【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
16 / 21

16 叫び

しおりを挟む
 全ての貴族からの挨拶が終わり、ようやくリュシエンヌはひと息ついた。

「大丈夫? リュシー。椅子に座って休むかい?」
「ううん、平気よレオン。今日は私たちのために皆さん集まってくださっているんだもの」
「そうだね。ひとまず婚約披露は成功だ」
「でもレオン……さっき、結婚するって言っていたけれど……」
「ん? 当たり前じゃないか。婚約の次は結婚だよ?」
「だって本当に私なんかで……」
「リュシー」

 レオンは少し怒ったような顔でリュシエンヌを見つめた。

「僕のことが信じられない? 僕はこんなに君への想いを伝えているのに……それとも、結婚したくないほど僕のことが嫌い?」
「違うわ! 私はレオンを信じてる。それに……嫌いなんかでは、絶対に、ないわ……」

 この気持ちが『好き』ということなのだろうか。マルセルの時はこんな風にならなかった。申し込まれたことがただ嬉しくて、婚約の事実に浮かれていたことは覚えている。だけど側にいると胸がドキドキして苦しくて、切なくなるようなこんな気持ちはレオンだけ。

(きっと私はレオンが好きなんだわ……マルセル様のような憧れではなく、共に生きていく相手としてレオンのことを……)

「ヴォルテーヌ公爵様! 少しだけリュシエンヌをお借りしてもよろしいですか?」

 突然の声に振り向くと、学園時代の同窓生が5人、笑みを浮かべて立っていた。その中にはアラベルも混ざっている。

「先ほどは行列してのご挨拶でしたからあまりリュシエンヌと話せていないので……」
「あちらで、何か軽いものでも食べながら懐かしい話をしたいと思っていますの」
「もちろん、かまいませんとも。リュシー、行っておいで」

 リュシエンヌはレオンへの想いを伝えるほうが先だと思った。しかしレオンは友人たちによそ行きの笑顔を向けると他の貴族のところへ行ってしまったのだ。

(レオン……怒ってる……? 私がいつまでも卑屈に考えているから……?)

 友人たちはレオンを目で追うリュシエンヌを取り囲み、手を繋いでテーブルのほうへ連れて行く。

「リュシエンヌ、目覚めて本当に良かったわ! そして公爵様との婚約おめでとう!」

 アラベルが給仕を呼んでワインの入ったグラスを配らせていた。

「リュシエンヌ、あなたはワインは飲めないんじゃなくて?」
「アラベル、そうなの。私まだお酒は苦手で……」
「やっぱり16歳なのね、言うことが若くて可愛いわぁ」

 友人たちが口々に若い若いと言う。リュシエンヌは少し悔しくなりワインに手を伸ばそうとした。

「だめよリュシー。今夜の主役に無理は禁物よ。こんなものはゆっくり慣れていけばいいのだから」

 そう言ってリュシエンヌに果実水のグラスを手渡した。

「ありがとうアラベル。そうね、酔って倒れたらいけないから。今日はこちらにしておくわ」

 リュシエンヌはアラベルの気遣いに感謝して微笑む。

「さあ学園の175期卒業生として、リュシエンヌの復帰を祝いましょう。乾杯!」

 リーダー格だった友人が声を上げる。皆はグラスを合わせ、飲み物をひと息に流し込んだ。

(あっ……?)

 口に含んだ果実水はざらりとした感触。飲み込んではいけないと本能が叫ぶ。でももう、間に合わない。

「……ごほっ、……」

 リュシエンヌは口を押さえて吐き出そうとしたが半分以上飲み込んでしまった。

「リュシエンヌ⁉︎   どうしたの⁉︎」

 友人たちが叫んでいる。

(だめだわ……私、また眠ってしまうの……?)

 グラリと揺れ倒れかけたリュシエンヌの身体を誰かが支えた。

「大丈夫だ、リュシー。気をしっかり持って」
「レ……レオン……」

 いつのまにかリュシエンヌはレオンの腕の中にいた。彼は心配そうにリュシエンヌを見つめている。

「きゃあっ!」

 友人たちの声がまた響いた。隣を見るとアラベルが床に倒れている。

「アラベルまで……どうしたの⁉︎」

 友人だけでなく周りの人々も騒ぎ始める中、オルガがアラベルに近づき様子を探る。

「レオン様。どうやら立てないようです。意識はあります」
「ま、まさか、アラベルも……被害に遭ってしまったというの?」
「違うよリュシー。アラベルが……君を眠らせた犯人だ」

 リュシエンヌを優しく抱いてくれているレオンの口から溢れた信じられない言葉。

「アラベルが、犯人……? 12年前の……?」
「そう。そして今また、君に魔法を掛けようとした」
「そんな……まさか……」

 リュシエンヌはアラベルを見た。開いた瞼の間から曇りガラスのように濁ってしまった眼球が見える。

「成功したの……? 代償を取られたということは、成功したのね……?」
「成功とは何だ。アラベルよ、お前はリュシエンヌに何をしようとした」

 怒りに震える声でレオンが問う。

「私と同じ身体になればいい。私の苦しみを知るといい。絶望とはどんなものか、私だけではなく甘やかされたお嬢様も味わうべきなのよ」

 リュシエンヌは今起こっていることが理解できなかった。

(私を眠らせたのが親友のアラベル? そしてまた私に何かをしようとした? どうして? アラベルは私を憎んでいる……?)

「あなたにとっては残念でしょうが、リュシエンヌ嬢は無事ですよ」
「誰?」

 アラベルも、そしてリュシエンヌも、涼やかな声のするほうへ顔を向けた。
 そこに立っていたのは銀髪の美しい男性。背丈はあまり高くないが近寄りがたい雰囲気がある。それでいて、どこかで会ったことがあるのではと思うような、懐かしい空気を纏った人だ。

「申し遅れました。私はアステリアの魔法大臣、ゼインです」

(魔法大臣様……! こちらに来られるのは明日ではなかったの⁉︎)

 周りの客たちがザワザワと騒ぎ始めた。『魔法だなんて、何を言っているのだ?』という囁きが聞こえてくる。

「どういう、ことなの……? 私は足と目を奪われたのよ? リュシエンヌに薬を飲ませることができた時、まじないが発動するの。だから、成功してるはずよ!!」

 最後は叫ぶような大声をだしたアラベル。目が見えないというのは本当らしく、床を手で探りリュシエンヌを探そうとする。

「ねえリュシエンヌ。今、お腹に衝撃が来たでしょう? あなたは子宮と卵巣を失っているはずなのよ。ヴォルテーヌ公爵に望まれて結婚したって、子供を身籠ることはできないの。あなたも夫を愛人に奪われるのよ。そう、私と同じようにね。いい気味だわ!! アハハハ!」

 涙を流しながら笑うアラベル。ゼインは肩をすくめ、ため息をついて何か呪文を唱えた。

「……!」

「少し静かにしていてもらいましょうか。全く話を聞かない人は困りますからね。ではまず言っておきますが、あなたがリュシエンヌ嬢に掛けようとした魔法は失敗し、術者の所に返っていきました」
「……?」
「失敗したとはいえ魔法は発動しましたので、あなたは契約通り足と目の機能を奪われた。ここまでは理解できますか?」

 さっきまで紅潮していたアラベルの顔は、いまや真っ青になっていた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

処理中です...