俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十四章 氷結界

第146話 チュートリアル:雷人

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 西田 信彦。

 3025グラムの平均的な新生児として秋の紅葉が散る頃に誕生。

 信彦という名は彼が大好きだった祖母により名づけられ、祖母の葬儀では泣きながらも自分の名前が大好きだと伝える。

 学生時代の西田はネットにのめり込む陰キャ気質。しかし声が大きく誰とでも話せる性格ゆえに彼の周りには友人が多かった。

 大学生時代は性欲の塊で色々と奔走したものの、モテないのはネットに入り浸った結果である少し太った印象だと決めつけ筋トレを始める。筋肉が付き痩せもしたが結果はダメの一言。友人が彼女とイチャつくのを尻目に、彼は一人大人のお店へと用を済ませた。

 陰キャで陽キャ気質な西田は平々凡々な大学生活を送り、意味の無い飲みサークルにも通う日々。

「――かんぱーい!」

「かんぱーいうぇーい!」

 当時の彼は酒に呑まれ、居酒屋が出す酒を片っ端から飲み比べ、泥酔。あわやサイ○イマンの自爆でヤ○チャがムチャしやがってを完全再現も披露する始末。

 その画像。翌日には大学中に広がり一躍時の人となる。

「ノブ、それ死ぬ飲み方だよ?」

「俺の血は酒でできているんだよ」

「あほくさ」

 月野 進太郎の恋人――本村 真の忠告虚しく、五日後には再びヤ○チャと化し病院へ搬送された。

 就職も決まり、ダメ人間の頭角をすでに現していた時に事が起こる。

「――なんだよコレ」

 ダンジョンへ続くゲート。攻略者への一歩が舞い降りた。

 取得したスキル――『雷人らいじん

「ハアアアアア!!」

 雷を纏った姿で縦横無尽に暴れ回る様は、他の攻略者の追随を許さないほど。まさに天啓だと思った西田は内定を取り消し、攻略者としての道を歩むことにしたのだ。

 そして挫折を経験。敗北を知る。

 徹底した立ち回りで西田を完封した撫子。

「信彦。うちに入れ」

 差し出された手を握り、ヤマトサークルの一員となる。

 目覚ましい活躍をし、テレビでも取り上げられる西田。誰にでも笑顔で対話できる生粋の性格で一躍有名人。撫子率いるヤマトサークルが活躍するにつれ、西田メンバーの愛称が定着していった。

 そこそこの富、愛称が付けられる名声。悲しきかな女性関連のスキャンダルが無いのを除き、攻略者として成功している部類の西田。

 そんな彼にも一つ、悩みがあった。

「ッフッフッフッフ――」

 筋トレをしても。

「ッハッハッハッハ――」

 持久力を鍛えても。

《WINNER!!》

「――ふぅー。良いバトルだった」

 トレーニングに勝利しても。

 これ以上強くなる自信が湧かなかった。

 目先の目標は西田が完膚なきまでに打ちのめされたヤマトサークル長である撫子。

 その強さたるや西田の物差しでは測れないほどだった。

「さあ、かかって来なさい」

「――」

 きっかけはマーメイドレイドの家臣戦――『嫉姫家臣マーメイドヴァッサル セバスチャン』。

 不動 優星と共に相対した家臣ヴァッサル。その猛威たるや西田が経験したボスモンスターとは一線を画し、文字通り勝てるヴィジョンが見えなかったのである。

 しかし、不動 優星のスキルにより強化を得る西田。

(――この感覚は……)

 自分の力が底上げされた感覚。それを掴み、激闘の末家臣を倒すまではいかずとも、それに繋いだ形となる。

「あの感覚を忘れるな。あの感覚を忘れるな……」

 トレーニング中に何度も繰り返した言葉。

 日常生活で研ぎ澄まされた感覚を忘れていく西田。

 しかし、対グングニル戦。再び優星のスキル『同期シンクロ』が通った身体は燻ぶっていたあの感覚を思い出させた。

 ――――――キィィィィィィン

 耳は聞こえない。

 鼓膜が破れたからだ。

 渦巻く柄の先には三又に分れた穂先。

 帯電し、西田の奥底に湧き上がる力と同調する様な波動。

『深海王の槍 トライデント』

 西田はこの槍がこう訴えている様に思った。

 ――俺を扱えるか。

 吸い込まれる様に手を伸ばす。

 バチバチと弾ける帯電が西田の指先に触れると、奥底にある力が呼び起される感覚に陥る西田。

「――――――」

 握った柄から迸る雷に身体が熱くなり、胸から爆ぜそうな程の力の唸りが西田の身体から溢れ出し、周囲に無数の雷が放たれる。

「っきゃ!?」

 ――かくあるべし。

「うおあ!?」

 ――そうあるように。

「ック!?」

 ――運命が。

「危な!?」

 ――引き寄せた。

「――西田……メンバー……」

 ――今。

「うおおおおおあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――」

 ――――覚醒する。

 ――――――――

 ――――

 ――

 ッド――

「グガアアアアアアア!!??」

 感じたことの無い衝撃だった。

 その悲鳴にも似た咆哮は遠く遠く彼方にも広がる。

 先ほどまで住処で暴れていたのに、いつの間に空中にいるではないかと驚愕するグングニル。氷鎧を纏った体躯。自慢の回復力のおかげで全盛期に戻りつつあったにも関わらず、一瞬にして胸部の氷鎧が砕け散りグングニルは驚いた。

「ッッグア!!」

 氷結界の龍としての意地があるグングニル。不意を突かれた攻撃に驚いたものの、翼を使って滞空。相手を睨みつけた。

 その相手は翼を持つグングニルと違い、空を飛ぶと言うより浮いると言わざるを得ない。

 迸る雷を周囲に散らせ、雷と同じ色の眼と目が合い、武器である三又の槍がグングニルに向いていた。

「――」

 黒色だった西田の髪色は薄く発光した紫色に変化し、纏った雷は様々な色を浮かべ西田を守るかのように常時帯電している。

 口元を伝う吐く息にすら雷を発し、腕を動かすだけで無数の雷をその身から発生させた。

 スキル――『雷人』

 ここにあり。

「グガアアアア!!」

 痺れを切らしたグングニルは巨体を引っ提げて巨木の様な大きな前足を西田に――

 ――バチッ!

