筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫

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第一次対馬防衛戦

152.第一次対馬防衛戦②

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歩兵達の第一陣と、指揮官らしき者達と騎馬による第二陣をやり過ごし、水夫だけが残っていると思われる5隻の敵船に白と黒が潜入する。
黒の門を使うのかとも思ったが、二人は沖合300mほどに停泊する敵船の一隻まで、一気に飛翔する。
まあ、人が空を飛ぶなど思いもしないだろうし、上陸部隊が気付いた気配もない。
船上の制圧は白と黒に任せよう。

さて、とりあえず上陸の目的ぐらいは確認しておくべきだろうか。まさか遭難したなどとは言うまいが、上陸即侵攻と決めつける訳にもいかない。


松原に身を潜め、奴らの様子を伺う。
どうやら隊列を整えようとしているらしい。

はて?奴らが何を言っているか分からない。音は聞こえるのだが、意味をなした音ではない。

「紅。奴らの会話って理解できるか?」

「いいや?だって、この地の精霊にとっても奴らは異国人だろ?通訳しようにも、もう少し時間が掛かると思うぜ。あ、ほら、あの奥にいる変な服着て仮面付けたヤツ。あいつは精霊使いというか呪術師だから、もしかしたら奴とは意思疎通できるかもな」

「リンコナダの時はあっさりと通訳してなかったか?」

「ありゃリンコナダにいた精霊と白の間の通訳だからな。今でも、この島にいる精霊と白の間の意思疎通は問題ないと思うぜ。問題なのは異国人と精霊の間の意思疎通だよ」

わかったようなわからないような……とにかく、現時点で奴らと言葉を交わすのは不可能ということか。
だったらこちらの言葉で押し通すしかないな。

とはいえ、軍隊での指揮者の素振りや動きは万国共通だろう。
右手で軍刀や笏を前に突き出せば、大抵は前進だ。
野球のサインでもあるまいし、裏を掻く必要もない。


そうこうしているうちに、整列が終わったらしい。
奴らは一際大きな馬に乗った男を最後尾に、4列縦隊で歩き始めた。縦隊の途中にも騎馬がいるから、騎馬より前が一つの部隊なのだろう。

「タケル、どうする?この道の先には……」

「ああ。人里があった。奴ら、よく知っているな」

迷わずこの浜辺に上陸したことから察するに、対馬に足を向けるのは初めてではないのだろう。
朝廷への使者が度々訪れているようだし、何度も往復した人員がいるのかもしれない。

「とりあえず足止めするか?」

「そうだな。俺が出る。とりあえず話を聞いてみよう。」

「え?その格好で?」

紅が俺の濃緑色のつなぎの袖を引っ張る。

「ん?何か変か?」

「変も何も、鬼面だぞ鬼面。しかもタケルのは茶色の面だ。ちょっと変だぞ」

「お前達が作ったんだろうが!それに変さ加減で言えば、奴らの呪術師のほうがよっぽど変だ」

「それもそうだ。ただ出るなら気を付けろ。結界に長けた白は船上だ。俺はそもそも防御を捨てている。いざとなったらタケルは自分の身を自分で守れよ」

「ああ。わかった」

鬼面の位置を直し、手に長巻を持って、伏せていた松原から道へ出る。

突然現れた人影に驚いたか、敵勢の進みが止まった。


「其の方らに問う!何の目的で、ここ対馬の地に上陸したか!何の目的で、武装してこの地を侵す!答えよ!!」

自分でも思っていなかった大声が出る。こりゃ鬼面に何か細工がしてあるな。

別に言葉が通じなくてもいいのだ。リンコナダ防衛戦でも紅が煽っていたが、戦力が同数なら勢いがあるほうが勝つ。戦力が同数かどうかは戦ってみなければわからないが、宇都宮家や名越勢との戦いの感触では、こちらの戦い方に引きずり込めれば1:100でも1:200でも十分に戦える。

「どうした!俺の言葉が理解できないか!!」

4列縦隊を割って、奥から一際大きな馬に乗った男が進み出てきた。侵攻軍の司令官と言ったところか。
後方に呪術師らしき男を伴っている。呪術師が乗っている馬はだいぶ小さい。あれはロバか。

司令官らしき大男が大声で何か喋るが、全く理解できない。
と、呪術師らしき男が口を開いた。

「我が名はアン・インチェ。先遣隊の指揮を預かる者である。我が使命はこの島に拠点を築き、この秋にも行われる征伐を成功させることである!奇怪な鬼め!即刻首を跳ねてやる!」

ふむ。どうやら紅の見立ては正しかったようだ。ひどい金切り声だが、意味は伝わる。
この秋と言ったか?この秋にも征伐が行われると、確かにそう言った。
俺が知っている歴史より2年は前倒しになっている。これも俺がこの世界に来た所為なのだろうか。

