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石榴の月⑲
石榴の月~愛され求められ奪われて~
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【四】
どうやら浅い微睡みにたゆたっていたようだ。お民はうっすらと眼を開く。
ここは一体、どこなのだろう。ゆるりと視線をめぐらしてみる。まるで細い一本の銀糸を思わせるような鎖が四方に網の目状となって張り巡らされており、その銀の糸の至る所には露の煌めきを思わせる小さな光の粒が宿っていた。
―きれい。
お民は思わず眼を見開き、刻一刻と様々な色に染まり、光り輝く露の雫を眺めた。
が、次の瞬間、烈しい驚愕と衝撃が襲った。
きらきらと輝く光の雫に触れようとして差しのべた手のひら、いや、腕そのものが微動だにしないのだ。
―何故? どうして?
著しい恐慌状態に陥りながら、お民は懸命に手脚を動かそうとするが、一向に動かない。
ふと自分の手脚を眺めやり、お民は絶望の呻きを上げた。煌めく光の粒を宿した銀の糸がお民の身体中―手脚に絡みついている。
いや、糸ではない、これは鎖だ。頑丈な、鋼(はがね)の細い鎖がお民の身体中に纏いつき、離れない。何とか縛(いまし)めから逃れようともがけばもがくほどに、鎖は執拗にお民の手や脚に絡みついてきて、これでもかといわんばかりに締めつけてくる。
シュルル・・・という不気味な唸り声が低く耳に聞こえ、お民は我に返った。わずか前方に、巨大な―大の大人数人ほどの大きさをした蜘蛛が待ち構えていた。
まさか、この銀の鋼は化けもののような蜘蛛の巣?
そう考えた途端、戦慄にも似た烈しいおののきと恐怖がひたひたと押し寄せてきた。
巨大蜘蛛は低い咆哮を上げつつ、じりじりとお民に向かって間合いをつめてくる。
お民はあまりの怖ろしさに、このまま意識を手放してしまいたいとさえ願った。
と、お民は、愕然とした。
真正面から次第に近づいてくるお化け蜘蛛の顔は、何と人のものだ! しかも世にも二つとない怖ろしげな人面蜘蛛の顔は他ならぬ石澤嘉門のものだった。
夜毎、お民の身体を犯し、責め立てる男。その男と瓜二つの顔をした蜘蛛が囁く。
―俺の子を生め。そなたは、俺の子を生むために、ここに連れられてきたのだ。
蜘蛛がパックリと割れた大きな口を開くと、チロチロと紅い舌を出す。その舌があたかも蔓が伸びるかのように妖しく長くなる。
―いやっ。誰か、助けてっ。
銀の糸に全身を縛められたお民は、一糸まとわぬ全裸だった。
巨大な蜘蛛の紅い舌は禍々しいほど鮮やかで血の色のよう。そのちろちろと動く舌が長く伸び、お民の白い身体を舐め回す。ふくよかな胸乳から、豊かな腰、下腹部へと紅い舌が這い回る。
ペチャペチャと淫らな水音まで聞こえるような気がして、お民は思わず両眼を固く瞑った。
―俺の子を生め。
耳許で嘉門と同じ顔を持つ蜘蛛がまた、囁く。
―俺の子を生め。
二月の末、初めて臥床(ふしど)を共にしてからというもの、嘉門は毎夜、離れに通ってきた。むろん、お民を抱くためであり、お民は一晩中、嘉門の執拗な愛撫に耐えなければならなかった。
情事の後、あるいは最中に、嘉門は必ずこう囁くのだ。
―俺の子を生め、良いか、必ず、俺の子を身籠もるのだぞ。
そのひと言は今や、お民の耳に不吉な呪(まじな)い言葉のように灼きついて離れない。
「―おい、お民、お民?」
誰かがどこかで呼んでいる。
私を呼んでいるのは誰―?
