俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

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第十六章 強く激しく

第176話 チュートリアル:仲良く

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「……国連とやらの女か。エルドラドには気を付けろ。そいつは誰彼構わず女なら抱こうとする輩だ。節操がないにもほどがある」

「おいおい青いのぉ、ちと辛辣すぎやしないか? 俺だって選んで抱いてんだよ」

「……腹上死しろ」

「もう死んでんだよなぁ」

 ネクロスに酷い言われようなこの男。後頭部をポリポリと掻くエルドラドは気にする様子を見せない。

「エルぅ。私と今晩どう? 昇天させてあげるわよぉ?」

「ぜっっっっったいに嫌。あんたと寝た日にゃマジで消滅する」

「残念だわぁ。ふふふ」

 エルドラドの隣に移動したピンクドレスの女性――ヴェーラ。エルドラドの太ももを手で摩って誘うもドン引きしたエルドラドは払う様に手を退かせた。

「ネクロス様。静寂でございます」

「――ンク」

 提供された青いカクテルを飲むネクロス。グラスをカウンターに置き、睨みを利かせ少しだけ近づいて来た有栖を見る。

「そう凝視されてはおちおち酒も飲めん。用があるならさっさと話せ」

「ッ」

 額に汗をかく有栖。彼女は戸惑っていた。

 ダンジョン――『氷結界の里』。何故ゲートを通らず入れたのか、あの蜘蛛型モンスターと巨人モンスターは何なのか、三体の龍は何なのか。遥か太古まで遡る氷結界の軌跡、ネクロスによる最初の封印。諸々のあらましをエルドラドの事後報告で分かったが、まだ分からない、聞いていない、知らされていない事が多すぎた。

 理性のルーラーズである彼らの窓口は黄金君主ゴールドルーラーに加え虚無家臣ヴァニティヴァッサルであるが、予想だにしない邂逅。

「れ――」

 混乱する頭で色々と思考した結果。

「礼を言うわ。みんなもがんばったけど、貴方の尽力のおかげでダンジョンブレイクを阻止できた。ありがとう」

 感謝を述べた。蠢く蟲、巨大な魔神、氷結の龍。それらがダンジョンから這い出てロシアから始まるであろう人間に対しての蹂躙。容易に想像できる

 無論日本最強の女であるヤマトサークル長――大和 撫子と覚醒した西田が奮闘すれば防げると信じていたが、加わった幻霊君主ファントムルーラーと幻霊家臣ファントムヴァッサルも一塩。結果的に無事に収まった。

 軽くお辞儀をした有栖。顔を上げると、ネクロスは視線だけでなく顔を向けていた。

「礼はいい。元はと言えば氷結の龍を里に棲む者たちに管理させず、トリシュラの様に私が管理すればよかった。まぁあの里に紆余曲折はあったにしろ、に悪用されたの事実は変わらん」

「……」

 有栖は考えた。一連の黒幕であった本能のルーラーズの一体――傀儡君主マリオネットルーラーについて情報を聞き出そうかと。しかし聞いたとてエルドラドから得た情報以外は出ないだろうと判断。

 ふと、有栖は嫌な考えが過る。

「エルドラド……」

「あん。なんだよ。仕事しに戻るんじゃないのか?」

 いつの間にエルドラドのカウンターの上にはビールジョッキが。有栖は息を飲む。

「……藍嵐君主が来たという事は、他のお客もそうなのかしら」

 言葉を口にすればなおのことジワリと汗が噴き出る。

 有栖が問うた事柄。それはつまり――

「――そうだ」

「――ッ」

 有栖の心臓が締まる。

「カウンターにデカチチ乗せてるこいつも」

「あらあら」

「あっちでニヤニヤしてる赤いのも」

「ハンッ」

「みんな仲間の君主ルーラーだ」

 ――ゾゾッ

 背筋が凍った。先ほどまで話していた。女性がルーラー。テーブル席で様子を伺っていた赤髪の男もルーラー。そして青髪と灰髪もルーラー。

(とんでもない客層ね……)

 そもそも君主なら視界のメッセージ画面が現れるはず。その作用が無いのは彼彼女たちはルーラーであることを隠せる事と同義。冷や汗が止まらない有栖。

「まぁそうビビるなって。俺たちは国連に味方してんだ。囲ってどうにかしようなんて思ってねぇよ」

「その言葉が本当だといいけど」

「本当よ。現に貴女に危害は加えて無いし、私って争いごとは嫌いなのぉ」

 椅子から立ち上がるヴェーラ。セクシーな女性に見えていた彼女だが、今の有栖には物の怪に見えてしかたがない。ヴェーラが近づいて来るに連れ、有栖も自然と一歩下がってしまう。

 一歩迫り、一歩下がる。繰り返すと壁に当たり後退できなくなっていた。

「ッ!!」

 逃げられないと判断した有栖は自前の糸を出そうと――

「――だーめ」

「――ッ」

 瞬き一つで迫られ糸を出そうとした腕を掴まれた。

 腕を掴まれたと言うのに有栖は身動きが取れない。

「ねぇ女同士仲良くしましょう……」

 腕を持ち上げられ体が壁に押しつけられる。

「私たち、さっきまで仲良しだったでしょう?」

「――ッくあ――」

 耳元で囁かれる有栖。ヴェーラの吐息を肌で感じ、蠱惑で妖艶な声が有栖の脳を刺激し出したくもない嬌声が漏れてしまった。

(なに、これッ!? 身体がおかしいッ!)

「お友達になりましょう……。きっと楽しいわよ……」

「――ッぁあ――」

「貴女のこと教えてちょうだい……」

「ぁうぅぅッ――」

 ヴェーラが囁く度に敏感になった有栖の芯が震える。その兆候が赤くなった頬、震える肩や脚に現れた。

(感じずにはいられない快感ッ。これは毒と同じ状態異常そのものッ。これもルーラーの力だとでも言うのッ)

 痙攣を引き起こす有栖の体。頭では分かっていも体が異常をきたしどうしようもない。

「――ふぅぅぅ」

 止めと言わんばかりに耳元に息を吹きかけるヴェーラ。

「――ッああ――」ビクビク

 震えながらも体重を支えていた脚から崩れ落ちる有栖。

 しかしながらも心は倒れておらず、目には強い光が宿っていた。

 そして。

「――ッ!!」

 ビクつく体を無理やり立たせ、逃げる様にBARから出て行った。

「あらあらぁ」

「快楽の権化とお堅い女の交わりはそそるものがあるが、スキあらば誰彼構わず快楽に堕とそうとするの悪い癖だぞヴェーラ」

「彼女いい人だったからついねぇ」

「有栖くんに死なれちゃ困るからお前は当分近づくな」

「はぁい」

 何とも間の抜けた返事をするヴェーラ。やれやれと首を振るエルドラドはこめかみを押さえて呆れるのだった。

「こりゃ親子共々一波乱だな。ンク」

 ジョッキを煽るエルドラド。

「どういうこと?」

「白鎧がティアーウロングを呼びだした」

「白鎧が……か」

「ああそうだ」

「珍しいわね、彼女が個人的に呼ぶなんて」

「理由は知らんから聞くなよぉー。俺は酒さえ飲めればいいんだ」

 ビールジョッキを手に取るエルドラド。

 ティアーウロング――萌の心配を心に思う彼だった。
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