53 / 290
第一章 アクセルオンライン
52話 ゲンサイ
しおりを挟む森の中で、大きなため息が聞こえてくる。
「はぁ…まさかこんなハメになるなんてよぉ…」
「ほんとっすねぇ…」
イノチたちが去った後、オールバックの男とその部下たちは、木に縛られたままの状態で目を覚ましていたようだ。
「しかし、おめぇら…なんて様だよ。女にやられるなんて…」
「頭だって…落ちてきた男のヒップドロップで、失神してたじゃないですか!」
「しっ…しかたねぇだろ?!意識外からやられたら誰だってトブだろうが!」
言い訳じみた言葉を吐き出す男に対して、部下たちはコソコソっと小さく囁いた。
「…たく、いつも自分のことは棚にあげるんだから…」
「ほんとほんと…」
「ああん!?てめぇら、なんか文句でもあんのか!?」
「「いえ、ないです!」」
三人がそんなやりとりをしていると、どこからともなく声が聞こえてくる。
「お前ら…なんだその無様な姿は…」
「…ん?ゲンサイのだんなか?!いいとこに来てくれたぜ!早く…この縄を解いてくれよ!」
オールバックの男はキョロキョロと辺りを見回す。
すると、自分たちが縛られている木の上から、音を立てることなく黒いフードをまとった男が降りてきた。
「帰りが遅いと思って来てみれば…使えない奴らだな…」
「へっ…へへへ、申し訳ねぇ…おっ!」
男が苦笑いで誤魔化そうとしていると、いつのまにか縄が解けていることに気づく。
「誰にやられた…」
「へへへ…やっと自由だぜ…」
フードの男が問いかけるも、オールバックの男はヘラヘラと立ち上がり、体の状態を確かめている。
「おい…答えろ…」
「おっ…お頭…聞かれてますぜ!」
「ん…あぁ、俺らをやった奴らのことか?わかんねぇよ!」
「なんだと…?」
「お頭って…ちゃんと答えないと…」
「うるせぇなぁ。わかんねぇもんは、わかんねぇんだよ!だいたい、なんでてめぇに従わなきゃなんねぇ!最初の約束じゃ、お互いの利益のためにってことだっただろ!?対等のはずじゃねぇのか!?」
「対等…ね…」
不満を露わにするオールバックの男に対して、フードの男は少し考えるように顎に手を置いた。
そして、静かに笑い始めた。
「てめぇ…何がおかしい?」
「ククク…いや、お前らが俺と対等…ククク…なんの冗談かと思ってな…ククク…」
「冗談だぁ?言わせておけば!!」
「おっと…それ以外は動くなよ…死にたくなきゃな。」
フードの男は、左手をオールバックの男の前に差し出して静止する。
「おっ…お頭!知ってることは…話しときましょうぜ!」
「そうですよ…!」
「…ちっ!女だ!女二人にやられた…」
不穏を感じた部下たちになだめられて、オールバックの男はしぶしぶと情報を差し出した。
「お前ら…女にやられたのか?」
「あぁ…?!いちいち癪に触る野郎だな!」
「そいつら、人数は?あと外見…」
「けっ…!お前ら!」
「はい…女は二人。一人は茶髪と、もう一人はここらじゃ珍しい桜色でした。茶髪の方のエモノは短剣です。二人とも、むちゃくちゃ強かった。」
「ふん…部下の方が利口だな。他には?」
「男が一人…そいつがいきなり最初に空から降ってきて、お頭を踏み潰したんです。」
「空から…?男か…そいつはどんな格好だ?」
「研究員みたいなローブに、蒼い首飾りをつけてたよな?」
「あぁ…」
そこまで聞くとフードの男は、再び考えるように顎に手を置いた。
そして、口元でニヤリと笑みを浮かべて口を開く。
「さっきの小娘を捕まえるより、ある意味大きな収穫かもな…」
「…ボソボソ何言ってやがる。」
「お前らでも役に立つことはあるんだな…ククク。」
「てめぇ…!」
「お頭ってぇ…もう、突っかかるのはやめましょうよ…」
「…くそっ!」
部下の言葉に、オールバックの男は仕方なく言葉を飲み込んだ。
「…よし。お前らはもう一度、街道で『イズモ』から来るやつらを襲え。」
「ゲンサイさんは…どうするんでぇ?」
「俺は少し調べ物をしに行く…何かあったらまた報告しろ。」
そこまで言うと、フードの男は木の枝に飛び移る。
「それと…お前ら、あまり調子に乗るなよ。俺がその気になれば…肝に銘じておけ。」
そう言い残して、そのまま姿を消してしまった。
あとには再び三人だけが残される。
「くそ!気にいらねぇ野郎だ!!…ぐお!」
怒りにまかせて木の幹を殴ったオールバックの男は、その硬さに手を痛める。
「お頭…八つ当たりはよしやしょう…」
「だぁぁぁぁ!!ちくしょう!!お前ら…行くぞ!」
「へい。」
「へいです。」
部下たちを従え、怒りを草木にぶつけるオールバックの男は、そのまま森の暗闇へと消えていったのだった。
◆
「ゲンサイ…?!」
モニタールームでイノチたちの動向を確認していた女性は、驚きの表情を浮かべていた。
野盗のリーダーが口にした名前。
「どういうことかしら…彼は…ゲンサイはとうの昔に…いや、たまたま同じプレイヤーネームということも…」
そのままモニターを注視していると、黒いフードの男が現れる。
野盗たちと何かを話しているようだが、フードに隠れていて、顔は確認できない。
「これだけの情報じゃ、今はなんとも言えないか…」
そうつぶやいて、目の前にあるキーボードに手を走らせる。
しかし…
「unknown…私でも調べられない権限?!」
再び、カタカタとキーボードを叩いていく。
「ダメね…基本情報やプレイヤー情報、全部にロックがかかってるわ…」
女性は椅子に背を預けながら、そうつぶやいた。
(ゲンサイ…彼がいつからログインしていて、どんなプレイヤーかもわからない。私の権限が及ばない、誰かの息もかかっている…これはきな臭いわね…)
映像では、野盗たちが誰にやられたのかを報告しているようだ。
フードの男は、イノチの話を聞いて興味を持ったようである。
そのまま野盗に指示を出し、再び森の中へと消えていく。
それを見て、女性はキーボードを叩くが…
「追跡も不可…まぁそりゃそうよね。」
画面に出た『That operation is not possible(操作不可)』の表示を見て、大きくため息を吐き出した。
(たまたま彼らの追尾カメラをオフにしてたら、思わぬ収穫が舞い込んできたわね…『ゲンサイ』がもし本物だとするならば…彼はどうするのかしら…)
デスクに置いていたマグカップを手に取り、モニターを見ながら口へと運ぶ。
甘くフルーティな香りが、鼻腔の奥を優しく撫でながら通り過ぎていった。
「プレイヤーネーム『イノチ』か…そろそろ彼には、本当の試練が訪れそうね。頑張って乗り越えてほしいのだけれど…」
女性はそういうと、マグカップをデスクに置いた。
そして、再びキーボードに手を走らせていくのであった。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
教養が足りない、ですって
たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる