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第二部
ポチタロウと、創造主の末路:3
しおりを挟む「僕のすごさ」と「僕の解釈違い」・・・。
これらについて、スーからネオリスへの「わからせ」は、体感で1時間くらい続いた。
ネオリスが何かを言う度に「びたーーーん!」とスーのビンタの音が響いた。
「ほんどうに、ずびまぜんでじだ・・・」
そう言って、ネオリスがスーへの反論や、(ファンとしての)持論を展開するのをやめた頃には、ネオリスの(向かって左側の)右頬は、スーのビンタでパンパンに膨れ上がっていた。左頬は(僕が殴ったので)赤紫色に、変色していた。
ネオリスは、8歳頃の(体が大きくなる前の)僕の姿をしていた。でも、その顔はすでに、僕の顔って感じではなくなっていた。
顔の(向かって)左半分は、頬だけじゃなくて、唇も腫れ上がっていて、くぐもった声しか出せなくなっていた。目は頬で圧迫されて「糸目状態」になっていた。
「これで、わかった?」
スーのその言葉に、ネオリスが救いを見いだしたように「わがりまじだ!」と勢いよく答えた時には、またスーからのビンタが「びたーーーん!」と、ネオリスに炸裂した。
「これで、わかったつもり、なら。まだ、わかって、ない!」
ー びたーーーーーん! ー
スーによる叱責の声と、ビンタの音が、また響いた。
・・・
・・・
・・・。
「ワダジは、ポチタロウざんの、ごどが、なんじもわかってなかっだ、ごどが、わかじまじだ・・・」
最終的に、涙を流しながらネオリスが、そう答えるまで、スーの「わからせ」は、続いた。
この男(と糸目)が元凶で、僕らは魔王討伐をさせられてきた。しかも、この世界にとってそれは「必要なこと」ってわけでもなかった。勇者も魔王も、ネオリスがエンタメの為に用意したもので、ただのマッチポンプだった。
この世界で、何千年と続いてきたであろう「魔王と勇者の戦い」で、何人もの命が奪われてきたハズだ。
僕らも、旅の間に、死体の山を見たことがある。僕らが見たことのない、死体の山だって、きっといっぱいあったのだろう。
これらはネオリスが「配信でポイントを稼ぐ」そんなことの為に、ずっと続いてきたのだ。
ー 平気でそんなことをした奴だ。こんな目に遭っても当然だ。 ー
何度もそんなことを言い聞かせて、僕はスーのビンタを見守っていた。
嫌悪感もあった。ただでさえ、僕は、自分で自分を情け無く思うことが(ちょくちょく)ある。なのにネオリスを見ていると、僕の「嫌な部分」を凝縮して、まとめて見せられているような気分になってしまった。
ネオリスは終始、情け無い顔で、情け無い声を上げた。その度に、獣耳や、尻尾が、ヘナヘナになった。思いっきり感情が、耳や尻尾で表現されていた。
僕自身も「感情が丸わかり」なのを知らずにやってきたのだと思うと、身もだえしそうになった><。同族嫌悪に近い、何かを覚えた。
でも、ここまで来ると、さすがに少し、可哀想になってきた。ネオリスの顔は、もはや僕の顔の原型を留めなくなっていた。さすがにやり過ぎな気がしてきた。
スーの左手も気にかかった。スーの左の手のひらは真っ赤だった。スーは(エルフなので)肌が白い。手のひらの赤は余計に目立った。
スーはずっと、全力でビンタをし続けたのだろう・・・。
「僕のすごさ」をわからせる為に、全力を尽くしたのだろう。
スーは、声も張り上げていた。あまり大きな声で話さないスーが、ネオリスに対しては、大声を出していた。
「ポチにぃは、お前の、解釈より、もっと、すごい!」
・・・こんな感じで、スーは何度もネオリスに「僕のすごさ」をわからせようとした。
スーのその言葉は、僕の耳にも痛かった。僕に向かって言われているんじゃないか? と、何度も思った。自身の自己評価の低さを、スーに責められている気がした。
さすがの僕にも、ほんの少しは、わかった。
お世辞でもなんでもなく、本当にスーが、僕をすごいと思っていてくれたこと。僕が思っていた以上に、スーは僕のことを好きでいてくれること。僕が自分で自分を認められなかったばかりに、今、スーが歯がゆい想いをしているんだろうなってこと。
そういうのが、スーの左の手のひらに、全部、集約されている気がした。
スーの手が止まって一段落したところで、僕は、スーの左手を両手で握りしめた。さすがにもう(せめて一旦)やめるようにと、スーを促した。(「完全に止める」・・・なんてことは、できなかった)
改めて、糸目が言った「七光り」という言葉についてを、考えていた。
■■■■■■
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ポチタロウと、創造主の末路:3
