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石榴の月 第二話㉜
石榴の月~愛され求められ奪われて~
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たまたま親切で面倒見の良い村長(むらおさ)がこのき家になっていた家を格安で貸してくれた。 村長といっても、まだ若い。昨年亡くなた祖父の跡を継いで村長となったばかりの者だった。父は早くに亡くなり、母は息子村に残し、江戸の両替商の後添えとして嫁でいった。若い村長は祖父母を両親としてった。
お民と歳の変わらぬこの村長が深く詮議せず突如として余所者を受け容れ、あまつえ長らく空き家となっていた村外れの家をしてやった―、そのことを穿った見方をす村人も少なくはなかった。
―村長は、あのきれいな女の色香に血迷って女をあの家に与えたんじゃねえのか。
中には、そんな邪なことを囁く者までいた。 村長がお民をあの家に住まわせたのは、い者にするつもりではないか、と。
現に、若い村長は、お民の住まいをたまふらりと思い出したように訪ねてくる。とっても、奥まで上がり込むことはなく、庭で少し立ち話をしてゆく程度のものなのが、そのことがまた必要以上に小さな村にむ人々の好奇心をかきたて、噂に尾ひれをけていた。
―村長は、あの別嬪の許に随分と熱心に通てるそうじゃねえか。
―まぁ、確かに何とも言えねえ色香のようものがある良い女だが、江戸者なんざァ、を考えてるか知れねえ。深く詮議もせずにに入れて不満を抱く者も多いぞ。
―村長はまだお若い。統率力もあるし、先見通す眼もお持ちだが、若さだけはどうにならねえもんだ。あんな色香溢れる女が突眼の前に現れりゃア、それこそ空から天女降ってきたように見えるだろうよ。美人がい江戸ならともかく、ここは女といやァ、なびた婆さんか、若いだけが取り柄のよう不細工で垢抜けねえ娘しかいねえからな。―違えねぇ。けどよ、お前、そんなことがの女どもに聞こえたら、ただじゃあ済まねぜ。寄ってたかって袋叩きにされちまうわな。
―怖え、怖え。底知れなさを秘めた別嬪も企んでるかどうか判らなくて怖えけど、顔鬼瓦で、やたらと勇ましい村の女どもも別意味で怖えぜ。女ってのは、つくづく怖ろいな。
―うっかり、あの色香に誘われて、あの家近づいてみろや。引きずり込まれて、誑かれちまうぞ。
―何だ、そりゃ。男を食い殺す妖怪狐じゃるまいし。
お民自身は、そのような噂話があること知らぬわけではないが、特に気にしてはいかった。真実はいずれ明らかになる。村長自分の間には何があるわけでもないのだら、毅然としていれば良い。
ただ、まだ若い村長のためには、この悪き噂はけしてためにならない。こんな噂が引けば、村長は信頼を失い、これまで折角ってきた村長と村人たちとの間の絆が台無になってしまう怖れがある。それだけは何しても避けねばならなかった。
お民の眼に純白の花が映じている。清々い香気が特徴の橘の花である。
ねっとりと纏わりつく夏の大気は暑熱をみ、じっと座っているだけでも、じっとり汗が滲んでくる。
額に滲んだ汗の玉が首筋をつたい落ちてく。
ふいに、涼やかな風が吹き渡った。このは冬には雪に閉ざされる。そのせいか、夏も江戸のように猛暑に見舞われることはなった。その点では暮らしやすいといえたがそれでも暑いことには変わりない。
得も言われぬ香りが風に乗って流れてた。橘の花の匂いだ。
この時季には珍しい心地の良い風は、やり木陰にいるせいだろうか。仲良く並んだつの樹が緑の茂みで翳をおりなし、居心地良い場所を提供してくれる。
「やはりここにいなすったか」
呼び声がお民の耳を打ち、意識が突如とて現実に引き戻された。
佐吉―この螢ヶ池村の若き村長が屈託な笑みを浮かべて佇んでいる。
佐吉は早くにふた親を失い、父方の祖父に育てられたのだと聞いている。現実には佐吉の母は幼い息子を舅・姑に託し、江戸嫁いでいったのだと他の村人が興味本位にで教えてくれた。
