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世界で二人きり
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「シリル、どこへ行くの? ピクニックって……そんな格好で?」
市場の食材を文字通り「根こそぎ」積んだ馬車の後を追いながら、私は困惑していた。シリルはいつの間にか、動きやすいけれどこれ見よがしに豪華な、刺繍入りの乗馬服に着替えている。
「最高の食材には、最高の景色が必要だろう? さあ、行こうか」
シリルは私をひょいと抱き上げると、馬車ではなく自分の愛馬に乗せた。
彼に背後から抱きかかえられる形で、私たちは王都を一望できる「約束の丘」へと駆け上がった。
そこに着いて、私は絶句した。
「……誰も、いない?」
普段は市民や恋人たちで賑わうはずの丘が、完全に無人だった。
代わりに、丘の頂上には真っ白な天幕が張られ、ふかふかの絨毯が敷かれ、さらには楽団まで控えている。
「……シリル、まさかここも」
「ああ、今日一日は僕が貸し切った。君が他の誰の視線も気にせず、リラックスして過ごせるようにね」
シリルは当然のように言い放つと、絨毯の上に私を座らせた。
市場で買い占めたばかりの新鮮な食材が、腕利きの料理人たちの手によって、その場で次々と色鮮やかなピクニック料理に変えられていく。
「さあ、見てごらん、フィオナ。君が選んだトマトのサラダだ。あっちには君が香りを気に入ったハーブのチキン。……全部、君の好奇心が形になったものだよ」
シリルは私の隣に寝そべり、黄金の髪を風に遊ばせながら、満足げに景色を眺めた。
「エドワードといた時は、こんな風に空を見上げる余裕もなかっただろう?」
「……ええ。いつも、次の仕事のことや、彼の機嫌を損ねないことばかり考えていたわ」
私がポツリと漏らすと、シリルは私の手を握り、その指先を一本ずつ確かめるように撫でた。
「これからは、空が青いことや、風が気持ちいいことだけを考えて。……あとは、僕が君をどれだけ愛しているか、それだけでいい」
シリルは、バスケットからリンゴを一つ取り出すと、ナイフを使わずに手で半分に割って、片方を私に差し出した。
「ほら、食べて。君が『美味しそう』って言ったリンゴだ」
あーん、ではなく、ただ「一緒に食べる」という幼なじみらしい時間。
けれど、その背後では楽団が私たちのためにだけ愛の歌を奏で、周囲一帯はシリルの権力によって静寂が保たれている。
「……シリル。貴方って、本当に極端ね」
「そうかな? 僕はただ、昔から君が欲しがっていた『自由』をあげたいだけだよ。……僕の腕の中という、一番安全な自由をね」
シリルの碧眼が、悪戯っぽく、けれど深い執着を秘めて笑う。
ピクニックという名の「世界の独占」。
私は、彼が切り取った美しい景色の中で、少しずつ、エドワードに植え付けられた心の傷が、シリルの華やかな愛で上書きされていくのを感じていた。
市場の食材を文字通り「根こそぎ」積んだ馬車の後を追いながら、私は困惑していた。シリルはいつの間にか、動きやすいけれどこれ見よがしに豪華な、刺繍入りの乗馬服に着替えている。
「最高の食材には、最高の景色が必要だろう? さあ、行こうか」
シリルは私をひょいと抱き上げると、馬車ではなく自分の愛馬に乗せた。
彼に背後から抱きかかえられる形で、私たちは王都を一望できる「約束の丘」へと駆け上がった。
そこに着いて、私は絶句した。
「……誰も、いない?」
普段は市民や恋人たちで賑わうはずの丘が、完全に無人だった。
代わりに、丘の頂上には真っ白な天幕が張られ、ふかふかの絨毯が敷かれ、さらには楽団まで控えている。
「……シリル、まさかここも」
「ああ、今日一日は僕が貸し切った。君が他の誰の視線も気にせず、リラックスして過ごせるようにね」
シリルは当然のように言い放つと、絨毯の上に私を座らせた。
市場で買い占めたばかりの新鮮な食材が、腕利きの料理人たちの手によって、その場で次々と色鮮やかなピクニック料理に変えられていく。
「さあ、見てごらん、フィオナ。君が選んだトマトのサラダだ。あっちには君が香りを気に入ったハーブのチキン。……全部、君の好奇心が形になったものだよ」
シリルは私の隣に寝そべり、黄金の髪を風に遊ばせながら、満足げに景色を眺めた。
「エドワードといた時は、こんな風に空を見上げる余裕もなかっただろう?」
「……ええ。いつも、次の仕事のことや、彼の機嫌を損ねないことばかり考えていたわ」
私がポツリと漏らすと、シリルは私の手を握り、その指先を一本ずつ確かめるように撫でた。
「これからは、空が青いことや、風が気持ちいいことだけを考えて。……あとは、僕が君をどれだけ愛しているか、それだけでいい」
シリルは、バスケットからリンゴを一つ取り出すと、ナイフを使わずに手で半分に割って、片方を私に差し出した。
「ほら、食べて。君が『美味しそう』って言ったリンゴだ」
あーん、ではなく、ただ「一緒に食べる」という幼なじみらしい時間。
けれど、その背後では楽団が私たちのためにだけ愛の歌を奏で、周囲一帯はシリルの権力によって静寂が保たれている。
「……シリル。貴方って、本当に極端ね」
「そうかな? 僕はただ、昔から君が欲しがっていた『自由』をあげたいだけだよ。……僕の腕の中という、一番安全な自由をね」
シリルの碧眼が、悪戯っぽく、けれど深い執着を秘めて笑う。
ピクニックという名の「世界の独占」。
私は、彼が切り取った美しい景色の中で、少しずつ、エドワードに植え付けられた心の傷が、シリルの華やかな愛で上書きされていくのを感じていた。
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