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【22】内剛外柔~天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝
とても不幸な、幸福の王子
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自室の姿見に映る自分の姿に、御堀はため息をつく。
自分で着替えるからいいと断って、勿論ちゃんと着替えはしたが、その姿に自分で呆れた。
今日は御堀の見合いの日だ。
用意された衣装は、黒紋付の羽織袴。
羽織は染め抜きの五つ紋、袴は仙台平、礼装としては最上位にあたる。
まるで結婚式の花婿のような姿に、御堀は苦笑しようと思っても、笑顔を作れない自分に気づく。
この衣装を用意してくれたのは、誉会でもスリートップに君臨する黒田呉服店の奥様だ。
御堀が桜柳祭に招待した一人でもある。
老舗の呉服屋で、御堀庵とも付き合いは長い。
なにも打ち合わせをしなくても、今の御堀にぴったりの丈に誂えてあった。
完璧主義で美しい着物に目がないあの奥様らしい選択だ。
いつもなら、幾久に写真を送って感想を聞こうとか、どんな反応があるのかな、と楽しみにする御堀だが、生憎そんな気持ちにはなれない。
というより、考えたくない。
出来るだけ、このふざけた大人の付き合いを早く終わらせて片付けて、あの騒がしい海の近い寮へ帰りたい。
(考えるな)
駅についた御堀を待っていたのが姉なだけ、まだ救いだった。
だから少しは幾久の事を考える余裕もあったけれど、家に帰った途端、すでに用意されたスーツに着替えさせられ、挨拶もそこそこに御堀に用意された舞台は御堀庵の跡継ぎとして、会社代表の新年のお払いに参加することだった。
とっくにローカル局とは話がついていたのだろう、わざとらしく御堀に近づき、新年の抱負を、などと尋ねられ、面倒で笑顔で応えてみせた。
地元の友人達や、もうあまり覚えても居ない元クラスメイトや同級生たちから、こっちに帰ってきていたんだね、とか会おうよ、とか、テレビ見たよ、ますますイケメンになってるじゃん、とまるで芸能人でも見たかのような賑わいに、御堀は馬鹿らしくてスマホを見るのも止めた。
(ばっかみたい)
判っていた事だけど、帰って早々、見せびらかされるお仕事、家に着いたら古くからのなじみのお客様へのごあいさつ回り、そして家でのお茶会という簡素な初釜。
御堀庵の非公式の、家族だけの初釜に参加できるのは誉会でも名誉なことになっていて、参加できる会の面子は、例によってスリートップの奥様方のみとなっていた。
それが良いのか悪いのか。
ただ、やはり老舗店舗や大手企業を仕切る奥様連中だけあって、話題にする内容は決して悪くない。
御堀がもし、幾久の話題でも出たら、と冷や冷やしていたが、奥様連中はそんな事は一切コメントせず、文化祭に参加しましたが誉様はご立派なご様子で、お友達ともうまくやっているようで安心致しました、と百点の回答をしてくれた。
誰も御堀に興味なんか持たず、必要なのは肩書だけ。
自慢できる道具が帰って来て、将来を安心させてくれればそれで良いだけの事だ。
今日だって、御堀の知らない間にとっくにスケジュールは組まれていて、地元の写真館の撮影が入っているとの事だった。
御堀の見合い相手である彼女も、見目はずいぶんと良く、昔から評判だったほどの外見だ。
しかも古くからの名家とあれば、うまくいけばそれでもよし、そうでなければ写真で見せびらかせばいい、そんな所だろう。
(あっちも迷惑に思ってるんだろうな)
相手である、小早川(こばやかわ)の顔を思い浮かべて御堀はため息をつく。
外見は地元の写真館でモデルを務めるくらいには整っており、鼻筋も通り、目も意思が強そうで、背も高く気も強め。
御堀と同じサッカークラブのファイブクロスのユースに所属していた仲間の妹で、御堀とも昔から面識はあった。
ただ、御堀に好意があるかといえば、全くないといっていいだろう。
