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【外伝】恋愛ドラマの(残念)女王が爆誕した日⑥
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結局、『この愛』の撮影が終わったのは、夕暮れどきに差しかかるような時間帯になってしまっていた。
バタバタとした現場では途中のメイク直しの時間なんてわずかしかなくて、とてもじゃないけど語り尽くせないと判断したあたしは、仕事終わりにユカリさんと待ち合わせをして飲みに行くことにした。
だって、とてもじゃないけど、時間が足りない。
ドラマの撮影のあとに、あたしもユカリさんにも別のお仕事があって、ゆっくりおしゃべりする時間もとれそうになかったから、ふたりともが仕事の終わる時間にあらためて飲みましょうと約束を取りつけたのだった。
場所は、おしゃれなワインバー。
落ちついた半個室タイプの間仕切りがしっかりしたこのお店は、ダウンライトに照らされて、ムーディーなジャズの流れるステキな空間だ。
カウンターのうえには、逆さに吊るされたワイングラスがキレイに磨きあげられ、キラキラとオレンジ色のダウンライトに光って見える。
デートにはぴったりの場所だとは思う。
残念ながら今回のこれは、趣味の集まりみたいなものだったけど。
「……私のメイク仲間のゴリエちゃんから聞いた話なんだけど」
グラスを合わせたあと、前置きをしてユカリさんが口を開く。
いや、もうさっそくツッコミたい、そのお名前はあだ名なんですか、それともお仕事名なんですかって!
「あのドラマ、プロデューサーが例の颯田川さんじゃない?あの人の黒いウワサは、怜奈ちゃんも知ってるわよね?」
「うん、あたしも事務所から注意しろって言われてるから」
敏腕プロデューサーと言われる彼は、たしかに手がけるお仕事のほとんどがヒットを飛ばしている。
この世界は、ある種の実力主義だからこそ、性格や性癖が最悪だろうと、仕事の実績さえ残していれば大きな顔ができる。
颯田川Pは、まさにそういうタイプの人だった。
いわく、新人アイドル食いで、しかもバイ。
かわいければ、男だろうが女だろうが気にせず食い散らかす。
自己顕示欲のかたまりのような男だけに、絶対に反論しない新人だとか、気の弱い子だとか、弱い立場の子しか狙わないと言われていた。
かくいうあたしもデビューしたてのころに粉をかけられそうになったことがあるけれど、そこは業界大手の事務所の力を遺憾なく発揮して守ってもらった。
───でもなんだろう、ものすごくイヤな予感がする。
「その颯田川さんがね、どうも理緒たんを相当気に入ってるらしくてね?」
「っ!!」
やっぱり!
そんな気はしてた。
「理緒たんって、隣にいるのが東城くんていう究極のイケメンだから目立ちにくいけど、よく見るとわりとかわいい顔してるじゃない?おとなしそうな見た目をしているし、もろに颯田川さんの好みなのよね」
まさか、それですでにお持ち帰りされたとかじゃないわよね!?
うぅ、心配なあまりに心臓が痛い。
もう颯田川Pのチンコもげろ。
「で、ここからがゴリエちゃん情報。いつものように囲い込み作戦に出てるみたいで、ヤツは理緒たんのことを現場で罵倒しまくってるんですって」
そう、それがアイツの常套手段。
人前で罵倒しまくって、相手が弱ったところで猫なで声を出しながらベタベタと触りまくる変態だ。
よくあるDV野郎の支配方法とおなじパターンで、最初に相手のプライドを粉砕するほどにイビり倒し、そのあと急にやさしくするっていう。
最低な男のやり口だわ。
お前なんて今すぐ頭頂部の毛根がまだらに死滅して、バーコードハゲになれ。
「あんのゲス野郎……!!理緒たんになんてことしてくれてるのよ!!」
そもそも理緒たんはあの役としては完ぺきで、文句を言われるような点はなにひとつない。
あの野郎、今すぐ屁が止まらなくなって重要な局面でドチャクソ恥をかけばいい。
「現場でも、その罵倒からのベタベタコンボをカマしてるみたいなんだけど……なんと、いまだにお持ち帰りには成功していないらしいわ!」
「やった!?」
ものすごいホッとしたけど、あれ、なんかあたし最近、お持ち帰りがどうとかいう話をユカリさんとしてなかったっけ……?
