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学院での様子
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休み明け、レティシアはヘザーとともに登校した。ヘザーは今日から王立学院で勉強するのだ。
「あなたの学年は西の棟です。二年生の私は東の棟にいますから何か用がある時はそちらへ」
「お姉様、ではジョナス様は三年生だから南の棟にいらっしゃるのね?」
レティシアは眉をひそめたがヘザーは気にする様子もない。
「ジョナス様にも後でご挨拶に行ってくるわ。だって未来のお兄様ですものね」
「ご迷惑にならないように、あまり騒がないようになさいね」
「はいはい。では、行ってきます」
振り返ることもなくヘザーは立ち去った。
教室に入ると友人のアリスが走り寄って来た。
「レティシア! 待ってたのよ。あなた、ジョナス・ハワードと婚約するんですって!」
「ええ……まあね」
「やるわねえ、みんな狙ってたのに。やっぱり、次期当主様にはかなわないわ」
女生徒に人気のあるジョナスだが、彼が次男であることが大きな障害となっていた。爵位を継ぐことが出来ない彼は、『爵位を継ぐであろう女性』と結婚することが必要なのだ。そして今のところその条件に当てはまるのは学院ではレティシアしかいない。
「昨日顔合わせを済ませたの。私が卒業したら結婚する予定よ」
「おめでとう! 良かったわね」
心からお祝いを言ってくれているアリスだが、レティシアは素直に喜んでいいのかわからない。なぜか嫌な予感がするからだ。そしてその予感は当たった。
「ちょっとレティシア、あれ誰なの? ジョナスったら婚約したばかりでどういうつもり?」
昼休みのカフェテリア、ジョナスと同じテーブルに座り、楽しそうに話すヘザー。アリスはまだヘザーの存在を知らないのだ。
「実はね、アリス。あれは私の異母妹なの」
レティシアはこれまでの事情と昨日の出来事をアリスに話した。
「それは、狙われているわね」
「やっぱり?」
「ええ。レティシアからジョナスを奪おうとしてるんじゃないかしら。もしくは、邪魔をして喜ぶタイプか」
「邪魔をして喜ぶ……」
「とにかく、あなたも参戦してらっしゃい! そうでなきゃ、あのままあの二人が公認カップルに思われてしまうわよ」
「え、ええ、わかったわ」
レティシアが近寄って行くと、気づいたヘザーが手を振って大声を出す。
「お姉様、ここよ!」
それまで四人掛けの席でジョナスと向かい合って座っていたヘザーは席を立ち、なんとジョナスの隣に移動した。
「ヘザー、反対側に移動しなさい。婚約者でもない男性とそのような近い距離で座るものではありません」
「えー、だって、婚約者ではないけど兄妹じゃないですか。家族なら、これくらい近くても当たり前でしょう?」
ヘザーはまたしてもジョナスに腕を絡ませる。ジョナスは腕を抜こうという素振りは見せるが顔は嬉しそうだ。どんなに綺麗な顔をした男性でも鼻の下が伸びれば情けない顔になるものね、とレティシアは思った。
「まだ結婚していないのだからその理屈は通用しません。こちらに移りなさい」
ヘザーは腕をほどき、しぶしぶ席を移った。そしていざ三人になると、シン……としてしまった。ジョナスは気まずそうだしヘザーは膨れているし、レティシアは元々話上手ではない。沈黙に耐えかねてかヘザーは席を立ってどこかへ行ってしまった。
「二人で何を話していらしたの?」
「あ? ああ……たわいもないことだよ。学院のことなどをね、教えてあげていたんだ」
そしてまた沈黙。ジョナスは明らかにヘザーを目で追っていた。ヘザーは、二、三人の男子生徒と一緒に食事をとることにしたようだ。
(ああ、そんなことをしたら変な噂が立ってしまうのに……帰ったら注意しておかなくては)
「彼女はとても気さくで自由だね。やはり平民として育ってきたからだろうか」
「そうですね。母は基本的な礼儀作法は教えてあると言っていましたが」
「貴族のしがらみに縛られている僕らには、彼女の奔放さが眩しく感じるよ」
