四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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事の発端

嘘でも嬉しかった

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 顔を赤く染めて俯いたまま動かなくなったクロエを、ルーナは公爵家の邪魔にならないよう自分達のもとへと引き寄せる。それを確認したオリビアは暫し間を空けて口を開いた。


「……ラゼイヤ公爵様」

「?どうかなさいましたか、オリビア令嬢」

「談笑中に失礼します。お話したいことが御座いますが、先にクロエが取り乱してしまったことをお許しください」

「そんな、皆様が此方にいらした理由が聞けて良かったですよ。それにクロエ令嬢が取り乱した原因は彼にありますから」


 そう言ってラゼイヤはゴトリルの肩を軽く小突いていた。ゴトリルには効いていないようだが。


「それと、お言葉も崩して頂いて構いません。私達は皆様よりも下級でありますので」

「そうかい?ならお言葉に甘えて」


 そう言うと同時にラゼイヤの口調がゆったりとほどけていく。気のせいかどうかはわからないが、姉妹達は皆場の変化を感じていた。
 ゴトリルの行動といいラゼイヤの解れようといい、先ほどまで緊迫気味だった空気が一変した気がする。


「それで、話とは?」

「それにつきましてですが……私達の婚約についてで御座います」

「……ああ、そうだね。まぁ、これを婚約と言って良いのかもわからないけど。何せ話が噛み合わないからね」

「はい。騙してしまうような形で申し訳御座いません」


 騙した、と言うと姉妹達に非があるよう思われるが、どのようなことであれ騙したことに変わりはない。縁談と称していらなくなった女共を捨てる良い口実なのだから。
 しかし、騙した相手が公爵となると話は別だ。

 現在、ベルフェナールを統治しているのは、紛れもなくラヴェルト公爵家である。この国の地位で言えばアミーレアの国王と大差無い身分だ。そんな彼らに婚約解消された辺境伯の令嬢を押し付けた上、その婚約で国と繋がろうなど無礼に値する行為に等しい。

 無理矢理追放された姉妹達もその被害者として該当するのだが、共犯として処罰の対象となる可能性もあり得るのだ。

 だが


「騙すだなんて。騙されても嬉しいことだよ」

「…………はい?」


 ラゼイヤは、そう返したのだ。
 これには流石のオリビアも困惑する。


「嬉しい、とは……?」

「いやなに、私達は見ての通りこの様だ。我が国民もこの姿にはあまり慣れていなくてね、街に出てはよく驚かしてしまうのだよ。それに私達の噂は国外にまで広がっているのだろう?この姿と知った上で婚約を申し込む令嬢はいないと思っていたんだ。だから、縁談の話を聞いた時は兄弟総出で喜んだよ。こんな私達にも婚約者ができるのだとね。本当に嬉しかったさ。たとえ騙されていたのだとしても、こうしてベルフェナールに来てくれただけでも嬉しくて怒る気にすらならないんだ」


 微笑みながら話す内容は、なんとも自虐的で希望論に満ち溢れた内容だった。


「ただ、君達にとっては望まぬ形であるからして……少し気不味いのもある」


 そう言って苦笑いする彼は、化物の姿であっても人間らしく思えた。


「……もしこの婚約が嫌であれば、遠慮無く申し出てくれないか?勿論、アミーレアに戻れないことは知っている。だから、君達が住める場所も保証してあげよう。どうかな?」

「え……」


 オリビアは、ラゼイヤから出た提案に驚きを隠せなかった。

 婚約を無かったことにして、その上自分達の生活場も確保してくれるという姉妹達にとっては最高の条件を、ラゼイヤは何の躊躇もなく出したのだ。
 ラヴェルト公爵家には何のメリットもない申し出を、ラヴェルト公爵側から出されたことにオリビアは酷く動揺していた。


「しかしながら、それでは貴方様達に負担しかかからないのでは?」

「いや良いんだ。困っていたらお互い様だろう?」


 オリビアとの問答を、軽くあしらうラゼイヤ。しかしそれでは、とオリビアは他の令息にも視線を向けたが、誰も反対する気配はない。むしろ、「最良の方を選んでくれ」と言わんばかりに見つめてくる。この視線が圧力にもなり、オリビアには少しばかり苦痛でもあった。

 今にも押し切られそうな雰囲気だったが、その話し合いに挙手する者がいた。
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