だからあちらの家でもかなり強引に事を運んでいるのだろうという想像はつく。
それだけがまだ御堀には救いだ。
これで相手が乗り気だったり、御堀を好きになったりなんて事があれば、それだけでうんざりする。
恋愛がどうのこうのなんて今は全くどうでもいいし、こんなバカげた事から一分でも一秒でも早く逃げてしまいたい。
ただ、問題を起こさず大人しくやりすごせば、それでうまくいくはずだ。
ここをすぎれば、またあの愛しい日々に戻れるのだから。
(今日中だけだ)
今日だけ、やりすごせばいい。
どんなに嫌でも、納得がいかなくても、御堀はまだてんで、子供にすぎないし、報国院に行ったことをいまだによく思っていない人も居る。
その覚悟があった上で、あの学校を、あの場所を選んだのだから、後悔はない。
「誉さま、そろそろお支度は整いましたでしょうか」
御堀の部屋の外から声がかけられた。
呉服店の従業員で、御堀の着付けの為にわざわざ来てくれたのだが、御堀は断ったので何もすることがないのだ。
「―――――いま、降ります」
そう応えて、御堀は部屋を出た。
(誰も頼るな)
つまらない大人の付き合いの中、たった半日程度の事くらい上手にかわしてやればいい。
報国院に行くまで、そしてつい、数か月前まで、そうやって上手にこなしてきたのだから。
高速を降り、一般道を走る宇佐美の車は軽快だ。
正月とあってか、道路はがらがらで歩いている人も居ない。
奇麗に舗装された道路に、他に見える景色は山と田畑ばかりで、時折遠くに町が見えた。
ここの高速道路はずいぶんと高い場所に作られているのだな、と思う。
「誰もいないっすねえ。正月だから?」
幾久が感想を言うと宇佐美が「いんや」と答えた。
「このへんはド田舎だから普段からこんなもんだよ。車社会で歩いて移動する人は滅多にいないし、寒いしねえ」
「そうなんすか」
確かに、長州市と比べて田畑が多いし、人通りもない。
「もうちょっと街中に行けばマシにはなるけど、長州市のほうが全然都会だよ。いっくんに言ってもあんまりかもだけど」
「いや、それは判るっス。正直、この風景のほうがオレが想像してた雰囲気に似てるかも」
私鉄どころかJRの駅すら三キロ以上も先で、一体どんなド田舎なんだと入学した頃は思っていたが、実際に住んでみると割と便利だ。
「長州市って空港も高速使ったらそこまで遠くもないし」
「博多も近いし?」
宇佐美の言葉に幾久も頷く。
「はいっス。あれはけっこう驚きました」
新幹線を使ったせいもあるが、三十分程度で博多に行けるとは思っていなかった。
ただ、駅まで向かうのに車はどうしても必要だが。
「ほんと、海なんかちっともないっすね」
御堀が言っていた、山の中にある、という意味が良く分かる。
確かに海の気配も景色も、ここには何もない。
御堀が海が好きというなら、確かにここはあまりハマらないだろう。
桜柳祭の準備の間、二人で寺の敷地内からわずかに見える海ですら、御堀は嬉しそうに海が見えると言っていた。
(やっぱ、好きなんだろうな)
だったら余計に早く連れ帰ってやらないと、と幾久は思ったのだった。
周防市の街中に入ればそれなりの賑わいは見えたが、長州市に比べると寂れた雰囲気がある。
宇佐美はナビに従いながらハンドルを操作しつつ幾久に尋ねた。
「いっくん、みほりんに連絡は?」
「つかないっすね。既読にすらなんなくて」
朝からメッセージを送っているのだが、夕べからずっとメッセージを見ている様子もない。
いっそ電話でも、と思うがそこまでするのも気が引ける。
それに、御堀に『停学になるかも』なんて電話で伝えて上手に処理できる能力が幾久にあるかといえば不安しかない。
やっぱり顔をみてきちんと伝えたい。
「うーん、開いてないと思うけど、本店に行ってみるか。連絡がつかないとどうにもなんないねえ」
「もしわかんなかったらどーすんすか?」
「そん時はそん時!仕切り直して考えるか、六花おばちゃんにお願いするしかないなあ」
六花と御堀の姉は先輩、後輩の仲で親しいらしいので、最悪それしかないな、と幾久も頷く。
