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第十九章 進路
第252話 チュートリアル:チェリーボーイ
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落ち着いた青色のシックな壁。それをオレンジに染めるのは天井から射す複数のライト。
観葉植物もあり、手触りが良い上質なソファに加え、手に持ったグラスをコースターが支え、そのコースターをしっかりとした深みと厚みがあるテーブルのマットが支える。
何処からともなく流れてくる店内のBGMは落ち着いており、ジャズピアノがディープな雰囲気を演出している。ちなみに余談だが、耳障りの良いピアノの演奏は、この店のテンダーが弾いたと言うのはあまり知られていない。
「……♪」
BAR~黄金の風~
少し入り組んだ場所に店を構える、知る人ぞ知るBARだ。
カウンターでグラスを磨いているのはここのテンダー。スタイルもよく端正な顔立ちであり、バーテンダーとしては非常に様になっている。
名は「サイ」と言う。
昨今の事件によりしばらく店を閉めていたが、所用が片付き昨日の夜から再び開店。本来の姿である甲冑を脱ぎ、しばらくぶりにテンダーとして働く彼。
主を守るという役目の傍ら、任務という項目で日本に降り立ち、そして現地に降り立つも、まさかテンダーという仕事を楽しんでしまっているなどと、彼は日本に来るまで思いもしなかった。
鼻歌交じりにグラスを磨く。
透明度の高いグラス。そのグラスに反射して姿を映したのは、ピンク色の服装、ピンク色のカクテルを飲んでいる女性だ。
「――ン」
少し厚めの唇をグラスから離し、舌先でチロと唇を舐る様をカクテルに沈んだチェリーが目撃。
豊満すぎる乳房をカウンターに乗せ、細めた艶めかしい視線で甘く甘美な声でこう言った。
「私……最近、欲求不満なの……」
「……。……」
何時如何なる時でも冷静沈着なサイ。その彼が、たった一つの言葉でグラスを拭く行為を止め、透明なグラスを見つめて冷や汗をかいた。
「ほら、例の難民受け入れの件で、ホワイト・ディビジョンでの私の地区にも受け入れたでしょ?」
ピクリと体を震わしたサイ。スッとお辞儀をした。
「……その節は感謝します。淫魔の類は些か慎重に扱わないと大変ですので……。ヴェーラ様の懐の深さに、脱帽でございます」
「あらご丁寧に。サキュバスは当然のこと、インキュバスも居たんじゃ大変だしね。同じ淫魔だから同情の心で受け入れたのよ」
「重ねて、感謝致します……」
再びお辞儀するサイ。しかしながら、タラリと滴る汗が床を汚す。
「生存本能かしらねぇ。私の地区は場所さえ弁えればいつでも事を成せるけど、今回の移民は一味も二味も違う勢い……。昼夜問わず本能を曝け出してるから、私も溜まってきちゃってねぇー」
「……ッ」
冷や汗が止まらないサイ。
ヴェーラの唇が動く度に、蠱惑な香りが漂ってくる度に、サイの生存本能が刺激され情欲の中に沈み込んでしまいそうになる。それを我慢するのに必死であり、グラスを磨く手が震える程だった。
(め、眼を合わせてはいけない……)
カウンターを挟んだ手の届く場所に、極上の淫魔がいる。その事実が思考を鈍らせるも、溺れると消滅してしまうと言う鋼の意志で耐えていた。
「――ねぇサイ。今晩どう?」
「ッお、お戯れを……」
少し火照った指先がグラスの縁を撫でまわす。
そんな時だった。
「おいケツデカ!! いい加減に魅了《チャーム》撒き散らすの止めろ!! 甘ったるくて耳が痛てぇんだよ!!」
脚をテーブルに乗せソファに座る赤髪の男が怒号を放った。
満たされた魅惑の空気が怒号により晴れ、サイは大きく鼻から息を吸った。
「もう」
いいところを邪魔されたヴェーラは不機嫌な顔で後ろを向いた。
「ちょっと、邪魔しないでくれる? もう少しで食べれるところだったのにぃ……」
「お前がサイの邪魔してんだろうが!! いつもいつもここに居やがって暇か!! こちとらここに来るたびに見たくもねぇケツ眺めてんだ!! いい加減酒も不味くなるわ!!」
ッケ! とテーブルの上で脚を組み直したフリード。口を尖らせマジキチ顔で中指を立てる。
「あらご挨拶ね。タダで私のおしりを見れるのってとってもラッキーな事なのよ? それともなぁに。こうして私にちょっかい出すのって、もしかして私に気があるのかしらぁ……」
「は?」
ふっくらとした唇の指先を当てるヴェーラ。その蠱惑的な仕草を見たフリードは篭絡される……はずもなく、額に青筋を立てる始末。
「もう、あからさまに嫌そうな顔しないでちょうだい。私だって女よ? 傷ついちゃうじゃない」
「女は女でも魔性の女だけどな!」
ビシッと言い切ったフリードはドヤ顔で酒を煽る。
「チェリーって訳でも無いのにぃ、そんなに否定されちゃったら私自信無くしちゃう……。これでも包容力はある方なんだけど――」
悲しそうな表情で広げた指の爪の具合を見たヴェーラ。しかしながら、言葉が止まってしまった。
滲んだ視界の外に、視線を明後日の方向に向いているフリードを見たからだ。
ルーラーですら堕としてしまうチャームを物ともしない精神力を持つ、灼焔君主《フレイムルーラー》クリムゾンフリード。
その彼が、眼を泳がせ明らかに動揺し、額に冷や汗をかいていた。
((――え?))
