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1章.無能チート冒険者になる
30.無能チートと啄木鳥
しおりを挟む東門から出てしばらく歩くと、既に冒険者の手にによって、簡易的な防衛陣地が構築されている場所についた。
戦国時代の合戦を描いた絵に出てくるような、木の柵に掘が、魔法で作られていく様は、壁魔法以外を使えない私にとって、なんだか夢のような光景に見えた。
忙しそうに動く冒険者の一人が、私達に気付いて、駆け寄ってきた。
「遅いっすよギルマス! 一応、戦闘に魔法を使わない組に、柵とか用意してもらってるっす!」
「戦闘に魔法使わないの?」
「魔法使いには、戦闘に備えて魔力を温存して貰いたいっすからね! 補助目的の魔法は、他のパーティーメンバーが覚えるって所は多いっすよ! ってトンボちゃんじゃないっすか! なんでこんな所にいるんすか? 今回戦闘組じゃないっすよね?」
三下っぽい喋り方をする冒険者が、説明してくれた。そして、名前を知られていたっす。
「色々あって遅れた。トンボは物資を運んできて貰っただけだ」
「えぇ~! トンボちゃんとセヨンの姉さんが居てくれたら、いつも以上に頑張れるのに~!」
「うるせぇ! 文句を言わず働け!」
大きな声で言い合うから、私達の名前を聞いた、他の冒険者達も寄ってきてしまった。
「トンボちゃんじゃないか! おっさんの勇姿を見に来たか!」
「そんなわけないだろー! 俺の魔法を見に来たんだよー!」
「男ってバカなの? 私の剣技を見に来たに決まってるでしょ」
「いや、三人共違うと思うけど……」
「セヨンたんの為なら、オークの軍勢など一蹴してみせますぞ!」
「セヨンが素顔出してから、この手の奴が増えたよなぁ」
「ふふっ、違うよ。皆に物資を持って来たんだよ。でも頑張ってね!」
途端に騒がしくなる冒険者達に、私は思わず笑ってしまった。
私はやっぱり、冒険者が好きなんだなぁ。
そして甘いな! セヨンさんの為なら、私はドラゴンだって一蹴できる!
心の中で張り合っていると、全身緑色の装備で陣地に飛び込んできた。
「ギルマス今戻ったが、オークの奴ら、動きが変だぜ!」
「変?」
どうやら彼は、オークの軍勢を確認してきた斥候のようだった。
焦ったというより、困惑した顔で、ギルマスに報告をはじめる。
「オークの奴ら、どういう訳かこの先の丘の上で、急に止まりやがった」
「オーク達の中で何か起きたのか」
「それが、そんな様子もなかった。あらかじめ決めていたかの様に、ピタリと止まったぜ?」
「最初からそこに陣取ると決めていた?」
「だが、なんのために?」
「下り坂の方が、突撃の勢いを活かせるから、ですかね?」
斥候の報告に、ギルマスとマナンさんが推測を述べていく。
「だが、穴を掘ってまで仕掛けた奇襲の利を、そう簡単に手放すのか?」
「うーん、所詮はオークと言えばそれまでですが」
「そういやぁ、オークを率いていたのは、オークロードで間違いなかったぜ? しかも、先頭に立って指示を出していやがったぜ?」
「オークロードが先頭に……」
「そいつは変だな」
先頭に立ってると変なんだ。
まぁ、大抵の王様は、一番奥でふんぞり返ってるイメージだよね。
「まぁ、オークロードが何を考えていようが、冒険者と領軍が揃って当たれば、勝てるだろう」
「そうですね、考え過ぎては行動が鈍りますし、オークに丘を陣取られては、商人の往来も無くなり、街にとっては経済力的な打撃になります」
ギルマスとマナンさんは、結論は出ずとも行動を起こすべき、と決めたらしい。
でも私は何故か、嫌な予感がしていた。
その予感に従い、私は気になっていた事をセヨンさんに聞いてみた。
「オークにとって、人間はなんですか?」
「人間、食糧。オーク街村襲う、食糧少ない時」
人も食べるとは、オークってやっぱり雑食なんだ。そして、オークにとって街は食糧庫で、オークは現在食糧難であると。
じゃあ、オークから見た勝利条件は、私達の皆殺しではなく、食糧の確保なんだ。
食糧難なのに、時間が掛かる穴を掘るという方法を取った理由は……接近を知られないため?
だけどこれ以上は、気付かれず接近できないと思って、諦めて出てきた?
