9 / 45
連載
第?章 安堵
しおりを挟む
老人は笑みを湛えながらシアプの岩場上空より、輝久達がゴーレムの修復をしているのを見下ろしていた。
エウィテルもギャランも決して弱い覇王ではない。いや、そもそも弱い覇王など存在する筈がない。各々が生まれた世界を征服した超越者なのだ。
その覇王が二体同時に出現したのを知った時、老人は憂慮した。いくら、ラグナロク・ジ・エンドが強いとはいえ、苦戦は免れまいと予想した。しかし――。
(まるで、赤子の手をひねるよう!)
先程の戦いを思い出して、老人の口元が再び緩む。
ジエンドは、エウィテルとギャランに不利な空間を生み出し、彼らの長所を潰した。更に、魔導書グレノワに記されていたギャラン最強の対象直撃魔法すらも、かわしてしまう。
老人は真面目な顔付きになって思案する。全ての魔法は、術者が攻撃対象を捕捉、或いは視認してから放たなければならない。だが、ギャランの『イネヴィタブル・ダークスピア』が発動する前、ジエンドの体が発光した。あれによってギャランの脳内認識は歪められたのだ。
ギャランの視界に映っていたジエンドは、歪曲した幻。対象直撃魔法はギャランが認識している存在しないジエンドに向けて放たれていた。最初の『イネヴィタブル・ダークスピア』が巨岩を貫いていたことからも、ギャランはそれがジエンドだと認識していたのだろう。
対象直撃魔法はその名の通り、必中。それでも、術者が標的を間違っていれば、当たる筈がない。
その後、ギャランが命を賭して、エウィテルにとって不利な空間を消した時は流石に肝を冷やしたが、
『マキシマムライト・リープド・スペース!』
輝久が変身したジエンドが、そう叫んだ直後、エウィテルは原型も留めぬ程にバラバラになった。
異空間を作り出して、エウィテルの動きを鈍くしたのは、単に勝率をより高くする為。覇王達はジエンドの能力が『空間統御スキル』だと推測していたが、それは能力の一部分。実際、エウィテルの最高速度を凌駕するスピードを、ジエンドは持っていたのだ。
「くく……ははははは!!」
老人は声を上げて笑う。先程、輝久達の前で、思わず笑ってしまった時のように。
杞憂。全ては杞憂だったのだ。
(そうだ! 覇王の中でも最強の部類であった暴虐のサムルトーザを倒したのだ! たとえ二体がかりでも太刀打ちできるものではあるまい!)
自分が輝久に過去を教えるまでもなく、ジエンドには全ての覇王達のデータがインプットされている。覇王との戦いが始まる前、胸の女神の彫像が『分析を開始します』と告げる。六万回以上繰り返した世界から、該当する覇王の情報をピックアップし、分析しているのだろう。
「アルヴァーナは救われる……! きっと……!」
万感の思いを込めて、老人は呟いた。
……老人は、肉体を持たぬ思念体であり、空間の移動すら可能であった。そしてまた、輝久に自らの思念を共有させ、過去のビジョンを見せることもできる。それでも――。
ラグナロク・ジ・エンドの圧倒的な強さを改めて目の当たりにして緩んだ気持ちの老人は、ほんの十数メートル背後に、羽の生えた目玉が浮遊していることに気付かなかった。
エウィテルもギャランも決して弱い覇王ではない。いや、そもそも弱い覇王など存在する筈がない。各々が生まれた世界を征服した超越者なのだ。
その覇王が二体同時に出現したのを知った時、老人は憂慮した。いくら、ラグナロク・ジ・エンドが強いとはいえ、苦戦は免れまいと予想した。しかし――。
(まるで、赤子の手をひねるよう!)
先程の戦いを思い出して、老人の口元が再び緩む。
ジエンドは、エウィテルとギャランに不利な空間を生み出し、彼らの長所を潰した。更に、魔導書グレノワに記されていたギャラン最強の対象直撃魔法すらも、かわしてしまう。
老人は真面目な顔付きになって思案する。全ての魔法は、術者が攻撃対象を捕捉、或いは視認してから放たなければならない。だが、ギャランの『イネヴィタブル・ダークスピア』が発動する前、ジエンドの体が発光した。あれによってギャランの脳内認識は歪められたのだ。
ギャランの視界に映っていたジエンドは、歪曲した幻。対象直撃魔法はギャランが認識している存在しないジエンドに向けて放たれていた。最初の『イネヴィタブル・ダークスピア』が巨岩を貫いていたことからも、ギャランはそれがジエンドだと認識していたのだろう。
対象直撃魔法はその名の通り、必中。それでも、術者が標的を間違っていれば、当たる筈がない。
その後、ギャランが命を賭して、エウィテルにとって不利な空間を消した時は流石に肝を冷やしたが、
『マキシマムライト・リープド・スペース!』
輝久が変身したジエンドが、そう叫んだ直後、エウィテルは原型も留めぬ程にバラバラになった。
異空間を作り出して、エウィテルの動きを鈍くしたのは、単に勝率をより高くする為。覇王達はジエンドの能力が『空間統御スキル』だと推測していたが、それは能力の一部分。実際、エウィテルの最高速度を凌駕するスピードを、ジエンドは持っていたのだ。
「くく……ははははは!!」
老人は声を上げて笑う。先程、輝久達の前で、思わず笑ってしまった時のように。
杞憂。全ては杞憂だったのだ。
(そうだ! 覇王の中でも最強の部類であった暴虐のサムルトーザを倒したのだ! たとえ二体がかりでも太刀打ちできるものではあるまい!)
自分が輝久に過去を教えるまでもなく、ジエンドには全ての覇王達のデータがインプットされている。覇王との戦いが始まる前、胸の女神の彫像が『分析を開始します』と告げる。六万回以上繰り返した世界から、該当する覇王の情報をピックアップし、分析しているのだろう。
「アルヴァーナは救われる……! きっと……!」
万感の思いを込めて、老人は呟いた。
……老人は、肉体を持たぬ思念体であり、空間の移動すら可能であった。そしてまた、輝久に自らの思念を共有させ、過去のビジョンを見せることもできる。それでも――。
ラグナロク・ジ・エンドの圧倒的な強さを改めて目の当たりにして緩んだ気持ちの老人は、ほんの十数メートル背後に、羽の生えた目玉が浮遊していることに気付かなかった。
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。