石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ

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石榴の月㉓

石榴の月~愛され求められ奪われて~

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 自分はどうして、ここまで酷(ひど)い目にあわなければならないのかとやるせなかった。
 いきなり、この屋敷に連れてこられ、毎夜、男に身を任せなければならず、好んでここにいるわけでもないのに、追い出したい、否、殺したいと思うほど憎まれている―。
 お民が大粒の涙を零していると、ふいに、その肩に大きな手のひらが乗った。
 もう、幾度となく触れられた男の手だ。
「そなたが悪いのではない」
 耳許で嘉門が呟くと、ふわりと抱きしめられた。
「母上は母上なりに俺のことを、この石澤家のゆく末を案じておられるのだ。それゆえ、つい、あのような心ない仕打ちや物言いをしてしまわれる。とはいえ、そなたには酷(むご)いことを聞かせたな。済まぬ」
 祥月院に対しては反抗的な態度を貫いた嘉門であったが、お民の前ではこうして母を庇った。いつも冷え冷えとしたまなざしですべてのものを突き放したように見つめている男、それが石澤嘉門という男であった。
 その日、お民は嘉門の意外な一面をかいま見たような気がした。

 その二日後の昼下がり、石澤家の庭では二人の下男が庭掃きに精を出していた。
 この日、二人が命じられたのは庭の椿の花を一つ残らず集めるようにと
いうものだった。
 まだ二十代と思しき二人
の男は庭にある数本の椿の
樹の中、薄紅色の花だけを
選んで集めた。地面に既に
落ちているものや樹についている
ものまでも合わせると、用意していた籠がほぼ一杯になる。
 今度は、それらの花を離れの湯殿まで運び、満々と清潔な湯を湛えた湯舟に撒き散らす。
 浴槽の傍らにある檜造りの寝台には、花びらだけをいっぱいに敷き詰めた。
 二人の下男は主(あるじ)に命ぜられたままの作業を終えた後、小声で囁き合った。
「それにしても、殿は酔狂なことをなさるものだな」
「まだ陽の高い中から妾と椿風呂でしけ込むなんざァ、羨ましいというか、呆れ果てるというか」
「だが、あの女であれば、殿がそこまでご寵愛なさるのも俺は判るような気がするぞ。俺たちにゃア、滅多と拝むことはできねえが、たまーに庭を歩いている姿を遠くから見かけることがある。こう、膚なんぞは透き通るように白くって、ああいうのを吸いつくような膚っていうのか、とにかくきれいな女だぜ。ちょっと愁いがあるところがまた、たまらねえ。こう、時々、物憂げに溜息なんかつくところは、もう、そそられるよ。ひとめ見ただけでは、色っぽさなんかはそう感じねえのに、それでいて、どこか人眼を引く不思議な色気のある女だな。とにかく良い女だ」
「フーン、俺もそんな色香溢れる女と真っ昼間からしっぽりといきてえもんだ」
 二人は意味ありげな笑い顔で見つめ合うと、互いに肩をつつき合いながら〝殿さまの女〟についての話を延々と続けたのだった。
 二人の下男たちがそんな話に打ち興じていた頃、お民の許を珍しく嘉門が訪れていた。
 大体、このような昼間のお渡りがあること自体が珍しいのだ。が、嘉門から共に湯浴みをと言われたお民は戸惑った。
「陽の高い中からはいやでございます」
 と一度は拒んではみたものの、嘉門がすんなり聞き入れてくれるはずもない。
 椿の花を浮かべた湯舟に嘉門と二人で入りながら、お民はあまりの恥ずかしさに顔も上げられなかった。
 このひと月以上の間、お民は毎夜、嘉門に抱かれた。
 しかし、それは陽が落ちて辺りが夜の闇に沈んでしまってからのことで、こんなに明るい時間ではない。
 頬が火照っているのが、湯の熱さのせいなのか、身も世もない心地のせいなのかは判らない。
 嘉門は常以上に貪欲にお民の身体をむさぼった。唇を深く結び合わせながら、嘉門の指がお民の身体の至るところをまさぐる。
 嘉門の膝に乗ったお民を嘉門が力強く引き寄せ、下から突き上げる。お民の解き流した黒髪がゆらゆらと藻のように湯の中を漂う。
 身体の芯を妖しく駆け抜ける快さに、お民の桜色の唇から、あえかな声が洩れた。
 そんなことを幾度繰り返しただろう。湯の中で何度か交わった後、嘉門はお民を抱き上げ、湯から引き上げると傍らの寝台へとそっと降ろした。
 贅沢に薄紅色の花びらを敷きつめた寝台の上に横たわったお民の豊満な身体がほの白く湯げむりの中に浮かび上がる。

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