孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン

文字の大きさ
1 / 1

孕めないオメガでもいいですか?

しおりを挟む
俺は不完全なオメガ。
病院で検査を受けたら、そう診断された。
え、それってどういうこと?
大学の出張セミナーに参加しに行って、いつも使っている抑制剤をウッカリ束ごと電車に忘れてしまった。
そろそろ発情期の時期が迫っていたから、在庫が少ないと心もとないので、行きつけの病院じゃなかったけれどホテルの近くにある病院にいって処方箋をもらおうと受診した。
そこで告げられたのは、微々たる染色体の異常。
ただし、子供は望めないと。
………子供、作れないんだ。
じゃあ、オメガの意味ないじゃん。
いきなり告げられた内容に茫然としている俺に、医師は何か言っていたように思うが、耳には入って来なかった。
子供産めないのにオメガ特有のヒートだけはあるって、それってやっかいなだけだな。
抑制剤の処方をもらってフラフラと帰宅すると、母は看護師の夜勤で出勤していた。
何とか部屋に入り、そして号泣した。
ごめん、浩太。
俺、お前の子供産んでやれないんだ。
こんな体じゃ、お前と一緒になることなんて出来ないよ。
幼馴染で、小さい頃から大好きだった浩太。
俺はあるふぁだから、おめがのソラをおよめさんにするんだって、ずっと言ってくれてた浩太。
ごめん、将来有望なお前の相手が出来損ないのオメガだなんて許されない。
ずっと一緒にいられると思っていたのに。
大学を出たら番になって、お前の子供を産んで、親の事業を継ぐお前のサポートが出来たらいいなと思っていたのに。
一晩泣き倒して、心を決めた俺は荷物をまとめて家を出た。
母には、落ち着いたら必ず連絡するから心配しないでとメモを残した。
大学は郵送で休学届を出し、俺は住み慣れた町から離れた。
幼馴染のお前の顔を見て話す勇気がなかった俺は臆病者だ。


