イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト

文字の大きさ
22 / 23

【外伝】恋愛ドラマの(残念)女王が爆誕した日⑦

しおりを挟む
 ユカリさんから受け取った1枚の白いディスクには、昨年末の時代劇特番が収録されているらしい。
 しかもそこには理緒りおたんのなかの人も出ていて、実はすごく動ける子だったとか。

 にわかには信じられない。
 だって、あの理緒たんよ?
 そのにぶさから、たびたびピンチにおちいっている正統派ヒロインキャラの彼のどこに、そんな運動神経があるというのだろうか?

「それがね怜奈れいなちゃん、あまりにも動けるものだから、殺陣師たてしさんがノリまくっちゃってね。つける手もいきなり難解なヤツに変えてきたんだけど、はじめこそ苦戦してたのに、あっという間に出来るようになってんのよ!そばで見ていても、まるで意味がわからなかったわ」

 ……ユカリさんの混乱は、手に取るようにわかった。
 でも、と疑問に思う。
 あの特番は、あたしの事務所の先輩も出ていたから、流し見に近かったものの、一度は見ているはずだ。

 あれに、そんな殺陣のできる子なんて、出てたかしら?
 正直、辛口のユカリさんがベタ褒めするくらいだから、たぶん出番にそれなりの尺をもらっていたなら、きっとあたしだって覚えているはずなのに……。

 そりゃ主役も、その敵の方々もさすがの特番だけあってプロのお仕事をしていたけれど、それ以外は特に目立ってなかったように記憶している。
 なんて言うか、言葉は悪いけど『よくある撮影セットが豪華なだけで、お芝居自体は無難な時代劇』にすぎなかった印象しかない。

 いや、若干1名、出てくるたびにあまりの下手さにめまいがして気分も盛り下がるような子はいたけれど。
 珍妙な節まわしのセリフに、絶対に人は斬れなさそうなぶれぶれの太刀筋の殺陣。
 ───そう、主役の弟役の子だ。

 でもあの子は、たしか主演俳優のバーターで出してもらっている、その主演俳優とおなじ事務所の後輩とかだったはずだ。
 まぁ……黙っていれば、事務所にゴリ押されるだけの理由がわかるほど、めっちゃかわいかったけど。

「一応あたしもそれ、流し見に近かったですけど、一度は見てるはずなんですよねー。でもそんな殺陣のうまい若手なんていたかな……?全然記憶になくて……」
 よくも悪くも無難だったことを告げれば、ユカリさんが深くうなずいてくれる。

「それなのよ!理緒たんの役の子の出来がよかったものだから、殺陣師さんだけじゃなくカメラマンさんもつられて、ガッツリアップや抜きで撮ってたんだけどね?私たちメイクチームもそれに合わせて、気合いを入れたメイクもしたわ」
 と、そこでいったんユカリさんは区切ると、ため息をつく。

 そういうのは、現場ではよくある。
 いざカメラテストをしてみたら、予想以上に映える子がいて、それでいきなり出番が増えるなんてことは現場あるあるだ。
 ただそのため息で、なんとなくその先の展開が読めた気がした。

「彼はちゃんと、その役としてできる最上級のいい芝居をしていたと思うのよ?でも、主演のバーターで出てきたアイドル売りしてる若手俳優の子より目立たせるなって、プロデューサーさんに怒られちゃってね。最終的にはスポンサーの意向に押し切られて、ガッツリ編集で削られちゃったのよ」
 まるで自分のことのように嘆きながら、天をあおいでいる。

「───あぁ、そういうことか。あの主人公の弟役の子、下手くそなのにやたらと出てましたもんね」
 時代劇を見ないような若い子から人気のある子だったからなのか、結果的にはあんなお芝居でも視聴率をそこそこかせいでいたみたいで、お茶の間人気がある数字持ってる子ってなんて理不尽だって思ったもの。

