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7 家族になること
しおりを挟む「え……どういうことですの?」
私は疑問をぶつけてみた。仮にも新婚第一日目だというのに。
「どこか体調でも悪いのですか?」
「い、いや、そうではないのだが……」
ユリウス様の目は泳いでいる。瘤の下で赤い瞳が忙しなく動いているのがわかる。私はずいっと近寄ってユリウス様の顔を覗き込んだ。
「では、正直に言ってくださいませ。わたくしに原因があるのではないですか?」
「え⁈ いや、リューディア嬢に原因など……」
「だって、ユリウス様はお子が必要だと仰いました。それならば一刻も早くと考えるのが普通ではありませんか。となると、私に原因があるとしか……」
「いや、それはない。断じてない。原因は、私のほうだ」
ふと、沈黙が訪れて私たちは見つめ合った。そしてどちらからともなくフフッと笑うと、落ち着いて話をしようということになった。
サイドテーブルにヘルガが用意してくれていたワインを開け、ユリウス様がグラスに注いで手渡してくれる。
「ありがとうございます」
カウチソファに並んで座り、ゆっくりとワインを飲むユリウス様。
「リューディア嬢。えっと……まず、こんな私のところに嫁いでくれてありがとう」
(急にお礼を? どうしたのかしら……でも嬉しい)
「いえ、私のほうこそ。結婚して下さって本当にありがとうございます」
私は微笑んで返事をした。実際は、口の歪みのせいで微笑むことはできていなかっただろうけど。こういうのは気持ちが大事なのだ。
「私のほうが何倍も何十倍もありがたいと思っている。何故なら、こんな顔の私を恐れたり嫌ったりしなかったのは君だけだから」
「でも、私だってこんな大きな傷が顔にありますわ。……もしかしてこのせいで、私を抱く気になれなかったのではありませんか?」
「とんでもない! その傷のことは本当になんとも思っていない。それどころか、九つも歳上のこんな男にはもったいない、素敵な女性だと思っている」
「……そんなに、褒めていただけるほどまだお互いよく知り合えていませんわ」
ちょっとだけ拗ねてみせると、ユリウス様はひどく焦って私を覗き込んだりワインを飲み干したりと、挙動不審になってしまった。
そして、細い目をギュッと瞑ると、意を決したように目を開けて私の手を取った。
「リューディア嬢。私はこんな顔だから女性と付き合ったことがない。二十五歳の男が言う台詞ではないが……つまり、身体を触れ合った経験もない」
私はポカンとして彼の告白を聞いていた。
「それで……それでだが、私は、君と、まずきちんとお付き合いをしていきたいと思っている。こんな私を好きになってくれなどと、おこがましいことを言うつもりはないが、それでも少しずつお互いを知り合って、仲を深めていきたい。子供を作るのはそれからでも遅くないと思っているんだ」
私は、瘤の奥に隠れた彼の赤い瞳をじっと見た。最初から、彼の誠実さはこの瞳に現れているように感じていた、それは間違いではなかったと改めて思った。
「わかりました。私もユリウス様のことをもっと知りたいです」
そう答えると彼は顔を輝かせた。
「ありがとう。ではまず初めに……様、はのけてくれないか。ユリウスと呼んで欲しい」
「ユリウス」
試しに呼んでみるとユリウスは照れくさそうに頭を掻いた。
「では、私のこともリューディアと呼んでください」
「リュ、リューディア」
「ユリウス、緊張すると噛んでしまうのですね」
なんだか歳上のユリウスが幼く見えて私は笑った。
「リューディア、君の笑顔はとても素敵だ」
「でも……右の口角が上手く上がりませんわ」
「そんなの関係ない、素敵な笑顔だ。君が笑っていると私も幸せな気分になるよ」
そう言って笑うユリウスを見ていると、つーっ、と突然私の頬を涙が伝った。
「あ、……どうしたのかしら……今は全然悲しい気持ちじゃないのに」
「今までたくさん我慢してきたからじゃないかい?傷を負う前から辛い思いをしていたんだろう。家を出る時の家族の様子を見て感じたのだが」
ユリウスは見抜いてくれたのだ。私があの家で孤独だったこと。だから、笑顔を褒められただけで涙が出るほど嬉しいんだってことを。
涙を流し続ける私の手を両手でしっかりと包み込んでくれるユリウス。
「大丈夫。私がこれからリューディアの家族になる。だからもう泣くな」
温かい手に包まれて、寂しかった心がじわじわと溶け、絆されていくのを私は感じていた。
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