そのささやかな嘘は佐吉なりの精一杯の地というか誇りなのだろうと思い、お民はえて佐吉には何も言わなかった。恐らく、吉には母に棄てられたという想いがぬぐえいのだろう。母は幼い我が子よりも自分のせの方を選んだのだと、年端もゆかぬ佐吉そう思い込んだとしても無理はないだろう。 佐吉は、お民より三つ下の二十二だという丸顔のどちらかといえばまだ少年の面影をどめるような面立ちは、源治とは似通ったころなどないが、この男と話していると、思議な懐かしさを憶えた。
お民と歳の変わらぬこの村長が深く詮議せず突如として余所者を受け容れ、あまつえ長らく空き家となっていた村外れの家をしてやった―、そのことを穿った見方をす村人も少なくはなかった。
―村長は、あのきれいな女の色香に血迷って女をあの家に与えたんじゃねえのか。
中には、そんな邪なことを囁く者までいた。 村長がお民をあの家に住まわせたのは、い者にするつもりではないか、と。
現に、若い村長は、お民の住まいをたまふらりと思い出したように訪ねてくる。とっても、奥まで上がり込むことはなく、庭で少し立ち話をしてゆく程度のものなのが、そのことがまた必要以上に小さな村にむ人々の好奇心をかきたて、噂に尾ひれをけていた。
―村長は、あの別嬪の許に随分と熱心に通てるそうじゃねえか。
―まぁ、確かに何とも言えねえ色香のようものがある良い女だが、江戸者なんざァ、を考えてるか知れねえ。深く詮議もせずにに入れて不満を抱く者も多いぞ。
―村長はまだお若い。統率力もあるし、先見通す眼もお持ちだが、若さだけはどうにならねえもんだ。あんな色香溢れる女が突眼の前に現れりゃア、それこそ空から天女降ってきたように見えるだろうよ。美人がい江戸ならともかく、ここは女といやァ、なびた婆さんか、若いだけが取り柄のよう不細工で垢抜けねえ娘しかいねえからな。―違えねぇ。けどよ、お前、そんなことがの女どもに聞こえたら、ただじゃあ済まねぜ。寄ってたかって袋叩きにされちまうわな。
―怖え、怖え。底知れなさを秘めた別嬪も企んでるかどうか判らなくて怖えけど、顔鬼瓦で、やたらと勇ましい村の女どもも別意味で怖えぜ。女ってのは、つくづく怖ろいな。
―うっかり、あの色香に誘われて、あの家近づいてみろや。引きずり込まれて、誑かれちまうぞ。
―何だ、そりゃ。男を食い殺す妖怪狐じゃるまいし。
お民自身は、そのような噂話があること知らぬわけではないが、特に気にしてはいかった。真実はいずれ明らかになる。村長自分の間には何があるわけでもないのだら、毅然としていれば良い。
ただ、まだ若い村長のためには、この悪き噂はけしてためにならない。こんな噂が引けば、村長は信頼を失い、これまで折角ってきた村長と村人たちとの間の絆が台無になってしまう怖れがある。それだけは何しても避けねばならなかった。
お民の眼に純白の花が映じている。清々い香気が特徴の橘の花である。
ねっとりと纏わりつく夏の大気は暑熱をみ、じっと座っているだけでも、じっとり汗が滲んでくる。
額に滲んだ汗の玉が首筋をつたい落ちてく。
ふいに、涼やかな風が吹き渡った。このは冬には雪に閉ざされる。そのせいか、夏も江戸のように猛暑に見舞われることはなった。その点では暮らしやすいといえたがそれでも暑いことには変わりない。
得も言われぬ香りが風に乗って流れてた。橘の花の匂いだ。
この時季には珍しい心地の良い風は、やり木陰にいるせいだろうか。仲良く並んだつの樹が緑の茂みで翳をおりなし、居心地良い場所を提供してくれる。
「やはりここにいなすったか」
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佐吉は早くにふた親を失い、父方の祖父に育てられたのだと聞いている。現実には佐吉の母は幼い息子を舅・姑に託し、江戸嫁いでいったのだと他の村人が興味本位にで教えてくれた。
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