捨てたのはあなたです。今さら取り戻せません

めめめ

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まだ、取り戻せると思っていた

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夜半を過ぎても、王子の執務室には灯りが消えなかった。

机の上には未処理の書類が山のように積まれている。
どれもこれも、これまで目にしたことのない形式だ。

「……なぜだ」

王子レオンハルトは苛立ちを隠せない。

契約書の細部。
資金の流れ。
貴族間の調整。

どれも、今まで“整っていた”。

いや。

整えられていた。

「殿下、北方との再交渉ですが……」

財務官が恐る恐る口を開く。

「帝国側は“旧責任者との直接交渉のみ可”との姿勢を崩しておりません」

旧責任者。

その言葉が、胸を刺す。

「……つまり、セラフィーナか」

「は、はい」

沈黙が落ちる。

彼女がいなくなった途端、歯車が噛み合わなくなった。

だが、それは一時的な混乱だ。

そうだ。
彼女は公爵家の娘。
王家の命には逆らえない。

「呼び戻せばいい」

財務官が顔を上げる。

「……は?」

「婚約は破棄したが、臣下であることに変わりはない。王命で戻せばよい」

自分の声が、妙に落ち着いている。

理屈は通っている。

彼女は感情的ではない。
常に理で動く女だ。

ならば、国のためと告げれば戻るはずだ。

「しかし……帝国へ同行したとの報が」

「同行だと?」

胸の奥がざわめく。

帝国皇帝の姿が脳裏をよぎる。

あの、値踏みするような銀の瞳。

「一時的な滞在だろう」

そうでなければならない。

「使者を出せ」

「どのような文面で……」

王子は少し考え、唇を歪める。

「国難ゆえ、帰還を命ずる、と」

命ずる。

そうだ。

彼女は王家に仕える立場だった。

自分の支えになって当然だった。

彼女がいなければ回らない?

ならば戻せばいい。

単純なことだ。

胸の違和感が、少しだけ和らぐ。

あの舞踏会での冷たい視線を思い出す。

——“責任は負いかねます”

あれは強がりだ。

王子はそう信じる。

なぜなら。

自分は王になる男だ。

選ぶ側であって、
選ばれる側ではない。

「返事が来るまで、交易は保てるのか」

「……三日が限界かと」

三日。

十分だ。

セラフィーナは理知的だ。

国が崩れれば、自分の家も無傷ではいられない。

戻るに決まっている。

王子はまだ、知らない。

彼女がすでに“臣下”ではなくなっていることを。

そして。

命令が、届かぬ場所へ
彼女が立っていることを。
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