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第三章 ランク戦開催
1話 ジプト潜入
しおりを挟む夜の砂漠を歩く者が一人。
フードを深々と被り、首には青い石がはめ込まれたアクセサリーをつけている。
彼が目指しているのは、この先にある『エル』の街だろう。
彼は砂でできた小高い丘へと登っていく。
そして、登りきると先に見える街の明かりを見て、口元に笑みを浮かべた。
・
『エル』の街。
ジプト法国の中で南に位置するこの街は、国内最大の紡績組織が拠点を置く織物の街でもある。
男は大通りを歩く。
夜とはいってもまだ街には活気があり、多くの人々が行き交っている。
この時間、開いているのは飲食店などの店がほとんどだが、まだ人が多く出入りしていて、店先でも賑わいを見せている。
「あそこにするか…」
男はそうつぶやくと、目についた酒場へと歩を進め、そのドアを開いた。
中に入ると、店はけっこうな賑わいを見せた。
多くの人々が酒を酌み交わし、多くの席からは楽しげな声があがってくる。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?奥へどうぞ!」
目の前にいた女性の店員が、忙しそうにしながらも空いている席を指し示す。男はフードも外さずに、指定された先へと進んでいく。
その姿を追う視線が4つ。
酒の入ったジョッキグラスを持ち、いやらしい目つきでフードの男を目で追っていく。
「ご注文は!?」
席に着くや否や、女性の店員が注文を取りにきた。
「ビール…それと簡単なものを一品。」
フードの男はそう言って、ゴールドを数枚テーブルに置く。
それを見た店員は「あいよ」と返し、テーブルからゴールドを拾い上げて去っていった。
「おい。お前、余所者だろ?」
腕を組み、注文した品を待っていると、突然声がかけられた。
チラリと顔を向ければ、先ほどからチラチラとこちらを伺っていた四人組が、テーブルを囲むように立っている。
「…だったらなんだ?」
「ちょっと俺らに付き合ってもらうぜ!」
「なんだ?おごってくれるのか?」
「余計なことは言わず、さっさとついてきな!!この街での生き方を教えてやる!!」
声をかけてきた奴とは別の男が声を荒げて、言葉を吐き捨てた。
その声に周りにいた客たちも、何事かといったように距離をとり、様子を伺っている。
「おっ…お客さん、揉め事はそっ…外でやっとくれよ…」
注文をとりに来た店員が、恐る恐る声をかけてきた。
当たり前だが困っているようだ。
顔には勘弁してくれと書いてある。
フードの男はため息をつくと、その店員に声をかけた。
「おい、悪いがさっきの注文は取り消してくれ。こいつらが別の場所でおごってくれるらしいんでな。」
そのまま席を立ち、四人組の後に続いていく最中、去り際に店員につぶやく。
「代金はやるよ。もっと良いもんが貰えそうなんでな。」
その言葉に、店員の顔には困惑の色が浮かんでいた。
・
「こっちだ!」
暗闇の中、四人組に連れてこられたのは、人気のない路地裏だった。
逃げられないように、壁際で四方を囲まれる。
「おいおい、なにかおごってくれると思ってたんだが…」
「生意気な奴だな…お前におごるもんなんか、あるわけねぇだろ!まずはしつもんにこたえてもらうぜ。てめぇ、どこからきた!」
「どこからって…なぜお前らにそれを答えなくちゃなんねぇんだ?」
「いいから答えろ!」
別の男が声を荒げる。
こいつはさっきも店でいきがっていた奴。
そういう立ち位置の奴なのだろう。
フードの男は大きなため息をつくと、口元でニヤリと笑みをこぼす。
「嫌だね…」
「ちっ…状況がわかってねぇみたいだな。」
リーダー格の男が近づいてきて、胸ぐらを掴んできた。
そのまま力任せに壁に押し付けられるが、意に介すことなく、フードの男は口を開く。
「お前ら…毎日こんなことして生活してんのか?」
「…何がおかしい。俺らが何しようが勝手だろうが…」
「…情けない奴らだ。同じプレイヤーと恥ずかしいぜ。」
「なっ!!」
その言葉を聞いた瞬間に、三人の顔がひきつった。
リーダー格の男は、とっさに後ろに飛び、距離を取る。
約1名、理解できていない奴もいるが、皆フードの男を警戒し始めた。
リーダー格の男が得物を抜くと、周りの男たちも続けて武器を抜いていく。
「いきなりかよ…まぁ、俺も人のこと言えたもんじゃねぇか。」
「てめぇ、プレイヤーか?なっ…なんでネームタグがねぇ!」
「それをお前らに答える義理はねぇなぁ。」
フードの男はそう言うと、パチンと指を鳴らす。
すると頭の上にネームタグが現れ、それを見た四人はさらに驚愕した。
「ネッ…ネームタグって、隠せるのか?」
「そんなの聞いたことねぇよ!」
「じゃあなんであいつは!?」
「知るかそんなこと!!」
突然現れたネームタグ。
不可思議な光景に警戒を強める四人。
『ゲンサイ』と書かれたネームタグの男は、ニヤリと笑う。
「お前らにちょっと聞きたいことがあんだよ。」
「聞きたいことだと…!?」
リーダー格の男が声をあげた瞬間、目の前からゲンサイの姿が音もなく消えた。
「なっ!?」
驚くまもなく、右にいた仲間の腕が突然吹き飛ぶ。
断末魔と共に膝をつき、ない腕を押さえる仲間に目を向けた瞬間、今度は左にいた仲間の脚が飛んだ。
ドサッという音の後に、先ほどまでいきがっていた男がキィキィと悲鳴をあげている。
再び目の前に現れたゲンサイの手には、その男の脚があった。
仲間の一人が、笑っているゲンサイに怯みつつも、声を上げて飛びかかる。
しかし、向かってきた男が振り下ろした剣を、ゲンサイは難なくかわすと、足をかけて地面に転がした。
そして、うつ伏せで倒れた男の目の前に座り込む。
サクッ
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!目がぁぁぁぁ!!」
倒れた男は、自分の目に刺さったナイフを押さえながら悶え苦しんだ。
ゴロゴロと転がりながら、苦しむ様子を一瞥すると、ゲンサイは呆然と立ちすくむリーダー格の男に向き直る。
「おっ…お前…なんでこんな…」
「おっと!お前がその言葉を口にしちゃいけねぇな。こんな"ひどいこと"を、お前もずっとしてきたんだろ?」
「…くっ」
ゲンサイは持っていた脚を男の前に放り投げる。
「まぁ、殺しちゃいねぇから安心しな。ただし、無くなった部分は元には戻らねぇだろうがな!ククク」
「てっ…てめぇ、何が目的なんだ!!」
額に大量の汗を浮かべ、男が問いかけると、ゲンサイはあきれたように小さくため息をついた。
「言っただろ?聞きたいことがあるって。てめぇの耳は節穴か?」
突然、後ろから聞こえた声。
気づけば、目の前にいたゲンサイの姿は、どこにも見当たらない。
(ずっ…ずっと見ていたはずなのに…なんなんだこいつは…!)
その瞬間、男の意識はそこで途絶えた。
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