華鏡【はなかがみ】~帝に愛された姫君~

めぐみ

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逢瀬と初夜の真実⑦

第二話「絶唱~身代わり姫の恋~」

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「それでは正直に申し上げます。この縁組みは誰が見ても政略でしかない。古来から妻が年上という婚姻は幾らもありました。されど、それもせいぜいは数歳の差でしかない。私は頼経さまより十六も年上の女なのですよ? 十六違いの母と息子は世間にごまんといます。そのような年増の女を頼経さまは押しつけられた。あなたをお慕いする私があなたにして差し上げられるのは身を退くことだけ。尼御台さまや幕府の思惑がどうあれ、私は愛する方のお幸せを最も大切なものだと考えます。あなたの将来を思うなら、頼経さまはお歳の違わない溌剌とした姫君をお迎えになるべきです」
 頼経が信じられないといったように小さく首を振る。
「そなたは、私を嫌っているのではなかったか?」
「いいえ、先ほどもはきと申し上げました。私は頼経さまを心よりお慕いしております」
 頼経がふいに千種の胸に貌を埋めた。やわらかな胸に幼子が甘えるように貌を押しつけ、頼経は半ばくぐもった声で言った。
「そなたは残酷なことを言うのだな。これほどまでにそなたを好きだという男に、他の女を抱けというのか? 歳など、そのようなことは関係ない。他ならぬ私が気にしないと申している。鎌倉の町で初めてそなたを見たその瞬間から、私はそなたに惹かれた。そして、そなたという女を知れば知るほど、愛するようになった。最早、何を聞かされようとも、私のそなたへの想いが変わることはない」
「―本当に私でよろしいのですか?」
「初夜のときは済まなかった。あんなに手酷く抱くつもりはなかったんだ。だけど、そなたが私をあくまでも拒むものだから、つい止まらなくなってしまった。紫、そなたの気が済むまで何度でも言う。私はそなたが好きだ。いや、好きだという言葉だけでは足りない、この生命に代えても良いと思うほどに愛している」  
 そこで頼経は先刻までの勢いが嘘のように、自信なげに言った。
「そなたがまだ私をとことん嫌いになっておらぬなら、私を受け容れくれ、紫」
 千種は懸命に言った。
「嫌いになってなどおりませぬ!」
 その強さに、頼経が少したじろいだ。
「おいおい、急に大声を出されたら愕くではないか」
 呟き、クックッと笑う。
「どうやら、いつものそなたに戻ったようだな」
 頼経はいつまで経っても、笑い止まない。千種はしまいには本気でむくれた。
「酷い、真剣に申し上げておりますのに」
「悪かった、泣くな。どうも今もって、私はそなたに泣かれると駄目だ」
 頼経がその唇で涙を吸い取る。その後で、彼はつくづく感心したように言った。
「それにしても愕いた。そなたは自分の価値をまったく判っておらぬ。どう見ても、紫は二十歳過ぎにしか見えないぞ。その―」
 少し言い淀み、頼経は頬を染めた。こういうところはやはり老成していても、十六歳の少年だ。
「閨を共にしたときも、そなたの身体は見事なものだった。年齢を訊いても、まだ信じられない。出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいて―」
 身振り手振りで話そうとする頼経に、今度は千種が頬に朱を散らした。
「もう! 嫌らしいその手つきは止めて下さいませ」
「だが、真に良い身体をしていたぞ、そなたは」
 頼経はニヤニヤしながら千種を見ている。からかわれているのだと知りながらも、千種は頼経を軽く睨んだ。