小さな喫茶店で働き出した俺は、カウンターでサイフォン式のコーヒーを入れることにも慣れてきた。
訳ありのオメガにもかかわらず雇ってくれたマスターにはすごく感謝している。
病院で処方してもらった抑制剤を飲んでいてもヒートの時は体が怠く、動きが緩慢になることもある。
そんなオメガを雇うのは嫌がられることが多いのだが、アルファなのにマスターは理解があって、そんな時は休みをとりなさいと勧めてくれる。
他のバイトの人も全員オメガだったので、馴染みやすかったのもある。
優しい周りの人達に支えられて、俺は一生懸命働いた。
体を動かしている方が気が紛れるというのもあった。
夏が過ぎ、やっと暑さが和らぎ始めた秋の始め。
ここに来て、ちょうど一年が立とうとしていた。
それは突然だった。
入口のドアベルがカランと鳴って、客がいなかった店内に男が入ってきた。
「いらっしゃいま……」
いつもと変わらずカウンターでコーヒーを入れる準備をしながら、店に入ってきた客に笑顔で挨拶をしたまま凍りつく。
浩太。
一日だって、片時だって忘れることなんかなかった幼馴染の顔がそこにあった。
「……ブレンドをひとつ」
低い声で告げて、スマートにカウンター席に座った男に、俺は頷くしかなかった。
震える手でサイフォンをセットしてコーヒーを落とす。
合間に盗み見た浩太は一年の間に精悍さを増し、アルファのオーラも強くなったような気がした。
常にカリスマオーラを纏う極上のアルファ。
あまり表立って公表されないのでよくは知らないが、アルファの中でも格付けというものがあって、上位になるほど容姿端麗でカリスマ性も上がるらしい。
それからいったら、浩太は上位になると思う。
幼馴染の贔屓目を抜きにしても、すごくいい男だ。
もちろん勉強もスポーツも常にトップの成績で、御曹司というオマケまで付いている。
黙っていても回りが放っておかない。
俺が傍を離れて一年経つから、もう他の人と婚約しているかもしれなかった。
そう思うと胸が酷く傷んだけれど、しょうがない。
俺は出来損ないのオメガなんだから。
浩太の傍にはふさわしくないんだ。
「………どうぞ」
カップに注いだブレンドを少し震える手でテーブルに置くと、浩太は優雅な手つきでカップを持ち上げた。
他を見ようとしても、どうしても視線が浩太に吸い寄せられる。
一口飲んで、伏せていた視線が俺を捕らえる。
「……うまいな」
「………あ、りがと…」
絡み合う視線が外せない。
ゆっくりと立ち上がった浩太がカウンターを回って横に来ても、大きな手で頬を撫でられても、俺は動けなかった。
「…俺は黙って、一年待った」
その一言で、浩太が全てを知っていたことを理解した。
病院で診断された内容も、それで俺が大学を休んで浩太の前から姿を消したことも、この土地に来てここでバイトをしていることも、全て知った上で待ったと。
「ごめ……ん…」
生まれた時から一緒にいた幼馴染のアルファを撒くなんてことは出来る筈もなかったんだ。
性格も、嗜好も、考え方も、行動範囲も全て熟知している浩太から。
「それで、一年かけてお前は俺を忘れられたか?」
「!……っ…」
浩太の言葉が胸に突き刺さる。
そこから今までため込んでいた想いが堰を切って溢れだす。
小さく首を横に振ると、溜まっていた涙がボロボロと零れた。
「だ…めだった。俺……浩太が好きで好きで……こんな俺は相応しくないのに、お前にはもっと他の上等なオメガが似合うのに……どこにいても、何をしていても、お前の事しか考えられなくて…」
壊れたようにごめんと繰り返しながら泣く俺を、浩太は優しく抱きしめてくれた。
「当たり前だ、小さい頃から俺だけを見るようにいつも傍にいて、大切に守ってきたんだぞ?今更他のヤツなんかにやれるかよ」
俺も一年辛かったと浩太は耳元で溜め息をついた。
「空、お前の気持ちを聞かせろ。子供がとか、家のこととか、回りのことは全て横に置いてだ。お前の純粋な気持ちを言え」
肩を掴まれ、上から強い光を宿す目で見下ろされ、ロックオンされる。
「……俺……俺は、浩太が好きだ。愛してる、誰よりも」
その時の幼馴染の顔は、一生忘れられないものになった。
切なさと愛しさと、それを凌駕する喜びで震えるように笑った笑顔が。
息も出来ないくらいきつく抱きしめられ、それに負けじと抱きつく。
「よし、それを確認する為の一年だったと思おう」
すっきりした顔で後ろを振り向いた浩太は、
「じゃあ、もらっていくからな」
と、いつの間にか後ろに並んでいたマスターやバイトの面々に告げて俺の手を握った。
「え……?」
「空君、良かったね。お幸せに」
「やっとくっついたか~。もう離すなよ」
「お似合いだよ、お二人さん」
「空、また今度な~」
ニコニコと手を振るマスターやニヤニヤしているバイトの人達に、訳が分からずキョトンとしている内に店を連れ出され、待機していた車に乗せられてしまった。
店のオーナーが実は浩太で、マスター以下バイトのメンバー全員が俺の事情を知っていたと教えてもらったのは車の中。
もちろん、住んでいたアパートは解約済で荷物は浩太の住んでいるマンションに引っ越し業者によって移されていた。
アルファの行動力と抜かりの無さには舌を巻くしかない。
浩太のマンションに着いてからは、さらに驚きの連続だった。
まず、大企業の社長である父親をはじめ、親族全てに俺との結婚の許可を取りつけてあったこと。
もちろん、俺の母親にも。
子供が出来ない可能性も承知の上だと。
「俺、子供は出来ないって医師に言われてるんだよ?跡継ぎが必要でしょ?」
驚いて叫んだ俺に、浩太はサラリと親父の跡は継がないと言った。
「俺の妹の彩香、覚えてるだろ?オメガの。あいつが今付き合ってるの親父の片腕のアルファの男なんだよ。だからそいつに跡を継がせる」
「えっ、彩香ちゃんってまだ18才だろ?付き合ってるって、いつから?」
「16の時からだよ。彩香の方から猛アピールして落としたんだぜ。我が妹ながら恐ろしいぜ」
うええ~と変な声が出た。
すごく大人しい感じの美少女だったのに。
「それからお前との子供、まだ諦めてないからな俺は」
「は……?」
ベッドに押し倒されながら、俺は目が点になった。
何を言っているのだろう、浩太は。
ポカンとしてる俺に、浩太は呆れたように溜め息をついている。
「お前、同じ大学にいたのに、俺の専攻科目憶えてないのかよ」
専攻科目……?
「え……遺伝子工学………え?まさか…」
「頭良い割に、そういうとこ鈍いんだよな、空は」
クスクスと笑う恋人に、俺は愕然とする。
まさか、浩太は前から俺の体のことを知っていた?
それで治療法を研究する為に、そちらの道を進んだと?
「…う……そ……」
震える俺の頭を撫でながら優しい目で浩太が見下ろしてくる。
「お前が処方箋もらってた病院、親父の企業の系列なんだよ。だからカルテを入手出来て、中学の頃に病状を知った。お前には知らせないように手を回して、将来俺が研究を完成させたら教えて治療しようと思ってたんだ。まさか別の病院で検査して知っちまうとは思わなかったぜ」
バース検査は中学一年の時。まさかその時から進路を定めていたなんて。
「俺の深い愛を舐めるなよ?」
「こ……こう…た……」
涙が止まらない。
そんな前から、ずっと考えてくれていたなんて。
そんな前から、想ってくれていたなんて。
こんないい男に、こんなに愛されていたなんて。
「お前を番にするからな?」
「うん……」
「そして籍を入れるぞ」
「うん……」
「それからお前は大学復帰して、早く卒業しろ」
「うん……」
「俺は一足先に起業して研究を進めるから、早くサポートについてくれ」
「うん……」
「絶対に治して、俺とお前の可愛い子供を産ませてやる」
「………っ」
「愛してるよ、空」
嗚咽で言葉が綴れなくて、ひたすらぎゅうぎゅうしがみついて泣いた。
その夜、俺と浩太は番になった。


