婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
3 / 9

ジョナスとの顔合わせ

しおりを挟む



 顔合わせの日、ハワード伯爵夫妻はたいそう機嫌が良かった。

「いやあ、まさかこんなに早く良い返事を頂けるとは。レティシア嬢は学院でも優秀だと伺っております。我が息子ジョナスはレティシア嬢を支え、当主の夫として良き家庭を築くことをお約束しますよ」

「こちらこそ、ハワード殿。勉強は少しばかり出来るかもしれませんがこの通り見た目も今ひとつなうえに愛嬌もないレティシアが、このように素晴らしい青年との縁談を頂けるとは嬉しい限りです。末永くよろしくお願いします」

 レティシアは精一杯の笑顔を作り挨拶をした。ジョナスはなるほど女生徒にモテるのもわかるわ、と思える美しい顔をしていた。プラチナブロンドに瑠璃色の瞳。背は高く足は長く、優しげな微笑みを見せる彼は非の打ち所がなかった。

「契約の話は大人に任せて若い二人は庭を散策でもしてきたらどうかしら」

 デミが口を挟む。

「そうだな。そうしなさい。お互いを知るよい機会だ」

 では、とジョナスは立ち上がりレティシアに手を差し出した。あまりに絵になるその様子に顔が赤らむのを感じるレティシア。

(確かに素敵な方だわ。私には勿体ないくらい)

 庭を歩き始めた二人はたわいもない会話をしながら咲き誇る花々を楽しんだ。

「ジョナス様、あちらにある薔薇のアーチが今とても美しいんですのよ」

「それは見てみたいな。案内してくれますか?」

 喜んで、とアーチに向かうとそこに置かれたベンチにはヘザーが座っていた。

「お姉様!」

 ヘザーは立ち上がり、走り寄ってきた。陽の光に明るい金髪がキラキラと輝いている。その瞬間、ジョナスが息を呑むのがわかった。

「レティシア様、この方は?」

「……妹でございます」

「確か、レティシア様は一人娘だと伺っておりましたが」

「私、先日この屋敷に入ったばかりなのでございますわ! お姉様とは母親が違いますの」

「そうでしたか。存じ上げず、失礼なことを申し上げました」

「気にしないで下さいな。それよりジョナス様、とても美しくて素敵なお方ですね! 婚約者になるお姉様が羨ましいでございますわ」

 ヘザーの奇妙な口調にレティシアは頭を抱えたくなったが、ジョナスには興味深く映ったようだ。

「あなたは面白い方ですね。それにとても可愛らしい」

「可愛いだなんて、嬉しいです! ジョナス様は私のお兄様になるんですよね? 仲良くして下さいませね」

 そう言うといきなりジョナスの左腕に自分の腕を巻き付けた。

「へ、ヘザー嬢……!」

 デミと同じく豊満な体型のヘザーに腕を抱き締められ、ジョナスは真っ赤になって腕を抜こうとした。

「ヘザー、とお呼び下さいませ! 妹なのですから気を遣わないで欲しいのでございますわ。さ、あちらへ行きましょう」

 グイグイと庭を進んでいくヘザーは途中で振り返り、

「お姉様、付いていらしてね? 三人で仲良くいたしましょう」

(どうしてあなたがそれを言うの。私の婚約者なのに。それにジョナス様も、腕を取られるがままで……ちゃんと拒否して欲しかった)

 悲しい気持ちになったレティシアだが二人を置いて部屋に戻る訳にもいかず、腕を組んで楽しげに喋り続けるヘザー達を後ろから眺めながらとぼとぼと歩いた。

「あらあら、ヘザーも一緒だったの?」

 三人で部屋に戻るとデミが芝居がかった口調で言った。

「もう仲良くなったのね? 若い子達は打ち解けるのが早いこと」

「ポーレット殿、こちらの方が先程仰っていたヘザー嬢ですか?」

 どうやら、席を外している間に事情を話しておいたらしい。

「そうです。まだ貴族社会に慣れていない所はありますが、天真爛漫で可愛い娘です」

 目を細めながらダニエルが言う。

「本当に、天使のようにお美しいお嬢様ですわね。ジョナス、可愛い妹さんが出来て良かったわねえ」

 ハワード夫人がにこやかに言ったが、本心はわからない。

「はい。彼女がいると場がパッと華やぐようです」

「あらまあジョナス様ったら。婚約者はレティシアなのですよ。あの子にも何か言ってやって下さいませ」

 デミは悪気のない冗談よ、とでも言いたげにレティシアを見て笑いながら言った。

「もちろん、レティシア様は理知的で素晴らしい方です。私でお相手が務まるかどうか」

「堅苦しい娘だからな。レティシア、お前がもっとジョナス殿をリラックスさせて差し上げないと」

「それはこれからでも大丈夫でしょう。学院でも顔を合わせますからな。レティシア嬢、ジョナスをよろしく頼みますぞ」

「はい、ハワード伯爵様、ジョナス様。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 レティシアは美しく礼をし、大丈夫、大丈夫と自分に言いきかせた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

塩対応彼氏

詩織
恋愛
私から告白して付き合って1年。 彼はいつも寡黙、デートはいつも後ろからついていく。本当に恋人なんだろうか?

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

恋人は笑う、私の知らない顔で

鳴哉
恋愛
優秀な職人の恋人を持つパン屋の娘 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日一話、予約投稿します。

デートリヒは白い結婚をする

ありがとうございました。さようなら
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。 関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。 式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。 「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」 デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。 「望むところよ」 式当日、とんでもないことが起こった。

裏切り者

詩織
恋愛
付き合って3年の目の彼に裏切り者扱い。全く理由がわからない。 それでも話はどんどんと進み、私はここから逃げるしかなかった。

あなたの1番になりたかった

トモ
恋愛
姉の幼馴染のサムが大好きな、ルナは、小さい頃から、いつも後を着いて行った。 姉とサムは、ルナの5歳年上。 姉のメイジェーンは相手にはしてくれなかったけど、サムはいつも優しく頭を撫でてくれた。 その手がとても心地よくて、大好きだった。 15歳になったルナは、まだサムが好き。 気持ちを伝えると気合いを入れ、いざ告白しにいくとそこには…

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

処理中です...