まさかと内心驚く二人。
唖然とするサイとヴェーラを見たのか、フリードはあたふたとテーブルから足を降ろして立ち上がり――
「――ち、チェリーじゃねえし!!」
捨て台詞を吐いて赤い空間の中へと消えていった。
「「……」」
台風の様な怒涛の逃走。
誰がどう見繕っても、フリードの純粋な部分は露になっていた。
気を取り直しサイはグラスを拭き、ヴェーラはカクテルを飲む。
「彼ったら戦いは大好きなのに、そっちは意外と分からないものねぇ」
「ヴェーラ様、この事は他言無用でお願いします」
「言われなくても分かってるわ。ふふ。雄々しく戦う姿を知ってるけど、可愛い一面も見れてちょっとだけ好きになったかも」
クスリと笑うヴェーラ。
カランコロン♪
扉が開く音。客が来店。
「――相変わらず閑散としてるわね」
入店した女性が辛口のコメントを言った。
「いらっしゃいませ、花房様」
サイは深くお辞儀した。
顔を上げると、体格のいい男性が女性の後ろから現れた。
「久しぶりに日本に帰って来たから寄らせてもらったわ。今日は夫も一緒なの」
「へぇママの言う通り、いい雰囲気のBARじゃないか。HAHA」
花房夫妻。夜の大人の時間を楽しんできた。
観葉植物もあり、手触りが良い上質なソファに加え、手に持ったグラスをコースターが支え、そのコースターをしっかりとした深みと厚みがあるテーブルのマットが支える。
何処からともなく流れてくる店内のBGMは落ち着いており、ジャズピアノがディープな雰囲気を演出している。ちなみに余談だが、耳障りの良いピアノの演奏は、この店のテンダーが弾いたと言うのはあまり知られていない。
「……♪」
BAR~黄金の風~
少し入り組んだ場所に店を構える、知る人ぞ知るBARだ。
カウンターでグラスを磨いているのはここのテンダー。スタイルもよく端正な顔立ちであり、バーテンダーとしては非常に様になっている。
名は「サイ」と言う。
昨今の事件によりしばらく店を閉めていたが、所用が片付き昨日の夜から再び開店。本来の姿である甲冑を脱ぎ、しばらくぶりにテンダーとして働く彼。
主を守るという役目の傍ら、任務という項目で日本に降り立ち、そして現地に降り立つも、まさかテンダーという仕事を楽しんでしまっているなどと、彼は日本に来るまで思いもしなかった。
鼻歌交じりにグラスを磨く。
透明度の高いグラス。そのグラスに反射して姿を映したのは、ピンク色の服装、ピンク色のカクテルを飲んでいる女性だ。
「――ン」
少し厚めの唇をグラスから離し、舌先でチロと唇を舐る様をカクテルに沈んだチェリーが目撃。
豊満すぎる乳房をカウンターに乗せ、細めた艶めかしい視線で甘く甘美な声でこう言った。
「私……最近、欲求不満なの……」
「……。……」
何時如何なる時でも冷静沈着なサイ。その彼が、たった一つの言葉でグラスを拭く行為を止め、透明なグラスを見つめて冷や汗をかいた。
「ほら、例の難民受け入れの件で、ホワイト・ディビジョンでの私の地区にも受け入れたでしょ?」
ピクリと体を震わしたサイ。スッとお辞儀をした。
「……その節は感謝します。淫魔の類は些か慎重に扱わないと大変ですので……。ヴェーラ様の懐の深さに、脱帽でございます」
「あらご丁寧に。サキュバスは当然のこと、インキュバスも居たんじゃ大変だしね。同じ淫魔だから同情の心で受け入れたのよ」
「重ねて、感謝致します……」
再びお辞儀するサイ。しかしながら、タラリと滴る汗が床を汚す。
「生存本能かしらねぇ。私の地区は場所さえ弁えればいつでも事を成せるけど、今回の移民は一味も二味も違う勢い……。昼夜問わず本能を曝け出してるから、私も溜まってきちゃってねぇー」
「……ッ」
