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【外伝】恋愛ドラマの(残念)女王が爆誕した日⑤

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 ユカリさんの思わせぶりな発言に、思わず食いついたところで、別のスタッフさんから撮影再開の声がかかる。
「あーもう!せっかくのいいところで!!」
「いってらっしゃい怜奈れいなちゃん、理緒りおたんになったつもりでがんばってくるのよ!」
 ユカリさんに見送られて、撮影現場にもどる。

 でも、気持ちのうえでは全然もどれる気がしなかった。
 だって、『公私ともに相棒』って、絶対タカリオのことを指してるんでしょ!?
 それ、なかの人の話なのよね??

 どういうことなのよユカリさん、めちゃくちゃ気になるわよバカーー!!


     * * *


「───で、ユカリさん!さっきのあれはなんなんですか!?たしかにタカリオのふたり、めちゃくちゃ距離が近いですけどもっ!!やっぱりそれだけ、なかの人たち同士もとかなんですか?!」
 次のカットがかかったとたんユカリさんのもとへと駆け寄ったあたしは、思わずいきおいづいてそうたずねる。

 だって画面をとおして見るタカリオのふたりがかもし出す空気感は、すごく自然体に感じられるものだったから。
 それこそ本物の幼なじみなんじゃないかってくらい、距離感も妙に近いし。
 息があってるっていうのは、ああいうのを指すんだろうなって思う。

「でもあのふたり、実は今回の共演がはじめましてなのよ?」
 思わず感じたことを述べれば、ユカリさんからそんなこたえがかえってくる。
「ウソ?!だってあんなに息があってるのに?!」
 なんていうか、予想外すぎた。
    
 だって、理緒たんを見る貴宏たかひろの瞳、あの大切なものを見るような慈しむようなやわらかい視線は、そんな初共演の間柄ごときで出せるものなんかじゃない。
 理緒たんのなかの人は、まちがいなく演技がウマイとして、だから目線にその役としての感情をのせるなんてお手のものだとは思う。
 でも、東城とうじょう湊斗みなとは───?

 それはもう、かんがえるまでもなかった。
 芸能人としても新人の彼は、今回のドラマが実質テレビデビュー作みたいなものだ。
 そりゃそうか、新人なんだから理緒たんとだって、当然はじめましてになるはずよね?

 それにプロフィールを見たかぎりでは根っからの体育会系みたいだし、身体能力こそ元から高そうだけど、演技の経験があるかと言ったら、決してそんなことはないと思う。

 今回の貴宏という役が、たまたま彼の持つスポーツマンっぽさのあるさわやか系イケメンのキャラクター性と一致しているだけで、セリフを口にする彼の姿からは、そこまでの演技力は感じられなかった。
 なら、ときおり見せる、あのやわらかい笑みは───??

「……貴宏が理緒たんのこと好きなのはあたりまえだとして、なんか最近、それが『本物リアル』なんじゃないかって邪推したくなってきました……」
 ぽつりと本音をこぼせば、ユカリさんは急に真剣な顔になる。

「そこがね、新たな沼なのよ。なかの人たちがね、また───ヤバいから」
「ヤバい、とは?」
 声をひそめるユカリさんに、ゴクリとつばを飲み込みながらたずねかえした。

「ここに、東城くんがテレビ誌の取材にこたえたときのものがあるんだけど……」
 ネット記事に転載されているからと、そっとタブレット端末を差し出される。

 そこにはこのドラマがデビュー作になること、これまで演技なんてしたことがなくて苦労したこと、でも今はその苦労も楽しいと思えることなんかが書かれていた。
 うん、まぁ……いかにもさわやかイケメンが言いそうなことが書き連ねてある。

「問題はこっちよ!」
 ユカリさんがビシッと指を突きつけてくるところに注目すれば、インタビュアーから共演者について、なにかエピソードはあるかと質問されている箇所だった。

 役柄上で相棒の理緒たんについてと、そのなかの人については当然最初に聞かれることだ。
 あたしも連ドラに出るときは、決まっておなじような質問をされるからわかる。
 東城湊斗も、業界大手のモリプロ所属なんだから、きっとこたえは台本があるとは思うんだけど……。

「えぇっと……『顔合わせ以降、いつも面倒を見てもらっていて、本当に感謝しかないです!今も撮影のあとはいっしょに帰るついでに自宅に押しかけて、毎日のように本読みとか稽古に付き合ってもらってます』……って、はいぃっ!?」
 えっ、なに、どういうこと?!

「ポイントは『撮影のあとはいっしょに帰る』と『自宅に押しかけて』かしらね」
「それって……」
「この場合、『お持ち帰り』をしているのか、されているのか、どっちになるのかしらね?」
 にんまりと目尻を波打たせたユカリさんは、実に楽しそうだ。

 待って、脳ミソの理解が追いつかない。
 撮影であれだけいっしょにいるのに、終了後も毎日のようにいっしょに帰宅とか、かわいすぎん??
 こういうの、公式からの供給が過多っていうヤツでは!?

 それにこの場合、わざわざ『押しかける』って表現をするってことは、当然ふたりが向かう先は理緒たんのなかの人の自宅ってことになる。
 それを、毎日ですって!?

「はい、さらにこの先もポイント!」
「なになに、『その部屋はオーナーさんの音楽趣味のおかげで防音仕様だったから、遠慮なく練習させてもらえるので、助かってます』って、これ……」
 声に出して読みながらも、あたしの手はぶるぶるとふるえていた。

 ───それって、部屋のなかでがあっても、外には聞こえないってことなんじゃないの───!??
 逃げて、理緒たんのなかの人ーー!!
 東城湊斗はとんだ送り狼じゃないのよー!!?

