8 / 9
8.
しおりを挟む
「ねぇ、僕のこと好き?」
情事が終わった後、彼が天井を見ながらつぶやいた。
俺は身体を彼の方に向けると彼の頭を触りながら言った。
「好きです」
すると、彼がポロリと涙を流しながら呟いた。
「僕、嫌われてるのかと思ってた。」
あとから後から出てくる涙を抑えようと彼は手を目に持っていったがなかなか止まらなかった。
俺は彼の頭を撫で続けながら言った。
「初めて会った時からずっと好きでした。俺はジュンさんのおかげでアルファに分化できたんです。」
彼はヒックヒックと喉を鳴らしながらしゃべった。
「うん・・・めい・・・て、きづ・・・いて」
「気付いてました。でも、兄の婚約者候補だったし、ジュンさんが兄のことを憎からず思っているのを知って、身をひくことにしたんです。」
そう言いながら耳の方にたれた涙にそっと触れた。彼はぼそっとつぶやいた。
「いつ」
いつそんな事を思ったのかということだろう。
「あなたと初めて会った次の月曜。あなたはお友達と居酒屋で話をしていて。俺もたまたまその居酒屋に居たんです。そこで思いがけずご友人との聞いてしまいました。それで、ジュンさんが兄のことを好きなら俺は身を引こうと思って、気付いたらアメリカに来ることになってました。」
「そっか。あはは。」
彼の涙はもう止まっていたようだ。
何がおかしいのか笑っている。
「そっか。そっか。僕はてっきり嫌われているからアメリカに行ったのかと思ったよ。」
「嫌いだなんてそんな。」
そう言いながら俺は首を振った。
「僕、君のお兄さんのこと好きだなんて思ったことないよ。」
「えっ?でもあの時」
「エッチが凄かったってハナシしてただけでしょ?確か。」
そう言われるとそうだったかもしれない。
「そりゃ、ハジメテだったから、きっと誰に突っ込まれててもそうなってたんだと思うよ。」
「でも、ジュンさんは好きでもない人に抱かれたりしないかと思って。」
「まぁ、普段ならそうかもしれないんだけど。僕、あの後ヒート起こしたんだよね。周期でもなくて薬も持ってなくて、マサトさんが僕のヒートに釣られてラット起こして気付いたら抱かれてたの。」
まぁ、事故みたいなもんだよね。
そう言う彼は何が吹っ切れたようで満面の笑みを浮かべていた。
「どうしてヒートになったと思う?」
「まさか。」
「そう、マヒロくんに会ったからだよ。でも僕は君のことをベータだと思っていたし、当時は手術の後遺症で鼻が詰まってて自覚出来なかったんだよ。」
話をしている間にいつのまにか俺の手の動きは止まっていた。すると今度は彼が俺の頬に触れてきた。
「マヒロくんは『運命の番』が嫌いな人が居るって知ってる?」
「??」
「僕は君がそれなんだと思ってた。運命の番って強制力半端ないでしょ?出会ってすぐ、ヒート起こすわラット起こすわ。そういう動物的な関係に嫌悪感を抱く人ってのは一定数居るんだって。あとは運命以外に番がいたり好きな人が居る人も運命を嫌う人は居るね。」
「俺はそんな。」
「わかってるよ。僕がそうなんじゃないかと勘違いしたってだけ。」
彼はそういうとまた天井を見上げた。
「運命の番がマヒロ君だって気付いた時には、僕はマサトさんの婚約者になっていて、マヒロくんはアメリカだった。それから、いろいろ大変だったんだよ。」
「いろいろ?」
「そりゃ、運命の番の兄に嫁ぐなんて常識的に考えたら無理でしょう?いつお互いにヒートやラットを起こすかわからない関係だよ?それが親戚だなんて無理だよ。だから、婚約解消を申し出たんだけど、それまでマサトさんとの関係は上手くいってたからね。話し合いが難航して。君が運命の番だって白状したんだけどその時には信じてもらえなくてね。」
「いつのころ?」
「気付いたのは君がアメリカに行ってだいぶたってからかな。12月に君の家にお呼ばれした時に家に残った君の匂いに反応したんだ。この匂いの人と番いたいと心の底から思った。でもマヒロくんのことはベータだと思ってたから、家に出入りしてる別のアルファかもと思った。」
それから、俺が番だと気付くまでに時間を要し、そこから婚約解消までにはさらに時間が掛かった。
