【R18】私が後輩のセフレに沼ってから別れるまでのお話。

志貴野ハル

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第6章

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「……とにかくさ、彼女がいるなら今後は私じゃなくて彼女としなよ。彼女が悲しむよ。私だって、ユウマくんの彼女に刺されたくない」
「先輩はもう会ってくれないの?」
「サークルの中では会うよ」
「なにそれ、最近全然来てないし、会えないじゃん」

 ユウマくんは不満そうに言うけど、こっちだって言いたいことはある。
 このまま私が指摘しなかったら、何も変わらないていで会うつもりだったのか。そんなの、浮気だ。
 それにいずれ「彼女」に気づかれたとして、罵詈雑言を浴びせられるのは、悪者になるのはどうせ私のほうだ。ユウマくんだって「浮気する男」だというレッテルを貼られるのは嫌だろう。ただでさえ目立つ容姿なんだから。

「あのさ、誰かから聞いたかもしれないけど、私、部長と付き合ってたの」
「知ってるけど、何」
「別れた理由は向こうの浮気ってことも知ってる?」
「それも聞いた」
「このまま私と会うってことは、ユウマくんも彼女に対して同じことをするってことなんだよ」
「……………………」
「……はぁ。ほら、どうせ今から彼女のとこ行くんでしょ」

 これ見よがしにため息をついて、ユウマくんのバッグを押しつけて玄関まで誘導する。
 ユウマくんは最後まで「意味がわからない」というような顔で反論したそうにしていたけど、私のほうが彼を理解できない。
 誰かと深く付き合うのができないって言ってたくせに、嘘つき。
 ユウマくんの言葉を鵜呑みにして自分の気持ちすら言えないまま、一年間この現状に甘んじてた自分が馬鹿みたいだ。しつこく言っただけでユウマくんに好かれてもいない他人がこんなにあっさりと彼女になれるなんて。わかっていたら、私だってちゃんと口にしていた。

「なんで先輩が怒ってんの?」
「君が不誠実だからだよ」
「は?」
「とにかく、私は君の浮気相手にはなりたくないから。もう来ないでね」

 ユウマくんの背中を押して閉め出して、振り向いた彼に何かを言われる前に急いで玄関の鍵をかける。ドアが完全に閉まる前の、ユウマくんの顔は見られなかった。
 悲しくて悔しくて、うつむいた目から涙が落ちてくる。なんであんな薄情な人を好きになっちゃったんだろう……。なんで一番最初に好きって言わなかったんだろう……。
 最後のは、完全な八つ当たりだ。私は自分からセフレになるって決めたはずなのに、不誠実なんてユウマくんを責められる立場じゃない。だけど無性に悲しかった。ユウマくんの一番近くにいるのは私だと思っていたのに。選ばれなかったとか、裏切られたとか、自分のことを棚に上げて被害者みたいな気分になる。
 ユウマくんの彼女になれた人は、ちゃんと「好き」とか「付き合って欲しい」って言えたから付き合えたわけで。私は想っているだけで一言も言わなかった。だから彼女になれなかった。それだけ。少し考えればわかることなのに。
 今の関係が居心地良すぎて甘えていた。彼女になりたいと思いながら、心のどこかでこのままでいいとも思っていた。


 その日の夜と日曜日に、ユウマくんから着信があったけど出なかった。
 サークルのイベントがあるとき以外の休日に、連絡が来るなんて今までほとんどない。だから、こんなに何度も連絡が来るのは不気味で、取れなかった。
 もしかしたら何かを察した「彼女」がユウマくんのスマホからかけてきたのかもしれない。修羅場に巻き込まれるのはごめんだ。そんな変な妄想をしてしまうのは前にもあったからだ。

 二年前、元彼に二股をかけられて、糾弾された記憶がフラッシュバックしてくる。
 どう考えたって高校の頃から付き合っていた私のほうが先だったはずなのに、女のほうから「彼氏を奪った浮気相手」呼ばわりされた。
 横にいる男はバツの悪そうな顔でだんまりを決め込んでいて話にならない。こちらが間違いや勘違いを正そうとしても、頭に血が上っている女には何を言っても逆効果で、罵詈雑言を吐かれた後、最終的に頬を一発平手打ちされた。
 サークルの飲み会で起こったことだったから、周りには人もいて遠巻きに見られていた。次の日には飲み会に参加しなかった人達にも知れ渡っていた。
 そんな屈辱的な経験は二度としたくない。次に付き合うなら、浮気しない相手がいい。私だけを好きでいてくれる人がいい。だったらあんな、人の気持ちがわからない適当なユウマくんなんて、なおさらダメなんじゃないか……。
 どうせサークルにはもう顔を出すことはないし、あれだけ言われたらユウマくんだってもうここに来ない。
 諦める方向に結論が出ていて、あとは連絡先を消してしまえばそれで終わりなのに、思い出が邪魔をして指が動かない。

「……もう、なんなの。しんどいな……」

 独り言が部屋に漂って消えていく。
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