【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【21】東走西馳~今年も君といる幸運と幸福

みんなの願いが願いごと

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 乃木さん、とは幾久の祖先である乃木希典の事だ。
 この地域では乃木希典は尊敬されているので、皆、子供のころから「乃木さん」の愛称で呼んでいる。
「昔は、戦争に行った人が、腕をなくして帰っても、ピーターパンのフック船長いるじゃん。あんなのしか無かったんだって」
「ふうん」
 幾久はそんなことがあったのも知らないし興味も全くなかったが、昴の話を黙って聞く。
「乃木さんが、義手はもっと便利にならないかって、工夫して、物が掴めたりする義手を作らせたって。でも最初は『そんなバカなもの、なんで作るんだ』って笑われたんだって」
「なんで?だって、便利なほうがいいじゃん」
「……昔は兵士なんか使い捨てで、そのあとの生活にまで気をやる軍人なんて、居なかったみたい。今はそんなことなくってさ、一見義手とかってわかんないものも沢山あるんだ。俺、そういう『わかんなく』生活できて、『あれ?義手、義足だったの?』って言われたり、逆にメカみてーにかっこよく空飛べるのとかも作りたいんだ」
「凄いなあ」
 幾久が感心すると、昴はぽつり、と幾久に言った。
「兵士なんか使い捨ての時代にさ、兵士でなくなっても、そのあとの生活を考えて、どうにかしてやりたいなんて、軍人の仕事じゃねえじゃん。だからさ、俺、乃木さんって優しい人だったと思うんだ」
 優しい人、という言葉に幾久は驚く。
 幾久は相変わらず、乃木希典、という人には興味がなかったし、そんなことすっかり忘れて、報国院での生活を楽しんでいるからだ。
 でも、昴はにこっと笑うと、幾久に言った。
「お前見てると、絶対そうだったんだろうなって、思うんだ」
 幾久は何を言えばいいかわからず、だけど照れてしまい、「ありがとう」と頷いた。
「昴は、エライなあ」
 そんな風に目的を決めて、将来も考えて。
 しかも他人の事を考えているなんて、自分が楽しい事ばかり考えている幾久とは大違いだ。
 しかし昴は首を横に振った。
「エラくねーよ。失敗ばっかで嫌んなる」
 何度も何度も。昴が研究室で失敗しては、の繰り返しもなんとなくは知っている。
 なにをやっているのかは知らなくても、地球部の面々はたまに昴の所へ遊びに行ったり差し入れをしたりしていた。
 なにを必死にやっているのかと思っていたが、まさか義手や義足だったとは。
「昴すげえ。応援する、オレ」
「うん。サンキュー」
 昴の願い事を聞くと、余計に自分のなにもなさががっかりする。
「でもオレ、本当に願い事なんて、何もないや」
 すると昴の隣に居た山田が言った。
「雪ちゃん先輩が合格しますように、じゃねえの?」
 すると話を聞いていた雪充が苦笑した。
「僕は自分で書くから、いっくんはいっくんの願い事を書きな」
「うーん、でも本当に特にないんスよねえ」
 うーん、と考える幾久は、そうだ!とある考えを思いついた。
「やっぱ願い事あった!」
 そうしてマジックで絵馬に願い事を書いて、皆に見せた。
「これ!オレの願い事!」

『みんなの願いが、叶いますように!』

 その素直な願いに、皆が笑った。
「幾らしいよ」
「そっか」
 えへへ、と照れる幾久に御堀が微笑む。
 その様子を見ていた菫が涙ぐむ。
「やばい……もう天使……」
「菫が限界突破だ」
「なんなのあの子、可愛いすぎない?!天使!持って帰る!」
「お持ち帰りは不可だっつってんだろが」
 毛利が言うも、菫の目は猛禽類のように幾久を狙っているのに毛利はちゃんと気づいている。
「可愛い……可愛すぎる……」
 つぶやく姉に、雪充が言った。
「ほんと可愛いでしょ。僕の事好きなんだよ、いっくん」
「まじでかしたわが弟。ホント生かしておいて良かった」
「物騒だなあ」
 あはは、とにこやかに笑う姉弟だったが、なんでこの人たち、こんな怖い会話してんの。
 毛利はそう思ったのだった。

「お前ら、ここにおったんか」
 そう言って現れたのは高杉だ。
 となりに久坂も居る。
 ということは、SPの仕事がひといきついた所だろうか。
 新年があけて初めて会うので、幾久達は高杉に頭を下げた。
「ハル先輩、瑞祥先輩、あけましておめでとうございまーす!」
「おう。今年もよろしゅう頼むの」
「今年もよろしく」
 地球部の面々がにぎやかに挨拶をしていると、一緒に六花も現れた。
「六花さん!」
「はいよ少年。あけましておめでとう」
 幾久がかけより挨拶をし、菫も六花に挨拶する。
「みんなお参りに来たのね」
 六花が言うと幾久は頷く。
「偶然なんすけど。なんか嬉しいっス」
「そっかそっか。良かったね」
「先輩!」
「菫か。あけましておめでとう」
 大人たちはそれぞれ挨拶をしはじめて、幾久に皆が、あの人だれ、え、久坂先輩のお姉さん?と喋り始める。
 ひとしきり挨拶が終わると、幾久に山田が言った。
「あのさ、この後なんだけどさ、一緒に初日の出、見にいかねえ?」
「初日の出?!」
「そう。どうせこのまま帰っても寝るのもなんだし、だったら地球部そろってるしさ、行こうぜ」
 山田の誘いに、一年生連中が盛り上がり始めた。
「いいじゃん、行こうぜ!」
 品川が乗り気になった。
「いいね。写真とりたい」
 そう言ったのは昴だ。
 児玉も頷く。
「どうせ帰っても、弟や妹からうぜえって言われるし」
「僕も見たいな」
 御堀も言うと、幾久もがぜん見たくなる。
「見たい!」
 所がそこに茶々が入った。
 毛利だ。
「コラコラコラー!んな時間に子供だけで危ないだろ!保護者にちゃんと一緒に来てもらいなさい!」
 まだ夜中の時間で、これから境内は一気に人が引くうえ、初日の出を見るとあっては真っ暗な時間帯に移動する事になる。
 そんなことをいくら自由とは言え、教師である毛利が許容するわけにはいかない。
 ところが山田が言った。
「じゃあ、毛利先生、引率お願いします」
「ん?」
 品川も言う。
「丁度あっこにウチの親いるんで。あの白い服の二人っス」
「なにゆっちゃってんの?」
 昴も頷く。
「ウチの親、いまから電話します」
「ちょいちょいちょいちょ―――――い!俺はいま年末の休みだし、そもそもお前ら、これから夜明けまでどこで過ごすつもりなんだよ!」
 すると思わぬところから援護射撃が入った。
「あら、じゃあウチで預かればいいじゃないの」
 そう言ったのは六花だ。
 そして慌てたのは久坂だ。
「ねえちゃん?ちょ……」
 久坂が静止するまえに、六花は久坂を押さえると、ぐいっと一年生の前に出て言った。
「せっかくいっくんも御堀君もウチに来てるし、ハルも居るし。この際みんなウチで夜明けまで待ってなさいよ。あ、じゃあみよも呼べば完ぺきじゃない?」
「やめろ!みよを呼ぶのはやめろ!」
「だって今頃、神社に餅食いに来てるでしょ?よしひろも宇佐美もさっき居たし」
 えぇえええ、と毛利と久坂が青ざめる中、幾久は喜んで皆に言った。
「オレ、寮からゲームもって来てる。ウイイレ!」
 幾久が言うと、皆がわっと盛り上がった。
「マジで?!やろーぜ!」
「やった!じゃあ行く!」
 わーっと喜ぶ一年生連中に、当然久坂も毛利も何も言えない。
 高杉がぷっと笑って久坂に言った。
「残念じゃの。諦めぇ」
「ほんっと、いっくんってこういうのばっかり拾ってくる!」
 僕のお正月が!と文句を言いながらも、仕方ないと諦める。
 きっとこれまでの久坂なら、何が何でも嫌だと言っていただろうに。
「毛利先生、とっとと許可とっといで」
 ニヤッと笑う六花に、毛利はぐぬぬ、となりつつ、山田や品川の両親に挨拶をしに行ったのだった。



 暗かった久坂の家は、明かりが灯り、途端にぎやかになった。
 本来なら静かに夜明けを待つまでの間。
「おっじゃましまーす!」
 そういって入って来たのは、地球部の山田、品川、服部、入江の三男坊。
「へえーここが久坂先輩ん家かあ」
「でっか!ひっろ!」
「廊下走れる!」
「こらこらこら、よそのおうちでは静かにしなさーい」
 毛利が言うと、はーい、と返事が返ってくる。
「いっくん、居間にお茶セットと、お菓子のセット運んで。んで、みよも居るからつまみのセットも」
「はーい!」
「御堀君とタマちゃんはいっくんのサポートをお願い。どこに何があるか、いっくんは知ってるから」
「はい!」
 そうしてにぎやかに支度を始める一年生に、久坂はがっかりと肩を落とす。
「本当になんでだよ」
「まあまあ。しょうがねえ。夜が明けるまでの辛抱じゃろ」
 そう言いながら居間に向かうと、すでに一年生たちが勝手にゲームをセッティングしはじめていた。
 まるで幾久が増えたような光景だ。
 居間を二間続きにして広げ、ゲーム用のテレビと閲覧用のテレビを移動させた。
 三吉は餅を持って久坂の家にお邪魔し、すでに酒を飲み始めている。
「あー酒がうまい」
「生徒の前で飲むなよ。鳳の前ではちゃんとするんじゃなかったの?」
 毛利が言うと三吉が答えた。
「正月だからいいんです」
 三吉が言うと、品川も言った。
「そうそう、毛利先生も飲んでいいのに」
「俺はお酒飲めないの。コーラ派なの」
 すると入江が言った。
「コーラ!コーラ飲みたい!」
「うーん、うちにコーラは準備してなかったなあ」
 六花が苦笑すると、三吉がビールの空き缶を毛利に投げつけた。
「おい毛利、酒買って来い。コーラもな」
「なんでそう乱暴なの?!」
 そう言いつつも、渋々毛利は立ち上がった。
「せんせー、俺チョコ食べたい」
「俺、おせんべい」
「あーもう!ちょっと誰かついてこい!」
 毛利が言うと、めずらしく久坂が挙手した。
「僕がついてくよ。どうせゆっくりできないし」
 げんなりする久坂に、幾久は苦笑して、それでもあえて止めはしなかった。
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