そう思ったところで、ハッとした。
「まさか───東城湊斗が!?」
そうだ、今日読んだばかりの記事に書いてあった内容だ!
「えぇ、そう、東城くんが『本読みに付き合ってくれ』って甘えて、いつもいっしょに帰ってるみたい。それ以外にも現場でもずっと付きっきりで、本人の代わりにガードしてるんですって!」
ユカリさんが、鼻高々な様子で言いきる。
と、尊……っ!!
えっ、なにそれ、リアル騎士様かよ?!
理緒たん守るために、そばでガードしてるとか……!
アカン、尊すぎてふるえが止まらない。
「東城くん、モリプロさんところの社長お気に入りの大型新人だから、さすがの颯田川さんも無理をとおせなかったみたいでね。おかげで今のところ理緒たんは無事よ!」
今日イチいい笑顔になったユカリさんが、ビッと親指を立ててウィンクする。
グッジョブ、東城湊斗!
あたしからも喝采を贈るわ!!
送り狼どころか、とんだ有能な番犬じゃない!!
「と、尊さに乾杯しなきゃ……」
なんなのよ、このナマモノジャンル、供給が過多なんてモンじゃ済まないレベルで、破壊力ある豪速球レベルのがビュンビュン飛んでくるんですけどもっ!!
もう、一生推しつづけるわ、タカリオ!
「そうね、そうしましょ♪ウフフ、カンパ~イ!」
楽しげに目もとを波打たせるユカリさんとグラスを合わせれば、チンと澄んだ音が立つ。
よく冷えた白ワインは、とてもフルーティーでおいしかった。
* * *
入店してからかれこれ2時間近く経っただろうか?
ほどよくワインの酔いがまわり、もともとなめらかだった口が、おたがいにさらに軽くなっていた。
「───というかむしろ理緒たんは、メイクの勘からすると、もう少し磨かれたら一気に化ける気がするのよね」
これまでの実績からして、ユカリさんの目に狂いはないと思う。
「わかるぅ、理緒たんて基本は『清楚という概念のかたまり』みたいなのに、ときおりすんごいエロくなるときありません?!」
「それ!!それこそ真理だわ!」
酔ったいきおいで口走るあたしに、ユカリさんが同意を示してくれる。
「うんうん、エロいわよね、理緒たん。なんかわかんないけど。少なくとも私は、苦しむ理緒たんの顔に毎回濡れキュンしてるわ!!」
……だけどその直後のユカリさんの発言は、少々残念すぎるものだった。
「ふだんのゲストヒロインたちって、わかりやすく男に媚びるタイプでしょ?だからこそ正反対な清楚系ヒロインである理緒たんは、わずかなチラリズムですらエロいのよ!!」
なんだかよくわからないなりに納得してしまいそうなほど、いきおいのある発言に、あたしはすっかり呑まれてしまう。
「んー?いわゆる『ギャップ萌え』みたいなヤツですかね?」
「あー、惜しい!ちがうんだけど、ちがくないっていうか、あたらずとも遠からずよー!」
どうしよう、ユカリさんが急にむずかしいことを言い出した気がする。
「えぇとね、たとえば怜奈ちゃんがはじめて見た回のゲストヒロイン覚えているかしら?」
「あぁ、あのおっぱいヒロインですね」
「それよ!そんな記憶に残る彼女の服装、わりと胸もとがあいてるやつだったでしょ?」
そう言われると、たしかにやけに谷間が目立つ子だった。
それを見ながら『いかにも颯田川Pの好みが反映されてそう』って思ったら、気持ち悪くなったんだよね。
ほら、本当にあの人、ろくでもない人だし。
マジで今すぐ鼻毛だけ全力で育毛されて、外まではみ出ろ。