冷や汗が止まらないサイ。
ヴェーラの唇が動く度に、蠱惑な香りが漂ってくる度に、サイの生存本能が刺激され情欲の中に沈み込んでしまいそうになる。それを我慢するのに必死であり、グラスを磨く手が震える程だった。
(め、眼を合わせてはいけない……)
カウンターを挟んだ手の届く場所に、極上の淫魔がいる。その事実が思考を鈍らせるも、溺れると消滅してしまうと言う鋼の意志で耐えていた。
「――ねぇサイ。今晩どう?」
「ッお、お戯れを……」
少し火照った指先がグラスの縁を撫でまわす。
そんな時だった。
「おいケツデカ!! いい加減に魅了《チャーム》撒き散らすの止めろ!! 甘ったるくて耳が痛てぇんだよ!!」
脚をテーブルに乗せソファに座る赤髪の男が怒号を放った。
満たされた魅惑の空気が怒号により晴れ、サイは大きく鼻から息を吸った。
「もう」
いいところを邪魔されたヴェーラは不機嫌な顔で後ろを向いた。
「ちょっと、邪魔しないでくれる? もう少しで食べれるところだったのにぃ……」
「お前がサイの邪魔してんだろうが!! いつもいつもここに居やがって暇か!! こちとらここに来るたびに見たくもねぇケツ眺めてんだ!! いい加減酒も不味くなるわ!!」
ッケ! とテーブルの上で脚を組み直したフリード。口を尖らせマジキチ顔で中指を立てる。
「あらご挨拶ね。タダで私のおしりを見れるのってとってもラッキーな事なのよ? それともなぁに。こうして私にちょっかい出すのって、もしかして私に気があるのかしらぁ……」
「は?」
ふっくらとした唇の指先を当てるヴェーラ。その蠱惑的な仕草を見たフリードは篭絡される……はずもなく、額に青筋を立てる始末。
「もう、あからさまに嫌そうな顔しないでちょうだい。私だって女よ? 傷ついちゃうじゃない」
「女は女でも魔性の女だけどな!」
ビシッと言い切ったフリードはドヤ顔で酒を煽る。
「チェリーって訳でも無いのにぃ、そんなに否定されちゃったら私自信無くしちゃう……。これでも包容力はある方なんだけど――」
悲しそうな表情で広げた指の爪の具合を見たヴェーラ。しかしながら、言葉が止まってしまった。
滲んだ視界の外に、視線を明後日の方向に向いているフリードを見たからだ。
ルーラーですら堕としてしまうチャームを物ともしない精神力を持つ、灼焔君主《フレイムルーラー》クリムゾンフリード。
その彼が、眼を泳がせ明らかに動揺し、額に冷や汗をかいていた。
((――え?))
まさかと内心驚く二人。
唖然とするサイとヴェーラを見たのか、フリードはあたふたとテーブルから足を降ろして立ち上がり――
「――ち、チェリーじゃねえし!!」
捨て台詞を吐いて赤い空間の中へと消えていった。
「「……」」
台風の様な怒涛の逃走。
誰がどう見繕っても、フリードの純粋な部分は露になっていた。
気を取り直しサイはグラスを拭き、ヴェーラはカクテルを飲む。
「彼ったら戦いは大好きなのに、そっちは意外と分からないものねぇ」
「ヴェーラ様、この事は他言無用でお願いします」
「言われなくても分かってるわ。ふふ。雄々しく戦う姿を知ってるけど、可愛い一面も見れてちょっとだけ好きになったかも」
クスリと笑うヴェーラ。
カランコロン♪
扉が開く音。客が来店。
「――相変わらず閑散としてるわね」
入店した女性が辛口のコメントを言った。
「いらっしゃいませ、花房様」
サイは深くお辞儀した。
顔を上げると、体格のいい男性が女性の後ろから現れた。
「久しぶりに日本に帰って来たから寄らせてもらったわ。今日は夫も一緒なの」
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