新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい

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第六話 それ、矛盾してますよね?

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夕食後、居間でくつろいでいた時のことだ。

ルーファスが唐突に口を開いた。

「カレン」

「はい」

「私は……君のことをもっと知りたいと思っている」

カレンはページをめくる手を止めた。

「なぜですか?」

「なぜって……夫婦なんだから、当然だろう」

「当然、ですか」

本を閉じ、ルーファスを見る。

「それは契約に必要なことですか?」

「契約とかじゃなくて……」

「では、なぜ急に?」

ルーファスは少し考えてから答えた。

「君と過ごすうちに、気になり始めたんだ。
 君がどんな人なのか。何を考えているのか」

「ふうん」

カレンは小首を傾げた。

「それ、おかしくないですか?」

「何がだ?」

「あなたには愛人がいるんですよね?」

「……」

「心に決めた人がいるのに、妻に興味を持つ。
 それって、矛盾してませんか?」

ルーファスの顔がこわばった。

「矛盾というか……」

「では質問を変えます。私のことを知りたいのは、なぜですか?
 愛人の方への気持ちが薄れたからですか?」

「そうじゃない」

「では、愛人がいながら妻にも興味を持つと。
 それ、ただの浮気性ですよね?」

「違う!」

「では、どう違うんですか? 論理的に説明してください」

ルーファスは言葉に詰まった。

カレンは容赦なく続ける。

「いいでしょう。では、私からも質問させてください」

「……何をだ」

「あなたの愛人について、です」

ルーファスの喉が動いた。

「その方とは、どこで出会ったんですか?」

「それは……社交界で……」

「社交界。では、貴族の令嬢ですか?」

「いや……」

「では、どういう身分の方ですか?」

「……商家の……」

「商家の娘。なるほど。お名前は?」

「名前は……」

ルーファスが口ごもる。

「言えないんですか?」

「彼女の名誉のために……」

「名誉? 私は他言しませんよ。夫婦の会話ですから」

「それでも……」

「では、どんな容姿の方ですか?」

「容姿……」

「髪の色は? 目の色は? 背は高い? 低い?」

「えっと……」

矢継ぎ早の質問に、ルーファスの目が泳ぐ。

「……金髪で……目は青くて……」

「それ、この国の女性の半分に当てはまりますね」

「っ……」

「もっと具体的な特徴はないんですか?
 愛しているなら、細部まで覚えているはずですよね?」

「それは……会ったのが少し前だから……」

「少し前? 最後に会ったのはいつですか?」

「……一年ほど前……」

「一年」

カレンは眉を上げた。

「一年も会っていない相手を、まだ愛していると?」

「心は変わらない」

「手紙のやり取りは?」

「……していない」

「会ってもいない、手紙も書いていない。
 それで愛が続いていると、どうやって確認したんですか?」

「確認って……」

「愛は双方向のものですよね?
 あなたが一方的に想っているだけなら、それは愛ではなく執着では?」

ルーファスが黙り込む。

カレンは畳みかけた。

「整理しましょう。
 一、あなたは一年以上愛人に会っていない。
 二、手紙のやり取りもない。
 三、相手の気持ちを確認していない。
 四、にもかかわらず、妻より愛人を優先しようとした」

指を折りながら、淡々と述べる。

「これ、どう考えても論理的じゃないですよね?」

「私は……ただ……」

「ただ?」

ルーファスは頭を抱えた。

「……わからなくなってきた」

「何がですか?」

「自分が何を考えているのか……」

カレンは小さくため息をついた。

「私は別に怒らせたいわけじゃないんですよ。事実を言っているだけで——」

言いかけて、止まった。

ルーファスが顔を上げる。

「……今、何か変じゃなかったか?」

「何がですか?」

「いや、口調が……」

「気のせいです」

「いや、絶対なんか——」

「気のせいです。はい、次の話題」

カレンは本を開き直した。

その頬が、わずかに赤い。

ルーファスは初めて見た。

この完璧な妻の、小さな綻びを。

「……カレン」

「何ですか」

「君も、完璧じゃないんだな」

「完璧な人間なんていません。それこそ、論理的に考えれば自明のことです」

「そうか」

ルーファスは少しだけ笑った。

「なんだか、安心した」

「……変な人ですね」

カレンは本に視線を落としたまま、そう呟いた。

-----

「矛盾に気づいたなら、考え直すチャンスです。逃さないでくださいね」

カレン・ベルンワード侯爵夫人
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