「よくぞ大言壮語を吐いた!この首、取れるものなら取ってみよ!」

キイキイと軋むような声で呪術師が大男に通訳している。
大男はニヤリと笑うと、騎乗したまま右手に持つ幅広の刀を頭上に翳した。
高麗兵達が一斉に弓を引き絞る。
彼我の距離20m。弓から放たれる矢の初速が50m/sとすれば、ほぼ一瞬で俺の下に矢が殺到してくるはずだ。

俺も長巻を左半身の霞に構える。刀身を目の高さに寝かせ、右手で鍔元を、左手で柄巻の辺りを支える。

大男が刀を振り下ろした。

バッ!という音が響き、高麗兵達が一斉に矢を放った。
間髪を入れずに大きく長巻を振り上げ、前方の空間に白の精霊による結界を展開する。
真空の刃のように展開された白の結界は、そのまま兵達が放った矢を吹き飛ばした。

上空から梅と佐助、清彦が放った矢が高麗兵の集団に襲い掛かる。それも一本ずつではない。上空に何本もの矢を予め放っておき、天頂方向から黒の精霊の誘導に沿って一気に襲い掛からせる撃ち方だ。
しかも梅達は的確に飛び道具を持つ兵士に狙いを定めていた。第二射までで高麗兵のおよそ四分の一を撃破する。

「次は俺の出番だ!!」

紅が一陣の風のように敵の只中に突っ込む。手にした獲物は薙刀だ。
大男がじりじりと下がっていく。その穴を拡げるように、紅が薙刀を縦横無尽に振るう。

一瞬遅れて俺も戦列に飛び込む。

「タケル!左側は任せた!俺はこのまま右側を攻める!」

「わかった!梅は引き続き狙撃により援護!佐助と清彦は離脱しようとする敵を見逃すな!」

勾玉を使い一斉に指示する。恐らく里でも黒の窓を通じて子供達が固唾を飲んで見守っているだろう。
得てして戦場を俯瞰できるのは、遠くから見守っている者達だ。果たして里で見守っている子供達から、勾玉を通じて戦域管制が掛かる。

「2時の方向!離脱を図る者達がいます!数は……」

「数5人!うち一騎は騎馬だよ!」

この声は小夜と椿か。

「佐助!清彦!対応できるか!?」

「おうよ!任せろ!」

「小夜!そこから戦場を見ているな?黒に代わって管制役を頼む!」

「了解!椿ちゃんと一緒に管制します!」

いつもなら黒が管制役を務めるが、黒の窓を操作できる小夜や椿なら代役は可能だ。
むしろ二人掛かりのほうが効率的かもしれない。

「佐助さん達が離脱組に追いつきました。掃討に入ります」

「黒姉と白姉は敵船4隻目まで制圧完了。現在5隻目を攻撃中」

「離脱組撃破。佐助さん達は敵本隊の攻撃に戻ってください」

「タケル!こちら梅!矢が尽きた!俺も戦列に加わるぞ!」

おう……黒が敵船の制圧に向かっているということは、梅や佐助達は手持ちの武器しか使えないのだ。
さすがに飛び道具がないのは辛い。猟銃はあるが、使うには一旦距離を取らねばならない。

「タケルさん!里から矢を放ちます!椿ちゃん照準任せます!平太、杉、与一、乙吉、嘉六、嘉七!弓矢の準備を。準備出来次第、平太の指示で射出してください!」

ああ。その手があった。出射孔が敵の頭上にありさえすれば、入射孔は別にどこでもいいのだ。

「小夜姉!椿!こちら平太!弓隊準備完了。一射目行きます!」

「こちら椿。照準よし!いつでもいいよ!」

「撃て!」

高麗兵の頭上の空間が揺らぎ、矢が降ってくる。その数6本×3斉射。椿は騎馬を集中的に攻撃していた。
先ほど離脱を図った者達も騎馬を擁していたし、妥当な判断だろう。
馬を射抜かれて落馬した者の中に、指揮官らしき大男と呪術師も含まれていた。

当初250名以上いた高麗兵の集団は、既に半数以上が打ち倒され、徐々に東に後退している。しかしその先は海だ。
海岸線に沿って北からは佐助と清彦が、南からは梅が攻め込み、西からは紅と俺とで追い込んでいる。
里からの支援射撃は、第三射までは騎馬を中心に撃破し、現在は離脱しようと突出する兵を狙い撃ちしている。

「タケルよう!中央は俺一人でも大丈夫だ。梅の応援に行ってやってくれ!あいつ一人で北側を支えてるぞ!」

「こちら黒!敵船の掃討完了。梅の支援に向かう」

「こちら白!同じく!」

白と黒が戦線に復帰する。これで一気に北の戦線が押し上げ始めた。
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