石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ

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石榴の月㉙

石榴の月~愛され求められ奪われて~

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 キッとして柳眉を逆立てるその物凄い形相は、さながら般若の面のようでもある。なまじ美しい女性だけに、そのように殺気立つと凄惨さが際立った。
「どうか、こたびだけはご容赦のほど、お願い申し上げます。どうか、どうか、お許し下さいませ。すべては私の落度にございます」
 暗に嘉門は悪くないのだと、ひたすら嘉門を庇い詫びるその姿を、祥月院は何か考えるような眼で見つめていた。
 この時、お民は言い訳や言い逃れめいたことは一切口にしなかったのである。その潔さは、存外にこの謹厳で気位の高い女の心を打ったようであった。
 元々、一人息子の嘉門を溺愛し、大切に育ててきたのだ。
「どうか、こたびだけはお許しを―」
 そこまで言った時、お民がふいに言葉を途切れさせた。口許を片手で押さえ、苦しげに咳き込み始めたのだ。
 お民は、その場にうずくまり海老のようにか細い身体を折り曲げて咳き込み続ける。この頃はろくに食事をしていないため、吐き気はするものの、実際には何も吐くものがなく、苦い胃液が唾に混じって出てくるだけなのだ。
 涙眼になって咳き込み続けるお民に、祥月院が声をかけた。
「いかがした?」
 気遣わしげに言って近寄ろうとする。
 その祥月院を嘉門が横から突き飛ばすようにして押しのけ、お民を抱き起こした。
「お民ッ、大事ないか? お民、しっかり致せ」
 嘉門が我を失ったようにお民の身体を揺さぶる。
 祥月院は若い二人を見て、小さな吐息をついた。
「殿、落ち着きあそばせ。ただでさえ、そのように苦しんでおる者を手荒に扱うてはなりませぬ。そっとしておいておやりなさいませ」
 祥月院は初めて聞く穏やかな声音で息子を諭し、お民を覗き込んだ。
「どれ、見せてみなされ」
 片手をつと伸ばし、お民の腹の辺りをそっと触った。手触りを確かめるように手を何度かすべらせた後、嘉門に向き直る。
「母上、お民に何をなさるおつもりでござりますか」
 抗議の口調で言うのに、祥月院は取り合わず断じた。
「何ゆえ、このようになるまで放っておいたのですか、医者には診せたのでございますか」
「い、いえ」
 嘉門が途端に口ごもる。
「武家の暮らしはこれまでと勝手が異なりますゆえ、馴染むのに刻がかかりまする。それゆえの気疲れかと」
 いつになく歯切れの悪い物言いで応えた。
 祥月院は呆れたように言った。
「そなたがお民どのを医者に診せなんだのは、お民どのと閨を共にするを止めだてされると思うてのことでありましょう」
 祥月院は小さく首を振り、嘉門をひたと見据えた。
「お民どのがこのような状態になったのは、いつ頃からにございますか」
「は、確か、ひと月ばかり前からにございます。吐き気がするゆえ、食あたりやもしれぬと当人は申しておりましたが」
 嘉門がふて腐れたように応える。
 祥月院は静かに告げた。
「お民どのを今日中に医者にお診せなさいませ」
「しかし―」
 まだ嘉門が何か言いたげに口を尖らせるのを祥月院は一喝した。
「一時の快楽に我を忘れては、大切な物を失うことになりましょうぞ。殿、このまま、お民どのを放っておいては、生命に関わりますぞ」
「―母上、それは」
 嘉門の端整な面に烈しい愕きがひろがった。
「眼をしかと覚ましなされ。このままでは、お民どのは弱っていくばかりじゃ。そなたは惚れた女子のみでなく、やっと恵まれた世継をも失うことになりかねます」
 そのひと言で、嘉門も漸く合点がいったようだ。
「では、母上は、お民が私の子を身ごもっていると?」
 嘉門はわずかに視線を揺らし、口ごもった。
「さりながら、幾ら何でも早すぎましょう。お民が当家に参って、まだ五ヵ月です。もう少し、せめてひと月くらいは様子を見てはよろしいのではございますまいか」
 それでも煮え切らぬ嘉門に近寄った祥月院の手が嘉門の頬に飛んだ。
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