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ー 創造主、力なくせば、ただの人。 ー
そんな川柳が読めてしまうくらいに、ネオリスはなんだか、凡庸な人物だった。普通の人って感じだった。
ー スーに口答えをしたら、ビンタが飛んでくる ー
そんな簡単なことを「学習するまで」に、ひどく時間がかかった。
まだ理由はわからなかったけど、この世界を作った創造者なのに、ネオリスは僕のファンらしい。ファン心理的に、何か、自分なりの「想い」っていうのがあったのかもしれない。(ネオリスはスーに向かって、何度も持論を展開した。そうして、何度もビンタをされた)
それにしても、右頬がパンパンになるまで、反論を続けたことは、おろかな行為にしか見えなかった。「言い方を変える」などの「工夫」は、まるでなかった。
花火にしたってそうだ。ネオリスは花火を打ち上げて、人がわらわらと出てきてから、時間を止めた。
たぶんその場の思いつきで、ネオリスは花火を盛大に打ち上げたのだろう。その結果として、人がワラワラと外に出てきた。なので(物事がややこしくならないようにと)人の動きを止めた。・・・なんだか、そんな感じだった。
ー 花火を上げたら、人が外に出てきて、ややこしいことになる。 ー
それについて、ネオリスは、まるで何も考えていなかったようだ。
ー 物事が起きてから、対処する。 ー
世界を改変できてしまうものだから、今までそれで、やれてきてしまったのだろう。ネオリスの次の展開への想像力は、欠如しているように思えた。(想像力が欠けてしまうことについては、僕も人のことを、とやかく言えた立場ではないけど><。)
ー だいたい、お前自身は、なんか、すごく、ない! ー
そんなことを、スーに言われて「びたーーーん!」とビンタをされてしまくらいに、ネオリスの言動に、鋭いところはなかったし、創造主っぽさも、まるで感じられなかった。
ー 産まれた次元が、たまたま高次な、七光り的存在 ー
糸目はネオリスに対して、憎々しげにそんなことを言った。でも、そう言いたくなってしまう気持ちも、少しだけわかってしまった。
この男が元凶で、この世界では、勝手に魔王が呼び出されて、幾人もの死人が出てきた。こんな普通の人物が、それを「できてしまう」立場だった。こいつが、世界を好き勝手に、書き換えてきた。
そう思うと、さすがに、世の中の不公平さを感じない訳にはいかなかった。
(この男にも、いいところはあるんだろうか?)
糸目によると「人を使って運営すること」に対しては、ネオリスはそれなりにうまくやるらしい(さすがにそれをさせてあげるつもりは、もちろんなかった)それ以外で僕が見たのは、むしろ、全然ダメな部分ばかりだった。
(この男は、結局、一体、どんな姿をしているんだろう?)
僕はネオリスの「本来の姿」を見てみたくなった。
どんな姿をしていて、どんな思いで、それをしていたのか? が知りたくなった。
せめて、ほんの少しでも、ネオリスなりの「正当な理由」があると、思いたかった。
僕は残り2回のプロンプトのうちの、1回を使うことを決めた。
ネオリスを元の姿に、戻すことにした。
・ネオリスを(無力な状態のまま)元の姿に戻す。
・ついでに、傷を治す。
とりあえず、キュウロクにこれを頼むことにした。
僕の姿であれ、ネオリス本来の姿であれ、これ以上「傷だらけの状態」を見ていたくはなかった。
貴重な残り2回のプロンプトのうちの1回だ。なので、ついでにキュウロクに、他にもいろいろと聞いたり、お願いしたりを、羅列しておきたかった。
ひとまず「世界の時間が止まっている今の状態」を、解除してもらおうと思った。
周囲から音も動きも消えていたので、なんだか異質な空間にいるように思えた。それがずっと続くことへの不安感も覚え始めていた。
今回のプロンプト入力で、ちゃんと世界も元に戻しておいて、残り一回は、何かの時の為に、残しておこう・・・。
そんな計画を立てた。
時の流れを元に戻すにあたって、4本の杭で固定した椅子や、そこに腰掛けているネオリスをそのままにしておくのは、まずい気がした。
ー この男が、この世界の創造者で、この世界では、こいつのせいで、たくさんの命が奪われてきた。だから、拘束した。 ー
そんなことを、動きだした周りの人達に説明したら、それこそ「ややこしいこと」になるだろう。周りから投石攻撃が始まってしまうかもしれない。
・・・かといって、逆に周りの人に何も告げなかったら、それはそれで「ややこしいこと」になりそうだった。
今の状況は、どう見ても「道の真ん中にくくりつけた少年を、僕らがリンチした後」にしか見えないだろう。それを納得してもらえるような弁解は、考えつきそうになかった。
(どこか人気のない場所に、移動するべきかな?)
