俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十六章 強く激しく

第175話 チュートリアル:黄金の風にて

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 夜の九時。

 眠らない街である学園都市の繁華街。

 端の入り組んだ路地。そこを進む途中に地下へと続く階段がる。

『BAR~黄金の風~』

 店内はシックな青色を基本とし、所々金色の装飾が施されている。店内の明るさは明るすぎず暗すぎない塩梅。テーブルやカウンターに客が。ディープな雰囲気のジャズが流れ、一部声の大きな客も居るがだいたいの客は静かに酒を楽しんでいた。

 そしてその中の一人である女性。カウンターでカクテルを一口飲みこんだ。

「――久しぶりにこう言った静かな店に足を運んだわ。仕事で忙しいのも考え物ね」

「俺世界中回って思ったんだけどさぁ、有栖くんに限らずこの国の奴ら働きすぎじゃないか? 俺がいた国の奴隷でもクソ長い時間? ああ拘束時間か。働いてないぞ」

「不景気だからってのもあるけど、元々日本人は働き者なのよ。っま、今は働けど賃金は増えないのがねぇ。昔は働いた分だけ貰えたらしいし……」

「……あっそ。日本人は辛いねぇ」

 有栖の隣で酒を煽るエルドラド。室内だというのにサングラスをしているのはもう彼のキャラクター性であった。目の前でグラスを拭いている虚無家臣の宰相――サイに加え、他の誰もツッコミをしない。

「BAR黄金の風が開店して数か月。オープン記念で誘ったのにやっと来やがった」

「私はあなたと違って暇じゃないのよ。――ん」

 カクテルを飲み干す有栖。方眉を器用に上げて美味しいと表現。

「マスター。これと同じものを」

「畏まりました」

 少しはだけた服装のサイ。注文を受けた彼は慣れた手つきでカクテルを作っていく。

「今日だって日本の支部に来て少しだけ時間が空いたから来れたのよ? 本当は萌の様子を見に行ったのにタイミングよく留守だし……。いや、タイミングが悪いのか……」

「萌くんは彼女ができて忙しいんだって」

 有栖の方眉がピクリと動くと隣を睨む。

「エルドラド、なんで萌に彼女ができたって知ってるのよ……。まさか萌に接触――」

「たまたま偶然だってぇ。最初に会ったアレは去年の夏ごろ――」

「去年夏ですって!?」

 座っていた椅子から立ち上がりエルドラドを睨む有栖。身に纏う殺気に触れカクテルを淹れるための用意したグラスにヒビが入り、サイはそそくさと何事も無くグラスを交換した。

「エルドラド。事と次第によってはあなたに消えて貰うわよ」

 隠すことをしない溢れ出る殺気。有栖がエルドラドに対し強気でいられるのは『彼の心臓』を管理しているからだ。この殺伐とした状況にテーブル席の赤髪の男はニヤニヤが止まらない。その眼は早く事を構えろと言わんばかりだ。

「落ち着けってママ。ビーチで日光浴してたら場所取りに苦戦してる若者がいて、退くから使っていいよって声をかけたのが萌くんだっただけだ」

「……信用できないわ」

 有栖の指が鷲塚む形になる。

「マジなんだがなぁ。これ以上言い様は無いし、信じて貰うしかない。言ったろ推しだって。萌くんのいろいろ事は知りたいんだよ。何もしないから安心しろって。ンク」

 のらりくらり。有栖の殺気をものともしないエルドラドは通常運転。酒を煽る。

 睨む有栖の後ろ。BARの入り口の扉の向こうで淡い桃色の光が突如として灯り、ガチャリとBARに人が入ってきた。来客だ。

「――あらあら珍しいこと。ここにお客さんが来てるなんてね」

「……」

 瞬時に殺気を消した有栖。声の方へ振り向くと、ピンク色のドレスを着た所に言うセクシーな女性が来店していた。

「お隣失礼して?」

「……ええ。どうぞ」

 女性が隣へ座る。

 関係のない来客の前でエルドラドを問い詰めるほど有栖は怒っていない。今はエルドラドの言葉を素直に受け止め信じるしかなく、何とも歯がゆい面持ちで席に座り直した。

「なぁんだ。面白くねー」

 赤髪の客が小さくぼやいた。

 スッと注文したカクテルが有栖に提供される。

「サイ。いつものちょうだい」

「かしこまりました」

 ここをしきりに贔屓しているのか女性は慣れた声で注文。有栖はエルドラドをチラリと睨むと、隣の彼女が声をかけてきた。

「ふふ。お隣の彼にナンパされたの?」

「まさか。彼とは仕事仲間。ここの開店時に彼に誘われたけど忙しくてね。時間ができたから足を運んだのよ」

「まあ。じゃあ今日が初めてなのねぇ」

「ええ。金色ばかりで落ち着かない店かと思ったけど、彼の開いた店にしては従業員も大人しいし店の雰囲気もいいわね」

「俺ってどんな評価なんだよ……」

 カウンターに肘を置き手で顔を支え女性陣を見たエルドラド。ぶっきらぼうにぼやく。

「普段の行いがそう思わせてるのよ」

「そうそう」

「なんだよ二人して~。俺ちゃん泣き虫なんだぞ~~」

 同じくクスリと笑い提供されたカクテルを飲む有栖と女性。

(たまにはこういった話をするのもいいかもね。今度はパパも連れてこようかしら。まぁパパは声が大きいから注意されそうだけどね)

 ここの雰囲気を気に入った有栖。夫を連れてくると想像をして思わず頬が緩む。

「ふぅ。そろそろ時間ね。美味しかったわマスター」

「ありがとうございます」

 サイ――宰相に酒の礼を物腰柔らかに伝える有栖。

「あらぁ、もう帰っちゃうの?」

「ええ。仕事がまだ残ってるし、明日も早いから」

「今日は俺の奢りだ。また来てくれよ?」

「約束はできないわね」

 冗談を言いながら立ち上がる有栖。

 ――カラン♪

「いらっしゃいませ」

「ああ」

 再び来客。自ずと有栖の視線も来客に向かう。

「――ッッッ~~~!!??」

 ――そして心臓が握り潰される感覚に陥った。

 石像の様に硬直してしまう有栖。その横をスタスタと通り過ぎる青髪の男。

「サイ、いつものを」

「かしこまりました」

 カウンターの端に座った彼。

「ッ」

 硬直を解いた有栖は振り向いて青髪の男を凝視。

 青髪に凛とした顔立ち。有栖は見覚えがあった。見覚えしかなかった。

 報告書やヤマトサークル長――大和 撫子のカメラで見た顔。

 ぶわっと有栖の額に汗が噴き出た。

 そして震える声で呟く。

藍嵐君主タイフーンルーラー……ネクロス……」

「……」

 ネクロスの鋭い横目が有栖を射貫く。
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