「それにひきかえ、我らがヒロイン理緒たんはどうかしら?いつも着ている制服は、キッチリといちばん上までボタンをしめているでしょう?」
「たしかに」
そう言われると、やけに身持ちが固いなって感じてたのよね。
「そんな理緒たんは、なぜかピンチになると、そのボタンがひとつかふたつははずれるのよ。カッターシャツの襟元から、ふだんは決して見えない鎖骨が見えそうになるとか……あとは水をかぶったりとか、縛られたりとか!これがエロくないわけがない!!」
ユカリさんの主張は、とてつもない熱量をふくんでいた。
なんの気なしに見ていたときは、『理緒たんてば、いつもピンチになるとか本当にヒロイン力が高いなー』なんて思っているだけだったけど、あらためてその姿を思い出したところで、めちゃくちゃ納得してしまった。
……あぁ、うん、エロいわ。
泣かせたくなる顔してるわよね、理緒たんて。
苦しむ姿を見ていると、わけもわからずドキドキするし。
おっぱいヒロインなんかより、はるかに露出している箇所は少ないし、ほのかな色気でしかないのに、よほど見てはイケないものを見ている気になったのを思い出す。
───つまり、残念なユカリさんの主張は、残念なことにとても正しかったのだ。
「でもまぁ、ふだんの理緒たんは色気なんて全然ないですけどね。それにしても理緒たんの絶妙な運動神経のなさっていうか、彼を配役した人も、よくあんな子見つけましたよね?」
彼を理緒たんに配役したのは、いったいだれなんだろう?
例の変態颯田川Pかしら、それとも良識派で知られる岸本監督なのかしら?
なんて思って口にしたけれど、ユカリさんは静かに首をふる。
「……さすがの怜奈ちゃんもダマされたわね。あれね、理緒たんの役の子、本当はめっちゃ動ける子なのよ!」
「はぁ?!ウソでしょ、あれは本当にダメな子の動きじゃない!」
言われていることの意味がわからなかった。
だって、走り方ひとつとっても、どこからどう見てもにぶそうなのに?!
「あー、ちょうどよかった。あのね、もし怜奈ちゃんが興味持ったらおすすめしようかと思って、あわてて焼いてきたんだけど……」
そう言って差し出されたのは、1枚の白いディスクの入ったプラスチックケースだった。
手書きのメモがなかに入っていて、どうやらそれを見るに、このディスクに入っている作品のタイトルらしい。
それによれば、これには昨年の年末特番の時代劇が収録されているようだ。
うちの事務所の先輩が、結構いい役で出ていたから、あたしも参考に見た気がするわ。
「実は私ね、この特番のとき、先輩のお手伝いで現場に入ってたんだけど……」
ユカリさんいわく、理緒たんのなかの人は、名前こそあるもののこれと言って見せ場があるわけでもない端役にすぎす、最初はあまり目立ってなかったんだという。
でも殺陣師さんが入ってそれぞれの役者さんたちに立ちまわりの手をつけたところで、実際にカメラテストがはじまったとたん、豹変した。
まるで重力なんてないみたいに、軽い身のこなしで動きまわったあげく、めちゃくちゃ惹きつけられるような演技をしたんだとか。
演技のほうは、まぁ理緒たんのあの表情の数々を見てきたあたしにはスッと理解ができたけど、もうひとつの身のこなしのほうは全然想像がつかなかった。
だって、あのドジっ子の理緒たんなのよ??
走ればすぐに息切れし、わりと気軽に足がもつれて転んでいる。
そんな印象しかない理緒たんなのに……?
