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静かなる采配
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帝国議会の空気は、王国とは違う。
円形に並ぶ席。
中央に広げられた巨大な交易地図。
魔導投影で映し出される穀物流通の流れ。
その中に、セラフィーナは立っていた。
「北方の不足分は三日以内に南東航路へ迂回可能です」
淡々と告げる。
議員たちがざわめく。
「不可能だ。輸送許可が下りていない」
「許可は不要です」
静かな返答。
「商会三社の代表は、すでに帝都入りしております。条件は整えました」
「いつの間に……」
視線が皇帝へ向かう。
カイゼルは腕を組み、ただ見ている。
助言もしない。
口出しもしない。
ただ——任せている。
「王国は三日以内に再交渉を試みます」
セラフィーナは続ける。
「ですが交渉材料が不足しております。帝国は譲歩の必要はございません」
議員の一人が身を乗り出す。
「では、我々は傍観せよと?」
「いいえ」
わずかに微笑む。
「主導権を握るのです」
地図の一点を指す。
「王国の穀物依存率は三割。価格を一時的に上昇させることで、向こうから譲歩を引き出せます」
空気が変わる。
ざわめきは、驚きへ。
「……そこまで読んでいるのか」
「王国の帳簿は、長年管理しておりましたので」
さらりと言う。
それだけのこと、という風に。
議員たちの視線が変わる。
疑念から、評価へ。
そのとき。
別の官僚が口を開く。
「ですが、王国との関係悪化は避けるべきでは」
セラフィーナは一瞬、沈黙する。
そして。
「関係は、すでに悪化しております」
静かな断言。
「断罪という形で」
会議室が静まり返る。
皇帝の瞳がわずかに細められる。
「続けよ」
低い声。
許可ではない。
信頼。
「帝国は干渉せず。ただ市場原理に従う。それで十分です」
簡潔。
的確。
議員の一人が息を吐く。
「……見事だ」
別の者が小声で囁く。
「王国は、なぜ彼女を捨てた」
その言葉が、波紋のように広がる。
皇帝は立ち上がる。
「本日の議決は、セラフィーナの案を採用する」
異論は出ない。
「会議は終わりだ」
議員たちが退出する。
残されたのは二人。
「見事だった」
カイゼルの声は低い。
「陛下が口を挟まれなかったことが、最も効果的でした」
「貴女が十分だからだ」
間を置かず返る。
セラフィーナは視線を逸らす。
「過分なお言葉です」
「違う」
一歩、距離が縮まる。
「私は事実しか述べぬ」
銀の瞳が真っ直ぐ向けられる。
「帝国は、貴女を得た」
短い言葉。
だが重い。
廊下の向こうで、官僚たちの声が聞こえる。
「皇帝があれほど任せるとは」
「信任か」
「いや……それ以上では」
ざわめきは広がる。
王国で“影”だった令嬢は、
帝国で“中枢”になりつつある。
そして。
王子の元には、まだ返書は届いていない。
だがその頃、
穀物価格はさらに上昇し、
貴族たちの不満は膨れ上がっていた。
知らぬのは、彼だけ。
自分が捨てた者が、
今や隣国の未来を握っていることを。
円形に並ぶ席。
中央に広げられた巨大な交易地図。
魔導投影で映し出される穀物流通の流れ。
その中に、セラフィーナは立っていた。
「北方の不足分は三日以内に南東航路へ迂回可能です」
淡々と告げる。
議員たちがざわめく。
「不可能だ。輸送許可が下りていない」
「許可は不要です」
静かな返答。
「商会三社の代表は、すでに帝都入りしております。条件は整えました」
「いつの間に……」
視線が皇帝へ向かう。
カイゼルは腕を組み、ただ見ている。
助言もしない。
口出しもしない。
ただ——任せている。
「王国は三日以内に再交渉を試みます」
セラフィーナは続ける。
「ですが交渉材料が不足しております。帝国は譲歩の必要はございません」
議員の一人が身を乗り出す。
「では、我々は傍観せよと?」
「いいえ」
わずかに微笑む。
「主導権を握るのです」
地図の一点を指す。
「王国の穀物依存率は三割。価格を一時的に上昇させることで、向こうから譲歩を引き出せます」
空気が変わる。
ざわめきは、驚きへ。
「……そこまで読んでいるのか」
「王国の帳簿は、長年管理しておりましたので」
さらりと言う。
それだけのこと、という風に。
議員たちの視線が変わる。
疑念から、評価へ。
そのとき。
別の官僚が口を開く。
「ですが、王国との関係悪化は避けるべきでは」
セラフィーナは一瞬、沈黙する。
そして。
「関係は、すでに悪化しております」
静かな断言。
「断罪という形で」
会議室が静まり返る。
皇帝の瞳がわずかに細められる。
「続けよ」
低い声。
許可ではない。
信頼。
「帝国は干渉せず。ただ市場原理に従う。それで十分です」
簡潔。
的確。
議員の一人が息を吐く。
「……見事だ」
別の者が小声で囁く。
「王国は、なぜ彼女を捨てた」
その言葉が、波紋のように広がる。
皇帝は立ち上がる。
「本日の議決は、セラフィーナの案を採用する」
異論は出ない。
「会議は終わりだ」
議員たちが退出する。
残されたのは二人。
「見事だった」
カイゼルの声は低い。
「陛下が口を挟まれなかったことが、最も効果的でした」
「貴女が十分だからだ」
間を置かず返る。
セラフィーナは視線を逸らす。
「過分なお言葉です」
「違う」
一歩、距離が縮まる。
「私は事実しか述べぬ」
銀の瞳が真っ直ぐ向けられる。
「帝国は、貴女を得た」
短い言葉。
だが重い。
廊下の向こうで、官僚たちの声が聞こえる。
「皇帝があれほど任せるとは」
「信任か」
「いや……それ以上では」
ざわめきは広がる。
王国で“影”だった令嬢は、
帝国で“中枢”になりつつある。
そして。
王子の元には、まだ返書は届いていない。
だがその頃、
穀物価格はさらに上昇し、
貴族たちの不満は膨れ上がっていた。
知らぬのは、彼だけ。
自分が捨てた者が、
今や隣国の未来を握っていることを。
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