四人の令嬢と公爵と

オゾン層

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事の発端

彼女なりの名案

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「よろしいでしょうか?」


 そう言って手を挙げていたのは、三女のエレノアだった。


「思ったのですが、婚約は別に破棄しなくてもよろしいのではないでしょうか?」

「おや?何故だい?」


 エレノアの言葉に、公爵達の視線がオリビアから外れる。途端に、オリビアの体から緊張が抜けていった。
 そして、公爵家から一斉に浴びせられた視線にエレノアは臆することなく、ただ平然と答えた。


「私達は、別に対して好きでもない人の婚約候補として今まで生活していましたわ。ですから今更婚約者が変わったところですることは同じでしょうし、それに前の殿方には一切の未練も抱いてませんから問題無いと思いますの」


 エレノアの言う「別に対して好きでもない人」とは、十中八九ロズワートのことだろう。しかし、エレノアにとってロズワートという存在は既に忘れられた人物のようで、名前すら出されなかった。
 確かに、エレノアの言った通り皆ロズワートに対して不満はあるが、未練は無い。ならばその意見もまかり通るのだろう。

 ただ、この話し方からすると公爵達もその「好きでもない人」に該当していることとなる。
 エレノアの発言を客観的に汲みっとっていた姉妹達は冷や汗をかいていたが、


「それに、公爵様達は見た目も中身も個性的で、一緒にいたらきっと楽しいですもの!是非とも婚約したいですわ!」


 エレノアが笑顔で放ったこの一言で姉妹達は完全に固まってしまった。

 エレノアの言うことに悪意は含まれない。しかし、悪意が無い故に結構知らぬところで人を傷つけてしまうこともある。



 かつて、元婚約者であったロズワートもエレノアの一言で撃沈していることが多々あった。ただロズワートに関してはほぼ自業自得なので問題は無いが、他の者になるとそうはいかない。
 実際、エレノアの言葉で傷付いた人がいないわけではない。初対面であればその言葉に驚き、嘆き、憤った者達はたくさんいる。

 しかし、それで彼女が四面楚歌しめんそかに陥ったのかと問われればそういうわけでもない。

 初めは彼女のことを嫌っていた者も、しばらく話すといつの間にか打ち解けてしまう。エレノアの噂を聞いて警戒していた者も彼女と話した後はそれが誤解だったと考えを改めていた。
 ひたすらに頑固な者はエレノアのことを否定し続けたが、最後には折れてエレノアの性格を認めていた。
 こうしてエレノアは周りからも厚い支持を受けていた。彼女を嫌う者はロズワートやアレッサを除いて殆どいなかった。
 それもその筈だ。

 悪意無き者に悪意を向ける意味が無駄なのだから。



 けれども、今はその悪意の無さが公爵達にどう響くのかが問題だった。

 エレノア以外の姉妹達はただひたすらにこの時が去るのを待っていた。これほどまでに気不味いことがあっただろうか。

 エレノアはただ公爵達からの返事を健気に待ち続けている。姉妹達は今すぐにでもエレノアを下がらせようか苦悶していた。

 しかし、その言葉を聞いたラゼイヤは、エレノアを真っ直ぐに見て微笑んだ。


「なるほど。そういう考えもあるのか。名案だね」


 何処か思いふけるような仕草を見せるラゼイヤを横目に、隣にいたゴトリルも大笑いをしだした。


「確かにこりゃ名案だ!面白い奴と一緒にいた方が楽しいもんな!!」

「にしても……私達が『個性的』か。君は言葉を選ぶのが上手いね」


 やはりラゼイヤは「個性的」という言葉に着目していたようだが……表情からして悪くは思っていないようだった。

 そして、


「いいのかなぁ……僕らみたいなのが婚約しても」

「…………」


 ラトーニァはただただ困惑し、バルフレは沈黙を貫いていた。



 公爵達の反応を見たエレノアは、嬉しそうに、満足気に笑っていた。
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