無能チートで冒険者! ~壁魔法も使いよう~

白鯨

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 1章.無能チート冒険者になる

29.無能チートと無駄な時間

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「トンボ……それは、大丈夫、言わない」
「確かにスッキリしたが、なんつー事をしてんだ、馬鹿野郎。どうすっかなー……」


 ジト目で私を見上げるセヨンさんと、頭を抱えた後、指で額を叩くギルマス。
 しかし、なんと言われようと、私は謝るつもりはなかった。


「なっ、何をする?!」


 突然の私の暴挙に、唖然としていた軍団長の取り巻きの1人が、ハッとしたように、ようやく我に返り、腰に提げた剣を抜いた。
 それに続き、残りの3人も剣を抜いた。


「何をする? つまりあなた達は、さっきのやり取りを聞いてて、何でソレが殴り倒されたかわからないって事なの? あれだけ冒険者を馬鹿にして、脅して、軽んじて、それでも従うって、本当に思ってたの?」


 剣を抜いても怯むどころか、近づきながら話す私の言葉に、恐怖と困惑の表情しか返さない彼らを見て、私はそれを肯定と受け取った。
 成る程、つまり。


「お前らも敵なんだ」
「に、弍式! トンボを押さえる!」
「これ以上ややこしくすんな!」


 ぽつりと溢した瞬間、ギルマスが立ちはだかり、セヨンさんの弍式手甲が、私を掴んできた。


「お前らも! こいつは俺達が押さえてるから、剣をしまえ!」
「トンボ、キレる、何するかわからない」


 失礼な、それじゃあまるで、私が見境なしに暴れる、凶悪犯みたいじゃないか。


「事実見境なしなんだよ!」
「自分の行い、振り返る」


 酷いなぁ、私の壁魔法みたいに脆い心はヒビだらけだよ。


「きっ貴様ら! よくもやってくれたな! 領軍の軍団長に手を出すのが、どういうことか、わかっているのか!」


 ようやく起き上がった軍団長が、鼻血まみれの顔で凄み、言葉を吐いた。
 しかし、それはこっちのセリフだ。


「そっちこそ、冒険者ギルドの協力がなくなった場合、大変なのはそっちなのに、そんな態度でいいの?」

 もし、冒険者ギルドが仕事をしなくなった場合、魔物を定期的に狩るものがいなくなり、街に流れていた素材が足りなくなり、魔物の肉や、素材を使った商品が激減し、物価が上昇する。
 それを防ぐため、素材の入手やスタンピードを防ぐための間引きを、今後は全て領軍が担当する事になるだろう。
 ついでに、下水道のスライム狩りもね。


「まぁ精強な領軍なら、それぐらい朝飯前だろうけど?」
「当然だ! 冒険者など我らの領地にはふようだ!」


 領主でもないのにそんなこと言って、完全に越権行為だよね。貴族殴った私が言うのもあれだけど。


「さすが軍団長! ポーション無くても魔物と戦えるなんて! 言うことが違うなぁ!」
「何?」


 怪訝そうな軍団長の顔が、少し間抜けで笑ってしまった。
 だってそうでしょう?


「この街の半分以上のポーションを作ってるのおっちゃん……フィレオ・ゴールドバーグは、元冒険者で、冒険者の為にこの街でポーションを作ってるんだよ? 自分達は戦わずに、冒険者を大量に犠牲にした領軍の為に、ポーション作ってくれるのかな?」
「なんだと……」


 それは知らなかったのか、軍団長が確認するように取り巻きの顔を見る。
 取り巻きの1人が知っていたらしく、小さく肯定すると、顔色を悪くする軍団長。
 おっちゃんの威を借りてしまったけど、おっちゃんが冒険者の為に作ったポーションを、勝手に持っていこうとしたんだから、許してくれるよね。


「他の薬師から買うとすると、冒険者ギルドで素材を卸してくれないから、かなり高額なポーションになるんだろうなぁ。いまの10倍で済めばいいね?」
「ぐっ……だ、だが、それをすれば、冒険者ギルドも所属している冒険者も、困るだろうが!」


 わかってないねぇ。頭の回転が普通の女子高生以下とか、これが領軍の頭で大丈夫なの? 素直に心配するわ。


「この街の冒険者ギルドは、あくまでも支部なの。今回の事を報告して撤退すればいいだけなの。冒険者だって、ギルドがないなら他のギルドがある街に流れていくよ」


 この街に永住している冒険者もいるかもしれないけど、それを教える義理はない。


「すると、街の人は思うわけだ。『なんで冒険者ギルドがなくなったんだ!』『領軍が冒険者を不当に扱ったかららしいぞ!』って」
「なっ……に……! 私は貴族の、軍団長だぞ! それに逆らうのか!」
「上等だ! 死なば諸共! 私もセヨンさんもギルマスも、冒険者の為に死ぬ覚悟はできてるんだ!」


 ついに剣を抜いた軍団長に、私は啖呵を切った。
 セヨンさんの弍式手甲に掴まれたまま。


「いや、できて、ない」
「頼むから黙ってくれ」


 しかも、2人の同意は得られなかった。なんでだー!