 その同じ日の夜。千種は頼経と十日ぶりに膚を合わせた。定刻に将軍は御台所の寝所に渡った。
 彼の唇が触れる箇所が残らず燃え上がっている。身体が熱くて、堪らなかった。
 千種は彼の膚に触れたい衝動を抑えきれず、手を伸ばした。恐る恐る触れると、その小さな手を彼の手がしっかりと掴み、自分の逞しい胸板に導く。
 初めて自ら触れる男の身体は随分と固く感じられた。固さとはおよそ無縁の自分の身体とのあまりの違いに愕く。
 頼経が笑いを含んだまなざしで見ているのに気付き、頬を上気させる。
「そんなに私の身体が珍しい?」
 からかうように訊かれ、初めて自分がはしたなくも彼の身体に触れているのだと知った。まるで火傷しそうな熱いものに触れたように、彼から手を放した。
 すかさず、その手を彼が捉える。
「逃げないで。ずっと触れていて欲しい」
 吐息混じりに濡れた声が耳朶をくすぐる。
 十六歳も年下の少年がまるで女の身体を取り尽くした男のように思える。物問いたげな視線に、彼は妖艶な笑みを浮かべる。
「そなたに触れられると気持ち良い」
「気持ち良い?」
 思わず零れ落ちた呟きは、到底三十二歳の女のものとは思えないほど幼く響き、千種は恥ずかしさで真っ赤になった。
 これでは歳ばかりに重ねて、何も知らない女のようだ。もっとも男女のことに関しては、事実何も知らないけれど。
「女が男に触れられて気持ち良いと感じるように、男も女に触れられると気持ち良くなるんだ」
 逆に頼経が千種に触れる。背中をつうーと指先で辿られ、千種は思わず軽くのけぞった。その弾みで彼女のふくよかな乳房を彼の貌前に突きつけたような格好になってしまう。
 彼はその好機を逃さず、千種の感じやすい乳首をすかさず口に銜え吸った。
「―ぁあっ」
 吸われた場所から何とも例えようのない心地良さがひろがり、それは下肢にまで及ぶ。今日も彼にさんざん弄り回された秘所がまたしっとりと潤んで蜜を帯びてきた。
「また濡れてきた?」
 頼経が伸ばした指先を彼女の蜜壺に挿入する。指が胎内で蠢く度に、ピチャピチャと嫌らしい水音がする。
「紫はここをこうされるのが好きなんだよね?」
 二本に増やされた指でひときわ感じやすい膣壁をグッと力をこめて押され、背筋を信じられないほどの快感が駆け抜けた。
「あっ、あっ」
 自分の声とは信じられないほど艶めいていた。千種は思わず口許を両手で押さえ込む。恥ずかしさのあまり、消えてしまいたい。
「恥ずかしがらないで良いんだ」 
 両膝を折り曲げて立てた格好で大きく割り裂かれる。彼の舌と唇が彼女の身体中を胎内さえも残さず味わい尽くした。
  ひとときの後、千種は頼経に命じられて、褥に腹ばいになった。初めて彼にあからさまに背中を見せた瞬間だ。
 静かな時間が流れた。その沈黙を破ったのは千種の方だ。
「愕かれましたか?」
 頼経は即答した。
「いや」
 千種は微笑んだ。
「よろしいのですよ、気を遣って下さらなくても。醜いでしょう」
 千種の背中には大きな赤アザがある。赤児の手のひらほどのものだ。
「御所さまにはお眼汚しですね」
 起き上がろうとした千種を頼経は止めた。軽く背中に手を添えて押しとどめる。
「そのままで」
「ですが」
 躊躇う千種に次の瞬間届いたのは信じられない科白だった。
「美しい」
 頼経は千種のなだらかな曲線を描く背中を優しい手つきで撫でた。
「今、何と仰せられました?」
 信じられぬ想いで訊ね返すと、頼経はまたしてもはっきりと応えた。
「私は、これほど美しく咲いた花を見たことがない。天上に咲く花のように気高く見える。そなたにふさわしい花だ」
 頼経は千種の背のアザを紅い花にたとえたのだ。白い背中にひらいた紅い花に、頼経はそっと唇を押し当てた。
「頼経さま」
 千種の眼に涙が溢れた。
「紫、私がそなたの何を知ったとしても気持ちは変わらぬと申したのは、嘘ではない。そなたは外見も美しいが、その心がとても綺麗なのだ。私は恐らく、最初からその心の美しさに惹かれたのだろう。そなたを見ていると、私は御所の庭に咲く蓮花を思い出すのだ。醜いことの多きこの濁世に凜としてひらく一輪の蓮。私には、そなたがいつもそのように見える」
「私は本当に果報者です」
 千種は嬉し涙をひっそりと流した。
「世辞ではない。私の心からの気持ちだよ」
 頼経がそっと背後から覆い被さってくる。重なり合った身体と身体。鼓動が重なり、愛する男と結ばれる幸せに千種は浸る。
 頼経に背後から貫かれ、千種は甘い喘ぎ声を上げた。
「紫」
 名前を呼ばれ、振り向かされる。いまだ繋がったままの体勢で頼経は千種の上半身を引き寄せ、貪るような口づけを続けた。与えると同時に奪うかのような口づけに千種は身を任せる。
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