悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ

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もう15歳

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 制服試着から数日、誰もその事に触れようとしません。私もその方がありがたいので、黙っています。学園入学まで半年を切った今、その間を現実逃避に当てることにしました。

「わかった。すぐ向かう」

 家族そろっての朝食中、家令に耳打ちされた父が立ち上がります。母も立ち上がり、心配そうに父を見上げました。

「旦那様・・・」
「エンディアに魔物が出た。巨大で極めて強いらしく、領軍が手こずっている」

 去年まで国境の町であるエンディアにはモノクロード国軍が駐屯していましたが、ガンガーラから申し込まれた和平交渉中である現在、両国とも火種とならないよう国境から軍を撤退させています。

 ですから魔物に対応できるのは各町に配備されているテトラディル領軍しかいません。町の大きさによって違いますから、数にして10~100人とひらきがあります。エンディアは国境ですので100人ほどだったはず。近隣の町からも救援が来ていれば、それより多いと思いますけど。
 ここからエンディアまで馬を飛ばせば真夜中、日付が変わる前に着くかどうかというところです。転移で先回りして、父が到着する前に討伐、もしくは退けられればいいのですが。
 向かいに座るルーカスがキラキラとした目で私を見ています。連れて行けと言うつもりなのでしょう。

 父はナプキンで口元をぬぐい、そのまま食堂を出ようとして、私の後ろで立ち止まりました。

「カーラ、お前も来なさい」
「はい?!」

 返事とも抗議ともとれる、変な声を上げてしまいました。立ち上がって父を振り返ります。

「お前は常々、強く在るのは領民のためだと言っていたな。それに15になり、学園入学も控えている。討伐の初陣にはちょうどいい時期だ」

 嘘から出たまことと言うべきか・・・心にもない事を、何度も言うものではありませんね。どうしましょうか。父と行くのは構わないのですが、移動時間が惜しい。
 ちらりとルーカスを見れば、小さく頷きました。弟は父に秘密をばらすのなら、今がいいと考えたようです。
 確かに今までの私の傾向からして、いつかは秘密がばれてしまうでしょう。そして黙っていたことを咎められるのですから、緊急時のどさくさに紛れて明かしてしまうことにします。
 人の命と私のいつかばれる秘密なら、人の命の方が大事ですし。

「わかりました。準備が整いましたら書斎に参ります」
「あぁ。急ぎなさい」

ルーカスが勢いよく立ち上がりました。

「父上! 僕も・・・」
「ルーカスはまだ早い。もっと精進しなさい」

 不満げなルーカスを残して、父は食堂を出て行きました。
 私は目を潤ませる母に礼をし、ルーカスに微笑みかけると、父に続いて食堂を後にします。

 部屋へ戻って黒のぴったりしたパンツと飾り気のない白のシャツに着替えました。その上にテトラディル領軍の色である紫紺の上着を羽織ります。そしてロングブーツを履けば、中世の軍服といった出で立ちですね。上着の裾がスカート状に広がっているのは、私が女だからです。
 これがすでに仕立てられているということは、連れていく機会を伺っていましたね? 父。
 髪はチェリにサイドを編み込んで、後ろでポニーテール風にまとめてもらいます。

 寝室を出れば、クラウドが帯剣して待っていました。彼は従者服のままです。その横にはペンタクロム領軍の色、臙脂えんじの軍服に身を包んだレオンがいました。愛用の大剣を背負っています。

「僕も行くよ。カムの護衛だからね」
「・・・そうですよね」

 まあ、もう彼に隠していることはありませんので、良しとします。ちなみに彼にすべてを話したのではなく、いない時と同じように好き勝手動いて、連れまわしたりしただけです。諜報活動が本職なのですから、自分で状況を把握していただきました。
 チェリも討伐に同行したがりましたが、あまり大人数になると私が管理しきれないので、留守番を命じます。

「お待たせいたしました」

 ノックの後に書斎に入れば、私と同じ色の軍服に身を包んだ父が、家令に馬車の用意を命じていました。私が同行するので、馬車で向かうことにしたようです。

「お待ちください、お父様。移動手段は私にお任せくださいませんか?」
「・・・どういう意味だ?」

 動きを止め、父が訝し気に私を見つめてきました。

「実際にお見せした方が早いと思います。今回同行する予定の方のみ、書斎に残してください」

 父は家令に部屋を出るように言い、代わりに5人入ってきました。父が討伐に向かう時、いつも連れている人たちですね。たぶん精鋭なのだと思います。

「もう少し、互いに寄っていただけますか?」

 戸惑いながらも、私の指示通りに寄り合う父と、討伐メンバー5人。オニキスに視線を向けると、大丈夫と言うように深く頷きました。私も頷いて返します。
 転移はいつも通り一瞬でした。

「着きました」
「・・・・・・・・・お前が本気で逃げると見付からないのはこのせいか」
「・・・」

 意外と早く順応しましたね。じと目の父から目をそらします。

「侯爵様・・・」
「あぁ。カーラ、話は後だ」

 我に帰った討伐メンバーが、遠くにうごめく巨大な何かと、人だかりを指しました。人が小指の先ほどの大きさに見えるここからでは、魔物が大きいのはわかっても、姿ははっきりしませんね。
 オニキスが転移したのは、エンディアよりカーライル村に近い場所です。カーライル村の事が気になりますが、視覚阻害をかけていない今の状態では不味いですね。遠目に見て被害が無さそうなので、後にしましょう。

 走り出した父に付いて行こうとして、後ろから話しかけられました。

「カーラ様。今日のお召し物も素敵ですね」
「ケララ・・・」

 今の私はいつものクラウドと同じ歳ではなく、ありのままの15歳に見えているはずです。何となく答えが予想できましたが、確認のために尋ねました。

「なぜ私だと?」
「愛する貴女の瞳を、私が見間違うことなどございません!!」
「あー。やはり。」

 そう答えると思いました。この狂信者は、王弟に国境の町への潜入を願い出たそうで、去年からカーライル村に居座っています。本当に戦争の用意がないか見張っているだけなので、害はないと判断し、放置しているのでございます。

「ダラヴナはカーライル村には見向きもせず、エンディアへ向かいました。しかし町へ侵入して襲うでもなく、寄ってきた人間のみを捕食しています。ガンガーラの山林の時と同じですね。奴は逃げるものを追いません」
「あれが、ダラヴナ」

 遠くてよくわかりませんが、あのフォルム。まさか・・・。

「・・・百足むかで?」

 黒のような紫のようなテラテラした体のそれは、城壁に足をかけて中を覗き込んでいるようでした。
 ぼそっとつぶやいた私の声が、聞こえたわけではないと思います。いえ、この距離で聞こえるはずがありません。
 なのに巨大な魔物は町の中に突っ込んでいた頭をもたげ、こちらに顔を向けました。

『来るぞ!』

 予想以上の素早さです。私が影から取り出した薙刀を構え、クラウドとレオン、ケララが私の前に出る間に、200メートルはあった距離を詰められました。
 その大きさに息を飲みます。もたげられた頭の位置は3,4階建ての建物くらいでしょうか。ダラヴナは長さが50メートルはあろうかという、百足でした。うごめく足に、鳥肌が立ちます。
 クラウドの足元で、全身の毛を逆立てたモリオンが震えていました。

『「禁食きんじき」! 「禁食の滅紫めっし」!! これは色彩を食うっす! 逃げるっすよ!!』

 モリオンの叫びに、こちらも毛を逆立てたオニキスが、低く唸りながら先頭へ出ます。
 その時、レオンの胸元から、炎の塊が飛び出ました。

『滅紫! ついに見つけた!! 俺を食え! 終わらせろ!!』

 止める間もありませんでした。


 走り寄ったレグルスを、ダラヴナは一飲みにしてしまったのです。


 茫然とそれを見ていたレオンの髪色が深紅から、色が抜けるようにしてプラチナブロンドに変わりました。寄生状態ではなくなった・・・つまり・・・。

「思い出した・・・」

 レオンハルト・ペンタクロム伯爵令息の髪色の変化。
 戦争の後、カーラとの最終決戦の前に起こる、強制イベントを。
 攻略対象たちの好感度を上げきった頃、どのルートに入っていても起こる、全攻略対象参加の強制イベント「魔王ダラヴナ襲来」。
 「魔王」と書いて「ダラヴナ」と読むので、今までピンときませんでした。ダラヴナは決まった形を持ちません。初期設定時に必ず苦手な生き物の選択肢が出るのですが、その姿で現れます。変わらないのは黒にも紫にも見える特徴的な体色のみ。
 このイベント時に必ず、前衛レオンハルトがダラヴナに飲まれます。そして時間内にダラヴナを倒さないとレオンハルトが死んでしまう上に、攻略対象たちの好感度が下がるという恐ろしいイベントでした。
 そういえばこのイベント後、レオンハルトは魔法が使えなくなりましたね。

『カーラ! 下がれ!』

 オニキスが氷の槍を無数に作り出し、ダラヴナに向けて飛ばします。しかしそれはダラヴナに届く前に掻き消えてしまいました。この魔物の厄介な所、それは・・・。

「ダラヴナに魔法は効きません!」

 ケララが叫びました。ダラヴナはたくさんの足をガシャガシャさせながら、悠々とこちらを見ろしてきます。
 そう。魔王ダラヴナは魔法を解呪ディスペルしてくるのです。
 でも幸いなことに、私はその弱点を知っています。ゲーム通りなら、物理攻撃と、ダラヴナが唯一持っていない属性の魔法のはず。

「私が動きを止めます。その隙に仕留めなさい」

 影からスイカの種を大量に取り出し、ダラヴナの長い体の中央付近へ転移させて、スイカの種をばらまきます。私はそれを一気に育てて、ダラヴナの体を拘束しました。噛み千切ろうと頭を下げたダラヴナに、レオンが大剣で切りかかります。

「でえいっ」

 大剣はダラヴナの頭に振り下ろされましたが、硬い音を響かせただけで傷がついた様子がありません。鬱陶しそうに振られた巨大な頭がレオンをふっとばしました。

「ぎゃん!!」

 私は風を操って衝撃を吸収し、レオンを私の隣へ下ろします。そして大剣に触れて「切りたいものが抵抗なく切れる」を付与しました。

「大丈夫ですか?」
「あいつ、恐ろしく固いね! また頭を下げたら、頭も拘束してくれる?」
「わかりました」

 言っているそばから頭を下げたダラヴナに、今度はクラウドが切りかかります。その狙いは目。クラウドはダラヴナの右目へ剣を深々と突き刺すと、剣をそのままにして離れました。
 その間に私はスイカの蔓で頭を拘束します。

「鋼の剣」

 ダラヴナの頭が拘束されたのを見て、クラウドはその場で土魔法を使ってもう一振り剣を作り出そうと思ったようですが、できませんでした。顔をしかめて飛びのくと、先ほどまでクラウドがいた場所にダラヴナが尾を振り下ろします。
 そして一瞬動きを止めたかと思ったら、拘束していた蔓が燃え落ちました。

「せいっ!」

 拘束が完全に解かれる前に、レオンがダラヴナの拘束部分の腹を切りつけます。

「うえっ?!」

 すっぱり切れて両断したのはよかったのですが、思ったより抵抗がなかったからでしょう。レオンがたたらを踏みました。

「カム! なんかした?!」
「集中しなさい。モリオン、回収を」
『はいっす!』

 私は未だに自分以外の人間を転移させることができません。失敗したらと思うと、どうしてもできないのです。それができるのは、オニキスとモリオンの闇の精霊コンビだけ。しかしオニキスの方は何やら考え込んでいるようなので、モリオンにそれを頼みました。
 傾かしいできたダラヴナの下から、モリオンが転移でレオンを回収してくれます。巨体が地響きと共に落ちた時、それまで大人しかったオニキスが静かに言いました。

『できた。離れよ』

 もがくダラヴナの周りに、人の頭位の黒い何かがいくつか転がり出ました。
 なんだろうと疑問に思ったのもつかの間、それは瞬く間に成長し、ダラヴナをぐるぐる巻きにします。そして象かというくらい大きなスイカを実らせました。オニキスはこの短い時間で、スイカの遺伝子をいじって巨大化させたようですね。

「とどめを!」
「りょーかい!!」

 全く身動きが取れなくなったダラヴナの頭に、レオンの大剣が突き立てられました。
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