お民は、かすかな希望を持ってそっと眼を開ける。
だが、次の瞬間、彼女の儚い願いは無惨に打ち砕かれる。
お民が身を横たえているのは薄くて粗末な布団ではなく、絹のふかふかの立派なものだ。
しかも、隣に寝ているのは誰より逢いたいと願う良人ではなく、あの忌まわしい―先刻、見たばかりの妖しい夢に現れた蜘蛛と全く同じ顔をした男だった。
「随分とうなされていたようだが」
お民は嘉門の傍らにゆっくりと身を起こす。何も身につけてはおらぬ裸の肩に、嘉門が背後からそっと夜着を着せかけた。
「汗びっしょりだ。こんなに濡れて」
嘉門の指摘のとおり、まだ弥生の下旬に差しかかったばかりだというのに、お民の白い身体には汗がうっすらと滲んでいた。
どうやら浅い微睡みにたゆたっていたようだ。お民はうっすらと眼を開く。
ここは一体、どこなのだろう。ゆるりと視線をめぐらしてみる。まるで細い一本の銀糸を思わせるような鎖が四方に網の目状となって張り巡らされており、その銀の糸の至る所には露の煌めきを思わせる小さな光の粒が宿っていた。
―きれい。
お民は思わず眼を見開き、刻一刻と様々な色に染まり、光り輝く露の雫を眺めた。
が、次の瞬間、烈しい驚愕と衝撃が襲った。
きらきらと輝く光の雫に触れようとして差しのべた手のひら、いや、腕そのものが微動だにしないのだ。
―何故? どうして?
著しい恐慌状態に陥りながら、お民は懸命に手脚を動かそうとするが、一向に動かない。
ふと自分の手脚を眺めやり、お民は絶望の呻きを上げた。煌めく光の粒を宿した銀の糸がお民の身体中―手脚に絡みついている。
いや、糸ではない、これは鎖だ。頑丈な、鋼(はがね)の細い鎖がお民の身体中に纏いつき、離れない。何とか縛(いまし)めから逃れようともがけばもがくほどに、鎖は執拗にお民の手や脚に絡みついてきて、これでもかといわんばかりに締めつけてくる。
シュルル・・・という不気味な唸り声が低く耳に聞こえ、お民は我に返った。わずか前方に、巨大な―大の大人数人ほどの大きさをした蜘蛛が待ち構えていた。
まさか、この銀の鋼は化けもののような蜘蛛の巣?
そう考えた途端、戦慄にも似た烈しいおののきと恐怖がひたひたと押し寄せてきた。
巨大蜘蛛は低い咆哮を上げつつ、じりじりとお民に向かって間合いをつめてくる。
お民はあまりの怖ろしさに、このまま意識を手放してしまいたいとさえ願った。
と、お民は、愕然とした。
真正面から次第に近づいてくるお化け蜘蛛の顔は、何と人のものだ! しかも世にも二つとない怖ろしげな人面蜘蛛の顔は他ならぬ石澤嘉門のものだった。
夜毎、お民の身体を犯し、責め立てる男。その男と瓜二つの顔をした蜘蛛が囁く。
―俺の子を生め。そなたは、俺の子を生むために、ここに連れられてきたのだ。
蜘蛛がパックリと割れた大きな口を開くと、チロチロと紅い舌を出す。その舌があたかも蔓が伸びるかのように妖しく長くなる。
―いやっ。誰か、助けてっ。
銀の糸に全身を縛められたお民は、一糸まとわぬ全裸だった。
巨大な蜘蛛の紅い舌は禍々しいほど鮮やかで血の色のよう。そのちろちろと動く舌が長く伸び、お民の白い身体を舐め回す。ふくよかな胸乳から、豊かな腰、下腹部へと紅い舌が這い回る。
ペチャペチャと淫らな水音まで聞こえるような気がして、お民は思わず両眼を固く瞑った。
―俺の子を生め。
耳許で嘉門と同じ顔を持つ蜘蛛がまた、囁く。
―俺の子を生め。
二月の末、初めて臥床(ふしど)を共にしてからというもの、嘉門は毎夜、離れに通ってきた。むろん、お民を抱くためであり、お民は一晩中、嘉門の執拗な愛撫に耐えなければならなかった。
情事の後、あるいは最中に、嘉門は必ずこう囁くのだ。
―俺の子を生め、良いか、必ず、俺の子を身籠もるのだぞ。
そのひと言は今や、お民の耳に不吉な呪(まじな)い言葉のように灼きついて離れない。
「―おい、お民、お民?」
誰かがどこかで呼んでいる。
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お民は、かすかな希望を持ってそっと眼を開ける。
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お民は嘉門の傍らにゆっくりと身を起こす。何も身につけてはおらぬ裸の肩に、嘉門が背後からそっと夜着を着せかけた。
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