灰色のエッセイ

板倉恭司

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熱笑!! 花沢高校~日本漫画史上屈指の路線変更~

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 今回は、私が過去に触れた印象深い作品について語ります。
 連載漫画の中には、途中から路線が変わることが、あります。ドラゴンボールも、そのひとつでしょう。最初は西遊記モチーフの、あちこちを旅して回るアドベンチャー漫画だったのに、いつのまにかバトル漫画へと変わってしまいました。他にも、そうした作品はいくつも存在します。これは、編集部の意向によるものが多いと聞きましたが、真相はわかりません。
 しかし、今回紹介する『熱笑!! 花沢高校』ほど路線が変わってしまった漫画はないと思います。少なくとも、私は知りません。本当に、とんでもない変わりようなんですよね。



 この『熱笑!! 花沢高校』は、どおくまん先生の作品です。1980年から、少年チャンピオンで連載されていたとか。
 ストーリーは、いかつい見かけ(身長百八十センチオーバーで体重も百キロ超)のくせに恐ろしく気弱でイジメられっ子だった主人公の力勝男リキ カツオが、入学した大阪の花沢高校にて一念発起し強い男になろうとヤンキー化する……という話です。
 絵柄や展開など見る限り、最初はギャグ漫画だったのは間違いありません。事実、力はお世辞にもイケメンとは呼べないキャラです。さらに、人前でウンコを漏らしたり、カツアゲされ全裸に剥かれたりしております。
 また、作品のキーマンとなるのが獣田三郎ジュウタ サブロウという男ですが、登場直後の獣田は超ド変態でしかありません。女子高生の制服を食べたり、ほぼ全裸で夜の街を闊歩していたりします。
 この獣田と力の初顔合わせですが、多数の女の子を引き連れ夜の街を徘徊している獣田に、ベロベロに酔っ払った無敵モードの力が殴りかかっていきます。そして、獣田をボコボコにするのです。ところが、途中から獣田が「ケケケケケ……」という奇怪な笑い声をあげました。と思った次の瞬間「ハットンパッパ!」などという奇声を発しながら、力の周りを高速で踊り出します。その動きに翻弄されグルグル目を回している力に、獣田は必殺技・五十メートルパンチを炸裂させるのです。この技、文字通り相手を五十メートル吹っ飛ばすという恐ろしいパンチです。力は吹っ飛んでいき、五十メートル先の川に落とされます……この時点では、誰もがギャグ漫画だと判断するでしょう。

 実際、当初はヤンキーギャグ漫画のような雰囲気で話が進んでいたのです。鳴神という化け物ヤンキーを倒したりもしていますが、まだギャグ漫画の部分はきっちり残していました。
 ところが、火野竜三ヒノ リュウゾウというキャラが転校してきたあたりからでしょうか……路線が、徐々に変わり始めます。
 この火野、拳法の使い手であります。また、スマートな体型のイケメン(他キャラと比べて)でもあります。しかし恐ろしい強さの持ち主でして、四国では数百人を率いる番長でもありました。転校初日はバイクで登校し、絡んできたチンピラを一瞬でぶっ飛ばします。さらに、獣田にタイマン勝負を挑みますが、敗れてしまいました。
 その後、火野は何を思ったのか、自分より遥かに弱い力の子分になるのですが……ここから、話は変わっていきます。
 力は、火野の指導やアドバイスにより、強さが飛躍的に向上します。まあ、もともとの体格や腕力には凄まじいものがあったのですが、そこに中国拳法の達人である火野が技を伝授していくのです。
 後に力は、回天高校の総長・玉井と勝負することになるのですが……この玉井、十字拳という恐ろしい拳法の使い手なのです。この十字拳で、猛牛をも殺してしまうのですよ。まともに戦えば、力に勝ち目はありません。
 ところが、火野との山ごもり特訓により飛躍的にパワーアップした力は、玉井を激闘の末に倒してしまうのです。さらに、花沢高校の裏の番長的存在だった花沢三人衆をも倒しますが……ここで、とんでもないキャラが登場します。
 花沢三人衆は、ヤクザも恐れる極悪集団・北大阪の虎なる組織の一員だったのです。それも、末端の人間なのです。その首領である天界君主テンカイ クンドは、花沢三人衆の失態により、力勝男という男の存在を知りました。力と天界、両者の闘いは大阪全土を巻き込む大戦争へと発展していくのです……。



