【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【21】東走西馳~今年も君といる幸運と幸福

ロミジュリは尊い(儲かる)

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 ぞろぞろと並んでお参りを済ませると、SP部の面々が菫に尋ねた。
「姐さん、異変はありませんでしたか?」
 菫は頷き、極上の笑顔でこたえた。
「全くなかったわ。本当にありがとう。君たちは本当に報国院の誇りね。かっこよかった」
 すると菫を守っていた面々が、やったーとハイタッチをした。
「あ、じゃあ俺らは警備に戻ります!」
「女の子を守るぞ!」
「おー!痴漢滅亡!」
「モテるために!」
 そう言ってにぎやかに、まだ列の続くあたりに戻っていった。
「にぎやかだなあ」
 幾久は笑うも、おかげで助かったな、と思った。
「さて、じゃあ乃木はこっち貰うな」
「ウス。約束っすから」
 河上が言い、幾久が頷く。
「どうかしたの?」
 御堀が訪ねるので幾久が答えた。
「うん、今日割とあたたかいから、善哉の売れ行きがちょっと悪いんだって。だからオレ、呼び込み手伝う約束して。それでさっき、来て貰ったんだ」
 寒ければ当然、皆温かい善哉を買うのだろうけれど、例年に比べて今年はちょっと温かく、そこまでの売り上げが出ていないのだという。
 だから逆に、参拝客は多いらしい。
「菫さんのSPと交換条件だったんだ」
 にこっと笑う幾久に、菫は胸を押さえた。
「ちょっと……どれだけハートを打ち抜けば気が済むのよいっくんは!」
「いや、だって手伝って貰うんスから、手伝うのは当たり前っス」
 へら、と笑う幾久に、御堀は、はーっとため息をついた。
「水臭いな幾。そんなの僕らがいたらすぐじゃないか」
「へ?」
 境内の中にある、善哉売り場はふたつある。
 御堀は河上に言った。
「僕と幾で協力します。善哉と僕か幾の握手で二百円。僕と幾のセットなら三百円」
「は?!」
 幾久は驚く。
 善哉は一杯百円だったはず。
 その売り上げも悪いというのに、なぜわざわざ高値をつけるのか。
 しかし河上は頷いた。
「成程、そうすればトントンの売り上げが確実に儲けが出るな」
「先輩?」
 頷く河上に幾久は驚くが、すぐ河上は部下に怒鳴った。
「よし!おい、今すぐ『ロミジュリ握手会会場』の看板を作れ!テーブル一台、こっちに向けろ!営業!今からSNSとこの境内で宣伝しろ!ウィステリアの女子、めっちゃいんぞ!」
 御堀はすぐさまスマホを取り出した。
「こっちも情報拡散します」
「オッケー頼りになるわ。そうなると団子、急ピッチで解凍だな」
「看板は社務所のパソコンで文字出力して紙貼り付けます!」
「よし頼む。志道にも連絡入れてくれ。すぐ善哉追加が入ると」
「了解!」
「え?え?え?」
 きょとんとする幾久を置いて、面々はすぐさま売り上げを上げるための準備を始める。
 すると菫が言った。
「こうしちゃいらんないわ。あたしも協力しなきゃ」
「え?姉さん?」
「雪、あんたも協力しなさい。ほかならぬあたしの為に、いっくんがやってくれたのよ」
 姉の命令は絶対だ。
 雪充は想像した通りか、と苦笑しながらも「はい」と頷いた。
「じゃあ、姉さんは毛利先生と一緒に呼び込みを。僕が毛利先生の代わりに、餅の方担当しますね」
「おー、任せとけ。餅は任せた」
 毛利がひらひらと手を振る。
 雪充は頷き、毛利の担当だった餅の部署へ向かうため、下の境内へと降りて行った。
 さて、十五分もしないうちに、ロミジュリ握手会会場は人だらけになった。
 御堀がSNSで拡散したせいもあって、近所、またはお参りに来ていたウィステリアの女子がどんどん訪れたのだ。
 しかも、たいていが友人、親子連れだったので、善哉は飛ぶように売れた。
「ジュリエットくぅうううん!あけましておめでとぉおおお!」
 感激した幾久のファンがそう言ってぎゅっと握手をする。
「あけましておめでとうございます!」
 いつもなら営業、と苦笑いになるけれど、幾久は心から笑顔で答えた。
 あまりのまばゆい笑顔に、新年早々、ジュリエットのファンは感激して何度も並ぶありさまだ。
 やがて、それを察した河上があっという間に「握手のみ」のサービスを作り上げた。
 常に経済研究部と組み、桜柳祭の出店で圧倒的な売り上げを誇るホーム部だ、商売となると動きは高速だ。
「幾、ずいぶんとサービスいいじゃない」
 にこにことご機嫌な幾久に、御堀が訪ねた。
 幾久は頷く。
「うん。だってさ、もしウィステリアの女子が、菫さんみたいな目にあってたら、絶対にオレなんかと手を握るの、嫌だと思う。でもさ、こうしてお金払ってまで、手を握りに来てくれるのって、オレがジュリエットやって、信頼されてるからなんだって思う」
「……うん」
「だから絶対、その信頼だけは裏切っちゃいけないし、気持ちの悪い男ばっかりじゃないよって、ちょっとでも伝わったらいいなって」
 ジュリエットとして握手を求められるのは、桜柳祭の後でも何度かあった。
 別に嫌でもないし、断る理由もなかったから、ああどうも、で受けていたけれど、あれは幾久ではなく、皆の中にあるジュリエットを求められていたのだと気づく。
「オレ、絶対に女子に悪いことなんかふざけてもしない。誓うよ」
 気を付けようじゃない。
 絶対にやらない。
 例え冗談であっても、暴力になってしまうのなら、それはしてはならないことだ。
「モテたいし?」
 御堀がくすっと笑っていうと、幾久は言った。
「当たり前じゃん!絶対モテたいよ、オレは」
「お年頃だもんね?」
 御堀がふざけていうので、幾久も笑って頷いた。
「そう、お年頃なんだよ、オレら」
 男子高校で、男子寮で、男子しかいない。
 そんなことを言い訳にしてたらもう一生、絶対にモテない。
「菫さんみたいに美人なお姉さんと結婚したい」
「菫さんじゃないんだ?」
 御堀がふざけて言うと、幾久は言った。
「その考えはなかった。でもきっと菫さんはオレみたいなガキ相手にしてくんないよ」
「まじめに受け取った」
「まじめに考えるよ。美人だし、良い人だし」
 でも、と幾久は思う。
「きっとそのうち、結婚しちゃうんだよ。憧れのお姉さんってそういうものだろ」
「じゃあ失恋か」
 御堀が言うと、幾久が頷いた。
「失恋、失恋」
「なんか軽いな」
「でもさ、オレが失恋しても、誉が結婚してくれるんだろ?前一緒に寝たときに言ったじゃん」
「そうだったね、そういや。じゃあ結婚しちゃう?折角神社だし」
「それいいね。じゃあ神前式?」
 そう言ってふざけて笑いながら喋っていた二人は、そこが握手会の会場であることをすっかり忘れていた。
 目の前には、幾久と御堀の会話に顔を真っ赤にしている女子たちが並んでいて、中には涙ぐんでいる人も居た。
「と、と、と、と」
「へ?」
「とうとい―――――っ!!!!!!」
 握手をしていた女子がそう言って逃走した。
 近くに居た女子たちがスマホを取り出し、一心不乱になにか打ち込んでいる。
「……なんかちょっとヤバかったかな」
 幾久が苦笑すると御堀が言った。
「ま、売り上げ上がればいいんじゃない?結果オーライだよ」

