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皇帝は、声を荒げない
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帝国宮殿の執務室は、王国のそれよりも簡素だった。
無駄な装飾はなく、
磨き上げられた黒曜石の机が中央に置かれている。
その上に、一通の書簡。
王国の紋章が押された、正式な王命書。
カイゼルは封を切る。
無言で読み進める。
“国難ゆえ、旧責任者セラフィーナ・アルディアに帰還を命ずる”
“速やかに王都へ戻り、財政再建に従事せよ”
沈黙。
側近たちは息を潜めている。
書簡を最後まで読み終え、
皇帝は静かにそれを机に置いた。
「……命ずる、か」
低い声が落ちる。
怒鳴りはしない。
だが、空気が一瞬で冷えた。
「陛下」
側近が口を開く。
「王国は混乱しております。交易は完全停止。穀物相場は高騰。商会は帝国側の判断を待っている状況です」
カイゼルは立ち上がり、窓辺へ歩く。
遠くに広がる帝都の景色。
整然とした街並み。
規律ある動き。
「己が捨てた者を、道具のように呼び戻すとは」
銀の瞳がわずかに細められる。
「愚かだ」
その一言に、側近たちが背筋を伸ばす。
そこへ。
扉が静かに開いた。
セラフィーナが入室する。
帝国の衣装は深い蒼。
装飾は最小限。
だがその佇まいは、以前よりも凛としている。
「お呼びでしょうか、陛下」
カイゼルは書簡を差し出す。
「読め」
彼女は受け取り、目を通す。
その表情は変わらない。
「……予想通りでございます」
「戻るか」
問いは短い。
試す響きはない。
ただ、確認。
セラフィーナは書簡を静かに折りたたむ。
「わたくしは、すでに帝国の客人でございます」
わずかに視線を上げる。
「命令を受ける立場ではございません」
その声は穏やかだ。
怒りも、憎しみもない。
ただ事実。
カイゼルはしばし彼女を見つめる。
「貴女が戻れば、王国は延命する」
「ええ」
「戻らねば、崩れる」
「おそらくは」
沈黙。
皇帝の指が机を軽く叩く。
「選択権は貴女にある」
その言葉に、側近が目を見開く。
皇帝が、
選択を委ねる。
セラフィーナはわずかに微笑んだ。
「帝国は、わたくしを必要としてくださるのでしょうか」
即答。
「当然だ」
迷いは一切ない。
その瞬間。
彼女の瞳が、ほんのわずかに揺れる。
王子は一度も言わなかった言葉。
必要だと。
「……では、帝国にお仕えいたします」
カイゼルは書簡を再び手に取る。
そして。
ゆっくりと、破いた。
紙が裂ける音が、静かに響く。
「返書を送れ」
側近が膝をつく。
「内容は?」
銀の瞳が冷える。
「帝国は、貴国の内政に干渉しない」
一拍。
「だが、帝国臣民に対する命令権は認めない、と」
空気が凍る。
王国への、明確な拒絶。
カイゼルはセラフィーナを見た。
「二度と、貴女を道具にはさせぬ」
低く、確かな声。
怒鳴らない。
だが、それは王としての宣言だった。
王国はまだ知らない。
自分たちが拒絶されたことを。
そして。
取り戻せると思っていた希望が、
すでに焼き払われたことを。
無駄な装飾はなく、
磨き上げられた黒曜石の机が中央に置かれている。
その上に、一通の書簡。
王国の紋章が押された、正式な王命書。
カイゼルは封を切る。
無言で読み進める。
“国難ゆえ、旧責任者セラフィーナ・アルディアに帰還を命ずる”
“速やかに王都へ戻り、財政再建に従事せよ”
沈黙。
側近たちは息を潜めている。
書簡を最後まで読み終え、
皇帝は静かにそれを机に置いた。
「……命ずる、か」
低い声が落ちる。
怒鳴りはしない。
だが、空気が一瞬で冷えた。
「陛下」
側近が口を開く。
「王国は混乱しております。交易は完全停止。穀物相場は高騰。商会は帝国側の判断を待っている状況です」
カイゼルは立ち上がり、窓辺へ歩く。
遠くに広がる帝都の景色。
整然とした街並み。
規律ある動き。
「己が捨てた者を、道具のように呼び戻すとは」
銀の瞳がわずかに細められる。
「愚かだ」
その一言に、側近たちが背筋を伸ばす。
そこへ。
扉が静かに開いた。
セラフィーナが入室する。
帝国の衣装は深い蒼。
装飾は最小限。
だがその佇まいは、以前よりも凛としている。
「お呼びでしょうか、陛下」
カイゼルは書簡を差し出す。
「読め」
彼女は受け取り、目を通す。
その表情は変わらない。
「……予想通りでございます」
「戻るか」
問いは短い。
試す響きはない。
ただ、確認。
セラフィーナは書簡を静かに折りたたむ。
「わたくしは、すでに帝国の客人でございます」
わずかに視線を上げる。
「命令を受ける立場ではございません」
その声は穏やかだ。
怒りも、憎しみもない。
ただ事実。
カイゼルはしばし彼女を見つめる。
「貴女が戻れば、王国は延命する」
「ええ」
「戻らねば、崩れる」
「おそらくは」
沈黙。
皇帝の指が机を軽く叩く。
「選択権は貴女にある」
その言葉に、側近が目を見開く。
皇帝が、
選択を委ねる。
セラフィーナはわずかに微笑んだ。
「帝国は、わたくしを必要としてくださるのでしょうか」
即答。
「当然だ」
迷いは一切ない。
その瞬間。
彼女の瞳が、ほんのわずかに揺れる。
王子は一度も言わなかった言葉。
必要だと。
「……では、帝国にお仕えいたします」
カイゼルは書簡を再び手に取る。
そして。
ゆっくりと、破いた。
紙が裂ける音が、静かに響く。
「返書を送れ」
側近が膝をつく。
「内容は?」
銀の瞳が冷える。
「帝国は、貴国の内政に干渉しない」
一拍。
「だが、帝国臣民に対する命令権は認めない、と」
空気が凍る。
王国への、明確な拒絶。
カイゼルはセラフィーナを見た。
「二度と、貴女を道具にはさせぬ」
低く、確かな声。
怒鳴らない。
だが、それは王としての宣言だった。
王国はまだ知らない。
自分たちが拒絶されたことを。
そして。
取り戻せると思っていた希望が、
すでに焼き払われたことを。
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