 あらすじを書いていくとキリがないので、ここまでにします。
 この作品、開始直後はまぎれもなくギャグ漫画でした。それは間違いありません。『カメレオン』や『エリートヤンキー三郎』のような路線を狙っていたものと思います。
 ところが、徐々に変わっていくのですが……これは、火野や玉井といったキャラの登場あたりからでしょうか。力と火野、さらに力の片腕ともいえる子分・石田らを中心とするバトル系の漫画へと路線変更しています。十字拳や、旋風脚といった拳法系の技が出てきます。
 その次には、北大阪の虎の首領・天界が登場しますが……こうなってくると、もはやヤンキーでもバトルでもありません。大阪の高校全てを巻き込む一大戦争巨編へと変貌してしまうのです。
 事実、後半になると個人の強さなどはほとんどクローズアップされません。それよりも「A高校百人が虎の側に付いたぞ!」「何だと!」みたいなやり取りが頻繁にあったりします。
 当然ながら、力や火野たちの子分たちも半端な人数ではありません。最終的に、力は八千人の子分を率いて、天界率いる北大阪の虎・一万七千の大軍に決戦を挑むのですが……ここに至るまでの様々な心理戦や駆け引き、さらには危険を侵しての五千人の暴走といった展開は、戦略ドラマという観点からも見応えがあるのですよね。
 また話が進むにつれ、出てくるキャラも化け物じみたものになっていきます。北大阪の虎の大幹部である五悪神などは、そのままショッカーやギャラクターの幹部として登場してもおかしくない風貌です。
 特に五悪神のリーダーであり組織の副ヘッドでもある宝蘭陣八郎ホウラン ジンパチロウは、改造した制服を着て街を徘徊する……などという三下ヤンキーみたいなことはしません。鉄仮面みたいなのを被り黒い毛皮のコートを着て登校する超危険人物です。改造バイクに乗り長柄の戦棍を振り回して敵を薙ぎ倒し、でっかい十字手裏剣をぶん投げ数人をまとめて片付ける化け物でもあります。ただ、毎日マジメに登校しているようです。しかも登校すると、なぜか校長室にて五悪神を集め、作戦会議を開いていたりもします。
 また、五悪神のひとり陳火竜もとんでもない奴です。高校生でありながら、弁髪にコート姿で堂々とスナックに出入りしホステスをはべらせ酒を飲み、戦いともなれば青竜刀を振り回すクレイジーな男なんですね。
 そんな個性豊かな北大阪の虎の面々ですが、何といってもナンバー1はボスの天界テンカイでしょう。どこかの公家のような出で立ちで現れ「ホーッホッホッホ」などと笑う姿は、成長しグレてしまったおじゃる丸にも思えますが、やってることは凄まじいですね。
 初めて戦闘姿を披露した時は……悪魔号なるホバークラフトに乗って現れました。この悪魔号、ワンピースのサウザントサニー号をボートほどの大きさに縮めて頭をドラゴンに変え、電動丸ノコを左右にくっつけた姿ですが……画像を見た方が早いですね、すみません。
 こんなキチガイじみたマシンの悪魔号に乗った天界、ホーッホッホッホなどと奇声をあげながら、ナギナタを振り回しダンプカーを叩き切ってしまうのです。高校生のはずなのに、斬鉄剣もチビるような切れ味のナギナタを振るい、狂ったデザインのホバークラフトを乗り回す怪物なのですよ、天界は。
 そんな天界に対抗する力はというと……最終決戦では、特殊合金製の巨大トンファーを操り、機関砲やミサイルまで装備した戦闘機のごときホバークラフトに乗り、天界に戦いを挑むのです。ラストでは、この天界と白兵戦にて死闘を演じております。特殊合金の巨大トンファーVSダンプカーをもぶった切るナギナタ……恐ろしい戦いですね。
 脇を固めるキャラも負けてはいません。こうした漫画の場合、往々にしてパワーインフレという現象が起きたりします。序盤で活躍したキャラが、後半になると出番がなくなったりする作品は少なくありません。
 しかし、この作品にそれはありません。タイマンで敗れた後、力の盟友となった玉井ですが、要所要所できっちり存在感を発揮しています。また最後の決戦では、五悪神のひとりを倒しております。中盤から仲間になった弓の遣い手・南原や拳銃をバンバンぶっ放すヤクザの息子・風祭、縁の下の力持ちポジションである栗橋や沖田、味方のはずなのに怪しげな行動をとる冨岡、さらには序盤からのレギュラーである石田にも、見せ場がちゃんとあったりします。
 そんなキャラたちの中でも、何といっても圧巻なのは獣田でしょう。この男、最初から最後まで最強キャラなんですよね。直接、力を手助けしたりはしませんが、陰から援助したりしています。顔ストーリーの核心に迫る部分で顔を出しては、その存在を見せつけたりもしています。特に、かつて北大阪の虎にて大幹部だった某キャラとの絡みは面白いですね。余談ですが、この某キャラが抜けたことにより、虎という巨大組織に何が起きたか……これは、どこの企業でも起こりうる話であるような気がします。
 獣田三郎に話を戻しますが、この男はバキシリーズでいうなら、範馬勇次郎に近いポジションのキャラでしょうか。あるいは男塾の塾長・江田島平八か、はたまた指輪物語のトム・ボンバディルかもしれません。
 そして獣田は、最終決戦でもものすごく重要な働きをしています。最後には、裏ボスともいうべき大物キャラと死闘を演じているのですよ。ここでの戦いぶりは、主人公の力を完全に食ってしまったと思います。
 最後に、獣田が力に送った言葉を載せておきましょう。

「世の中、正義が正義で通らんこともたくさんある。これから先、お前が正義と思ってしたことでも、世間はそう見ないこともたくさんあるやろう。けど、それでもええ。お前ほ、お前の信じる正義のためだけに動く番長になれ」

 この言葉が、力を最終話『男の花道』へと導いていくのですよね。ちなみに、漫画家の高橋ヒロシ先生もこの獣田がお気に入りのようです。



 この令和の時代にはありえない、荒唐無稽な展開でありながらも、読む者を強引に作品世界に引きずり込む圧倒的のパワーを持ったこの作品、興味を持った方は読んでみてはいかがでしょうか。






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