 そうして次々に来る握手を二人はこなしていき、善哉はあっという間に売り切れてしまったのだった。

 勿論、過去最速、最大の売り上げを上げて。


 美人の菫が呼び込みをしているとあって、美人につられた男性陣が買っていくせいもあり、善哉はすさまじいスピードでの売れ行きを見せ、すぐに幾久と御堀の仕事はなくなった。
「さて、じゃあもう片付けに入るか」
 河上がテーブルや看板の片づけに入り、幾久は手伝おうとしたが、河上達がそれを止めた。
「あとはホーム部とSP部の仕事だからさ。お前らはいいよ」
「でも」
「売り上げ凄かったから心配すんな。御堀、後日経済研にレポート渡すから」
「分かりました」
 人数もそろっているし、体力イベント馬鹿の千鳥がたくさんいるから大丈夫、と言われ、幾久達はその言葉に甘えることにした。
 今年もよろしくお願いします、と口々に挨拶をして、善哉部隊は解散となった。
「いっくん、絵馬になにか書かない?雪充も願いを書くっていうし」
「あ、いいっすね。書きます」
 絵馬は書く時間が必要なので、専用のテントが張ってあった。
 そこへ向かうと、偶然、一年生の地球部が居た。
「あれ?幾?」
 そう声をかけてきたのは山田だ。
「おっす!あけましておめでとー!」
 入江の三男、万寿も居る。
「おめでとー」
 そう声をあげたのは品川で、こくんと頷いたのは服部だ。
「なんだ、みんな来てたんだ」
 幾久が言うと山田が頷く。
「そう。社務所に行ったら、善哉のとこ、お前らが居てすげーことになってるって聞いてさ。さっきまで俺らは社務所ん中で善哉食ってたの」
 で、いまやっとお参り、という。
「そっか」
「幾は?絵馬買うんか?」
「そう。みんなも今から?」
 全員が頷く。
「じゃあ、みんなで書こーぜ!」
 全員がそこで絵馬を買い、願い事を書くことになった。

 それぞれが願い事を書くのだが、幾久はそこではたと気づいた。
(……オレ、願い事がねえじゃん)
 特に受験生でもないし、進路も考えてもないし、桜柳祭も終わったし、鳳にも上がれたし、御堀も御門寮に来てくれた。
 全く願い事なんか、なにもないのだ。
(えー?うーん、どうしよう)
 いいバイトが見つかりますように、なんて絵馬に書くようなことじゃないし、かといってそこまでの願い事もない。
 困ったな、と思っていると、隣に居た服部昴が、絵馬に願いを書いていた。
 幾久の視線に気づいた昴が「見る?」と絵馬を見せた。
「いいの?」
 こくんと昴は頷く。
「別にいいよ」
 参考になるかも、と幾久が昴の願いを見る。
「『マッハで飛ぶ義足を作れますように』……マッハ?」
「そう。義足つくんの。義手もできれば」
「義足?!って、足の不自由な人とかがしてるあれ?」
「そう、アレ。アレの、マッハで空飛ぶ奴、作るの」
 全く想像できないが、昴がいつもなにか研究しているのは知っていたので、作りたいものがあるのは分かる。
「なんか凄そうだし、難しそう。オレ、そういうの全然わかんなくてさ」
 すると、昴はにこっと笑って幾久に言った。
「……でも、義手っていうのが進化したのって、乃木さんがきっかけだぞ」
「え?」
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