せっかく二人でいるのにヘザーの話ばかり。レティシアは砂を噛むような思いでジョナスの横顔を見つめた。
「あなたの学年は西の棟です。二年生の私は東の棟にいますから何か用がある時はそちらへ」
「お姉様、ではジョナス様は三年生だから南の棟にいらっしゃるのね?」
レティシアは眉をひそめたがヘザーは気にする様子もない。
「ジョナス様にも後でご挨拶に行ってくるわ。だって未来のお兄様ですものね」
「ご迷惑にならないように、あまり騒がないようになさいね」
「はいはい。では、行ってきます」
振り返ることもなくヘザーは立ち去った。
教室に入ると友人のアリスが走り寄って来た。
「レティシア! 待ってたのよ。あなた、ジョナス・ハワードと婚約するんですって!」
「ええ……まあね」
「やるわねえ、みんな狙ってたのに。やっぱり、次期当主様にはかなわないわ」
女生徒に人気のあるジョナスだが、彼が次男であることが大きな障害となっていた。爵位を継ぐことが出来ない彼は、『爵位を継ぐであろう女性』と結婚することが必要なのだ。そして今のところその条件に当てはまるのは学院ではレティシアしかいない。
「昨日顔合わせを済ませたの。私が卒業したら結婚する予定よ」
「おめでとう! 良かったわね」
心からお祝いを言ってくれているアリスだが、レティシアは素直に喜んでいいのかわからない。なぜか嫌な予感がするからだ。そしてその予感は当たった。
「ちょっとレティシア、あれ誰なの? ジョナスったら婚約したばかりでどういうつもり?」
昼休みのカフェテリア、ジョナスと同じテーブルに座り、楽しそうに話すヘザー。アリスはまだヘザーの存在を知らないのだ。
「実はね、アリス。あれは私の異母妹なの」
レティシアはこれまでの事情と昨日の出来事をアリスに話した。
「それは、狙われているわね」
「やっぱり?」
「ええ。レティシアからジョナスを奪おうとしてるんじゃないかしら。もしくは、邪魔をして喜ぶタイプか」
「邪魔をして喜ぶ……」
「とにかく、あなたも参戦してらっしゃい! そうでなきゃ、あのままあの二人が公認カップルに思われてしまうわよ」
「え、ええ、わかったわ」
レティシアが近寄って行くと、気づいたヘザーが手を振って大声を出す。
「お姉様、ここよ!」
それまで四人掛けの席でジョナスと向かい合って座っていたヘザーは席を立ち、なんとジョナスの隣に移動した。
「ヘザー、反対側に移動しなさい。婚約者でもない男性とそのような近い距離で座るものではありません」
「えー、だって、婚約者ではないけど兄妹じゃないですか。家族なら、これくらい近くても当たり前でしょう?」
ヘザーはまたしてもジョナスに腕を絡ませる。ジョナスは腕を抜こうという素振りは見せるが顔は嬉しそうだ。どんなに綺麗な顔をした男性でも鼻の下が伸びれば情けない顔になるものね、とレティシアは思った。
「まだ結婚していないのだからその理屈は通用しません。こちらに移りなさい」
ヘザーは腕をほどき、しぶしぶ席を移った。そしていざ三人になると、シン……としてしまった。ジョナスは気まずそうだしヘザーは膨れているし、レティシアは元々話上手ではない。沈黙に耐えかねてかヘザーは席を立ってどこかへ行ってしまった。
「二人で何を話していらしたの?」
「あ? ああ……たわいもないことだよ。学院のことなどをね、教えてあげていたんだ」
そしてまた沈黙。ジョナスは明らかにヘザーを目で追っていた。ヘザーは、二、三人の男子生徒と一緒に食事をとることにしたようだ。
(ああ、そんなことをしたら変な噂が立ってしまうのに……帰ったら注意しておかなくては)
「彼女はとても気さくで自由だね。やはり平民として育ってきたからだろうか」
「そうですね。母は基本的な礼儀作法は教えてあると言っていましたが」
「貴族のしがらみに縛られている僕らには、彼女の奔放さが眩しく感じるよ」
せっかく二人でいるのにヘザーの話ばかり。レティシアは砂を噛むような思いでジョナスの横顔を見つめた。
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