「グ――」

 それは奇妙な光景だった。

「……なんだ、アレ」

 里から離れた所で三井たちは見た。

 遥か上空。巨大な龍が雨の様に襲い掛かる雷群に襲われ、ひと際輝く紫色の雷に文字通り光速で嬲られていた。

 息をつく間も無く。

 思考する間も無く。

 防御する間も無く。

 攻撃する間も無く。

 グングニルはひたすら攻撃を受けた。

 受けざるえなかった。

 雷に撃たれ続け感電した代償は龍であっても無視できない。既に氷鎧の殆どが砕かれ、体の芯にまで響く攻撃。堪らず悲鳴をあげる。

 しかし、そんな事はあってはならない。

 ありえない。

 そう感じるプライドがグングニルにはあった。

「――」

 光速で動く矮小な存在。

 一瞬止まった動きをグングニルは見逃さなかった。

 ――ここだ!

 そう思っ――

 ――バチッ!!

「グガ!!??」

 牙が捥げる強烈な一撃が顔面を襲った。

 遥か上空からノンストップで落下するグングニル。

 衝突した氷山に穴をあけ、山の峰が崩れ去る。

 ――バカな――ありえない――この我が――一方的に。

 崩れる氷山の中で起き上がったグングニル。

 意思を宿した瞳が怒りを宿し、咆哮と共に傷ついた体が高速で回復していく。

 ――――――ッ

 ふと、気づいてしまった。目が合ってしまった。

 何度も対立し、何度も鎬を削り、何度も認め合った同族の好敵手。

 首だけになった奴の光の無い目がグングニルを見ていた。

「――ガアア■アア◇アア□アアア◆アアアアア――」

 空に響いたのは悲鳴だった。

 悲しみや怒り、憤りと理不尽。それらが混ざり合った悲痛な咆哮が響く上空に雷人《にしだ》は居た。

 時間にして一分弱。ッド、と氷山を砕き上昇してきた龍が居た。

 その巨体は氷鎧で覆われ見る者すべてを魅了してしまう美しさを持つ。

 巨木を思わせる前脚と後脚には鋭利に尖った氷鎧が纏われ、尻尾には穿つ事に特化した斧にも似た槍が。翼を一扇ぎすれば氷の結晶が生まれ凍える風が発生。

『氷結界の轟晶龍ごうしょうりゅう グンリューナル』

 友を喰らいその力を宿した龍。

「……」

 深海王の槍を手に覚醒した雷人。

 ――――――ッドッド!

 今、二つの存在がぶつかり合った。

 氷の息が雷を覆い、雷が氷を粉砕する。

 幾度となく衝突する両者はしだいに高く高く空に舞い上がり、地上から見ていた者たちの前から姿を消した。

 いつの間にか暗雲が立ち込めた空。

 それは自然と発生したのか、それとも両者の衝突で発生したのかは定かではない。

 雲の中で雷雲がゴロゴロと鳴る。時折雲の隙間から黄色だったり赤だったり、紫だったりと雷の色が見え隠れ。

 メンバーの誰かがユラユラと雪が降るのを見た。

「……紫色の雪? ッ!」

 それに触れた途端、静電気が走った様に痛みを感じた。

「……」

 撫子も同じ空を見上げていた。

 しかし身を翻して歩くとこう言った。

「ここから離れておけ。死にたくなければな」

 その言葉にメンバーの全員が血相を変えて避難。

 ティアーウロングだけがその場に残り、全員が広間の外に移動した。

 ――瞬間。

「――あれは!!」

 雲から割って出たのは龍の背。

 それは一瞬で全貌を現わし、胸を穿つ極太の雷が龍を突き下していた。

 一秒にも満たない落下。

 里の広間に激突した龍と雷。

 その余波がヤマトサークルを襲い、里の家屋が吹き飛ぶほどの衝撃。

「龍が――」

 力なく倒れ、赤く胎動していた心の臓が雷によって穿かれていた。

 ――うおおおおおおおおおおお!!!!

 歓喜。

 龍が斃れたとヤマトサークルの野太い歓声が響き渡る。

「ノブさん!! 流石っスよ!!」

 宙に浮く西田に下山した三井は明るく称えるが、気づいた。

 歓喜に浸らず警戒心を露わにした西田が北の山を凝視。

 それは西田だけではない。

 撫子も北に顔を向け、いつの間にか家屋の屋根に居る家臣の黄龍仙も北を。

 そしてグンリューナルの亡骸からティアーウロングが何事も無く浮いて出てくると、振り返って北を見た。

 三井も釣られて北を見る。

「……あれは」

 三井が装備した小型カメラの映像を見た有栖。

 北の山に、何かの群れが向かって来ていた。
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