「迷惑かけるのはイヤっすけど、仕方ないっスね」
なんとか連絡がついたらいいのだけど。
そう思いながら幾久はスマホを握りしめていた。
御堀庵の本店は市内に入ってすぐに見つかった。
思ったほど大きな店構えではなかったが、それでも老舗と言う雰囲気を持っている。
駐車場が隣接されてあるので、宇佐美はそこへ車を入れた。
「はい、御堀庵本店に到着しました」
「お疲れさまっス」
二人は同時にはあ、とため息をついた。
「―――――で、やっぱ連絡ないか」
「そーっすね……」
ギリギリに入ってこないかな、という期待も空しく、幾久のスマホに連絡は入ってこなかった。
正月で当然店舗も休みで、どうしようかと二人は頭を抱え込む。
「うーん、どうすっかな。ここはやっぱ六花に聞いてもらうしかないか」
宇佐美が言うと、幾久は首を横に振った。
「ちょっと待ってください。オレ、店の様子見てきます!」
そう言うと幾久はシートベルトを外し、車の外へ出た。
一気に冬の空気になって、幾久はぶるっと体を震わせる。
ダッフルコートを羽織り、駐車場から店舗の前へと向かう。
当然店は閉まっていて、扉に張り紙がしてあった。
新年の挨拶と、三が日はお休みします、という内容だ。
「やっぱそうだよなあ……」
どうしようかな、と幾久が背を伸ばし、店の中が見えないかとつま先立ちで店を覗き込んだ所だった。
「うちは今日までお休みですよ。明日から開きます」
そう声をかけられた。
え?と思い振り返ると、幾久と同じ年頃の女の子が風呂敷包みを抱えて立っていた。
ショートカットで、ぐるぐるに分厚いマフラーを巻いていて、紫の半纏を着て、半纏には御堀庵の紋が入っている。
「あ、すみません。えーと、お店の方ですか?」
女の子は頷いた。
「はい。バイトしてる者です。なにかお急ぎのご用事ですか?」
「お急ぎっていうか」
どうしよう。店の人に聞いてもいいものだろうか。
しかし、頼る人もない幾久は、この女の子に賭けてみることにした。
「あの、ここんちの、御堀誉君に用事があって」
すると女の子は一瞬驚いた表情になった後、途端、幾久を不審者を見るような目つきで見た。
「……誰あんた」
自分で着替えるからいいと断って、勿論ちゃんと着替えはしたが、その姿に自分で呆れた。
今日は御堀の見合いの日だ。
用意された衣装は、黒紋付の羽織袴。
羽織は染め抜きの五つ紋、袴は仙台平、礼装としては最上位にあたる。
まるで結婚式の花婿のような姿に、御堀は苦笑しようと思っても、笑顔を作れない自分に気づく。
この衣装を用意してくれたのは、誉会でもスリートップに君臨する黒田呉服店の奥様だ。
御堀が桜柳祭に招待した一人でもある。
老舗の呉服屋で、御堀庵とも付き合いは長い。
なにも打ち合わせをしなくても、今の御堀にぴったりの丈に誂えてあった。
完璧主義で美しい着物に目がないあの奥様らしい選択だ。
いつもなら、幾久に写真を送って感想を聞こうとか、どんな反応があるのかな、と楽しみにする御堀だが、生憎そんな気持ちにはなれない。
というより、考えたくない。
出来るだけ、このふざけた大人の付き合いを早く終わらせて片付けて、あの騒がしい海の近い寮へ帰りたい。
(考えるな)
駅についた御堀を待っていたのが姉なだけ、まだ救いだった。
だから少しは幾久の事を考える余裕もあったけれど、家に帰った途端、すでに用意されたスーツに着替えさせられ、挨拶もそこそこに御堀に用意された舞台は御堀庵の跡継ぎとして、会社代表の新年のお払いに参加することだった。
とっくにローカル局とは話がついていたのだろう、わざとらしく御堀に近づき、新年の抱負を、などと尋ねられ、面倒で笑顔で応えてみせた。
地元の友人達や、もうあまり覚えても居ない元クラスメイトや同級生たちから、こっちに帰ってきていたんだね、とか会おうよ、とか、テレビ見たよ、ますますイケメンになってるじゃん、とまるで芸能人でも見たかのような賑わいに、御堀は馬鹿らしくてスマホを見るのも止めた。
(ばっかみたい)
判っていた事だけど、帰って早々、見せびらかされるお仕事、家に着いたら古くからのなじみのお客様へのごあいさつ回り、そして家でのお茶会という簡素な初釜。
御堀庵の非公式の、家族だけの初釜に参加できるのは誉会でも名誉なことになっていて、参加できる会の面子は、例によってスリートップの奥様方のみとなっていた。
それが良いのか悪いのか。
ただ、やはり老舗店舗や大手企業を仕切る奥様連中だけあって、話題にする内容は決して悪くない。
御堀がもし、幾久の話題でも出たら、と冷や冷やしていたが、奥様連中はそんな事は一切コメントせず、文化祭に参加しましたが誉様はご立派なご様子で、お友達ともうまくやっているようで安心致しました、と百点の回答をしてくれた。
誰も御堀に興味なんか持たず、必要なのは肩書だけ。
自慢できる道具が帰って来て、将来を安心させてくれればそれで良いだけの事だ。
今日だって、御堀の知らない間にとっくにスケジュールは組まれていて、地元の写真館の撮影が入っているとの事だった。
御堀の見合い相手である彼女も、見目はずいぶんと良く、昔から評判だったほどの外見だ。
しかも古くからの名家とあれば、うまくいけばそれでもよし、そうでなければ写真で見せびらかせばいい、そんな所だろう。
(あっちも迷惑に思ってるんだろうな)
相手である、小早川(こばやかわ)の顔を思い浮かべて御堀はため息をつく。
外見は地元の写真館でモデルを務めるくらいには整っており、鼻筋も通り、目も意思が強そうで、背も高く気も強め。
御堀と同じサッカークラブのファイブクロスのユースに所属していた仲間の妹で、御堀とも昔から面識はあった。
ただ、御堀に好意があるかといえば、全くないといっていいだろう。
だからあちらの家でもかなり強引に事を運んでいるのだろうという想像はつく。
それだけがまだ御堀には救いだ。
これで相手が乗り気だったり、御堀を好きになったりなんて事があれば、それだけでうんざりする。
恋愛がどうのこうのなんて今は全くどうでもいいし、こんなバカげた事から一分でも一秒でも早く逃げてしまいたい。
ただ、問題を起こさず大人しくやりすごせば、それでうまくいくはずだ。
ここをすぎれば、またあの愛しい日々に戻れるのだから。
(今日中だけだ)
今日だけ、やりすごせばいい。
どんなに嫌でも、納得がいかなくても、御堀はまだてんで、子供にすぎないし、報国院に行ったことをいまだによく思っていない人も居る。
その覚悟があった上で、あの学校を、あの場所を選んだのだから、後悔はない。
「誉さま、そろそろお支度は整いましたでしょうか」
御堀の部屋の外から声がかけられた。
呉服店の従業員で、御堀の着付けの為にわざわざ来てくれたのだが、御堀は断ったので何もすることがないのだ。
「―――――いま、降ります」
そう応えて、御堀は部屋を出た。
(誰も頼るな)
つまらない大人の付き合いの中、たった半日程度の事くらい上手にかわしてやればいい。
報国院に行くまで、そしてつい、数か月前まで、そうやって上手にこなしてきたのだから。
高速を降り、一般道を走る宇佐美の車は軽快だ。
正月とあってか、道路はがらがらで歩いている人も居ない。
奇麗に舗装された道路に、他に見える景色は山と田畑ばかりで、時折遠くに町が見えた。
ここの高速道路はずいぶんと高い場所に作られているのだな、と思う。
「誰もいないっすねえ。正月だから?」
幾久が感想を言うと宇佐美が「いんや」と答えた。
「このへんはド田舎だから普段からこんなもんだよ。車社会で歩いて移動する人は滅多にいないし、寒いしねえ」
「そうなんすか」
確かに、長州市と比べて田畑が多いし、人通りもない。
「もうちょっと街中に行けばマシにはなるけど、長州市のほうが全然都会だよ。いっくんに言ってもあんまりかもだけど」
「いや、それは判るっス。正直、この風景のほうがオレが想像してた雰囲気に似てるかも」
私鉄どころかJRの駅すら三キロ以上も先で、一体どんなド田舎なんだと入学した頃は思っていたが、実際に住んでみると割と便利だ。