その頃には彼の中では俺は運命の番に嫌悪感を抱く人物だということになっていた。
「だって、運命の番ってすごいでしょ?僕、少なからず傷付いたんだよ。運命の番と2度も顔を合わせているのに襲ってもらえなかったって。」
「それは、ジュンさんのためを思って。」
「マヒロくんとしてはそうだったんだろうけど、僕から見たら違って見えたって話。」
「そんな。じゃあずっとすれ違ってたってこと?」
「そうみたい。」
「どうして急に会いにきたの?」
「いくつか理由があるんだけど、一番大きいのは子供が欲しかったから。」
「子供?」
そうか、子供。ヒート中のオメガの妊娠率は100%に近い。
「僕、次の婚約の話が出てるんだ。でも、僕、マヒロくん以外と番うつもりは無いから。だから。」
そう言った彼の顔は今にも泣きそうだった。
そうさせてしまったのが自分だと思うと後悔してしまう。
俺はガバッと起き上がるとジュンさんの手を取った。
「初めて会った時から好きでした。アメリカに来てからも実はずっとSNSでジュンさんアカウントは追ってて。ジュンさんのひととなりは見てきたつもりです。運命の番だからだけではなく性格も好きです。俺と結婚してください。」
俺がそう言うと彼は涙を流した。
「嬉しい。ずっと・・・きら・・・・・われ・・・てる・・・・かと」
「そう勘違いさせたのは俺です。渡米する前にちゃんと話し合っていればこんな事にはなってなかった。」
そう言ってもう一度彼の唇を塞いだ。
軽い口付けを何度か繰り返した後に尋ねた。
「ここ、噛んで良い?」
彼の頸を撫でながら聞くと彼は俺の目を見てコクリと頷いた。
彼と目を合わせると欲情が競り上がってくる。
もう我慢できなかった。
再び俺たちは触れ合い、まぐわい、そして番になった。
心を幸せが満たしていく。
彼との恋を諦めてアメリカに来たときは、こんな幸運な結果が待っているなんて思ってもいなかった。
愛しい片割れを腕に抱きながら、何時間も愛を育んだ。
情事が終わった後、彼が天井を見ながらつぶやいた。
俺は身体を彼の方に向けると彼の頭を触りながら言った。
「好きです」
すると、彼がポロリと涙を流しながら呟いた。
「僕、嫌われてるのかと思ってた。」
あとから後から出てくる涙を抑えようと彼は手を目に持っていったがなかなか止まらなかった。
俺は彼の頭を撫で続けながら言った。
「初めて会った時からずっと好きでした。俺はジュンさんのおかげでアルファに分化できたんです。」
彼はヒックヒックと喉を鳴らしながらしゃべった。
「うん・・・めい・・・て、きづ・・・いて」
「気付いてました。でも、兄の婚約者候補だったし、ジュンさんが兄のことを憎からず思っているのを知って、身をひくことにしたんです。」
そう言いながら耳の方にたれた涙にそっと触れた。彼はぼそっとつぶやいた。
「いつ」
いつそんな事を思ったのかということだろう。
「あなたと初めて会った次の月曜。あなたはお友達と居酒屋で話をしていて。俺もたまたまその居酒屋に居たんです。そこで思いがけずご友人との聞いてしまいました。それで、ジュンさんが兄のことを好きなら俺は身を引こうと思って、気付いたらアメリカに来ることになってました。」
「そっか。あはは。」
彼の涙はもう止まっていたようだ。
何がおかしいのか笑っている。
「そっか。そっか。僕はてっきり嫌われているからアメリカに行ったのかと思ったよ。」
「嫌いだなんてそんな。」
そう言いながら俺は首を振った。
「僕、君のお兄さんのこと好きだなんて思ったことないよ。」
「えっ?でもあの時」
「エッチが凄かったってハナシしてただけでしょ?確か。」
そう言われるとそうだったかもしれない。
「そりゃ、ハジメテだったから、きっと誰に突っ込まれててもそうなってたんだと思うよ。」
「でも、ジュンさんは好きでもない人に抱かれたりしないかと思って。」
「まぁ、普段ならそうかもしれないんだけど。僕、あの後ヒート起こしたんだよね。周期でもなくて薬も持ってなくて、マサトさんが僕のヒートに釣られてラット起こして気付いたら抱かれてたの。」
