捨てたのはあなたです。今さら取り戻せません

斉藤めめめ

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それは公然の事実となる

帝国の大広間は、静まり返っていた。

今日は定例の上級貴族会議。
皇帝自らが出席する、重い席だ。

セラフィーナは会議卓の端に立っていた。
あくまで客人。
形式上は、まだ“顧問”という立場。

だが視線は、彼女に集まっている。

「北方との交渉条件について、再検討を求める」

老侯爵が口を開く。

「帝国の利益は理解するが、一人の客人の提案に依存するのは危険ではないか」

静かな牽制。

広間にわずかな緊張が走る。

セラフィーナは何も言わない。

反論はしない。

すると。

玉座の上から、低い声が落ちた。

「依存ではない」

カイゼルがゆっくりと立ち上がる。

銀の瞳が会議室を一巡する。

「合理性を採用しているだけだ」

老侯爵が眉をひそめる。

「ですが、陛下。王国の元婚約者という立場は……」

「関係ない」

即断。

空気が震える。

「能力に過去は不要だ」

一歩、玉座から降りる。

皇帝が階段を下りるなど、滅多にない。

そのまま、セラフィーナの隣に立つ。

ざわめき。

距離が、近い。

「この者の案は帝国に利益をもたらす」

カイゼルは続ける。

「それ以上の理由が必要か」

誰も答えない。

だが視線は明確に変わる。

客人ではない。

側近でもない。

——中枢。

老侯爵が口を閉ざす。

「異論はない」

会議は、事実上終わった。

皇帝はそのまま振り返る。

「セラフィーナ」

名を呼ぶ。

公の場で。

「本日より、帝国財政顧問の正式任命を告げる」

広間がどよめく。

形式は後だ。

先に宣言する。

王のやり方。

「陛下……」

「拒否は認めぬ」

だが声音は柔らかい。

「貴女の才は、帝国のものだ」

その言葉は、公然の宣言だった。

囲う、ではない。

選ぶ、でもない。

“帝国のもの”。

ざわめきは確信へ変わる。

誰もが理解する。

皇帝が、彼女を手放さないことを。

会議終了後、廊下。

セラフィーナは静かに口を開く。

「陛下、あのような場での宣言は波紋を呼びます」

「望むところだ」

短い答え。

「貴女を軽んじる声は、先に潰す」

視線が絡む。

「私の側に立つ者は、守る」

その一言に、迷いはない。

王国では得られなかったもの。

正面からの擁護。

堂々とした信任。

廊下の先で、官僚たちが囁く。

「皇帝があそこまで……」

「特別だ」

「いや、すでに——」

言葉は飲み込まれる。

だが事実は明白。

セラフィーナは、
帝国で“公然の存在”になった。

そして。

王国では。

王子の元に、帝国からの正式返書が届いていた。

拒絶の文言と共に。
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