悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ

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火のないところに煙は立たぬ

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 翌朝。
 授業から解放され、遊びに行く寮生を横目に、私は魔導院へ向かう。その足取りは軽かった。スカーレットが、おしゃれして出ていくのを見たから。
 案の定、彼女は授業を欠席した。おかげで、心穏やかに授業を受けることができたのだった。

 お昼までの授業を受けて、寮に戻ると、玄関の前で上級生のマーティンに呼び止められた。

「スカーレットは、もう、魔導院から戻ったかな? 渡したい物があるんだよ。すまないけど、呼んで来てもらえないだろうか?」

 そう言う彼の手には、とても分厚い本があった。魔法書のようだ。

「スカーレットは、外出してると思います」
「外出?」
「朝、出かけるのを見ましたので」

 多分、デートだろう。大きなバスケットを持って、一年のアンセルと出かけていったから。
 念のため、寮母さんに確認してみると、やっぱり、まだ戻ってなかった。

「でも、今日は、特別授業の日じゃないのかい?」
「届け出をすれば、いつでも欠席できますから」

 実を言えば、スカーレットは度々、授業を欠席する。六人同時攻略ともなれば、色々と忙しいのも当然。
 ゲームだと、この特別授業の出席回数が、誰とも恋愛関係にならない、『魔導院進学ノーマルエンド』に関わってくるんだけど。彼女は単位に必要な回数しか、出てこなかった。

「そ、そうなのか……」

 マーティンの目は、泳いでいた。
 真面目な彼は、もしかしたら、スカーレットのことも、真面目でかわいい後輩だと思っていたのかもしれない。

「君は……確か、スカーレットのクラスメイトだったよね?」
「はい」
「外出って、スカーレットは誰かと一緒に行ったのかな? 例えば、クラスメイトの男子とか。見たんだよね、君」

 教えてくれないか。マーティンは、真剣な顔つきで迫ってきた。下級生の私に「頼む、頼むよ」と、何度も頭を下げる。それだけ本気でスカーレットのことが、好きなんだろう。彼の熱に負けて、私は見たまんまを話す。

「多分、一年の男子生徒だと思います」
「……そうか」

 重苦しいため息をついて、マーティンは再び、こちらを見た。

「君は、その、スカーレットの……、」
「なんでしょう?」
「いや、これは、あくまで噂なんだけど。彼女が、その、複数の男子生徒と付き合ってるって。それは、本当なのかい?」

 スカーレットが玉の輿を狙っているとか、貢ぎ物で付き合う男を選んでるとか、学年主席の男にレポートをやらせているとか、挙げ句、先生方にまでこびを売って成績を上げてもらってるとか……。

 マーティンは次々と噂話を並べて、その真偽を私に聞いてきた。

「私にも分かりません。スカーレット本人に、お聞きになった方がよろしいかと」
「あ、あぁ。それは……そうだね」

 マーティンは、しばらく難しい顔をして考え込んでいたけど。ありがとうと、また律儀に頭を下げて、歩いて行った。

 寮へ戻った私は、その後、久しぶりにゆったりと過ごすことができた。
 このまま、何事もなく一日を終えられたら良かったのに。
 食堂で夕食を食べ終え、食器を返したところで、スカーレットがズンズンとやって来た。

「ちょっと!」
「何かしら?」
「マーティンに変なこと言ったでしょ」
「変なこと?」

 一瞬、何だっけと考える。半日前のことなのに、遠い遠い記憶のようだった。

「マーティンに、私が特別授業をサボって、アンセルとデートに行ったって、告げ口したでしょ⁉」

 早速、マーティンはスカーレットに話を聞いたらしい。

「私は、見たことを話しただけ」

 そこに、これまでの腹いせがまったくなかったのかと言われれば、それはあった。でも、嘘だけはついていない。

「もちろん、私の見間違いだったのなら、あなたにもマーティンにも謝ります」
「つ、告げ口なんて、卑怯よ!」

 スカーレットが真面目な顔でそんなことを言うから、思わず、吹き出していた。

「何言ってるの。それこそ、あなたが望んでいたことでしょ? 告げ口も卑怯も、悪役令嬢のやりそうなことじゃない」

 言い返せば、スカーレットは黙り込んだ。顔を歪ませる彼女に、私は少しスッキリした気分で食堂を出たのだった。
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