「私が来たからです。お待たせしました」


 私の疑問に答えたのは、聞き覚えのある声だった。
 唯一動く頭を声の方に向けると、そこに立っていたのは。


「門番さん!」
「副団長!」
「ぬっ?」
「えっ?」

 私と軍団長は顔を見合わせる。
 やって来たのは門番さんだった。でも、軍団長は副団長と呼んでいた。


「つまり門番さんは、領軍の副団長なの?」
「お久しぶりです、トンボさん。申し遅れました。私はラプタス領軍副団長のマナン・バードと申します。騙していた訳ではないのですが、休日は警備隊の仕事を手伝い、門番をしているのです」


 拳を胸に当て、綺麗な敬礼をして自己紹介してくれた門番さん、改めマナンさん。
 そういえば、ちゃんと名乗られたのは初だったね。マジで副団長なんだ。
 そして、それを休日とは言わないよ。


「大体の事情は、呼びに来てくれた、ギルドマスターの部下から聞いています」
「いつの間に?!」
「お前が軍団長を殴り飛ばした後、頭抱えるフリして、指サインで騒ぎを見てた部下に指示をだしたんだよ」


 うーん、額を叩いてたけど、あれって『頭悪いなコイツ』のサインじゃなかったんだ、よかった。


「ギルドマスターならびに冒険者の皆さん、申し訳ありませんでした。今回の一件は軍団長の暴走で、領主様と領軍には、冒険者ギルドと敵対する意思はございません」
「なっ、何を言っている! 副団長!」


 頭を下げたまま、マナンさんが謝罪した。
 どうやらマナンさんと領主は、私の敵ではないらしい。マナンさんを殴らなくて済んで、本当によかった。
 一方、援軍だと思っていたのが、実は敵の軍だった軍団長は、予想外の展開に混乱している。


「軍団長あなたは、私がスタンピードへの備えはどうか聞いた時、準備はできていると答えましたが、スタンピードが起こった報告を聞いた途端、私に指揮を任せて飛び出されて、残された私は驚きましたよ? 物資が集積されている場所には、空の木箱が積んであるだけで、ポーション1瓶も入って無かったんですからね」
「そ、それは……」


 柔らかい顔で話しているのに、言葉の端々に怒気を纏わせるマナンさんに、軍団長もたじたじだ。正直、私も怖かった。
 あれだ、普段温厚な人が怒ると、凄い怖くて、怒られてる本人だけでなく、周りまでビビるやつ。


「ギルドマスターの部下から話を聞いて、納得しました。ギルドの物資を強奪して、それを領軍の物資にするとは、よくそんな発想ができるものです」
「そ、そうだろう? それに、冒険者だけでオークを殲滅する確約ももらったのだ。これなら問題あるまい?」


 確約してないっての!
 急に調子に乗ったけど、わかってるのかね? マナンさんが言った“発想”は、その前に“バカな”が付くって事を。


「しかし、だとすると領主様から渡された、スタンピードへの準備金は、物資には使われず、いったい何処にいったのでしょうね? そういえば、最近、愛人の為に良い邸宅を購入したらしいですね?」
「そ、それは……」


 うわぁ、マジの横領してたのかよ。しかも簡単にバレそうな。


「はぁ、領主様の親戚筋からのお願いで、軍団長の地位に着けていましたが……。今回の一件は領主様の耳に届けましたので、追って沙汰が言い渡されるでしょう」
「何を言う! 私がいなければ領軍はどうする! オークの軍勢が迫っているんだぞ!」
「だからこそ、冒険者ギルドと協力して、早急に体制を整えなければなりませんので、領主様から私に、軍団長に替わる臨時の指揮権が与えられました。申し訳ありませんが、軍団長は自分の屋敷で謹慎していただきます」
「なっ! ……そんな……ばかな」
「連れて行け!」


 力が抜けて、地面に座り込んだ軍団長を、副団長が連れてきた部下が、両側から挟むように連れていった。
 うーん、軍団長ボコボコじゃん。私が殴る必要無かった?


「と言う訳で、私が臨時に指揮を取る! いつまで剣を抜いている! 今は残った部下を動員し、各店舗に残ったポーションをかき集めている! お前達も大至急そこに加われ!」
「りっ、了解しました!」


 マナンさんが大声で指示を出すと、慌てて剣をしまい、誰も軍団長を気にする事なく、馬を走らせる取り巻き達。
 助け起こされなかった時点でわかってたけど、軍団長人望ないなぁ。
 そして、指示を出すマナンさんを見て、改めて副団長なんだと理解する。


「なに言ってんだか。お前がオークを持ちかえった時に、すぐ領主様からギルドに領軍の方針が届いただろう? 一門番に知らせたからって、あれほど早く伝達されねぇよ。領主様に直接報告しない限りな」


 ギルマスが呆れたように言う。
 なるほど、副団長クラスになると、領主に直接報告できるんだ。だから、対応が早かったのか。納得。


「この度は申し訳ありませんでした、ギルドマスター」
「構わねぇよ。スタンピードを前に、そんなこと言ってる場合でもねぇからな。協力できるんならありがてぇ」
「では、今後の方針を移動しながら話し合いましょう」


 余計な邪魔が入って、無駄な時間を過ごしてしまったけど、今度こそ私達は、スタンピードの迫る東門に向かうのだった。





ーーーーーーーーーー

副団長「マイナンバーカードとかけまして、芽を出さない世界樹と解きます」

トンボ「その心は?」

副団長「どちらも、なかなか申請する気(神聖する樹)になりません!」
 
副団長「マナン・バードっちです!」
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