幼馴染みが屈折している

サトー

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【その後】幼馴染みにかえるまで

家族(1)

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 正月だからと久しぶりに帰省したら、珍しく両親も兄弟もそれから、兄のお嫁さんと甥っ子も揃っていた。今までは毎年必ず予定が合わなくて兄弟の誰かがいないのが普通だった。
 俺だって去年は「就職して初めての正月だしヒカルとゆっくり過ごしたい」という理由で実家には顔を出さなかった。便りのないのはいい知らせ、という考えを持つ両親は帰省をしなくても特にうるさく言ってくることはないけれど、やっぱり家が賑やかになるのは嬉しかったのか父親も母親も上機嫌だった。

 帰省中は、いつも以上にはりきって「今年はおせちを豪勢にしたから」と言う母親に荷物持ちとして連れ出され、祖父母の家を訪ねた。……こういう時、なぜかいつも兄弟の中から俺が「ちょっとお願い」と手伝いを頼まれる。
 医師として毎日忙しく働いている一番上の兄を休ませてやりたいと思うのは、まあわかるとして、すぐ上の兄はフリーターでプラプラ遊んでばかりなのに。身体だって野球を大学まで続けていた弟のアサヒの方が俺よりもずっと立派だ。

「本当うちの母親って理不尽だよな。俺がそれを指摘しても、『そんなことない』って惚けるばっかりだし……」

 家へ戻ってきて早々に実家でのことをブーブー言う俺を見てヒカルがくすりと笑う。

「でも、俺がルイのお母さんでもそうするかな。うん、俺にはルイのお母さんの気持ちがなんとなくわかるかな」
「はー? なんでだよ。たったの二泊しかしてないのに、この寒い中、新年早々庭の鉢を動かすとかそんなことまでさせられてさ。まあ、それはアサヒも手伝ったからいいんだけど……」

 四人いた子供が全員学校を卒業し、子育てが一段落して暇になったのか、実家にはずいぶん植木鉢が増えていた。母親によると父親が毎日せっせと水をやっているらしい。
 そのことも報告したら、ヒカルは「ははっ」と声を出して笑っていた。たぶん、「ルイのお父さんって、四人も子供がいて高校の教師もしていたのに、本当に何かを育てることが好きだよね」とでも言いたいけど、自分の親じゃないからいじりづらいんだろう。ヒカルだって家族みたいなものだから、べつにいいのに。


「そうだ、今度はヒカルも一緒に行こう。甥っ子もすげー大きくなっててさ、俺が抱っこしても泣かなかったんだよ! 可愛かったなー……」

 一番上の兄の所に去年産まれた男の赤ん坊は、大人全員の注目を集めるアイドルだった。

 産まれてすぐ会いに行った時は、自分のせいでケガをさせてしまうんじゃないかと思うと怖くて、ほんの数秒間抱っこをするだけで緊張した。だから、久しぶりに会うとすごく大きく成長したように感じられて、それがすごく嬉しかった。「もうじき八ヶ月」と言われても、八ヶ月児として大きいのか小さいのかはよくわからなかったけど、笑っても泣いても可愛い。兄のお嫁さんの言った「この子、ルイくんのことが大好きみたい」という言葉はすっかり俺を舞い上がらせた。


「うわ、カメラロールすごい。たった二日間でよくそんなに撮れたね」
「あー……なんか、すぐ大きくなるんだなって思ったらつい……」

 俺が撮りまくった甥っ子の写真を見たヒカルの感想は「あんまりルイに似てないね。それとも、これから似てくるのかな?」だった。

「たぶん成長しても似ないだろ。まず俺と上のにーちゃんが似てないし……」
「そっか。確かに早川家って、お父さん似とお母さん似でハッキリ顔が別れてるもんね」

 ふんふんと納得した様子で頷いた後、「ルイが楽しかったみたいでよかった」とヒカルが穏やかに微笑む。表情や声色から本心で言っているんだとちゃんとわかっていたけど、やっぱりヒカルも連れていけばよかったんだろうか、とちょっとだけ思ってしまった。
 正月は家にいる、今年も実家には帰らない、とヒカルから言われた時に、誘ってはみたけれど、「たまには家族とゆっくりしてきなよ。俺も家で休んで体力を回復するから」と言われたから無理に連れて帰ることはしなかった。

 一応本人に聞いたら「いつも通り早起きしてから初日の出を見たり、帰ってきたルイと食べる凝った食事の準備をしたり、何も考えずにスケッチをしたりして、リフレッシュ出来たから満足」と言っていたから、有意義な正月休みだったんだろうけど……。
 自分が楽しいと思う場所や時間を何でもヒカルと共有したいと思うのは子供じみた欲求のようにも感じられてきて、それで「うちの親がヒカルのことを気にしてた」となかなか言葉に出来ずにいる時だった。



「……来年の年末年始は俺もルイの実家に行こうかな。ちょっとは役に立つと思うから」
「えっ? 本当に?」
「うん。久しぶりにルイのお母さんのご飯も食べたいし。……まあ、休めたらの話なんだけどさ」
「もしそうなったら父親も母親も喜ぶよ。……あっ、そうだ、そしたらヒカルの実家にも寄るのは? おじさんとおばさんは元気?」
「うん?」

 俺達が大学に入学してすぐの頃にヒカルの両親が家を売却して「そう遠くない所」に引っ越したのだとヒカルからは聞いていた。引っ越しを手伝うためだったのか、週末にヒカルは電車を乗り継いで実家に戻っていたし、二十歳になった時や就職した時等、節目節目にはちょくちょく両親に会いに行っている。そう言えば、おじさんとおばさんは今どこにいるんだろう? 


「俺はどこにも戻らないよ」
「……え?」
「だって、うちの親とっくに離婚してるし」

 なんでもないような調子でさらっとそう告げるヒカルに俺はすぐに言葉を返すことが出来なかった。





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