まぁ、事故みたいなもんだよね。
そう言う彼は何が吹っ切れたようで満面の笑みを浮かべていた。
「どうしてヒートになったと思う?」
「まさか。」
「そう、マヒロくんに会ったからだよ。でも僕は君のことをベータだと思っていたし、当時は手術の後遺症で鼻が詰まってて自覚出来なかったんだよ。」
話をしている間にいつのまにか俺の手の動きは止まっていた。すると今度は彼が俺の頬に触れてきた。
「マヒロくんは『運命の番』が嫌いな人が居るって知ってる?」
「??」
「僕は君がそれなんだと思ってた。運命の番って強制力半端ないでしょ?出会ってすぐ、ヒート起こすわラット起こすわ。そういう動物的な関係に嫌悪感を抱く人ってのは一定数居るんだって。あとは運命以外に番がいたり好きな人が居る人も運命を嫌う人は居るね。」
「俺はそんな。」
「わかってるよ。僕がそうなんじゃないかと勘違いしたってだけ。」
彼はそういうとまた天井を見上げた。
「運命の番がマヒロ君だって気付いた時には、僕はマサトさんの婚約者になっていて、マヒロくんはアメリカだった。それから、いろいろ大変だったんだよ。」
「いろいろ?」
「そりゃ、運命の番の兄に嫁ぐなんて常識的に考えたら無理でしょう?いつお互いにヒートやラットを起こすかわからない関係だよ?それが親戚だなんて無理だよ。だから、婚約解消を申し出たんだけど、それまでマサトさんとの関係は上手くいってたからね。話し合いが難航して。君が運命の番だって白状したんだけどその時には信じてもらえなくてね。」
「いつのころ?」
「気付いたのは君がアメリカに行ってだいぶたってからかな。12月に君の家にお呼ばれした時に家に残った君の匂いに反応したんだ。この匂いの人と番いたいと心の底から思った。でもマヒロくんのことはベータだと思ってたから、家に出入りしてる別のアルファかもと思った。」
それから、俺が番だと気付くまでに時間を要し、そこから婚約解消までにはさらに時間が掛かった。
その頃には彼の中では俺は運命の番に嫌悪感を抱く人物だということになっていた。
「だって、運命の番ってすごいでしょ?僕、少なからず傷付いたんだよ。運命の番と2度も顔を合わせているのに襲ってもらえなかったって。」
「それは、ジュンさんのためを思って。」
「マヒロくんとしてはそうだったんだろうけど、僕から見たら違って見えたって話。」
「そんな。じゃあずっとすれ違ってたってこと?」
「そうみたい。」
「どうして急に会いにきたの?」
「いくつか理由があるんだけど、一番大きいのは子供が欲しかったから。」
「子供?」
そうか、子供。ヒート中のオメガの妊娠率は100%に近い。
「僕、次の婚約の話が出てるんだ。でも、僕、マヒロくん以外と番うつもりは無いから。だから。」
そう言った彼の顔は今にも泣きそうだった。
そうさせてしまったのが自分だと思うと後悔してしまう。
俺はガバッと起き上がるとジュンさんの手を取った。
「初めて会った時から好きでした。アメリカに来てからも実はずっとSNSでジュンさんアカウントは追ってて。ジュンさんのひととなりは見てきたつもりです。運命の番だからだけではなく性格も好きです。俺と結婚してください。」
俺がそう言うと彼は涙を流した。
「嬉しい。ずっと・・・きら・・・・・われ・・・てる・・・・かと」
「そう勘違いさせたのは俺です。渡米する前にちゃんと話し合っていればこんな事にはなってなかった。」
そう言ってもう一度彼の唇を塞いだ。
軽い口付けを何度か繰り返した後に尋ねた。
「ここ、噛んで良い?」
彼の頸を撫でながら聞くと彼は俺の目を見てコクリと頷いた。
彼と目を合わせると欲情が競り上がってくる。
もう我慢できなかった。
再び俺たちは触れ合い、まぐわい、そして番になった。
心を幸せが満たしていく。
彼との恋を諦めてアメリカに来たときは、こんな幸運な結果が待っているなんて思ってもいなかった。
愛しい片割れを腕に抱きながら、何時間も愛を育んだ。
24
あなたにおすすめの小説
八月は僕のつがい
やなぎ怜
BL