 そういう意味では、あの下手くそゆえの悪目立ちにしても、スポンサーの意向に沿って要望どおりに目立たせてあげたと言っていいのかもしれないわね。
 ああいうチャレンジ枠っていうのは、特番であれば必ずあるものだし……なんてあたしまで毒を吐きそうになる。

 一応、主演とその子の所属する事務所は、この業界でもかなり大手のところだから、スポンサーとかの意向もくむなら、そういう忖度が必要なんだろう。
 理解したところで、それじゃこのディスクの中身も期待できないんじゃないの?なんて不安になるけど。

「えっとね……私とか『どうしても』と希望するスタッフにだけ配られた秘蔵のヤツなのよ、それ。殺陣師さんとカメラマンさんのお仕事もすばらしかったし、なにより自身もね、すごかったんだ……」
「え、てことは……」
 ユカリさんのセリフに、あたしのなかで、とたんに期待値があがっていく。

「えぇそう、本放送では削られてしまった彼の殺陣と、演技のシーンを入れたバージョンのものよ」
 無論、その忖度先の事務所やスポンサーのことを慮って、実際には存在を伏せ、絶対に流出させないことを条件に内密に配られたものだったらしいけど。

「理緒たんのかわいさを理解してくれた怜奈ちゃんだから、特別に焼いてあげるのよ?お願いだから、ほかの人にはナイショにしてね?」
「もちろんです!」
 そしてあたしたちは、固い握手を交わした。

「さ、それじゃあ、お宝はちゃんとバッグのなかにしまって、最後にもう1杯ずつ飲んで今日はお開きにしましょ?」
「えぇ、そうしましょ!今日は本当にありがとう、ユカリさん!大好きっ!!」
「私もよ、怜奈ちゃん!」
 そうして濃密なヲタク心を満たす夜は更けていったのだった。


     * * *


 結論から言おう。
 理緒たんて、何者なの??
 思わずそうたずねたくなるくらい、その年末特番の時代劇で活躍する理緒たんのなかの人はすごかった。

 というより、ユカリさんにもらったそれは、あたしが見た記憶のある年末特番時代劇とは、大ちがいの代物になっていた。
 あれを見たときの記憶といったら、正直なところ微妙なものだったんだけど。

 その戦犯は、まちがいなくバーターの子だけど、でも物語の鍵となる役どころではあったから、わりと目立っていたのよね。
 だからこれを見る前は、いくら理緒たんのためとはいえ、それをまた見なきゃいけないのかって、本当はちょっとだけツラかった。

 それが、覚悟を決めて見はじめたはずなのに、まるで別物になっていたとしたら、なにがあったのかめちゃくちゃ気になるってモンでしょうが!
 いったい本放送とこれと、なにがちがうのかって。

 いちばんのちがいは、本放送ではかなり主要どころのキャラクターとして配置されていた主人公の弟役の子が、本当にただのモブでしかなくなっていたことだろうか?
 たぶん演技が下手くそすぎて、可能なかぎり編集でカットされている。

 たぶん、物語の鍵となる役ではあったから、抜かすわけにはいかないシーンもあるわけで、でもそれは最低限しか入れなかったんだろう。
 おかげで殺陣のシーンなんて、ほとんど削られていた。

 でも、待って?
 あたしはユカリさんから『理緒たんの役の子がすごかった』と言って受け取ったのに、理緒たんに似た雰囲気の子なんてひとりも出てなくない??

 そもそも、なんの役なのかって、聞くのをすっかり忘れていた。
 さすがに推しが出ていたら、すぐに気がつくでしょうって思って油断していたのに。
 ひょっとして一瞬しか出てこないほどの端役か、斬られ役だったとか??

 ───物語のなかばまでは、あたしもわりと本気でそう思っていた。

 だけど、ふいに気がつかされた。
 主人公サイドの端役で、わりと初期から出ていたものの、いつも画面の見切れ位置にいて目立たなかった子。
 それこそが、理緒たんのなかの人が演じる役だった。

 それに気づけたのは後半、その寡黙な彼が、主人公の敵が自分にとっても憎むべき、両親を殺した犯人だったと気づくシーン。
 その事実を知ったとき、彼は一瞬理解が遅れ、でもその事実が浸透していくにしたがい、目に憎悪の闇が浮かんでいく。

 そしてそのことを真実だと理解したとき、全身から吹きあがる怒りで、まとう空気すらまったくちがうものになっていた。
 それこそ見ているだけで、こちらの背すじがゾクゾクと寒くなるような、そんな恐怖を呼び起こす変化だった。

 それだけじゃない。
 ユカリさんのメイク技術もあるのか、理緒たんのときにはタレ目だった彼は、キリッと切れ長のツリ目に見えるメイクをほどこされていて、まるで別人に見える。
 えっ、なにこれカッコいい。

 怒りで我を忘れて刀を抜きそうになるのに、必死に我慢をする手は小刻みにふるえ、噛みしめた奥歯に顔がゆがむ。
 なんてズルい人!
 まちがいなく、こんなお芝居されたら、一瞬にして目が惹きつけられてしまう。

 しかもそこから先、殺陣の迫力がその前までとはまったくちがっていた。
 それまでだって、一応そのときに出せる全力で戦ってはいたと思う。
 でもそれはどこか義務的な感じで、死ぬのはイヤだからとりあえずがんばるみたいな、そんなやる気のなさがにじんでいたはずなのに……。

 なにがあっても相手を殺す、そんな迫力がふるう刀の端々から伝わってきて、見ているだけなのに口のなかが干上がり、手には冷たい汗がにじんでしまう。

 戦場をかける彼の姿は、疾風のごとく。
 全身のバネを生かした殺陣は、ひと太刀ごとが重く、それでいて存分にスピードの乗ったそれは『これなら骨ごと断てる』という、そんな確信が持てるものだ。

 ───怖い。
 あぁ、そうだ、これはもはや人ではない、となった存在なんだ───そんな思いが自然と浮かんできた。

 ちなみにこの年末特番の時代劇のメインタイトルこそが『戦国の修羅』で、理緒たんのなかの人のお芝居は、まさにそれを全身で体現しているものだった。
 こんなもの見せられてしまったら、もう彼が主役級であることを認めざるを得ない。

 おかげで物語のキーパーソンは主人公の弟のはずなのに、すっかり存在感を食われ、かすんでしまって記憶にすら残らなくなっている。
 なんなら主役だって、油断をしたらかすみそうな気さえしてきたくらいだ。

 まぁ、さすがに『不幸の見本市か!』ってくらい重厚なエピソードが満載で、殺陣にしてもプロとして見劣りしない実力もあるからこそ、主人公はさすがに食われることはなかったけれど。
 でもそれ以外の役なんて、あってないがごとくだった。

 まちがいなく主演に次ぐ準主役は、彼だった。
 ~~~~~っ!
 すごい!
 こんなもの見せられてしまったら、語彙力なんて簡単に消滅してしまうしかないじゃない!!

 ヤバい、この人、どれだけすごい役者なの?!
 この時点で、あたしの心臓はときめきメーターを振り切ってしまっていたんだと思う。
 もう一生かけてこの人を推していこう───本気でそう思った。

 でも、そんな風に一瞬であたしをトリコにした彼だからこそ、テレビ的にはゆるされなかったんだ……。

 あるいは彼が、最初から準主役という立ち位置で出演していたなら、むしろこれは素晴らしい作品になっていたことだろう。
 でもこれは年末特番という、あらかじめだれを目立たせるのかという、スポンサーだのなんだのの意向をくんだ作品で。

 だからこそ、あのへっぽこバーター出演の弟役を目立たせなきゃいけなかったんだ。
 そのせいで本放送のときには、こんなに素晴らしいお芝居が、殺陣がカットされてしまったんだろう。
 あぁ、なんてもったいない!

 あたしだって女優のはしくれなんだから、そういう大人の事情もわかっているはずなのに、今はただそれがくやしくてたまらなかった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...