「フフ、皆まで言うな怜奈ちゃん。あなたの混乱と妄想は、今まさに大増殖中だと思うわよ?ナニがあっても、外には聞こえないんですものね、それこそヤリたい放題だわ!!」
 クワッと目をかっぴらくユカリさんは、これ以上ないほどに楽しげなのが見てとれる。

「ゆ、ユカリさん……あたし目がおかしくなったのかな?おなじ事務所の先輩後輩ってわけでもないのに、撮影で疲れて帰宅したあとにまで、本読みに付き合ってくれる人なんていると思う?マネージャー相手ですら、たまにしか付き合ってくれないわよ、ふつうなら!!」
 これを信じるなら、理緒たんのなかの人、どんだけ面倒見いいのよ!?

「いいえ、残念ながら事実よ。あとこの記事、最後の編集部からの注釈もポイント高いから、お見逃しなくね」
「え、えぇ……『編集部注:誌面の都合上、語り尽くせぬほどの熱い思いは断腸の思いで一部省略とさせていただきました。』って、えーと……」

 そんな本文のなかで『(中略)』なんていう表記が出てきたのなんて、1ヶ所だけだったけど?
 まぁ、ご多分にもれず理緒たんのなかの人についての質問のところだったけど。
 しかも文脈から察するに、省略された内容は、まちがいなくどういうところがいいかという、具体的に相手を褒める内容だったように思える。

 これでもあたしだって似たような取材を受けてきたから、誌面になる際にこちらのこたえた内容が編集されて、事務所チェックを経て体裁がととのえられることくらい知っている。
 会議の議事録じゃないんだから、発言そのままを書くんじゃなくて、ある程度はカットされたり編集されたうえで掲載されることくらい、だれでもわかっていると思う。

 だからふつうなら、わざわざそんな風に『編集しました』なんて書かないわよ!
 でもこれには、あえて注釈として記載されている。
 なんだかそこに、微妙な違和感をおぼえた。

 ───つまりそれって、誌面の都合でカットしたって、わざわざ書かなきゃいけないくらいカットした部分が多かったってことなんじゃないの!?

 たとえば趣味について質問されて、映画鑑賞が趣味だとこたえたとする。
 この場合、インタビュアーの意図としては、そのタレントがどういう人なのかを伝える目的で質問しているわけで、『趣味は映画鑑賞』ということだけが読者に伝わればいいわけだ。

 でもたまに好きなことそのものについて、ヲタクと呼ばれる人種は熱く語ってしまうことがある。
 具体的には『この映画のここがいい』だとか『この映画がどうおすすめなのか』だとか、そういう感じに。

 インタビュアーが聞きたいのは、その人の人となりであって、映画の話じゃない。
 とすれば、インタビュアーの意図からはずれた部分は、当然割愛されることになる。

 しかし、そのいらないことを熱く語っていたというエピソード自体がおもしろいと判断されれば、その熱い語りの具体的な内容は省略して、ものすごい熱量をもって語ったという事実だけは掲載されることになる───今回の東城湊斗のように。

 ……うん、知ってた。
 アイツが理緒たんのなかの人のこと、相当好きなんだってことは、画面をとおしてもなお、ビシバシと好き好きビームが目から出まくってるのが見えていたもの。

 はい、本人からの供給過多でヤベエェェェ!!!
 妄想がはかどる燃料投下、ありがとうございまーす!!
 うわあぁぁ、クッッッソ尊てぇぇぇぇ!!!

「甘いわ、怜奈ちゃん!これ、このテレビ誌だけじゃないのよ。ほかにも……ほら、これとか、これとか、これとか!皆どれにも、似たような中略表記がされているのよ!!」
うっかり拝みそうに手を合わせたあたしに、ユカリさんがタブレット端末をいじりながら、いくつもの記事を見せてくる。

「同時に何誌もの取材を、まとめて受けてたってこと?」
「いいえ、よく読んで。本人の語ったエピソードの取り上げ方だとか、本文の構成がまったくちがうところを見るに、全部別のタイミングで受けたものと判断できるわ」
 合同取材だったのかと問えば、すぐに反証材料が示される。

「なんてこと……!!ユカリさん、東城湊斗の愛が重い!!」
「それなのよ!清々しいくらい、大好きなのが伝わりまくってるのよ、編集された文面のはしばしからも!!」
 それはなんというか、新たな沼以外のなにものでもなかった。

 ドラマのなかじゃ、どちらかといえば理緒たんのほうが貴宏のことを好きみたいにも見えるのに、現実はその逆だったってこと?!
 なによそれ、おいしすぎるでしょ!

「通りいっぺんの取材のはずなのに、東城湊斗からのものすごい熱い思いを行間から感じ取ったわ……」
 さすがはイケメン、顔圧が高い。
 デビュー直後なんて、まだ磨かれてない時期だろうに、すでにお顔がよすぎるせいでめちゃくちゃこちらに訴えてくる力が強い。

 うん、でもおかげで東城湊斗の名前も顔もバッチリおぼえたわ。
 もし彼がこのまま俳優としてのお仕事をつづけるなら、いつかあたしとも共演しそうだしね。

「───で、ここからが本番。業界内部の人間だからこそ、もれ伝わってくるエピソードがあるのよ、まだ」
 ふたたび声をひそめてくるユカリさんに、耳をそばだてようとしたところで、またもや撮影再開の号令がかかる。

「あぁん、もういいところで!」
「ウフ、つづきはまたあとで、ゆっくりね♪」
 さっきからなんなのよ、もう!
 気になりすぎるじゃないのよぉぉぉ!!
 心のなかで血の涙を流しながら、あたしは現場にもどることになったのだった。
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