───いや、全体的に線が細いから、軽いってのはわかるんだけどね。
手にした赤ワインのグラスをかたむけつつ、あたしは薄くスライスされたチーズをかじりながら、しきりに首をかしげていた。
バタバタとした現場では途中のメイク直しの時間なんてわずかしかなくて、とてもじゃないけど語り尽くせないと判断したあたしは、仕事終わりにユカリさんと待ち合わせをして飲みに行くことにした。
だって、とてもじゃないけど、時間が足りない。
ドラマの撮影のあとに、あたしもユカリさんにも別のお仕事があって、ゆっくりおしゃべりする時間もとれそうになかったから、ふたりともが仕事の終わる時間にあらためて飲みましょうと約束を取りつけたのだった。
場所は、おしゃれなワインバー。
落ちついた半個室タイプの間仕切りがしっかりしたこのお店は、ダウンライトに照らされて、ムーディーなジャズの流れるステキな空間だ。
カウンターのうえには、逆さに吊るされたワイングラスがキレイに磨きあげられ、キラキラとオレンジ色のダウンライトに光って見える。
デートにはぴったりの場所だとは思う。
残念ながら今回のこれは、趣味の集まりみたいなものだったけど。
「……私のメイク仲間のゴリエちゃんから聞いた話なんだけど」
グラスを合わせたあと、前置きをしてユカリさんが口を開く。
いや、もうさっそくツッコミたい、そのお名前はあだ名なんですか、それともお仕事名なんですかって!
「あのドラマ、プロデューサーが例の颯田川さんじゃない?あの人の黒いウワサは、怜奈ちゃんも知ってるわよね?」
「うん、あたしも事務所から注意しろって言われてるから」
敏腕プロデューサーと言われる彼は、たしかに手がけるお仕事のほとんどがヒットを飛ばしている。
この世界は、ある種の実力主義だからこそ、性格や性癖が最悪だろうと、仕事の実績さえ残していれば大きな顔ができる。
颯田川Pは、まさにそういうタイプの人だった。
いわく、新人アイドル食いで、しかもバイ。
かわいければ、男だろうが女だろうが気にせず食い散らかす。
自己顕示欲のかたまりのような男だけに、絶対に反論しない新人だとか、気の弱い子だとか、弱い立場の子しか狙わないと言われていた。
かくいうあたしもデビューしたてのころに粉をかけられそうになったことがあるけれど、そこは業界大手の事務所の力を遺憾なく発揮して守ってもらった。
───でもなんだろう、ものすごくイヤな予感がする。
「その颯田川さんがね、どうも理緒たんを相当気に入ってるらしくてね?」
「っ!!」
やっぱり!
そんな気はしてた。
「理緒たんって、隣にいるのが東城くんていう究極のイケメンだから目立ちにくいけど、よく見るとわりとかわいい顔してるじゃない?おとなしそうな見た目をしているし、もろに颯田川さんの好みなのよね」
まさか、それですでにお持ち帰りされたとかじゃないわよね!?
うぅ、心配なあまりに心臓が痛い。
もう颯田川Pのチンコもげろ。
「で、ここからがゴリエちゃん情報。いつものように囲い込み作戦に出てるみたいで、ヤツは理緒たんのことを現場で罵倒しまくってるんですって」
そう、それがアイツの常套手段。
人前で罵倒しまくって、相手が弱ったところで猫なで声を出しながらベタベタと触りまくる変態だ。
よくあるDV野郎の支配方法とおなじパターンで、最初に相手のプライドを粉砕するほどにイビり倒し、そのあと急にやさしくするっていう。
最低な男のやり口だわ。
お前なんて今すぐ頭頂部の毛根がまだらに死滅して、バーコードハゲになれ。
「あんのゲス野郎……!!理緒たんになんてことしてくれてるのよ!!」
そもそも理緒たんはあの役としては完ぺきで、文句を言われるような点はなにひとつない。
あの野郎、今すぐ屁が止まらなくなって重要な局面でドチャクソ恥をかけばいい。
「現場でも、その罵倒からのベタベタコンボをカマしてるみたいなんだけど……なんと、いまだにお持ち帰りには成功していないらしいわ!」
「やった!?」
ものすごいホッとしたけど、あれ、なんかあたし最近、お持ち帰りがどうとかいう話をユカリさんとしてなかったっけ……?
そう思ったところで、ハッとした。
「まさか───東城湊斗が!?」
そうだ、今日読んだばかりの記事に書いてあった内容だ!
「えぇ、そう、東城くんが『本読みに付き合ってくれ』って甘えて、いつもいっしょに帰ってるみたい。それ以外にも現場でもずっと付きっきりで、本人の代わりにガードしてるんですって!」
ユカリさんが、鼻高々な様子で言いきる。
と、尊……っ!!
えっ、なにそれ、リアル騎士様かよ?!
理緒たん守るために、そばでガードしてるとか……!
アカン、尊すぎてふるえが止まらない。
「東城くん、モリプロさんところの社長お気に入りの大型新人だから、さすがの颯田川さんも無理をとおせなかったみたいでね。おかげで今のところ理緒たんは無事よ!」
今日イチいい笑顔になったユカリさんが、ビッと親指を立ててウィンクする。
グッジョブ、東城湊斗!
あたしからも喝采を贈るわ!!
送り狼どころか、とんだ有能な番犬じゃない!!
「と、尊さに乾杯しなきゃ……」
なんなのよ、このナマモノジャンル、供給が過多なんてモンじゃ済まないレベルで、破壊力ある豪速球レベルのがビュンビュン飛んでくるんですけどもっ!!
もう、一生推しつづけるわ、タカリオ!
「そうね、そうしましょ♪ウフフ、カンパ~イ!」
楽しげに目もとを波打たせるユカリさんとグラスを合わせれば、チンと澄んだ音が立つ。
よく冷えた白ワインは、とてもフルーティーでおいしかった。
* * *
入店してからかれこれ2時間近く経っただろうか?
ほどよくワインの酔いがまわり、もともとなめらかだった口が、おたがいにさらに軽くなっていた。
「───というかむしろ理緒たんは、メイクの勘からすると、もう少し磨かれたら一気に化ける気がするのよね」
これまでの実績からして、ユカリさんの目に狂いはないと思う。
「わかるぅ、理緒たんて基本は『清楚という概念のかたまり』みたいなのに、ときおりすんごいエロくなるときありません?!」
「それ!!それこそ真理だわ!」
酔ったいきおいで口走るあたしに、ユカリさんが同意を示してくれる。
「うんうん、エロいわよね、理緒たん。なんかわかんないけど。少なくとも私は、苦しむ理緒たんの顔に毎回濡れキュンしてるわ!!」
……だけどその直後のユカリさんの発言は、少々残念すぎるものだった。
「ふだんのゲストヒロインたちって、わかりやすく男に媚びるタイプでしょ?だからこそ正反対な清楚系ヒロインである理緒たんは、わずかなチラリズムですらエロいのよ!!」
なんだかよくわからないなりに納得してしまいそうなほど、いきおいのある発言に、あたしはすっかり呑まれてしまう。
「んー?いわゆる『ギャップ萌え』みたいなヤツですかね?」
「あー、惜しい!ちがうんだけど、ちがくないっていうか、あたらずとも遠からずよー!」
どうしよう、ユカリさんが急にむずかしいことを言い出した気がする。
「えぇとね、たとえば怜奈ちゃんがはじめて見た回のゲストヒロイン覚えているかしら?」
「あぁ、あのおっぱいヒロインですね」
「それよ!そんな記憶に残る彼女の服装、わりと胸もとがあいてるやつだったでしょ?」
そう言われると、たしかにやけに谷間が目立つ子だった。
それを見ながら『いかにも颯田川Pの好みが反映されてそう』って思ったら、気持ち悪くなったんだよね。
ほら、本当にあの人、ろくでもない人だし。
マジで今すぐ鼻毛だけ全力で育毛されて、外まではみ出ろ。
「それにひきかえ、我らがヒロイン理緒たんはどうかしら?いつも着ている制服は、キッチリといちばん上までボタンをしめているでしょう?」
「たしかに」
そう言われると、やけに身持ちが固いなって感じてたのよね。
「そんな理緒たんは、なぜかピンチになると、そのボタンがひとつかふたつははずれるのよ。カッターシャツの襟元から、ふだんは決して見えない鎖骨が見えそうになるとか……あとは水をかぶったりとか、縛られたりとか!これがエロくないわけがない!!」
ユカリさんの主張は、とてつもない熱量をふくんでいた。
なんの気なしに見ていたときは、『理緒たんてば、いつもピンチになるとか本当にヒロイン力が高いなー』なんて思っているだけだったけど、あらためてその姿を思い出したところで、めちゃくちゃ納得してしまった。
……あぁ、うん、エロいわ。
泣かせたくなる顔してるわよね、理緒たんて。
苦しむ姿を見ていると、わけもわからずドキドキするし。
おっぱいヒロインなんかより、はるかに露出している箇所は少ないし、ほのかな色気でしかないのに、よほど見てはイケないものを見ている気になったのを思い出す。
───つまり、残念なユカリさんの主張は、残念なことにとても正しかったのだ。
「でもまぁ、ふだんの理緒たんは色気なんて全然ないですけどね。それにしても理緒たんの絶妙な運動神経のなさっていうか、彼を配役した人も、よくあんな子見つけましたよね?」
彼を理緒たんに配役したのは、いったいだれなんだろう?
例の変態颯田川Pかしら、それとも良識派で知られる岸本監督なのかしら?
なんて思って口にしたけれど、ユカリさんは静かに首をふる。
「……さすがの怜奈ちゃんもダマされたわね。あれね、理緒たんの役の子、本当はめっちゃ動ける子なのよ!」
「はぁ?!ウソでしょ、あれは本当にダメな子の動きじゃない!」
言われていることの意味がわからなかった。
だって、走り方ひとつとっても、どこからどう見てもにぶそうなのに?!
「あー、ちょうどよかった。あのね、もし怜奈ちゃんが興味持ったらおすすめしようかと思って、あわてて焼いてきたんだけど……」
そう言って差し出されたのは、1枚の白いディスクの入ったプラスチックケースだった。
手書きのメモがなかに入っていて、どうやらそれを見るに、このディスクに入っている作品のタイトルらしい。
それによれば、これには昨年の年末特番の時代劇が収録されているようだ。
うちの事務所の先輩が、結構いい役で出ていたから、あたしも参考に見た気がするわ。
「実は私ね、この特番のとき、先輩のお手伝いで現場に入ってたんだけど……」
ユカリさんいわく、理緒たんのなかの人は、名前こそあるもののこれと言って見せ場があるわけでもない端役にすぎす、最初はあまり目立ってなかったんだという。
でも殺陣師さんが入ってそれぞれの役者さんたちに立ちまわりの手をつけたところで、実際にカメラテストがはじまったとたん、豹変した。
まるで重力なんてないみたいに、軽い身のこなしで動きまわったあげく、めちゃくちゃ惹きつけられるような演技をしたんだとか。
演技のほうは、まぁ理緒たんのあの表情の数々を見てきたあたしにはスッと理解ができたけど、もうひとつの身のこなしのほうは全然想像がつかなかった。
だって、あのドジっ子の理緒たんなのよ??
走ればすぐに息切れし、わりと気軽に足がもつれて転んでいる。
そんな印象しかない理緒たんなのに……?
───いや、全体的に線が細いから、軽いってのはわかるんだけどね。
手にした赤ワインのグラスをかたむけつつ、あたしは薄くスライスされたチーズをかじりながら、しきりに首をかしげていた。
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