空港のロビーを急ぎ足で横切り到着カウンターまで来た俺は、見慣れた姿を探してキョロキョロと辺りを見回した。
スラリとした長身がスーツケースを引いて現れる。
「浩太、ここだよ」
「おう空、ただいま」
近づいてきた浩太に、腕の中の子供がはしゃぐ。
「パパっ、パパだ~」
「蒼汰、良い子にしてたか?」
満面の笑みで息子を抱き上げる浩太。
きゃははと喜ぶ子供に頬ずりしながら俺に向かって微笑む浩太に、俺も幸せな笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

ゆののん
2024.12.03 ゆののん

読み終わってホッとしています。オメガで子供が成せないのは切ない。空くんの気持ちは他の誰にも分からない。でも浩太くんの愛があったから、幸せになれたのですね。本当にハッピーエンドで良かった!そして最後の親子のシーンが感動的でした!素敵な作品ありがとうございました!

2024.12.03 月夜野レオン

感想ありがとうございます!
励みになります♪
お互いが大好きな浩太と空、辛いことの後には幸せが待っています!


解除
立華あみ
2024.11.25 立華あみ

約4000字とは思えない読み応えでした!
アルファというのもあるかもしれないですが、浩太の行動力が半端なく、いい男!!となりました。
空くん溺愛されですね。幸せ家族♡
素敵な作品ありがとうございました。

2024.11.25 月夜野レオン

感想ありがとうございました。
初のオメガバースもので、オムニバス形式で手がけた最初の作品なので、気に入って頂けて嬉しいです。
ちょっと辛い思いをしたオメガの子には、後で恋人とたっぷり幸せになってもらいたい親心が爆発しました。

解除

あなたにおすすめの小説

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます

めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。 王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。 運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝—— 「お前を、誰にも渡すつもりはない」 溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。 愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。