【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル

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第五話 間に合わなかった王子

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レイフは魔法塔での前で立ち尽くした。

彼女との記憶がどんどん抜け落ちてしまう・・・
全てを忘れる前に何かに書き留めておかなければ。

「栗色の髪が綺麗だ」
「幼い頃からの婚約者」
「お茶会をすっぽかしても待ってくれた」
「夜会のエスコートもほとんどしたことがない」
「謝りたい」
「僕の目を海のような瞳だと言ってくれた」
「アップルパイが好き」
「笑った時に頬にエクボができる」
「暖かい榛色の眼をしている」

胸にいつもしまってある小さなノートに彼女との思い出をどんどん書いていく。

「名前は・・・名前は・・・名前は・・・」

だめだ。やはりもう思い出せなかった。


「レイフ殿下どうなさったんですか?」

後ろから声をかけてきたのは魔法塔の筆頭魔法使いだ。

「なぁ、僕の婚約者の名前って何だったかな?」

「殿下の婚約者・・・?ちょっと把握してないですね。」

「そんなはずはない。だっていつも顔合わせの時間だと声を掛けてくれるのはお前だったじゃないか。」

すると不思議そうな顔をして言った。

「さぁ、記憶にないですね・・・」

「そんな・・・ここは、彼女が存在しない世界なのか。」

レイフは走った。そして、再び国守樹の元に来た。
国守樹に額をついてもたれかかった。

「お願いだ。僕を取り込んでくれ。彼女との思い出が消えそうなこんな世界で生きていたくない。」

目からはとめどなく涙が流れた。もしかしたらさっきみたいに寝たらいいのかも。そう思ってレイフは樹にもたれかかって眼を閉じた。
しかし何も起こらなかった。


そのうち何故ここに居るのだろうかと思った。


大切な研究をしていたはずなのに何故?


そうして魔法塔での研究に戻った。


レイフのかつての婚約者に関する記憶は全て国守樹に吸い取られてしまった。レイフはかつて婚約者がいたということも忘れ、そのことを思い出すことはそれ以来一度もなかった。
それでもレイフは自分の一部をどこかに置き忘れてきたようなそんな感覚を常に持つようになった。

自分の居場所はここではないどこかにあるはず、しかしそれがどこなのかわからなかった。



レイフはその後、王命で出来た婚約者と結婚し、3人の子供に恵まれた。しかし、妻や子供にはあまり興味を持たず魔法の研究にばかり熱心で家族には愛想を尽かされた。

兄が王になるとレイフは筆頭魔法使いになり滅多に自宅には戻らなかった。ほとんどの生活を研究室で過ごし、ある晴れた冬の寒い朝に誰にも看取られることなく、淋しく生涯を終えた。

それは、レイフの本来の寿命より10年ほど早い死だった。
レイフの失われた記憶は10年の寿命とともに国守樹に吸い取られたのだった。
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