悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ

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同じ展開には、うんざりです

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 いつもの時間に寮を出て、教室に入ったのもいつも通り。
 しかし教室には、いつもならまだ登校してない人物がいた。彼女のせいで、教室は異様な雰囲気に包まれている。

 私は自分の席にかばんを置いてから、改めて、そちらに目を向けた。
 スカーレットが、顔を両手で覆って泣いている。その周りを男子たちが取り囲んで、何やら励ましていた。ちなみに女子は一人もいない。

「おはよう、ロベリア」

 声をかけてきたクラスメイトに、あいさつを返してから尋ねる。

「何かありましたの?」
「置いてあった教科書が、破られてたんだって」
「まぁ……。誰の仕業かしらね」

 なんて口では言いながら、自作自演だろうと私は思っていた。

 スカーレットは、私に悪役をやらせようと、何かしら騒ぎを起こす。最近じゃ、ゲームのイベントにはなかったことも起こる。そうして、私のせいだと大騒ぎするくせ、そのどれもが穴だらけで最後は自滅。

 毎日こんな感じで、本当にうんざりしてた。でもそれは、私だけじゃないようで。近頃、六股の噂が広がっているせいもあって、スカーレットはクラスの女子からも避けられていた。それでスカーレットも、またクラスの男子にすり寄っていくものだから、女子の反感を買うことにもなっていた。

 声をかけてきた彼女も、その一人。スカーレットなど、まったく気にした様子もなく「それよりさ」と、話を変える。
 
「魔法史の課題、できた? 私、中世の途中で、頭の中がこんがらがってきて。フィリー派とモーラ派だっけ? 師匠と弟子のケンカで分裂したとか……」
「私も、その辺りは自信がありませんわ。かなり時間もかかりましたし」
「私なんて、課題を終わらせるのに、二時間もかかったよ。教科書、見ててもややこしいんだもん」

 お互いに教科書とノートを広げ、課題の確認をしていると、男子がやって来た。スカーレットを慰めていた取り巻きの一人。
 
「ロベリア。登校したら、スカーレットの教科書がビリビリに破られていたんだけど、何か知らないか?」
「さぁ。知りませんわ」
「君は、昨日、かなり遅くまで、学校に残っていたそうじゃないか」
 
 また私を、犯人にするつもりなんだろうけど。
 でも、さあー。毎日毎日、この展開だよね? 同じ展開には、もう、うんざりなんですが。
 私は男子を無視して、スカーレットの所へ行った。

「スカーレット。あなたは私が犯人だとでも、言いたいのかしら?」

 面倒くさいので、もう、ズバリ言った。
 私の方が背が高いので、当然、見下ろすことになる。腕を組んだのは無意識だったけど、なんだか、とても悪役っぽくなってしまった。

「そんな、こと……」

 スカーレットは、ぷるぷると頭を振って、うつむいた。祈るように両手を組んで、体を小さくさせる。
 この、いかにも『被害者です』みたいな仕草には、主演女優賞を贈りたい。

「確かに昨日の放課後は、ずっと図書館にいました。でも、それは、私だけではありませんわよね?」

 私はスカーレットの側いる別の男子に、目を向ける。図書館には彼の姿もあった。

「ぼっ、僕じゃない! 僕がそんなことするわけないじゃないか! 本当だよ、スカーレット」

 彼が言えば、

「えぇ。もちろんよ」

 スカーレットは、彼に微笑んだのだった。その笑顔に向けて、私も言う。

「もちろん、私でもありませんわ」
「じゃあ、誰がこんな酷いことをしたって言うんだよ!」

 取り巻きが声を荒げ、詰め寄ってきた。その後ろで。

「ひどぉい……ひどいわぁ、ロベリア」

 スカーレットは顔に両手を当てて、しくしくと泣き出した。すぐに、取り巻きが優しくスカーレットを慰める。私への非難を織り交ぜながら。

 それを聞き流し、私は改めて床へ目を向けた。
 机とその周り、教科書が見事にビリビリになっていた。ざっと見ただけでも数冊分。
 これだけ破るのも、大変だっただろうなぁ……なんて、眺めていたら。

 目に入ってきたのは、水色の紙。

 細切れにされた教科書の中に、水色の紙片が混じっていた。ついさっきまで、私が見ていた教科書の表紙と同じ色。
 私はバラバラになった水色の紙片を拾い集め、スカーレットの机に置いていく。文字をつなぎ合わせると、思った通り、『魔法史』の教科書だった。

「スカーレット。あなた、昨日、出された魔法史の課題はどうしたの? 魔法使いの系統と魔法の進化をまとめるのは、教科書がないと難しかったのではなくて?」

 それは、素朴な疑問だった。
 昨日、私が遅くまで残っていたのも、この課題に手こずったから。

「そもそも、あんなに大変な課題を出されたのに、どうして教科書を持って帰らなかったの?」

 続けて言うと、スカーレットは、ただただ小さな一言を漏らした。

「あ」

 今、気がついたと言うような声音。
 彼女は少しの間、ポッカーンとしていたが。

「スカーレット?」

 顔を覗き込んだ取り巻きに、

「……も、持って帰るのを忘れたから、友達に見せてもらったのよ」

 笑顔で取りつくろい、こちらには開き直った態度で「何よ、悪い?」と、目を吊り上げて言う。それから、何ごともなかったかのように、周りを片づけ始めた。
 それっきりスカーレットは黙り込んでしまったので、その友達が誰かを追及するのはやめておいた。

 その後、魔法史の授業が始まると、スカーレットは
何食わぬ顔で課題を提出していた。
 多分、彼女は朝一番にやって来て、自分の教科書を破ったのだろう。魔法史の教科書まで破ってしまったのは、勢いあまってのことなのか、単なるドジなのか。私に悪役をやらせるためとはいえ、まったくご苦労なこと。

 それにしても、今日も今日とて、茶番だった。
 明日は土の曜日。
 学校は休みだけど、聖属性の魔法を学ぶための特別授業がある。

 聖属性を持つ人間は少なく、外国では聖属性を持つ乙女を『聖女』と呼んで、崇めている国もあるくらい、希少らしい。
 そのため、魔導院で魔法を教えてくれるのは、魔法使いの最高位でもある宮廷魔導師。

 宮廷魔導師を目指している私にとって、直々に指導してもらえるのはありがたいこと。
 ただ。今、学校に在席している聖属性の持ち主は、私とスカーレットの二人だけ。
 今から憂うつな気分になった。

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