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ジョナスとの顔合わせ
しおりを挟む顔合わせの日、ハワード伯爵夫妻はたいそう機嫌が良かった。
「いやあ、まさかこんなに早く良い返事を頂けるとは。レティシア嬢は学院でも優秀だと伺っております。我が息子ジョナスはレティシア嬢を支え、当主の夫として良き家庭を築くことをお約束しますよ」
「こちらこそ、ハワード殿。勉強は少しばかり出来るかもしれませんがこの通り見た目も今ひとつなうえに愛嬌もないレティシアが、このように素晴らしい青年との縁談を頂けるとは嬉しい限りです。末永くよろしくお願いします」
レティシアは精一杯の笑顔を作り挨拶をした。ジョナスはなるほど女生徒にモテるのもわかるわ、と思える美しい顔をしていた。プラチナブロンドに瑠璃色の瞳。背は高く足は長く、優しげな微笑みを見せる彼は非の打ち所がなかった。
「契約の話は大人に任せて若い二人は庭を散策でもしてきたらどうかしら」
デミが口を挟む。
「そうだな。そうしなさい。お互いを知るよい機会だ」
では、とジョナスは立ち上がりレティシアに手を差し出した。あまりに絵になるその様子に顔が赤らむのを感じるレティシア。
(確かに素敵な方だわ。私には勿体ないくらい)
庭を歩き始めた二人はたわいもない会話をしながら咲き誇る花々を楽しんだ。
「ジョナス様、あちらにある薔薇のアーチが今とても美しいんですのよ」
「それは見てみたいな。案内してくれますか?」
喜んで、とアーチに向かうとそこに置かれたベンチにはヘザーが座っていた。
「お姉様!」
ヘザーは立ち上がり、走り寄ってきた。陽の光に明るい金髪がキラキラと輝いている。その瞬間、ジョナスが息を呑むのがわかった。
「レティシア様、この方は?」
「……妹でございます」
「確か、レティシア様は一人娘だと伺っておりましたが」
「私、先日この屋敷に入ったばかりなのでございますわ! お姉様とは母親が違いますの」
「そうでしたか。存じ上げず、失礼なことを申し上げました」
「気にしないで下さいな。それよりジョナス様、とても美しくて素敵なお方ですね! 婚約者になるお姉様が羨ましいでございますわ」
ヘザーの奇妙な口調にレティシアは頭を抱えたくなったが、ジョナスには興味深く映ったようだ。
「あなたは面白い方ですね。それにとても可愛らしい」
「可愛いだなんて、嬉しいです! ジョナス様は私のお兄様になるんですよね? 仲良くして下さいませね」
そう言うといきなりジョナスの左腕に自分の腕を巻き付けた。
「へ、ヘザー嬢……!」
デミと同じく豊満な体型のヘザーに腕を抱き締められ、ジョナスは真っ赤になって腕を抜こうとした。
「ヘザー、とお呼び下さいませ! 妹なのですから気を遣わないで欲しいのでございますわ。さ、あちらへ行きましょう」
グイグイと庭を進んでいくヘザーは途中で振り返り、
「お姉様、付いていらしてね? 三人で仲良くいたしましょう」
(どうしてあなたがそれを言うの。私の婚約者なのに。それにジョナス様も、腕を取られるがままで……ちゃんと拒否して欲しかった)
悲しい気持ちになったレティシアだが二人を置いて部屋に戻る訳にもいかず、腕を組んで楽しげに喋り続けるヘザー達を後ろから眺めながらとぼとぼと歩いた。
「あらあら、ヘザーも一緒だったの?」
三人で部屋に戻るとデミが芝居がかった口調で言った。
「もう仲良くなったのね? 若い子達は打ち解けるのが早いこと」
「ポーレット殿、こちらの方が先程仰っていたヘザー嬢ですか?」
どうやら、席を外している間に事情を話しておいたらしい。
「そうです。まだ貴族社会に慣れていない所はありますが、天真爛漫で可愛い娘です」
目を細めながらダニエルが言う。
「本当に、天使のようにお美しいお嬢様ですわね。ジョナス、可愛い妹さんが出来て良かったわねえ」
ハワード夫人がにこやかに言ったが、本心はわからない。
「はい。彼女がいると場がパッと華やぐようです」
「あらまあジョナス様ったら。婚約者はレティシアなのですよ。あの子にも何か言ってやって下さいませ」
デミは悪気のない冗談よ、とでも言いたげにレティシアを見て笑いながら言った。
「もちろん、レティシア様は理知的で素晴らしい方です。私でお相手が務まるかどうか」
「堅苦しい娘だからな。レティシア、お前がもっとジョナス殿をリラックスさせて差し上げないと」
「それはこれからでも大丈夫でしょう。学院でも顔を合わせますからな。レティシア嬢、ジョナスをよろしく頼みますぞ」
「はい、ハワード伯爵様、ジョナス様。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
レティシアは美しく礼をし、大丈夫、大丈夫と自分に言いきかせた。
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