冬生まれの雪宗(ゆきむね)は、だからかは定かではないが、夏に弱い。そして夏の月を冠する八月(はつき)にも、弱かった。αである八月の相手は愛らしい彼の従弟たるΩだろうと思いながら、平凡なβの雪宗は八月との関係を続けていた。八月が切り出すまでは、このぬるま湯につかったような関係を終わらせてやらない。そう思っていた雪宗だったが……。
※オメガバース。性描写は薄く、主人公は面倒くさい性格です。
鳶と刈安
松沢ナツオ
BL
いつも見つめていた。
いつか勝つと心に決めていた。
——それでも、勝てなかった男がいる。
柔道部の刈安は、ただ一人に目を奪われ目標にしていた。その男はαだった。βとαの間に立ちはだかる壁を思い知った刈安はもどかしく思っていた。
二度と交わらないと思われた道が交わった時、二人の関係は変わっていく。
オメガバースですが、αxβのカップルです。
1話が2000文字程度の文字数で、全9話で完結します。
いつかの絶望と
屑籠
BL
幼馴染が好きだった。
でも、互いにもたらされた血の結果は、結ばれることなどなくて、ベータが、アルファに恋をするなんて、ありえなくて。
好きなのに、大好きなのに、それでも、諦めることしかできなかった。
未必の恋
ほそあき
BL
倉光修には、幼い頃に離別した腹違いの兄がいる。倉光は愛人の子だ。だから、兄に嫌われているに違いない。二度と会うこともないと思っていたのに、親の都合で編入した全寮制の高校で、生徒会長を務める兄と再会する。親の結婚で名前が変わり、変装もしたことで弟だと気づかれないように編入した、はずなのに、なぜか頻繁に兄に会う。さらに、ある事件をきっかけに兄に抱かれるようになって……。
ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果
SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。
そこで雪政がひらめいたのは
「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」
アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈
ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ!
※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。
捨てた筈の恋が追ってきて逃がしてくれない
Q矢(Q.➽)
BL
18歳の愛緒(まなお)は、ある男に出会った瞬間から身も心も奪われるような恋をした。
だがそれはリスクしかない刹那的なもの。
恋の最中に目が覚めてそれに気づいた時、愛緒は最愛の人の前から姿を消した。
それから、7年。
捨てたつもりで、とうに忘れたと思っていたその恋が、再び目の前に現れる。
※不倫表現が苦手な方はご注意ください。
不倫の片棒を担がせるなんてあり得ないだろ
雨宮里玖
BL
イケメン常務×平凡リーマン
《あらすじ》
恋人の日夏と福岡で仲睦まじく過ごしていた空木。日夏が東京本社に戻ることになり「一緒に東京で暮らそう」という誘いを望んでいたのに、日夏から「お前とはもう会わない。俺には東京に妻子がいる」とまさかの言葉。自分の存在が恋人ではなくただの期間限定の不倫相手だったとわかり、空木は激怒する——。
秋元秀一郎(30)商社常務。
空木(26)看護師
日夏(30)商社係長。
αの共喰いを高みの見物してきた男子校の姫だった俺(α)がイケメン番(Ω)を得るまで。
Q矢(Q.➽)
BL
αしか入学を許可されないその学園の中は、常に弱肉強食マウントの取り合いだった。
そんな 微王道学園出身者達の、卒業してからの話。
笠井 忠相 (かさい ただすけ) 25 Ω
×
弓月 斗和 (ゆづき とわ) 20 α
派生CPも出ます。
※ 1月8日完結しました。
後日談はその内書くと思います。
ご閲覧ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる