【海峡の全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【1年生】

川端続子

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【22】内剛外柔~天に在りては比翼の鳥、地に在りては連理の枝

近くて遠い君のこと

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「なんか、ああいうの見ると誉ってお坊ちゃんなんかなって思うっすね」
「お店とか?」
 宇佐美の言葉に幾久は頷く。
「ふつーに寮に居て、一緒に学校に行ったりしてるとそういうの思わないっすけど、長州市のデパートにもお店があるじゃないっすか、御堀庵の」
「あるねえ」
「なんか、学校とか寮とか関係ない場所でああいうの見ると、なんかやっぱ違うのかなって思ったりもするっス」
 確かに御堀は外見だって王子様みたいだし、行動もそつがないし、成績だって優秀だ。
 サッカーではちょっとだけ、幾久が有利に立っているがそれだってジャンルが違うものが幾久が得意科目なだけであって、やっぱりかなりの腕前を持っている。
「頑張ってるのも知ってるし、完ぺきに見えてもオレらと全然変わりないのも判るんスけど」
 ただこうして、いつもいる場所と違う『外部』で御堀の一部というか、御堀の居た環境を思うと、ひょっとしたら違う世界の人なのかもな、とも感じる。
「確かに、御堀庵は老舗だし、会社自体も規模はそこまででもなくてもがっちり稼いでるし。ファイブクロスのパートナーだって御堀庵だし、周防市じゃ知名度、歴史、立場はトップクラスと言ってもいい企業だからね」
「……そういう所のお坊ちゃんなんすよねぇ、誉って」
「なに?ビビる?」
「ビビりはしないっすけど。でも、いいのかなって」
 このまま見合いをしてしまっては御堀が停学になるかも、という事があるからあわてて止めに行くけれど、それなら宇佐美が行けばいいだけの話だ。
 幾久が行きたい、と言ったのはメッセージの返事も来ない上に、どうしても御堀の態度が気になってしまったからだ。
「いいのかなって、なにが?」
 宇佐美が訪ねたので幾久は答えた。
「オレ、勝手に誉の事勘違いしてんじゃないのかなって。ひょっとしたら、オレが気にしすぎただけかもしんないし」
「そうかもしれないなあ」
 宇佐美は呑気にそう言って、コーヒーを飲んだ。
「でも、気になるなら行ったほうがいいんじゃない?みほりんが帰ってくるまでずっとハラハラして待ってて、無事帰ってきたとしても何もしゃべってくんなかったら、嫌でしょ」
「嫌っす」
 幾久は頷く。
 幾久が御堀のお見合いを止めに行く宇佐美について行くと言ったのは気になってしまうからだ。
「じゃあ行くしかない。そのためにそんな恰好してんでしょ」
 幾久のファッションは、まるでいつもの御堀のような格好で、幾久らしい恰好ではなかった。
 御堀のお見合いを止めに行く宇佐美に幾久がついていくと決まった時、六花のアイディアで服を決めたのだ。
 できれば制服がいいけれど、そこまでしたらやりすぎな雰囲気があるから、御堀や雪充のようなかっちりした、お坊ちゃんっぽい格好で行けと言われたのだ。
 それを聞いた高杉が早速自宅に戻り、気に入らずに置いていたものや、今日みたいにゴルフで接待の時に使う『お坊ちゃんっぽい』服を持ってきてくれた。
 コーディネートは高杉のセンスだ。
 お洒落な高杉だけあって、確かに御堀や雪充っぽくはあっても、幾久に似合うものを選んでくれた。
 幾久は自分でも、なにやらおとなしそうな、いいところのお坊ちゃんぽくは見えるな、と思った。
「そんなに外見って、大事なんすね」
 そこまでとは思わない幾久だったが、宇佐美は頷く。
「大事大事。六花おばちゃんの言う事は聞いとけ」
「怒られますよ」
「内緒にしてて」
 そうふざけて場の空気を和らげようとしているのくらい幾久にも判る。
「みほりんは多分正装だろ?だったらその友達らしい恰好をしといたほうが都合がいい。いっくんの出番はないかもしれないけど、万一、みほりんのご両親や面倒な大人に見つかっても、良いところの坊ちゃんと思われて油断されるから」
「ははは……」
 ひょっとしたら物騒な事になるのかもしれないな、と幾久は今更思う。
 六花がこういう支度をさせるのなら、きっとそれにも意味があるに違いない。
(折角の休みなのになあ)
 年末から年始にかけて、団子を作ったり、お参りをしたり、初日の出を見たり、皆とゲームをしたり、にぎやかで楽しかったのに、いきなりこうやって家で面倒な事をさせられるのか。
(誉って、これまでどんな風に過ごしてきたんだろう)
 車はずっと山の中を走っている。
 周防市は海が見えず、山ばかりだと聞いた。
 こうして高速道路を進んでいる間も確かに山しか見えない。
(どんな場所なんだろ。周防市って)
 幾久がぼんやりと思っていると、宇佐美がウィンカーを出す。
「そろそろ高速降りるよ。みほりん家までそう遠くないよ」
「ウス!」
 幾久は思わず背を正して、まだ見えない御堀の家に向かって目を凝らせたのだった。


