128 / 290
第三章 ランク戦開催
2話 ノープランからの思わぬ出会い
しおりを挟む大海原を走る一隻の船。
大きな帆が張られた3本のマストには、いくつもの帆が張られている。
ガフ、メイン、ミズンと呼ばれるそれぞれのセイルは、その体を大きく広げて、風を受けながら大きな船体を引っ張っている。
甲板では数人の男たちが、慌ただしく動き回っているのが伺えた。
天気も良く、穏やかな海を走るその船は、リシア帝国を目指す輸送船である。
その甲板の一番後ろに、イノチたちは腰を据え、リシア帝国への到着を待っていた。
「BOSSゥゥゥ…うっぷ…まだ…かしら…」
顔を青くしたエレナは、今にも倒れそうなほどふらふらと揺れ、時折嗚咽している。
「船長の話だと、もうそろそろみたいだ。大丈夫?エレナ…」
「大丈夫大丈夫…うっぷ…」
イノチの言葉に少しホッとして気を抜いてしまい、エレナは突然の嗚咽に口を両手でふさぐ。
「まったく、ひ弱ですわ!」
「まぁ、そう言うなよ。誰にでも苦手なことはあるんだからさ。4日も船に乗ってるんだし、精神的にもきついからな。」
その横で、腕を組んで不満げに鼻を鳴らすフレデリカを、イノチがなだめていると、遠くでアレックスの声が聞こえてきた。
「BOSSぅぅぅ♪みんなぁ♪こんなのもらったよぉ♪」
見れば、アレックスが大きなかごを抱えて、こちらに走って来る姿がうかがえた。
「アレックス、なんだよそれ。」
「ウフフフ♪船長さんに操舵を習ってたんだけどね。これも何かの縁だからって、果物たくさんくれたんだぁ♪」
「そりゃよかったな!」
「相変わらず、アレックスに魅了される者が絶えませんですわ。」
アレックスがプレゼントをもらったのは、この航海でもう10回目だ。いろんな人と仲良くなって、いろんな物をもらってくるアレックスを見て、彼女の凄さを改めて実感していたイノチ。
フレデリカの言葉にうなずいていると、アレックスが果物を一つ差し出してきた。
「はい♪BOSS♪これが一番美味しいらしいよ♪」
「おぉ、サンキュー!」
嬉しそうに受け取ったイノチを見て、満足そうにしたアレックスは、フレデリカとエレナにも配り始めた。
その様子を見ながら、ふと船の外へ目をやると、遠くの方に大陸のようなものが見える。
「おっ!陸が見えたぞ!」
「本当だぁ♪ついに到着だね♪」
「長かっだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"…うっぷ…おっ…おぇぇぇぇ…!!」
その瞬間、エレナは見事に吐いた。
無論、顔はちゃんと海側に突き出してだが。
フレデリカは肩をすくめ、アレックスが心配する中、エレナの背中をさすりながら、イノチは船の到着を待っていた。
・
リシア帝国は、広大な大陸とその周辺にあるいくつかの島から構成されている。
一般的な産業に加えて、芸術や文化も大きく発展した国で、それらのら影響は他国にも及ぶほどだ。
国を統治するのは皇帝であり、政治、軍事にはかなり力を入れている国だと聞いている。
現に、港付近には軍艦のような大きな船を多く見かけた。
イノチたちが乗った船が、ゆっくりと港へと入っていく。
指定された停泊場所へゆっくりと進んでいき、錨が降ろされて、下船の準備が進められていく。
港内を見渡せば、他にも多くの船が停泊しているのがわかる。積荷を下ろす船、漁から帰ってきた船もあるし、人の乗降を行うものもある。
船以外にも賑わいを見せているものがある。
港湾都市『サザミナ』。
港の先には多くの建物が軒を連ねていて、人々の往来も多い。まだ離れているはず場所からは、街の喧騒が聞こえてくるようだ。
「イノチのだんな、お疲れでした。」
黒い立派なひげを携えた男が、イノチたちのもとにやって来て口を開く。彼は、シャシイさんの指示でここまでイノチたちを運んでくれた、この船の船長である。
「船長さん、ありがとうございました。アレックスなんか、皆さんからいろんな物をもらっちゃって…」
「いいんですって!船乗りは皆、家族と離れて生活することが多い。寂しい思いもよくする職業だ。みんな、アレックスちゃんのことを、実の娘や孫のように感じたんだと思います。私らとしても船員のモチベーションを上げれて、逆に感謝してますよ!」
頭を下げるイノチに対して、船長も笑みを浮かべた。
「それよりだんな。エレナさんは大丈夫ですか?」
「あぁ…大丈夫大丈夫!すみません、みんなに気を遣わせてしまって。」
グロッキー状態のエレナを、船長も心配そうに見ている。
エレナはまだ三半規管が回復してないのか、ふらふらと歩いて時折、口を押さえて座り込んでいる。
エレナを見て、苦笑いを浮かべながら、再び口を開く船長。
「シャシイさんから話はある程度聞いてますが、これからどうするので?」
「とりあえず、拠点となる宿を押さえたいんだけど、初めてくる国だから地理が全然で…どこかいい場所知りませんか?」
「それなら、オススメの宿屋がありますよ!」
問いかけられた船長は、ひげをさすりながら、嬉しそうにそう告げた。
それから、イノチたちは他の船員に挨拶をし、荷造りを終えると街へと繰り出したのである。
・
「BOSS。この後はどう動くのです?何か計画はあるのです?」
宿屋に向かう道中で、フレデリカがイノチに問いかける。
「計画…?あぁ、計画ね…簡単さ、臨機応変に、だ。」
「なっ…!」
アレックスと、彼女に手を引かれて前を歩くエレナたちを見て、ほっこりとした表情でそうつぶやくイノチに、フレデリカは驚いた。
「りっ…臨機応変って…無計画でここまできたのです?これから国を相手にしようとしていると言うのに?!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔のフレデリカ。
「仕方ないだろ。この国に知り合いはいないんだし、シャシイさんたちにも危険な橋は渡らせられないし。自分たちでなんとかするしかないんだよ。」
「はぁ…その計画のサブタイトルには、"遠慮近慮"と書き足しておいてくれですわ。」
フレデリカは頭を抱えて、ため息をついた。
「BOSS!BOSS!船長さんが言ってた宿屋って、あれじゃないかな!」
「おっ!ついたのか?」
前でアレックスが嬉しそうに手招いている。
イノチは足を早めて、二人に追いつくと、ふとエレナを見た。エレナはその建物を見て苦笑いしているようだ。
どうしたのかと思いつつ、アレックスが指差す方へと視線を向けて、イノチはエレナの苦笑いの意味を理解した。
「この建物ってさ…まさか…」
「えぇ…そのまさかでしょうね。」
目の前に優雅に腰を据える建物。
その名は『美風呂亭(びぶろてい)』。
正門の黒い屋根、赤く染まった壁は漆を塗り上げたように光沢を輝かせ、その先に見える建物も壁は赤く光り、黒い屋根の上には金色のシャチホコが、建物を自慢するように見下ろしている。
「この周りとの調和を一切考えないデザインは…」
「そして、聞き覚えのある店の名前…」
イノチとエレナがそこまでつぶやいたその時、後ろから大きな声が一同に向けてかけられた。
「ややや!!もしや、あなた様方は!!」
その声に驚いて振り返る一同。
そこには、忘れるはずもないあの顔があったのだ。
「ようこそ!サザミナへ!!わたくしはアキナイ=カルモウ!いつも、兄達がお世話になっております!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる