54 / 179
実家の前で起きた闘いの話
しおりを挟む
私が生まれたのは、都内にある二十三区のどこかです。プライベートはあんまり明かしたくないたちなので、あえてボカします。
以前から何度も書いている通り、ここは治安の良くない町でした。スーツを着たサラリーマンよりも、作業着姿の工員やニッカボッカの現場作業員が遥かに多い地域だったのです。
また、近くのアパートには得体の知れない外国人が多く住んでおりました。タイ人、中国人、イラン人、ナイジェリア人などなど……三ヶ月に一度くらいは、そのアパートからひとりくらいオーバーステイで逮捕されていた記憶があります。
そんな地域に住んでいると、頭のおかしい人に出会う確率も飛躍的に上がるのですよね。
昔のことですが、実家から歩いて十分ほどの場所に、建設会社の寮がありました。もっとも、寮とは名ばかりであり、いわゆるタコ部屋に近いものだったようです。
念のため説明しますと、タコ部屋とは労働者を拘束しておいて、劣悪な環境の中で働かせるものです。早い話、漫画『カイジ』の地下労働のようなものを想像していただくと当たらずとも遠からずです。
ただ、近所にあったものは、そこまで酷い施設でありませんでした。幼い頃に何度か通りかかったのですが、数人のオッサンたちがひとつの部屋でテレビ観ていた……というような記憶があります。ただ、さほど広くないアパートの一室に数人を住まわしていたのですから、ストレスも溜まっていたことでしょう。事実、寮内でのケンカは日常茶飯事だったようです。
こんな労働者たちの気晴らしといえば、当時は酒か博打くらいしかありません。そのため、酔っ払いに遭遇することもたびたびでした。
さて、当時の我が家には犬がおりました。この犬、家の中では猫にペチペチいじめられるくらい弱いのですが……外の者には、やたら強気なのです。
そのため、酔っ払いが浮かれながら歌を唄い歩こうものなら「やい、うるせえぞ!」とばかりにワンワン吠えるのです。
たまに、寮の作業員たちが外で酒を飲み、歌でも唄いながら家の前を歩こうものなら「くぉら! ここは俺さまの縄張りだぞ!」とばかりにワンワン吠えます。
もっとも、相手も酔っ払っていい気分になっています。なので、犬の声など無視して通り過ぎていくのです。
しかし、一度だけおかしな事態になったことがありました。
それは、夜中の二時過ぎでした。当時、私は中学生であり、夜更かししてテレビを観ていたのです。
その時、外から歌が聴こえてきました。いつもの酔っ払いと違い、英語の混じったポップス調の歌です。
とはいえ、英語だろうと日本語だろうと、犬には関係ありません。うちの犬はさっそく怒り出し、ワンワン吠え出したのです。
すると、歌はピタリと止まりました。次の瞬間、何やら怒鳴るような声が聴こえてきたのです。耳を澄ませると、こんな内容でした。
「何だ、このクソ犬! 出てこい! 勝負してやる!」
私は唖然となりました。どうやら、うちの犬にケンカを売っているようなのです。
二階の窓から、そっと覗いて見たのですが……暗くて、姿は良く見えません。男だということはわかっているのですが、顔や服装までは見えませんでした。
その間も、犬は吠え続けています。さらに、男の方も家の前で怒鳴り続けています。途切れ途切れに聞こえてくるのは「やってやる」「勝負しろ」という言葉でした。
どのくらい、そんなやり取りが続いていたのかはわかりませんが……やがて、駆けつけた警官に男は連れて行かれました。翌日には、父親が「また来たら、犬を放しちまえ」とボヤいておりました。
以前から何度も書いている通り、ここは治安の良くない町でした。スーツを着たサラリーマンよりも、作業着姿の工員やニッカボッカの現場作業員が遥かに多い地域だったのです。
また、近くのアパートには得体の知れない外国人が多く住んでおりました。タイ人、中国人、イラン人、ナイジェリア人などなど……三ヶ月に一度くらいは、そのアパートからひとりくらいオーバーステイで逮捕されていた記憶があります。
そんな地域に住んでいると、頭のおかしい人に出会う確率も飛躍的に上がるのですよね。
昔のことですが、実家から歩いて十分ほどの場所に、建設会社の寮がありました。もっとも、寮とは名ばかりであり、いわゆるタコ部屋に近いものだったようです。
念のため説明しますと、タコ部屋とは労働者を拘束しておいて、劣悪な環境の中で働かせるものです。早い話、漫画『カイジ』の地下労働のようなものを想像していただくと当たらずとも遠からずです。
ただ、近所にあったものは、そこまで酷い施設でありませんでした。幼い頃に何度か通りかかったのですが、数人のオッサンたちがひとつの部屋でテレビ観ていた……というような記憶があります。ただ、さほど広くないアパートの一室に数人を住まわしていたのですから、ストレスも溜まっていたことでしょう。事実、寮内でのケンカは日常茶飯事だったようです。
こんな労働者たちの気晴らしといえば、当時は酒か博打くらいしかありません。そのため、酔っ払いに遭遇することもたびたびでした。
さて、当時の我が家には犬がおりました。この犬、家の中では猫にペチペチいじめられるくらい弱いのですが……外の者には、やたら強気なのです。
そのため、酔っ払いが浮かれながら歌を唄い歩こうものなら「やい、うるせえぞ!」とばかりにワンワン吠えるのです。
たまに、寮の作業員たちが外で酒を飲み、歌でも唄いながら家の前を歩こうものなら「くぉら! ここは俺さまの縄張りだぞ!」とばかりにワンワン吠えます。
もっとも、相手も酔っ払っていい気分になっています。なので、犬の声など無視して通り過ぎていくのです。
しかし、一度だけおかしな事態になったことがありました。
それは、夜中の二時過ぎでした。当時、私は中学生であり、夜更かししてテレビを観ていたのです。
その時、外から歌が聴こえてきました。いつもの酔っ払いと違い、英語の混じったポップス調の歌です。
とはいえ、英語だろうと日本語だろうと、犬には関係ありません。うちの犬はさっそく怒り出し、ワンワン吠え出したのです。
すると、歌はピタリと止まりました。次の瞬間、何やら怒鳴るような声が聴こえてきたのです。耳を澄ませると、こんな内容でした。
「何だ、このクソ犬! 出てこい! 勝負してやる!」
私は唖然となりました。どうやら、うちの犬にケンカを売っているようなのです。
二階の窓から、そっと覗いて見たのですが……暗くて、姿は良く見えません。男だということはわかっているのですが、顔や服装までは見えませんでした。
その間も、犬は吠え続けています。さらに、男の方も家の前で怒鳴り続けています。途切れ途切れに聞こえてくるのは「やってやる」「勝負しろ」という言葉でした。
どのくらい、そんなやり取りが続いていたのかはわかりませんが……やがて、駆けつけた警官に男は連れて行かれました。翌日には、父親が「また来たら、犬を放しちまえ」とボヤいておりました。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる