機械仕掛けの最終勇者

土日月

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幕間 極悪非道のフォルテ

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  辺りには熱帯特有の樹木が点在し、人々の肌は日に焼けている。暑さ避けの為か、ターバンのような布を頭に巻いている者もいた。

 そんなタンバラ国の大通りを異様な女が闊歩する。軽装鎧から覗く豊満な胸と高身長よりも目を引くのは、ダークエルフ特有の尖った耳と褐色の肌だ。隣には、護衛のスケルトン兵士を連れている。

 人々は女に頭を下げ、そそくさと道を譲った後、声を潜めて言う。

「フォルテ様だ」
「振り返るな。目を合わせるんじゃない」

 ふと、フォルテの前に無邪気な子供が駆けてきた。夢中で走っていた男の子は、フォルテの存在に気付かず、足元にぶつかった。

 スケルトンの護衛が声を荒らげる。

「貴様! フォルテ様に対して、何たる無礼か!」
「ご、ごめんなさい!」

 怯える男の子に、フォルテは氷のような眼差しを向けていた。男の子は震える声で言う。

「ゆ、許してください……!」
「ダメだ。死ね」

 冷たい声を出すや、フォルテは鋭い爪のある右手を振り上げる。男の子は「ひっ!」と目を瞑った。

 だが、フォルテの手が振り下ろされることはなかった。男の子が目を開けた時、フォルテの手には、洋梨のような果物が載せられている。

「こ、これ……もしかして、くれるの?」

 安堵の表情を浮かべた男の子。だが突然、フォルテはその果物を握り潰す。果汁が飛び散り、男の子の目に入った。

「うわぁ!! 目が染みるぅぅぅ!!」

 目を押さえた男の子を見て、フォルテは片方の口角を上げると颯爽と風を切り、その場から立ち去った。




 タンバラ国の外れに、フォルテの宮殿があった。

 フォルテは豪奢な椅子に腰掛けながら、先程のことを回想して、悦に浸っていた。

「ククク。今日も悪いことをした」

 一緒にいたスケルトンが声高らかに同意する。

「年端もいかぬ子供相手にあの非道! 流石は、魔王軍四天王でございます!」

 ワインをくゆらせるフォルテの手は、小刻みに震えていた。

「しかし、嘘とは言え『死ね』などという恐ろしいワードを言ってしまった……!」
「確かにパワーワードでしたな」

 フォルテは自分の悪さに酔いしれるように、眉間を指で押さえる。

「我ながら悪すぎる……ああ、自分の悪さが恐ろしい……!」
「しかも、魔王様の得意とする果汁飛ばし攻撃も為さるとは! 恐れ入りましてございます!」

「フッ」と薄く笑った後、フォルテは思い出したように、冷たい眼差しをスケルトンに向けた。

「ところで握り潰した果物はどうした? 捨てたのではないだろうな?」
「はっ! あの後、拾って洗い、おいしく頂きました!」
「うむ。それで良い」

 満足げにフォルテが頷いた時だった。部屋の扉が開かれ、ゴブリンの兵士が入ってくる。

「フォルテ様にご客人です」

 フォルテはどきりとした。男の子の親が怒ってやって来たのかも知れない。

 流石に親が出てきては謝るしかあるまい。そう思いながら、椅子から立ち上がったフォルテだったが、ゴブリン兵士が続けて言う。

「フォルテ様と同じダークエルフで、いらっしゃいます」
「ダークエルフだと?」

 親からのクレームでないことに、少しホッとしつつも『珍しいな』とフォルテは思った。アルヴァーナで、自分以外のダークエルフは見たことがない。

「入るよー」

 トーンの高い声が聞こえて、部屋に入ってきたツインテールのダークエルフは、フォルテを見ると、ややクマのある大きな目を輝かせた。

「ホントにダークエルフだー!」

 魔術師のような格好をしていて、背は低い。だが、褐色の肌に、尖った耳。ツインテールのダークエルフは確かに自分と同種族のようである。

 黒い絨毯を踏みしめ、フォルテに近付くと、ダークエルフはにこりと笑った。

「もしかして、アンタがこの世界の覇王?」
「覇王? 私は魔王様の配下。魔王軍四天王・極悪非道のフォルテだ」

 威厳を持って言う。すると、ダークエルフは嬉しそうに飛び跳ねた。

「四天王で極悪非道かー! やるじゃん! 流石は同種族!」

 そして、フォルテの傍まで歩み寄ると、馴れ馴れしくポンポンと左腕の辺りを叩いた。

「フォルテ! 同族のよしみで、アンタは殺さないであげるねー!」

 フォルテは心の中で笑う。自分と同じで、嘘つきのようだ。

「それで、貴女は一体?」

 フォルテが尋ねると、ダークエルフは、邪悪と天真爛漫が入り混じった笑みを浮かべた。

「戴天王界覇王! 全壊ぜんかいのロロゲ!」
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