがとうございましたぁ~」
店員の挨拶を聞き流して、コンビニを出るとそのまま横に立つ自分のアパートとへと向かう。
(…へへ、今日はちょっとした歓迎パーティーだな。)
新たに仲間になったキャラを思い浮かべ、ニヤニヤしながらアパートの階段を登り、自室の鍵を開ける。
玄関に入り、靴を脱ぎながら灯りのスイッチに手をかけると、1Kの狭い部屋が暗闇から姿を現した。
そのまま持っていた弁当を電子レンジにかけ、酎ハイを自分の腰ほどしかない冷蔵庫にしまうと、イノチは着ていたスーツをハンガーにかけて、服を脱ぎ出した。
「腹減ったな…!さっさとシャワー浴びちまおうっと!」
そう言って脱いだシャツを洗濯機へ押し込み、風呂場に入ってドアを閉める。
よほど機嫌がいいのだろう。
シャワーの音に交えて、イノチは鼻歌を歌い始めた。
もちろん奏でるメロディは、今やっているソシャゲの主題歌である。
「フンフン~♪フンッフフフン~♪」
・
・
・
「…はぁ~さっぱりしたぁ!」
肩にかけたタオルを片手に頭を拭きながら、イノチは電子レンジからお弁当を取り出し、冷蔵庫を開けて冷やし直していた酎ハイを手に取る。
そして、6畳ほどの部屋の真ん中にある、小さなテーブルへそれらを置くと、ドタっとあぐらをかいて座り込んだ。
いつもの癖で無意識にテレビをつけ、お弁当のふたを開きながら、流れているニュースに目を向ける。
『…母親が帰宅する直前に、本人からは家に着いたとLINEが届いており、警察は拉致事件の可能性を含め捜査している、という事です。』
「また失踪事件か…物騒だなぁ。」
ニュースを読むキャスターを一瞥し、そう言いながらお笑い番組へとチャンネルを変える。
酎ハイのふたを開け、ニヤリと笑みをこぼすと、スマホをテーブルの上に立てかけるように置いた。
「さてさて…主役の登場ですな!」
両手を擦り合わせ、ゲームのアイコンをタッチして起動する。タイトル画面になったのを見計らい、タッチをするとホーム画面が現れる。
現在はSRキャラで一番のお気に入りをホームに設定しており、赤い髪の気の強そうな女剣士のキャラが映し出された。
「…エレナの画面登録も今日が最後か…」
少し寂しそうに呟きながら、イノチはキャラ一覧の画面を開く。順番はもちろんレアリティ順にしており、本日ゲットしたキャラが一番上に表示されている。
「…ぬふふふ…ついにこの時が…」
イノチは、ハァハァと呼吸を荒くし、そのキャラをタップしようとゆっくりと指を伸ばす。
そして、スマホに手が触れて、そのキャラが表示された瞬間、彼女がセリフを話し始めたのだ。
『わたくしこそ、真理を追い求める者!フレデリカ=アールノストですわ!』
「くぅぅぅぅぅ!たまらん!!」
イノチはそう声を上げて、天井を仰ぐ。そして、その余韻に浸りながら、ゆっくりと画面に視線を戻そうとした時、ある事に気づいたのだ。
「…ん?なんだあれ…?」
テーブルを挟んで対面にあるベッドの上。今朝、起きたままの状態で、まるで整っていないベッドの上に、真っ白な小包が置かれていたのである。
イノチは立ち上がって近づくと、ベッドに上がり、小包の前に座り込んだ。
「こんな箱…置いたかな…ん?伝票がついてるな…『勝屋イノチ様』…俺宛だ。」
持ち上げて観察すると、宛名は自分だが送り主はどこにも書いていないようだ。
「…こんなん、受け取ったかな?」
一瞬、「爆弾かな?」とも思ったが、耳を当ててもなんの音も聞こえない。
「こういう時は開けない方がいいんだろうけど…」
そう言いながら、イノチは包装を破って中の小箱を出した。
「今日の俺はついてるからな!」
なんの理由にもなっていないが、最高レアリティを引いたこともあって、イノチは少し有頂天になっていた。
そのまま小箱のふたを開け、中を覗き込む。
「…ん?なんだ…VR機かな?」
手を入れて中身を出すと、見かけないVR機のヘッドセットが姿を現したのだった。
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