俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮

文字の大きさ
280 / 288
第二十一章 刻々と迫る

第280話 チュートリアル:ムキンクス

しおりを挟む
 ヤマトサークルの西田が日本に帰国してから早数日。

 欧米美女であるアメリカ最強サークルに所属しているエルフェルトとの交際が報じられ、まさにアメリカンドリームを勝ち取った西田の帰国はテレビとネットを通じて知れ渡った。

 最初の数日はヤマトサークルの事務所前に報道陣が詰めよる事態に成ったが、サークルに顔を出した西田は一言二言インタビューを受け答えするだけでやや冷たい対応だった。

 そんな彼に世間の声は「ちょうしに乗っている」やら「インタビューから逃げるのは男としてどうかしてる」など、どこか否定的な意見が多くみられる一方、「西田可哀そう」や「そっとしてやれ」との擁護のコメントも確かにあった。

 アメリカの報道陣に揉みに揉まれ、そして帰国してからも同じく報道陣に揉まれる西田。露骨に嫌な顔をする場面がテレビに流れたのは仕方ないのかも知れない。

《――あぁノブヒコ。早くアナタを抱きしめたい……。私のベッドにアナタの残り香が残っているうちに、早く私の元に来て……》

 西田のプライベートの時間。ソファで寛ぎながら、恋人であるエルフェルトとビデオ通話をする西田であった。

「俺もだよエルフェルト。早く会いたいし抱きしめたい」

 にこやかに話す西田。画面に映るのは愛しの恋人。その恋人が女の顔で自分の事を待っていると言った。これには堪らず西田も嬉しさが爆発。

(俺って想われてる~! それにしてもツンケンしてた最初とはえらい違いだ。)

 ファーストコンタクトは悪手だったものの、結果的には恋人に成った。ツンツンしていた状態から一変しデレデレ状態へ。しかも報道陣に思いの丈をぶつけるが如く、カメラの前で、そして西田本人の前で、ノブヒコは最愛の男と明言する始末。

 これによりアメリカ日本双方、西田の風当たりはより一層に強くなったのは言うまでもない。

「ん? え、俺の残り香? 流石にベッドのシーツは洗ってるよな?」

《ええ当然でしょ。ノブヒコの指で何度も――》

「ああぁああ分かった分かった!! 俺の残り香って思い出補正的な? うん!」

 それ以上言わせないと慌てる西田。よくよく思い出せばベッドに鯨が居たのを思い出し、それと同時にシーツも執拗に変えた思い出。

《とにかく、アナタに会える日を待ち望んでいるわ》

 この日は寝落ちするまで通話したのであった。

 九月も終わり、全国の神々が出雲大社に集まり、各地の神々が留守になる月――十月。中旬。

 アメリカンドリームを掴んだ西田の報道はめっきり途絶えたこの頃、著名人でありながらノーマスクで街を歩けるほどに西田の話題は落ち着いていた。

 去年の今ごろは攻略者トーナメントの打ち合わせで忙しく動いていたが、今回の秋の催しはトーナメントではなく実戦に近いサバイバルとの情報。しかし今回、地上波では放送しない故、解説役として西田には声がかからなかった。
 
 攻略者の卵たちがどう動くのか、どう生き残るのか、公式サイトで動画はアップされるものの、今年はそっちの仕事は無いのかと少しだけ残念がる西田であった。

 そんな西田であるが、彼は今ヤマトサークルの一員としてダンジョン攻略に勤しんでいる……のではなく。

「……精が出るこったな」

 彼の姿は今、トレーニング器具が並ぶ部屋にあった。

 声をかけた相手は西田に背中を向けている。タンクトップを汗で濡らし、パンプアップした肉体は細身だが引き締まった印象。

「……西田さんか。珍しいですね」

 広いトレーニング施設にポツンと一人。ヤマトサークルと並ぶ大手――サークルディメンションフォースの長、妻夫木蓮だった。

「一人でトレーニングとは感心しないな。何かあったらどうする」

「ふぅ……」

 顔の汗をタオルで拭きながら西田を見た。

「なにかってなんですか?」

「筋力欲しさにわざわざ重いもの持つんだ。そりゃ事故だったり突然の体の不調にも見舞われる可能性あるだろ?」

「僕に限ってそんな事は――」

 セリフを途中で止め、下唇を噛んだ。

「いや……、慢心だ……」

 視線を床に落とした。

「僕なら余裕。僕なら勝てる。僕なら……それで慢心した結果、死に体になった……」

「……」

 西田は何も言わない。妻夫木の言葉の中に、反省の色を見たからだ。

 時はさかのぼりスタンピード時。

 誰よりも先にボスであるエグゼクティブオーガゴブリンを屠り、件のスタンピードを終わらせた。
 物足りなさを感じていると、その心を知ったかの様にスタンピードを推し進めた元凶、刹利の家臣である『クシャトリヤ オーガ』が現れた。

 ヴァッサルに会ったのは去年の夏に起こった泡沫事件。そこで幻霊の家臣である黄龍仙、嫉姫の家臣であるフランダーに続き、実に一年ぶりであった。

 背中に感じる汗は緊張感のそれ。しかし自分の刃と相手の拳を打ち合わせると、攻撃が通じる確かな感触があった。

 自慢のスピードで翻弄し、隙あらば攻撃に転じる。

 オーガがスピードについてこれないと分かるや否や、マスクの裏にある口が自然と吊り上がった。

「――それが慢心だった」

 確かにスピードでは圧倒していた。しかし、慢心が生んだ少なくない妻夫木の隙を家臣が見逃すはずも無く。

「結果は手痛いカウンターを貰った訳です」

 手に持つバナナ風味のプロテインが入ったシェイカーを少しだけ握力で歪ます。

「ハハ、僕をあしらったあのオーガを撫子さんが追い払ったと聞いた時は、ホント、撫子さんには敵わないなと思いました……」

 乾いた声で笑う。

 そして握ったタンブラーを軋ませると。

「……凄く悔しいですッ!! ……あ」

 悔しそうな、そして泣きそうな表情で西田を見た。

 と、同時に不意に冷静になり、口元を押さえる妻夫木。

「今更箝口令思い出したのか? 普段の妻夫木なら絶対に口を滑らせないが、こりゃ相当病んでんな~」

「ッちょ! 今のナシ!!」

 いたずら顔の西田に慌てる妻夫木。そんな慌てふためく妻夫木を見て、西田はケラケラと笑った。

「ッハッハッハ! 資料を閲覧できる許可を国連から取ってあるから大丈夫だ」

「ならキョトンとした顔しないでください!!」

 まんまと西田の策略に嵌められた妻夫木は全力でツッコんだ。しかしこれも慢心が祟った結果だと内心叱咤した。

 ケラケラと笑った西田は、落ち込んだ雰囲気の妻夫木が少しだけ元気になったのを見て微笑む。

「はぁ……。それにもう一つ悔しい事があります」

「はは~ん。当ててやろうか?」

「そうです。あいつは本気じゃ無かったんです」

「ええぇ……。俺まだ言ってない……」

 靴ひもを解いて結び直す妻夫木。

「なんでも弱体化? してるって話。それが本当なら、まぁ本当でしょうけども、僕ってイキリ散らかしてやられただけのダサい奴って事です」

「だな」

「そこはそこはかとなくフォローしてくださいよ……」

「お前ってめんどくさい奴だな……」

「病んでるんで、ハハ」

 頬を掻いた。

「何だよ、弱体化した敵にやられたから獅童さんも椿さんもお前みたいに筋トレしてんのか?」

「獅童さんはともかく、椿さんも筋トレ……」

「どうやら思うところがあるのは妻夫木、お前だけじゃないってこった」

 クシャトリヤ オーガに敗北してしまったのは妻夫木だけではなく、銀獅子の獅童、パンサーダンサーの椿の両名も含まれている。

「マリオネットレイドにスタンピード。アメリカのパパラッチから逃げるためにダンジョンの奥に入ったが為に、二度の世界の危機に立ち向かう事が叶わなかったのが俺だ」

「あ、エルフェルトさんとラブラブらしいですね。おめでとうございます」

「ん? ああ、ありがとう?」

 話脱線。

「だから俺も気合い入れて鍛えないとな」

 明後日の方向を見る西田。見えるのは天井の照明だけ。

 オーガに敗北した妻夫木や獅童、椿らと同様に憤りを感じている西田。ダンジョン踏破と大義名分があるも、己が避難するべくダンジョンに入り浸った結果、後から知った世界滅亡の回避。

 世界の正念場に立ち会えなかったと悔しい思いをした彼だった。

「って事で、俺もここ使わせてもらうわ!」

「ええぇ……。西田メンバーはヤマトサークルでよろしくしてくださいよ……」

「そう硬い事言うなよぉ~。おお? なんだ? 硬いのはちんちんだってか!? ギャハハハ!!」

「マジで帰れよセクハラ野郎……」

 こうして、開示した情報で得た妻夫木の様子を伺いに来た西田は、しこしことトレーニングに勤しむのであった。

「妻夫木はスピードの申し子! 脚鍛えろ脚! 普通の筋力アップじゃセルに一脚されたムキンクスになるぞ」

「トランクスルー」(無視)
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...