でも、だとしたらギルマスが言っていたように、丘に陣取って時間を浪費するのは愚策。なら。
「集落の場所を隠すため?」
「ん?」
「セヨンさん、オークの集落を見つけたら、人間はどうします?」
「冒険者に、依頼くる、大勢で囲んで、殲滅する」
過激だなぁ。まぁ、言葉が通じず食べるために襲いかかってくるなら、そうするしかないのか。
「その集落の殲滅から、オークが生き延びることってあるんですか?」
「ない、とは言い切れない」
「経験から人間に集落が見つかると、襲われると思っているオークにとって、自分の集落は隠すものですよね? 」
「え? まさか……!」
セヨンさんもオークロードがどうして回りくどい事をして街に近いたのか、理解したようだ。
でもそれなら、オークロードは冒険者の強さを知っているはず。なのに、正面に陣取るかなぁ? 王様になって増長した? なら穴は掘らないか。
うーん何かあるはず。
大軍で陣取り、王様自ら先頭に立つ。まるでそれは。
ふいに父の語る戦国時代の話を思い出した。
「ああっ!!」
突然大声を出した私に、指示を出していたギルマスと、軍の指揮に戻ろうとしていたマナンさんが、ビクッとして動きを止めた。
「な、なんだよ?」
「どうかしましたか、トンボさん?」
「啄木鳥だよ! 啄木鳥!」
「なんだぁ? きつつき?」
「なんですかそれは?」
「私の故郷の鳥だよ! じゃない、啄木鳥戦法だよ!」
啄木鳥戦法。
川中島の戦いで、武田軍が使った戦法だ。
啄木鳥が木の穴にいる虫を取る時に、反対側をつついて、驚いて飛び出た虫を捕まえる生態から発想を得て、編み出された戦法で、別動隊を使って、敵陣の背後から奇襲を掛けて、敵が混乱した所に本陣で突撃をかける戦法だ。
だが、啄木鳥戦法にはいくつかパターンがあり、今回のはオークロードの本隊を囮にして、冒険者と領軍をつり出して、守りが薄くなった街に、別動隊が奇襲を掛ける戦法だと思われる。
別動隊は街を襲い、人間を確保したら撤退すればいい。その撤退を本隊が助け、更に本隊が撤退する時は、間引きを含め、本隊を分けるか、別動隊の内、玉砕覚悟の部隊を残せば、人間に追われる心配もない。
最後に掘ってきた穴を埋めてしまえば、辿られる心配もない。
私はオークが穴を掘って近付いた理由を含め、ギルマス達に啄木鳥戦法について説明した。
「納得できる部分はあったが、その……きつつき? 戦法を、オークが使ってくるなんてのは、飛躍しすぎじゃないか?」
「いえ、そうとも言い切れません」
ギルマスの猜疑的な意見に異を唱えたのは、マナンさんだった。
「他領での話ですが、オークの集落を軍の練兵に使おうと考えた所があるらしく、新しい戦法を試した結果、冒険者のようなノウハウがない軍は、多数のオークを逃がしたという話を聞いたことがあります。その時に使ったのが、そのきつつき戦法に似たものだったはずです」
「じゃあなにか? その時の生き残りがオークロードに進化したってのか?」
「可能性はあるかと」
自分で言っておいてなんだけど、かなり穴だらけの理論だったのに、埋め立てられていくよ。私は東京湾か!
「トンボの話が事実なら、オークの軍勢ではなく、街の周囲に斥候を出して確認する必要があるか?」
「そうですね、オーク達が動いてもいいように、冒険者の皆さんには陣地構築してもらい、ひとまず領軍を残り三方の門に配備しましょう」
「カルロス! 聞いていたな! 街の周囲を見てこい!」
「わ、わかった!」
帰ってきたばかりで、また直ぐに斥候に出される緑色の冒険者、二つ名『苦労人のカルロス』。
「違うから! 『見えずのカルロス』だから! 隠れるのが得意な、『見えずのカルロス』!」
「さっさと行け! 『苦労人のカルロス』!」
「苦労させてる本人が言うんじゃねぇ! 行ってくるよちくしょう!」
森に入っていくカルロスを見送る。二つ名の通り、景色に溶け込み、カルロスはすぐに見えなくなった。
「いざとなったら、領軍が街の防衛を担当して、冒険者の皆さんにオークの本隊を任せることになるかもしれませんね……」
「は?」
申し訳なさそうにそう言ったマナンさんを、私は思わず睨んでしまった。
わかってる、街を守るなら仕方ない事だ。別動隊のオークの存在がバレたと、オークロードが知れば、後がないオーク達は街に突撃してくるだろう。かといって隠密に別動隊を排除するのは、別動隊の規模にもよるが難しいだろう。
だから、街を別動隊のオークから守る人間と、本隊の相手をする人間に別れる必要がある。
攻めるのに向いた冒険者と、防衛に向いた領軍、物資の数が多い冒険者と、少ない領軍、どっちがどっちを担当するかは明白だ。
それでも、一瞬あの軍団長の顔がちらつき、同じ領軍の副団長を睨んでしまったのだ。
後悔に私の顔が歪む。
「大丈夫だぜ、トンボちゃん!」
私の肩を叩き、呑気な声でそう言ったのは、作業を中断して集まった冒険者達のひとりだった。
確か私に勇姿を見せると言ってたおじさん。
その一言を皮切りに、次々と冒険者達が話し出す。
「そうそう、俺達だって覚悟はできてるって!」
「自由にさせて貰ってるからなー、こんな時ぐらい気張るさー」
「そうよね、こんな時に怖じ気づくなら、はじめから冒険者やってないわ」
「だから、トンボ氏がそんな顔しないでもいいですぞ」
「おっさんの為に怒ってくれるトンボちゃんは優しいぜ!」
「「「「お前の為じゃない!」」」」
全員のツッコミが一致し、私を含め、皆が爆笑した。
心が少しだけ軽くなッた。
「みんな、ありがとう」
私は皆の心遣いに、お礼を言った。
その少し後、当たってほしくない予想が的中する。
オークの別動隊が見つかったのだ。
ーーーーーーーーーー
凄い難産な回でした。
何度も書いては消してを繰り返しました。
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