そんなことを思って、僕は「糸目の移動手段」についてを思い出した。
キュウロクの情報によれば、岩場の中に隠されているエクスパトリアという街を、糸目は(ここでの滞在中に)訪れたらしい。この近くに岩場はなかったので、そこに行く為の移動手段を、糸目は持っているハズだった。
(それが広ければ、そこに移動してしまおうか?)
広ければ、移動する。広くなければ移動しない・・・。
そんな風なプロンプトを考えながら、僕はメモを取り出して、考えをまとめようとした。
(シルを介して、スーにも相談してみようか?)
なんてことも、思った。
ふと、メモ帳から目を上げると、パンパンに膨れ上がった頬をした、ネオリスが見えた。うつむいて、なんだか反省の言葉を呟いていた。
(いや。一旦直接、聞いてみるか・・・)
僕はネオリスを見て、そんな風に思い直した。
企画屋の糸目と比べると、創造者であるネオリスは「普通」って感じだった。逆に言えば、そんなにキャラが「濃い」訳ではなかった(僕のファンなどという、わけのわからない部分もあったけど)。普通に尋ねたら、普通に答えを返してくれるんじゃないか? そんな気がした。
実際のところ、スーに対して、ネオリスは、(僕から見れば)基本的にはまともに返答しているように思えた。(でも、ことごとく、スーのお気に召さなかったらしく、その度に「びたーーーん!」とビンタされた)
考えてみれば、ネオリスが現れてすぐに、僕がぶん殴ってしまったし、スーからのわからせも始まった。なので、ネオリスがどんな人物か? は、本当のところは、よくわかっていなかった。
ただ、ただ、悲鳴を上げる姿と、ファンとしての持論を聞いただけだった。(僕にとって、恥ずかしい持論が多かった><。)
これだけで、ネオリスの「人となり」を、判断するのは早計に思えてきた。
得意なことをさせてあげるつもりはなかったけど、プロンプトを打ち込む前に「糸目の乗り物について」くらいなら、ネオリスに聞いてみるのも、いいような気がした。
それが「ちゃんと正直に、答えてくれるのか?」の、判断材料にもなるだろう。
僕はスーに「なるべくならビンタをせずに、話を聞かせてね?」とお願いをした上で、ネオリスに話しかけてみることにした。(スーに「禁止する」ようなことは、やっぱりしたくなかった)
思えば、僕がネオリスに言葉をかけるのは、殴った時以来だった。
話しかけるのに、少し身構えてしまった。
「あの・・・ネオリス、さん?」
「は、はひ! な、なんでじょうが、ポチダロウざん・・・」
ネオリスは、スーの方を気にしながら、緊張した面持ちで、そう答えた。
「糸目は・・・。サトウさんは、何か、乗り物的な物を持ってて、この近くにそれが置いてあります?」
「さすがは、ポチダロウざん! ・・・あ、いえ、なんでもないでず。ワダジが、ポチダロウさんのことを、語るだなんで、どんでもないことでじだ!」
スーによるわからせが、効きすぎたのだろう・・・。ネオリスはとっても卑屈な感じになっていた。(ちょっとやりづらさを感じてしまった)
「えーっと、何か、あるんですね?」
「あじまず、あじまず!」
たぶん、「あります」と言ったのだろう・・・。ネオリスが慌ててそう答えた。
ゆっくりでいいので。と、伝えながら、僕はその乗り物の場所や形についてを、ネオリスに聞いていくことにした。
やっぱり(少しばかし)それがロボであることを、期待せずにはいられなかった。
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