「長州市って空港も高速使ったらそこまで遠くもないし」
「博多も近いし?」
宇佐美の言葉に幾久も頷く。
「はいっス。あれはけっこう驚きました」
新幹線を使ったせいもあるが、三十分程度で博多に行けるとは思っていなかった。
ただ、駅まで向かうのに車はどうしても必要だが。
「ほんと、海なんかちっともないっすね」
御堀が言っていた、山の中にある、という意味が良く分かる。
確かに海の気配も景色も、ここには何もない。
御堀が海が好きというなら、確かにここはあまりハマらないだろう。
桜柳祭の準備の間、二人で寺の敷地内からわずかに見える海ですら、御堀は嬉しそうに海が見えると言っていた。
(やっぱ、好きなんだろうな)
だったら余計に早く連れ帰ってやらないと、と幾久は思ったのだった。
周防市の街中に入ればそれなりの賑わいは見えたが、長州市に比べると寂れた雰囲気がある。
宇佐美はナビに従いながらハンドルを操作しつつ幾久に尋ねた。
「いっくん、みほりんに連絡は?」
「つかないっすね。既読にすらなんなくて」
朝からメッセージを送っているのだが、夕べからずっとメッセージを見ている様子もない。
いっそ電話でも、と思うがそこまでするのも気が引ける。
それに、御堀に『停学になるかも』なんて電話で伝えて上手に処理できる能力が幾久にあるかといえば不安しかない。
やっぱり顔をみてきちんと伝えたい。
「うーん、開いてないと思うけど、本店に行ってみるか。連絡がつかないとどうにもなんないねえ」
「もしわかんなかったらどーすんすか?」
「そん時はそん時!仕切り直して考えるか、六花おばちゃんにお願いするしかないなあ」
六花と御堀の姉は先輩、後輩の仲で親しいらしいので、最悪それしかないな、と幾久も頷く。
「迷惑かけるのはイヤっすけど、仕方ないっスね」
なんとか連絡がついたらいいのだけど。
そう思いながら幾久はスマホを握りしめていた。
御堀庵の本店は市内に入ってすぐに見つかった。
思ったほど大きな店構えではなかったが、それでも老舗と言う雰囲気を持っている。
駐車場が隣接されてあるので、宇佐美はそこへ車を入れた。
「はい、御堀庵本店に到着しました」
「お疲れさまっス」
二人は同時にはあ、とため息をついた。
「―――――で、やっぱ連絡ないか」
「そーっすね……」
ギリギリに入ってこないかな、という期待も空しく、幾久のスマホに連絡は入ってこなかった。
正月で当然店舗も休みで、どうしようかと二人は頭を抱え込む。
「うーん、どうすっかな。ここはやっぱ六花に聞いてもらうしかないか」
宇佐美が言うと、幾久は首を横に振った。
「ちょっと待ってください。オレ、店の様子見てきます!」
そう言うと幾久はシートベルトを外し、車の外へ出た。
一気に冬の空気になって、幾久はぶるっと体を震わせる。
ダッフルコートを羽織り、駐車場から店舗の前へと向かう。
当然店は閉まっていて、扉に張り紙がしてあった。
新年の挨拶と、三が日はお休みします、という内容だ。
「やっぱそうだよなあ……」
どうしようかな、と幾久が背を伸ばし、店の中が見えないかとつま先立ちで店を覗き込んだ所だった。
「うちは今日までお休みですよ。明日から開きます」
そう声をかけられた。
え?と思い振り返ると、幾久と同じ年頃の女の子が風呂敷包みを抱えて立っていた。
ショートカットで、ぐるぐるに分厚いマフラーを巻いていて、紫の半纏を着て、半纏には御堀庵の紋が入っている。
「あ、すみません。えーと、お店の方ですか?」
女の子は頷いた。
「はい。バイトしてる者です。なにかお急ぎのご用事ですか?」
「お急ぎっていうか」
どうしよう。店の人に聞いてもいいものだろうか。
しかし、頼る人もない幾久は、この女の子に賭けてみることにした。
「あの、ここんちの、御堀誉君に用事があって」
すると女の子は一瞬驚いた表情になった後、途端、幾久を不審者を見るような目つきで見た。
「……誰あんた」
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