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第三章 ランク戦開催
2話 ノープランからの思わぬ出会い
しおりを挟む大海原を走る一隻の船。
大きな帆が張られた3本のマストには、いくつもの帆が張られている。
ガフ、メイン、ミズンと呼ばれるそれぞれのセイルは、その体を大きく広げて、風を受けながら大きな船体を引っ張っている。
甲板では数人の男たちが、慌ただしく動き回っているのが伺えた。
天気も良く、穏やかな海を走るその船は、リシア帝国を目指す輸送船である。
その甲板の一番後ろに、イノチたちは腰を据え、リシア帝国への到着を待っていた。
「BOSSゥゥゥ…うっぷ…まだ…かしら…」
顔を青くしたエレナは、今にも倒れそうなほどふらふらと揺れ、時折嗚咽している。
「船長の話だと、もうそろそろみたいだ。大丈夫?エレナ…」
「大丈夫大丈夫…うっぷ…」
イノチの言葉に少しホッとして気を抜いてしまい、エレナは突然の嗚咽に口を両手でふさぐ。
「まったく、ひ弱ですわ!」
「まぁ、そう言うなよ。誰にでも苦手なことはあるんだからさ。4日も船に乗ってるんだし、精神的にもきついからな。」
その横で、腕を組んで不満げに鼻を鳴らすフレデリカを、イノチがなだめていると、遠くでアレックスの声が聞こえてきた。
「BOSSぅぅぅ♪みんなぁ♪こんなのもらったよぉ♪」
見れば、アレックスが大きなかごを抱えて、こちらに走って来る姿がうかがえた。
「アレックス、なんだよそれ。」
「ウフフフ♪船長さんに操舵を習ってたんだけどね。これも何かの縁だからって、果物たくさんくれたんだぁ♪」
「そりゃよかったな!」
「相変わらず、アレックスに魅了される者が絶えませんですわ。」
アレックスがプレゼントをもらったのは、この航海でもう10回目だ。いろんな人と仲良くなって、いろんな物をもらってくるアレックスを見て、彼女の凄さを改めて実感していたイノチ。
フレデリカの言葉にうなずいていると、アレックスが果物を一つ差し出してきた。
「はい♪BOSS♪これが一番美味しいらしいよ♪」
「おぉ、サンキュー!」
嬉しそうに受け取ったイノチを見て、満足そうにしたアレックスは、フレデリカとエレナにも配り始めた。
その様子を見ながら、ふと船の外へ目をやると、遠くの方に大陸のようなものが見える。
「おっ!陸が見えたぞ!」
「本当だぁ♪ついに到着だね♪」
「長かっだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"…うっぷ…おっ…おぇぇぇぇ…!!」
その瞬間、エレナは見事に吐いた。
無論、顔はちゃんと海側に突き出してだが。
フレデリカは肩をすくめ、アレックスが心配する中、エレナの背中をさすりながら、イノチは船の到着を待っていた。
・
リシア帝国は、広大な大陸とその周辺にあるいくつかの島から構成されている。
一般的な産業に加えて、芸術や文化も大きく発展した国で、それらのら影響は他国にも及ぶほどだ。
国を統治するのは皇帝であり、政治、軍事にはかなり力を入れている国だと聞いている。
現に、港付近には軍艦のような大きな船を多く見かけた。
イノチたちが乗った船が、ゆっくりと港へと入っていく。
指定された停泊場所へゆっくりと進んでいき、錨が降ろされて、下船の準備が進められていく。
港内を見渡せば、他にも多くの船が停泊しているのがわかる。積荷を下ろす船、漁から帰ってきた船もあるし、人の乗降を行うものもある。
船以外にも賑わいを見せているものがある。
港湾都市『サザミナ』。
港の先には多くの建物が軒を連ねていて、人々の往来も多い。まだ離れているはず場所からは、街の喧騒が聞こえてくるようだ。
「イノチのだんな、お疲れでした。」
黒い立派なひげを携えた男が、イノチたちのもとにやって来て口を開く。彼は、シャシイさんの指示でここまでイノチたちを運んでくれた、この船の船長である。
「船長さん、ありがとうございました。アレックスなんか、皆さんからいろんな物をもらっちゃって…」
「いいんですって!船乗りは皆、家族と離れて生活することが多い。寂しい思いもよくする職業だ。みんな、アレックスちゃんのことを、実の娘や孫のように感じたんだと思います。私らとしても船員のモチベーションを上げれて、逆に感謝してますよ!」
頭を下げるイノチに対して、船長も笑みを浮かべた。
「それよりだんな。エレナさんは大丈夫ですか?」
「あぁ…大丈夫大丈夫!すみません、みんなに気を遣わせてしまって。」
グロッキー状態のエレナを、船長も心配そうに見ている。
エレナはまだ三半規管が回復してないのか、ふらふらと歩いて時折、口を押さえて座り込んでいる。
エレナを見て、苦笑いを浮かべながら、再び口を開く船長。
「シャシイさんから話はある程度聞いてますが、これからどうするので?」
「とりあえず、拠点となる宿を押さえたいんだけど、初めてくる国だから地理が全然で…どこかいい場所知りませんか?」
「それなら、オススメの宿屋がありますよ!」
問いかけられた船長は、ひげをさすりながら、嬉しそうにそう告げた。
それから、イノチたちは他の船員に挨拶をし、荷造りを終えると街へと繰り出したのである。
・
「BOSS。この後はどう動くのです?何か計画はあるのです?」
宿屋に向かう道中で、フレデリカがイノチに問いかける。
「計画…?あぁ、計画ね…簡単さ、臨機応変に、だ。」
「なっ…!」
アレックスと、彼女に手を引かれて前を歩くエレナたちを見て、ほっこりとした表情でそうつぶやくイノチに、フレデリカは驚いた。
「りっ…臨機応変って…無計画でここまできたのです?これから国を相手にしようとしていると言うのに?!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔のフレデリカ。
「仕方ないだろ。この国に知り合いはいないんだし、シャシイさんたちにも危険な橋は渡らせられないし。自分たちでなんとかするしかないんだよ。」
「はぁ…その計画のサブタイトルには、"遠慮近慮"と書き足しておいてくれですわ。」
フレデリカは頭を抱えて、ため息をついた。
「BOSS!BOSS!船長さんが言ってた宿屋って、あれじゃないかな!」
「おっ!ついたのか?」
前でアレックスが嬉しそうに手招いている。
イノチは足を早めて、二人に追いつくと、ふとエレナを見た。エレナはその建物を見て苦笑いしているようだ。
どうしたのかと思いつつ、アレックスが指差す方へと視線を向けて、イノチはエレナの苦笑いの意味を理解した。
「この建物ってさ…まさか…」
「えぇ…そのまさかでしょうね。」
目の前に優雅に腰を据える建物。
その名は『美風呂亭(びぶろてい)』。
正門の黒い屋根、赤く染まった壁は漆を塗り上げたように光沢を輝かせ、その先に見える建物も壁は赤く光り、黒い屋根の上には金色のシャチホコが、建物を自慢するように見下ろしている。
「この周りとの調和を一切考えないデザインは…」
「そして、聞き覚えのある店の名前…」
イノチとエレナがそこまでつぶやいたその時、後ろから大きな声が一同に向けてかけられた。
「ややや!!もしや、あなた様方は!!」
その声に驚いて振り返る一同。
そこには、忘れるはずもないあの顔があったのだ。
「ようこそ!サザミナへ!!わたくしはアキナイ=カルモウ!いつも、兄達がお世話になっております!!」
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