 同時刻、のんびり起きてきた久坂と高杉が、あくびをしながら久坂家のダイニングへと現れた。
「おはよう、ねーちゃん」
「早くはないねえ」
 そう言って苦笑しながら、六花は弟たちの朝食の支度を始めた。
「幾久はもう出たんか?」
 高杉が尋ねた。
「出たも何も、そろそろ周防市に着く頃じゃない?高速使うって言ってたから」
「渋滞さえせんかったら、そんなもんか」
 そういって高杉は腰を下ろす。
 ダイニングではテレビがつけっぱなしだった。
「なんか見るもんあるんか?」
 静かな久坂家では用事がない限り、テレビもつけないので珍しいと思い高杉が尋ねた。
「ニュース待ってるの。地元のコラム依頼が入ってるからなんかネタがないかなって思ってね。ちょっと原稿詰まっちゃってさ」
 はは、と笑う六花に、じゃあこのままにしておこうと高杉は朝食を取りながらニュースを見ていた。
 久坂も寝ぼけた顔で、画面を見ていた。
「ローカルじゃ、どこもどうせ初詣の話ばっかだろ」
「その初詣の話が欲しいのよ。今年はどのくらい参拝があったのか知りたくて」
 正月の三日目、今日まではどこも初詣の人は多いだろう。
 県内にはそれなりに有名な神社がいくつもあるので、毎年この時期には大きな神社に取材にテレビが向かっている。
 画面がニュースに変わり、アナウンサーが画面に出た。
「おっ、犬養君だ」
「ほんとじゃのう」
 杉松の後輩であり、御門寮の先輩であるローカル局のアナウンサー、犬養が出た。
「ねーちゃん、ニュース始まったけど」
 久坂が言うと、六花がキッチンから戻り椅子に腰かけた。
「よし、ちょっと見よう」
 ニュースはやはり、昨日、一昨日の初詣の情報が出ている。
 天気が良かったせいでどこも人出は多かったらしい。
 紹介は県内にまたがり、いろんな場所が出ていて、長州市にある大きな神社がいくつか紹介された。
「すげー人。よく行くな」
 久坂が呆れて言うも、高杉は苦笑した。
「めでたい事じゃからの」
 そして画面が切り替わり、周防市からその周辺の神社の情報が流れたのだが。
「あ、御堀」
 久坂が言った。
「本当じゃ。御堀が映っちょる」
 高杉が言い、六花も画面をじっと見た。
「本当だ。みほりんじゃん」
 画面は神社でお祓いを受ける人々が映っており、神社の祓殿にスーツ姿と着物姿の女性、そして御堀の姿もあった。
 ニュースを聞いていると、どうやら昨日の昼間の映像らしい。
 御堀は品のいい仕立てのシングルのスーツを着ていた。
 シャツはアイボリー、タイと胸のチーフは青紫の花の模様が入った派手な模様でスーツは紺と灰色が混じったような濃い色だ。
 前髪をかき上げたようにしているので、ちょっと年が上な印象にも見える。
「わー、おっしゃれ。モデルみたいね、みほりん」
 六花が褒める。
 実際、画面映えするからだろう、アナウンサーが御堀にインタビューしていた。
 お祓いに来た氏子の方、というテロップが出ていたが、明らかに御堀庵が氏子をやっている神社なのだろう。
「正月だから?派手な格好だね」
 久坂が言うと六花が答えた。
「御堀庵は紫色がベースでしょ。包装紙とかお店とか」
 そう言われて久坂と高杉がそうか、と顔を上げた。
「それで紫のネクタイなのか」
「いいスーツねえ。スーツの色は褐返(かちがえし)、シャツは練色(ねりいろ)、タイは深色(こきいろ)の花。模様はポピー?いや、紫っぽいからアネモネかな」
 六花の説明を聞きながら御堀のインタビュー動画を見ていた三人だったが、やがて気づいた。

「……いっくん、今日迎えに行って正解だったんじゃない?」

 久坂が言うと高杉も頷く。
「そうじゃの。これを見てからじゃきっと遅かったじゃろう」
 一緒に過ごしてきたからこそ高杉にもよく判る。
 インタビューを受ける御堀は笑顔を見せていたが覇気がなく、まるで桜柳寮から逃げ出した時のような、どことなく重苦しい雰囲気が感じ取れた。
「追い詰められてるね、御堀」
 笑顔でごまかしていてもこわばった表情と、窮屈そうな雰囲気は見て取れる。
 幾久はきっと御堀のこの様子を画面で見たら、宇佐美について行かなかった自分を責めたに違いない。
「案外、勘がいいんだね、いっくんって」
「そうか?御堀の運がエエだけじゃろう」
 高杉が言うと、久坂は笑って「そうだね」と頷いた。

 御堀は全く知らないが、今、幾久が御堀の元へ向かっている。
 だったらきっと幾久の事だ。なにか起こすに違いない。

 高杉が言った。
「心配ない。どうせ幾久がどうにか騒ぎをおこすじゃろう」
「それって先輩としては心配しなくちゃいけない所じゃない?」
 久坂が言ったが、二人ともそう心配はしていなかった。
 むしろ、この様子を知らずに御堀の所へ向かった幾久には拍手したいくらいだ。

「さーて、ジュリエットはどうやって旦那を連れて帰るのかね」

 楽しそうな久坂に、高杉もさあのう、と楽しそうに笑った。
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